第4話 美少女は興味を持つ
「俺さ、実は、幼女が好きなんだよね。」
親友である悠太からの衝撃的なカミングアウトに、僕の開いた口が塞がらない。
テストに勝利し、橘さんに「突っかかってくるな」という命令をした僕は、あの後すぐに家に帰って勉強していたところ、悠太が家にやってきたのでお茶を出した。
そして向かい合って椅子に座ってから、悠太が突然話し始めたのだ。
「………それはまた、なんと言うか…」
「まぁ待て。俺の話を聞け。」
悠太の顔が、まるで一世一代の告白でもするんじゃないかと思うくらい、真面目になる。
「俺は幼女の純粋無垢な笑顔が大好きなんだ。そして底なしの体力で遊びまくって、疲れて寝てしまった時のあのあどけない寝顔も大好きだ。俺はいつも、幼女の遊びに振り回されたいと思っている。」
「………………そうか。」
「それに、幼女の体型も大好きだ。あの成長初期段階の未発達な身体、想像するだけでも興奮する。」
「……………………………………そうか。」
もう、何が何だか分かんない。
顔はこんなにイケメンなのに、そこから犯罪まがいな発言が多々出てくるとは誰も思うまい。
「…今の事を聞いて、どう思った?」
「…そうだなぁ。まず、悠太がそんな性癖の持ち主だとは思わなかったし、結構、いやかなり、ものすごく驚いているんだけど、性癖なんて人それぞれだし…えっと、まぁいいんじゃないかな?」
「ふむ。それで?」
「あー。これはあくまで一般論なんだけど、僕以外の奴がこのことを知ったら多分皆引くんじゃないかな?うん、ドン引きだと思う。」
「うぐっ、やっぱりそうか……」
「まぁでも?僕はそういう事に理解がある人間だから?別に引きはしないけど?ただ、倫理的にも社会的にも悠太のその性癖はやばいと思うんだよね。」
「だよなぁ…」
親友からのカミングアウトはこれが初めてではない。でも、今まで聞いてきたカミングアウトの中で1番ヤバい。正直もう聞きたくないし受け答えもしたくない。
「って言うか、橘さんのこと可愛いとか言ってなかったか?」
「あぁ、あれはただ綺麗な花を見つけたような感覚で恋愛感情はない。」
「幼女には、あるのか?」
「うーん、微妙なんだ。甘やかしたいってだけなんだよ。」
「興奮するっていうのは?」
「あれはただの性癖だ。同年代でも、背が小さくて貧乳なら興奮する。」
「そうか。」
うん。大体分かった。悠太は幼児体型に興奮する性癖の持ち主なんだな。通りで彼女を作らない訳だ。あんまいないもんねそういう女。
「なんていうか、損してんだな。」
「いやいや、そんなことは無い。俺はいつも、公園の前を通る度に癒されている。」
「………犯罪行為はやめとけよ?」
「やらねーよ!」
ほんとか?親友の言葉を信じたいが、ちょっと不安なんだけど…
「楓だって、純粋無垢な幼女は好きだろ?」
「………自分に素直で正直っていう意味では、好きかな。」
「そうだろうそうだろう!幼女は嘘をつかない!甘え上手だしな!」
「でも成長するにつれて、自分を偽るようになるぞ。甘え上手な所も男を騙す為に使うようになるし、他人の前で猫被るようになる。」
「そ、そうだけどさぁ…いずれ皆そうなるだろ?だとしたら楓はもう人間全員が嫌いになるんじゃないか?」
「そうだな。確かに、僕は人間全員が嫌いなのかもしれない。」
人は皆、正直な気持ちを他人に話さない。辛い事、苦しい事を抱え込み、吐露しないように自分を偽り続ける。
もちろん、僕だってそうだ。嫌いな人くらいいる。そういう人と話す時は、僕だけに限らず皆猫を被るはずだ。
僕はそれが嫌だから、周りとの関係を断ち切ったのだ。今本音で語り合えるのは親友の悠太だけ。でも、1人で溜め込むよりもずっといい。
「相変わらずだな、楓は。」
