閑話 橘麗華の気持ち
◆ 橘 麗華 ◆
「れいちゃん!私、佐藤楓くんと友達になりたい!」
佐藤くんが50メートル走を走り終えた時にそう言ってきた
「あぁ、そう。へぇ、言ってくれば?」
「うん!」
なんだか冷たい返しになってしまったが、心音は笑顔で佐藤くんの所に走っていった。
別に、佐藤くんに私以外と話して欲しくなかったとかそんなことは決して思っていない。思っていないのだが……なんだか少し、モヤッとする。
しばらく心音と佐藤くんが話しているのを見ていて、我慢できなくなり、私も会話に参加しようと足を進めた。
そしたら心音が佐藤くんのことを楓くんと呼んでいたことに驚いていた。いつの間にそんな仲良くなったのか。
別に羨ましくないし。
まぁその後かくかくしかじかあって私も名前で呼ぶようになって、笑ったところを指摘されて顔が熱くなったけど、私が佐藤——楓くんに話しかけた本当の目的は楓くんの素顔を見ること。
私は思い出したように振り返り、楓くんの前髪を手で退かした。
「あっ………………………」
そこに現れたのは、キリッとした目。捉え方によっては鋭く見え、優しくも見える。
口と鼻しか見えなかった顔にこの目が加わっただけで、これ程変わるものなのか。
私は気づいたら何も言わず、その場から脱走した。そして急いで女子トイレに駆け込む。
(か、かっ、かっこいいぃぃ〜〜……!)
楓くんの顔は、佐々木悠太くんと比べ物にならないくらいイケメンだった。いや、可愛いとも言うのか?
とってもイケメンなのだが、どこか子供っぽさもあり母性をくすぐる。
私が今まで見てきた男性の中で、ダントツでイケメンだった。
私は鏡から自分の顔を見る。すると、今まで見た事がない、メスの顔をした自分がいた。
顔は真っ赤で目は少し潤っていて、ニヤけそうになる口角に力を入れて抑えている、そんな顔だ。
心臓の鼓動が収まらない。
こんな気持ち、初めて。
どうすれば、いいの?
私に、こんな顔をさせておいて、自分は平然として。
ずるい。
しばらくしてトイレから出たが、悶々とした気持ちは変わらず、シャトルランをする事になった。
途中から心音も合流したが、顔が赤く染っていたため、きっと楓くんの顔を見たのだろう。
ふと、心音と目が合う。
それだけで、お互いの気持ちがわかってしまう。
「ふふふ」
「くくく」
お互いに笑い合う私達。
きっと、心音もそうなのだろう。
そんなこんなでシャトルランが終わると、またしても楓くんは凄まじい記録を出した。
本当に、どういうつもりか分からない。
50メートル走で凄い記録を出したと思ったら他は全く良くないし、シャトルランでまた凄い記録を出すなんて。
1人でその場を後にしようとする楓くんに声をかけようとして、私は走り出す。
ほぼ同時に、隣にいた心音も走り出した。
走りながら、お互い顔を見合わせる。
『恋は盲目』、とはよく言ったものだ。
私達は顔を見合せながら笑い合う。
「負けないよ!」
「私だって!」
そうして、恋のライバルと2人仲良く、楓くんを追いかけた。
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