第14話 修羅場がやってくる 1
「38度7…」
思った以上に高い自分の体温に驚きながら、すぐに学校へ休みの連絡をした。
「おーそうかぁ。まーゆっくり休めよー。あ、テストは後日受けてもらうからなぁー。ちなみに2割点数引かれるからなぁー。」
連絡をした時に先生から言われた言葉だ。
どう足掻いても8割以上は取れないらしい。
まぁそんなことはどうでもいい。今はとにかく寝たい。
身体はだるいし、関節が所々痛い。若干吐き気もするし、ただの風邪ではないことが分かる。
風邪に+αで何かが起こっているに違いない。
「風邪+α…ふわぁ…」
普段の僕ならこんなこと絶対に言わないが、熱が上がった状態の僕はまともな思考ができていないため、思ったことがすぐに口から出てしまうのだ。
…思ったことが口に出てしまうといえば、中学1年生の頃、好きだったラノベ作家のサイン会に行った時のことだ。
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「あの、どうしてこんなに面白い小説が書けるんですか?」
当時好きだったラノベ作家は、意外にも40代後半のおじさんだった。
そのおじさん、ましてサイン会を開けるほどのプロ作家にこんな質問ができるのは世間知らずの中学生ならではのことである。純粋に思ったことが口から出てしまったのだ。
「…知りたいか?」
いきなり真剣な顔になったことに気圧されながらも、僕は無言で頷いた。
「…小説ってのは、読者が読んで面白いって思ってもらわなくちゃいけない。だから自分が書きたいように書いてちゃ絶対に売れない。」
僕は黙ったまま話を聞いていた。
「主人公最強系、甘々な展開、際どい描写やグロテスクな場面、ハッピーエンド、それら全ての読者のニーズに応えなくちゃいけない。今回俺が書いたのは、シリアスでグロテスクな場面だ。そういう場面が好きな読者が多かったから、こうしてサイン会が開けるんだよ。」
「ま、子供にこんなこと言っても分からないか。要するに、万人受けする小説だってことだよ。」
そう言っておじさんは、誤魔化すように僕の頭を撫で回した。
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この時の僕は言っている意味がよく分からなかったのかもしれないが、今ならはっきり分かる。
おじさんが言いたかったのは、読者のニーズに沿った小説、つまり、人気ジャンルを取り入れた小説だから売れたということ。逆に人気ジャンルを取り入れなかったら売れなかったってことだ。
微睡んでいく意識の中でどこか納得してしまう自分がいることに、少し腹立たしさを感じた。
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