「まぁね。」
「なんかあったら、すぐに相談してくれよ。聞いてやるから。」
「おう。さんきゅ。」
やはり持つべきは信用できる友達だな。
◇ 橘 麗華 ◇
私、橘麗華は昨日の出来事を後悔していた。
昔から熱くなってしまうと本音が止まらないことがある。昨日のように。
もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。ありもしないことをクラスの皆に言いふらされてしまうかも。そう思っていた。
そして今日、私は佐藤くんと正々堂々勝負をして負けた。
正直、「付き合って」とか言われたら1ヶ月くらいなら付き合ってやろうかと思ったりもしたが、命令があまりにも簡単な事だったので拍子抜けだった。
要するに、「あまり僕と関わるな。」という事だろう。
男なら全員、私の様な美少女であれば必ず身体を要求したなくるものだと思っていた。そうではなかったとしても、突き放すようなことはせず、下心丸出しで下卑た命令をしてくると思っていた。
なのに———
「佐藤、楓……ふふふ。」
興味が湧いた。
私に微塵も興味が無い男なんて、見たことがない。
話してみたい。
私に興味が無いのなら、一体何に興味があるのか気になって仕方がない。
「……話してみよう。」
話しかけるな、とは言われていない。命令も強制力があまり無いものだったはず。
明日が楽しみで仕方がない。
こんなに高揚するのは、いつぶりか…
(あ、昨日ぶりか。)
そう言えば、テストの勝負をした時も、同じくらい高揚していたっけ。
◆
翌日。私が早めに学校へ行くと、やはり佐藤くんは教室で勉強していた。
「おはよう、佐藤くん。」
私は貼り付けたような笑みで挨拶をする。
「あぁ、おはよう、橘さん。」
すると佐藤くんは同じように笑みを浮かべて挨拶をする。
でも———
「そんな作ったような笑顔じゃなくていいわ。素で接して欲しい。」
「っ!」
私がそう指摘すると、佐藤くんは驚いたように目を見開いた。
今更だが、佐藤くんは前髪が長すぎて目元が見えにくい。よくそんなので勉強していたものだ。
「それを言うなら橘さんも、そんな作り笑顔はやめたらどうだ?」
「っ!」
うそ。有り得ない。私のこの笑顔は鏡でいつも練習してきたものだ。今まで誰にもバレることは無かったし、男どもは必ず鼻の下を伸ばす。それなのに、どうして?
私は私の顔から笑みが消えていくのが分かった。
「…どうして分かったの?」
「簡単だよ。僕みたいなぼっちは、いつも人の表情、仕草、目線を気にして生きているから、作ったような笑顔はすぐに分かるんだ。」
「…へぇ〜。」
え、なに。ぼっちって皆そうなの?佐藤くんが特殊なだけじゃないの?
「逆に聞くけど、なんで僕の笑顔が作り笑顔だって分かったんだ?」
「そんなの簡単よ。私が作り笑顔をしているから、本当の笑顔との違いがわかるのよ。」
私の周りには、下心で近づいてくる人が多かった。
男は私の身体目的で、女は私に近づいてくる男のお零れを貰おうと躍起になっていた。
次第に私は自然な笑みを浮かべることが出来なくなった。だから練習したのだ。
偽りの笑顔で、自分を取り繕うために。
「そうか。橘さんも、苦労してるんだな。」
佐藤くんがそう言った後、教室に誰か入ってきたので、そこで会話は打ち切られた。
それにしても—————
(本当に面白い人……佐藤楓。)
ますます興味が湧いた。
同じ「作り笑顔」を使っている者の親近感とでも言うのだろうか。
結局その日は、各教科のオリエンテーションがあったが、私は佐藤楓くんの事で頭がいっぱいだったので、何も頭に入らなかった。
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