第15話 修羅場がやってくる 2

「聞いてる?お姉ちゃん。」

「うーん。聞いてるー。」


 絶対聞いてないじゃん、と小さくつぶやく妹。


 楓が学校を休んだ日の早朝。とある新幹線の中の、2人の姉妹による会話である。


「だからね、最近のラノベはテンプレが多すぎると思うの。」

「ふーん。」

「私はね、そういうありふれた展開じゃなくて、意表を突いてくるような、想像を超えてくるような展開が好きなの。」

「へぇー。」

「だから私はお姉ちゃんにこの本を勧めます!」


 そう言って取りだしたのは、1冊のライトノベル。表紙は暗く、題名もパッとしないものだった。


「…これ確か、全く売れてないって有名なやつじゃない?」

「そうだよ。でも私はこれが面白いって思ったの!だから読んで欲しい。」

「うーんでもなぁ…」

「本が大好きなお兄ちゃんならきっと、この本を好きって言うはず!」

「そうかなぁ…」

「そうだよ!」


 この2人の姉妹は、どこを目指しているのか。


 数時間前に遡る。



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 岡山県のとある場所の家。そこには4人の家族が暮らしていた。

 今は夕食を済ませ、それぞれがそれぞれのことをしていた。


「お姉ちゃん…」


 遠慮がちに姉の部屋に入った少女は、若干俯いたままで不安と期待が入り交じったような目をしていた。


「どうしたの?」


 姉は務めて優しく声をかける。


「…私、やっぱり心配だよ!」


 誰が、とは言わなくても姉は理解することが出来た。


 思い出すのはつい先日のこと。いつものようにお墓参りに行った時に見た、声を押し殺して泣きわめく1人の少年。


「…私だって心配だよ。」


 未だに俯いたまま動かない妹を抱き寄せて、頭を撫でながらそう言った。


「うん。だからね、お兄ちゃんのところに行こうと思うの。」

「うん、うん……は?」


 思いがけない言葉に、姉の思考は一瞬停止する。


「お兄ちゃんが帰るときに、私たちと目を合わせてくれたでしょ?だから今度こそ、ちゃんと話せると思うの。」

「うん、分かってるよ。分かってるけど、行くってどういうこと?まさか東京まで?」

「そうだよ?」


 さっきまでの不安そうな顔はどこへ行ったのか。今は目をキラキラと輝かせ、期待した表情で姉を見つめる。


「えっと…いつ行くとか考えてる?」

「うん。明日行く。」

「あ〜明日ね。うん、明日………明日?!」


 妹の突拍子もない発言に、姉の脳はショート寸前。そんな姉に追い打ちをかけるように妹が畳み掛ける。


「お父さんとお母さんから許可は貰った。」

「は?!」

「ここに新幹線の乗車券と、お金も用意してある。」

「ふぁ、ふぁぁぁ…」

「一泊するけど、泊まるのはお兄ちゃんのアパートね。」

「にゃ、にゃにゃ!?」


 姉は、ぐわんぐわんする頭を抱えた。


 妹には、後先考えず突っ走るくせがあることを、姉は熟知している。今回も同じように計画をしていないと思っていたが、そうではなかったようだ。


 だからといって、妹を一人で行かせる訳には行かない。東京には怖い人たちがいっぱいいる。


「わ、私も一緒に———」

「あ、お姉ちゃんの分も予約してあるから。朝起きたらすぐ出発だよ。準備しといてね。」

「え……………は、はい。」


 そう言って妹は部屋から出ていった。

 呆然と見送った姉は、数分後に意識を取り戻し、ダラダラと準備を始めた。



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 そうして今に至る。


「お兄ちゃん、元気かな。」

「大丈夫だよ。」

「また泣いてたりしないかな。」

「大丈夫大丈夫。」

「まだ……ひぐっ…怒ってたり……えぐっ…してないかな……ううっ」

「ほらほら、泣かないの。うちの弟はそんな狭量じゃないよ。」


 いきなり泣き始めてしまった妹を慰める姉。

 本音を言えば、姉も不安に思っていた。


 まだあの時のことを許してもらっていないかもしれない。私たちに恨みを持っているかもしれない。


 そんなことは全くないのだが、そのことに気づくのはもう少し後である。




 同時刻、楓は体温を測っていた。

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