第16話 修羅場がやってくる 3
◇ 橘麗華 ◇
朝。いつものように早めに家を出て学校に向かう。そして誰もいない教室の後ろでいつも勉強している、なんでも出来る私の好きな人を探す。
が、今日は来ていないようだ。
別にどうということは無い。今日はテスト当日だし、朝しっかり寝てテストに備えているのかもしれない。
だけどいつもは2人っきりでおしゃべりをしていたから、その時間が無いというのはちょっぴり残念だ。
「ダメよ、私。切り替えて!」
1人でそう呟き、両手で頬を叩いて気合を入れ直した私は時間の限り勉強をすることにした。
◇
あと5分でテストが始まる。席は入学時から変わっていないので、私の隣には楓が座っているはず。
だけど、どこにも姿が見当たらない。
いつもと違う状況に戸惑いが隠せず、そわそわしていた私は何となく心音に目を向ける。すると同じようにそわそわしていた心音と目が合った。どうやら考えていることは同じようだ。
とりあえず、私は楓のことは考えずにテストに集中することにした。前回のテストで楓に負けてしまったため、一生懸命勉強した成果を出したかったからだ。
だけどやっぱり気になってしまって、勉強に集中できない。それは心音も同じようで、テストが始まる1分前まで教室の入口をしきりに見ていた。
残念なことに入ってきたのは先生だった。ちょっと肩を震わせたが、大丈夫だろうか。
その後は連絡事項などを聞き流していたが、最後の先生の発言により私たちの放課後の行動は決定してしまう。
「ほんじゃーテスト始めんぞー。あー、今日佐藤楓は体調崩して休みなぁー。」
そう言った瞬間、私は心音の方を見る。同時に心音も、思いっ切り振り返って興奮したように目を爛々とさせている。恐らく私も同じような目をしているだろう。
その目を見ただけで分かる。考えていることは同じだ。
私たちは放課後、お見舞いに行くっ!
◇ 鳳苑路心音 ◇
朝。いつものように授業開始15分前に教室に到着し、一番最初に目を向けた先には私の好きな人が……いないっ?!
な、なんで?!いつもはもう来てて勉強してるはずなのに!でもまだ時間あるし、きっと来るよね?
戸惑いを隠せないまま席につき、しきりに入口を凝視するが、目的の人はなかなか来ない。
たまらずれいちゃんの方を見るが、れいちゃんも同じことを考えているようだ。
でもすぐに目を逸らされて勉強し始めた。さすがはれいちゃん。だけどその勉強は頭に入っていないはず。だってれいちゃんも私と同じように、楓くんのことが気になって仕方がないはずだから。
そわそわとしているうちに教室の入口が開かれる。一瞬期待したものの入ってきたのは先生だった。
なんだか憤りを感じた私は、理不尽に先生を睨む。すると先生は私の視線に気づいたのかビクッと肩を震わせた。ちょっと面白い。
落ち着きを取り戻した先生はいつものごとくダルそうに連絡事項があると言っていたけど、全部スルーした。興味無いしね。
だけど最後に、興味深いことを言った。
「ほんじゃーテスト始めんぞー。あー、今日佐藤楓は体調崩して休みなぁー。」
楓くんが体調を崩してる??何それすっごい心配!!お見舞いに行かなくちゃっ!
楓くんのお見舞いに行くことに興奮した私は思わずれいちゃんの方を見る。れいちゃんと私は目が合った。
れいちゃんの目はまるで獲物を見つけたようにギラギラとしていたが、きっと私も同じような目をしているだろう。
その目を見れば分かる。考えていることは同じだ。
私たちは放課後、楓くんの家に突撃するっ!
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