第21話 試練のはじまり

 なんかゴージャスな屋敷の応接室にいる。

 革張りのソファーはふかふかで、ソファーの上に敷いたもふもふした毛皮だけでも金貨数枚しそうだ。

 

 隣に座ったミネルヴァはさっきからソワソワした様子で耳をピクピクとさせている。

 うん、何故なのかはすぐ分かるよ。

 

 机の上に置かれたフルーツと小瓶に入った鉢蜜が気になって仕方ないんだよな。

 

「よろしければ、召し上がってください」


 執事らしき黒服が貴族然とした礼を行う。

 その言葉に反応したミネルヴァが捨てられた子犬のような目で俺を見つめてきた。

 

「食べていいと言っているし、いいんじゃない?」

「そ、そうじゃの。ではさっそく」


 手を合わせ、小皿にフルーツをより分けハチミツをかけるミネルヴァ。

 彼女は右手にもったフォークを突き刺し、大きすぎるメロンぽい何かを口に無理やり押し込む。

 ぱあああっとにこにことした表情に変わったミネルヴァは「うむうむ」と頷き、口から出たメロンらしきものを指先で口の中に押し込んだ。 

 ハチミツが垂れてベトベトになっているけど、まあいいだろう。お子様だし。

 

 ガチャリ――。

 重厚な扉が開き、長髪をオールバックにした細い目の男が入室してくる。

 歳の頃は三十歳過ぎくらいだろうか。

 彼は柔和な笑みを浮かべ、俺に向かい会釈をする。


「お待たせいたして申し訳ありません。英傑様」

「ミネルヴァ。お呼びだぞ」

「むしゃ……」


 あ、ダメだ。

 フルーツに夢中でござる。

 

「英傑様、この度は我が大陸を救っていただきありがとうございます。おかげさまで、『時が動き出し』ました」


 男は流麗な動作で向かいのカウチに腰かける。


「時が……とは?」

「これは失礼いたしました。英傑様は異界から来た選ばれし戦士だとお聞きします。我が大陸のご事情をご存じなくても当然です」

「詳しく聞かせていただけませんか?」

「もちろんです。時が許す限り、お話しさせていただきます」


 なんか引っかかる言い方をしてくるなあ。

 でも、知りたかったこの世界の事情を聞くことができそうでワクワクしてきたのも事実。

 

 俺が頷くのを待ってから、男は淀みなくこの世界の悲劇を語り始める。

 この世界……エファラーンはかつて人間・ドワーフ・エルフが平和的に共存する朴訥とした世界だった。

 小競り合いはあるものの、大きな戦争もなく人々は概ね幸せに暮らしていたそうだ。地球と異なり、モンスターがいるから外の危険度は高いけど、その代わりに魔法という便利な技術もあった。

 しかし、永遠に続くと思われた平和は突如終わりを告げる。

 異次元の世界とエファラーンが接続されてしまったのだ。繋がった異次元の数は八つ。

 異次元にもエファラーンと同じような世界が広がっていて、半分の世界はエファラーンと同じ共存を望む世界だった。

 元を辿れば、蛇と蜘蛛が世界をまたにかけた闘争を行っていて、拡大する一方の彼らの闘争に他の世界が巻き込まれた結果、八つの世界が繋がったのだと彼は推測している。

 不幸なことに、どの世界もエファラーンと接続するだけで、他の世界同士の接続がなかった。

 つまり、エファラーンを通過することで他の世界へ行くことができるってわけだ。

 

「複雑ですが、何とか理解しました……」

「蛇と蜘蛛の闘争は思わぬ世界の接続を招きました。蛇と蜘蛛の世界は元々繋がっていたのですが、エファラーンと接続したことにより分断されてしまいます」

「それで、蛇と蜘蛛がこちらに襲撃してきたのでしょうか?」

「はい。ですが、蛇と蜘蛛のような闘争を続ける種族を見た他の世界はどう思うでしょうか……」

「自分たちの世界も侵略されるかも、とかですか」

「おっしゃる通りです。ですが、元々猛き世界であり戦闘こそ至上とする鬼、世界が広がったことで嬉々として領域を広げようとする魔族がいました」


 鬼と魔族もエファラーンに進出し、この世界はぐちゃぐちゃにされそうになっていた。

 しかしそこで、龍族が調停者として現れる。

 そこにある命を狩るのは忍びない。欲しいものは命ではなく、「世界の力マナ」だろうと。

 龍の提案で、神殿を作ることになった。世界を封じる神殿を。

 負けた代償に命は失わぬが、神殿によって大陸の時間が停止し、マナを延々と吸い上げられる。

 エファラーンは侵略してくる世界と代表者を集め闘争を行い、次から次へと敗北してしまう。

 ひっくり返す手は残されていた。それが、神殿を攻略すること。負けが込む中、戦士を神殿に送り込むが、やはり歯が立たなかった。

 結果、エファラーンは四つの世界によって分割されることになり、神殿周辺を残し、全ての時が停止してしまう。

 いつか、神殿を攻略してくれる者が現れることを信じて。


「えっと、それだと俺たちを呼ぶことができる人なんてこの世界には残ってなかったんじゃ?」

「はい。ですが、世界は八つあるのですよ。エファラーンの民全てが、世界停止後までここに留まっていたわけではありません」

「なるほど! 他の世界にかくまってもらって、何等かの手段で神殿に人を送り込んでいた、というわけですか」

「はい。おっしゃる通りです。英傑様には感謝してもしきれません」

「と言う事は……まだ三つも神殿が残されているってことなんですよね」

「はい。申し訳ありません。英傑様に頼ってばかりとなりますが……」


 とそこで、急に視界が白くなる。

 

「ミネルヴァ!」

「何じゃ、突然耳元で叫びおって」


 よし、ミネルヴァはいる。

 手探りで彼女の手を探し当て、ギュッと彼女の手を握りしめた。べったりした……。

 

「この白い視界は何だろう?」

「お主にも見えておるのか。我には予想がつくぞ。ほれ、もうすぐ視界が晴れる」


 ミネルヴァの言葉通り、視界がクリアになっていく。


「こ、ここは……」


 紫水晶でできた階段の先には円形の台座があり、台座の上に一本の大剣が浮かんでいた。

 見慣れた光景、絶対にもう見たくなかった景色が広がっている。

 重厚な扉もバッチリ備え付けられているではないか。

 

『よくぞ参りました。ソウシよ。選びなさい。英傑を』


 大剣から穏やかな女性の声が響く。


「祭壇の間……」


 茫然と呟く。

 そんな俺にミネルヴァがニヤリと挑戦的な笑みを浮かべ、白い八重歯を見せた。

 

「二つ目、かの。なあに、四つ全ての神殿を潰せばいいのじゃろ? 向こうから来てくれるのじゃ、探す手間が省けるというもの」

「酷い世界だよ。本当に。呼ばれた時から、こうなることが決まってたんだろうな。ちくしょう!」


 首をブンブン振り、大剣を睨みつける。

 

 一方で大剣の声に応じ、俺の視界には英傑選択メニューが浮かび上がっていた。

 

『剣聖 アーチボルト』

『大賢者 ミネルヴァ』

『魔導王 シーシアス』


「ああ、選んでやるよ。一回目の神殿よりは楽だろ。もう!」

「その意気じゃ」


 よし、決めた。

 俺が選ぶのは――。

 

 おしまい


※ここまでお読みいただきありがとうございました。次回作はもう少しみなさまに楽しんでいたけるような作品を目指します。

お付き合いいただき、感謝感激です!

別作品でまたお会いしましょう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「ダメージ反転」チートで最下層から成り上がる~俺だけ別ゲーでスキルとアイテムを駆使して超難易度異世界を生抜く~ うみ @Umi12345

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