第6話 シャトルラン
◆ 佐藤 楓 ◆
場所が移って、僕達は今体育館に居る。
これからあの地獄のシャトルランが始まるのだ。
人によっては、シャトルラン特有の音階が上がる音を聞いただけで心拍数が跳ね上がるという人もいるが、僕は別段気にしていなかった。
それも偏に、運動が好きだからに尽きる。
まぁだからって、運動できる奴がシャトルランが得意かと聞かれればそうでは無い。
シャトルランは自分との戦いだ。ただ体力をつければいいというものでは無い。
その点僕はぼっちで、色んな人の悪口陰口を言われ続けてきたので、メンタルに関しては自信がある。
僕は悠太と話すことなくスタート位置に並ぶ。シャトルランの前は悠太とは話さないようにしている。悠太はシャトルランだけは僕に負けたくないらしく、気持ちを落ち着かせる必要があるのだ。
『3、2、1、スタート』
とうとうシャトルランが始まってしまった。
◇
50回を超えたあたりで脱落者が出た。
ちなみに、男女合同でやっているので、脱落したのはもちろん女だ。
っていうかさっきっから僕の周りにいる男どもが女の視線を気にしている。
カッコつけたいのかな?「俺、まだ走ってるんだぜ。凄いだろう!」的な?
だっっっさ。
僕と悠太を見ろ。走ることだけに集中してるぞ!
女にアピールするのは一向に構わないが、それにしたって露骨すぎる。女は意外と視線に敏感なのだ。チラ見してる奴は絶対気づかれてる。
そしてこれはあくまで僕の意見なんだが、女にアピールしてる奴より一生懸命取り組んでる奴の方がかっこよく見えると思う。
現に、女子のほとんどの視線が悠太に向いている。悠太は全く気にしてないが。
◇
90回を超えた。ここまで来れば女の大半は脱落する。男もちらほらと脱落者が出始める。
先程までのアピールはどこへ行ったのか、男達は一生懸命に走っている。初めからそうしていればいいのに。
◇
100回を超えた。ここまでは体力の勝負。残っているのはもちろん、運動部や体力に自信がある者ばかり。
そしてここからは自分との戦いになる。
僕はチラッと悠太を見る。
悠太は少し息が上がっているが、まだまだ走れそうだ。
◇
そして、125回を超えた。
これ以上走っても成績は変わることは無いが、自分の限界に挑むという意味で走り続ける。
今まだ走っているのは、僕と悠太を含めて5人の男だけだ。
135回を超えた時、僕と悠太以外の男が脱落した。
これから一騎討ちだ。
こんな時、僕以外の人は何を考えるのだろう。
苦しい?辛い?もうやめたい?負けたくない?早く脱落しろ?
僕が考えたのは1つの感情、『楽しい』だ。
シャトルラン以外の種目は、トレーニングによって記録が変わる。中学時代きついトレーニングを積んできた僕は他の追随を許さない記録を出すことが出来た。
でも、それはシャトルラン以外の話だ。
シャトルランは100回を超えたらメンタルの勝負になってくる。体力云々はあまり関係なくなるのだ。
だから、僕と対等に競うことが出来る。それが楽しかった。
まぁそんな楽しさも長くは続かない。
結局悠太は141回でリタイアし、僕は148回でリタイアした。
悠太が床に寝転がりながら息絶えだえに話しかけてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、楓…はぁ、まだ、行けただろ、はぁ…」
「ふぅ、さぁ、な。」
あれ以上走ったら、目立つもんね。
結局、悠太はクラスメイトにわちゃわちゃと話しかけられていたが、僕は誰とも話すことなく体育館を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます