「ダメージ反転」チートで最下層から成り上がる~俺だけ別ゲーでスキルとアイテムを駆使して超難易度異世界を生抜く~

うみ

第1話 祭壇の間

 どこだここは?

 さっきまでパソコンでゲームをやっていたはずなんだけど、突然白昼夢でも見ているかのように視界が切り替わった。

 だけど、この風景に妙な既視感がある。

 紫水晶でできた階段の先には円形の台座があり、台座の上に一本の大剣が浮かんでいた。

 大剣は三メートルくらいあって、人間が持つことができるサイズじゃあない。

 振り返ると、重厚な扉が見えた。

 まさか、ひょっとしたら……。


「……マジか……」


 自分の服装が変わっている。

 上半身には青い長袖のシャツに袖の無い革鎧。黒に近い青色の長ズボンにこげ茶色のブーツ。

 腰には星型の金属板がベルトに装着されていた。


 まさかと思って、星型の金属板に触れてみる。


「うお!」


 思わず変な声が出た。

 だって、視界にズラ――っとカードが並んだんだもの。目線で追うだけで並んだカードがページをめくるように切り替わっていく。

 カードが並ぶ上部には「カード一覧」、下部にはページ数が記載されていた。

 この画面にも既視感がある。

 

 半ば確信をもってカード一覧の中から「食パン」を選び、「出ろ」と頭の中で念じた。


『カードフォルダを所持していません』

 

 やはり……。

 見た事があると思っていたら、ここはさっきまで俺がやっていたゲーム「英傑伝説」にそっくりな空間だったんだ。

 この部屋は祭壇の間に酷似しているのだから……。

 プレイヤーはここでチュートリアルを行い、扉から外へ出てゲームスタートとなる。

 だけど、「英傑伝説」はただのアクションRPGゲームであって、自分をゲーム世界の中に転送するような仕組みじゃあない。

 そもそも、そんな技術は現代の日本どころか、世界のどこにだって無いからな。

 

「夢かも……?」


 呟いてみたものの、俺にはこのありえない状況が夢じゃあないと思えてならないんだ。

 一歩、また、一歩、踏みしめるように歩いてみるだけで分かる。踏みしめる床の感触、自分の足の動き……手で革鎧に触れてみてもザラザラとした革の手触り。

 それに、埃っぽい匂いが鼻につく。

 

「待て、考えろ、俺」


 ここは現実だ。何故か分からないが俺は「英傑伝説」の世界に来た。

 ここまではいい。

 カードが大量にあることから、さっきまでプレイしていたゲームのデータを引き継いだのかもしれない。

 だけど、ゲームのキャラクターならともかく、俺が「英傑伝説」の世界で戦えるわけなんてないだろ……。

 英傑伝説は結構硬派なアクションRPGで、三人の英傑のうち誰かを選び、そのキャラクターの特徴を使って次々と迫る兵士をばったばったとなぎ倒し、「単独で」城を落とすゲームだ。

 

 無理な点その一。

 俺には人間や亜人を斬るなんて無理だ。

 無理な点その二。

 日本にいた運動不足の俺に過酷なアクションなんてできるわけがない。

 無理な点その三。

 このゲームにはレベルが無い。城を落としステージクリアしたらカードという名のアイテムが引き継がれ、キャラクターはすっぴんに戻る。

 

「……詰んでないか」


 このまま手持ちの食糧系カードを食いつぶし、生き抜くことはできるかもしれない。だけど、それじゃあすぐに食糧が底をつく。

 その場でうろうろしながら、何とかならないか、何とかならないかと額に汗を浮かべながら考え、考え……。

 ピコーン。

 俺の頭に電球が浮かんだ!


「そうだ。ゲームスタートしなきゃいいんじゃね?」


 祭壇に登ってチュートリアルを受けると、扉の外に旅立ち兵士が襲って来てウボアアア、あらま阿鼻叫喚、俺は死んでしまったってなるだろ。

 ならば、俺は一つの可能性にかけてみる。

 スタートする前の世界って奴に。スタートしてしまえば、敵が襲ってくる。だけど、スタートする前ならどうなっているか不明だ。

 

 出口扉の前に立つ。

 さっきから心臓がバクバクいっていて緊張感が半端ない。

 すー、はー。すー、はー。

 大きく深呼吸をしながら、自分の左胸に手を当てる。

 落ち着け。扉の外には何があるか分からない。

 しかし、踏み出さなければ先が無いんだと思い込め。俺!

 

「よし、行くぞ!」


 両開きの扉の取っ手の右側だけを掴み、そのまま体重をぐうっとかけ押し込む。

 ギギギギと音がして、扉がゆっくりと開いていく。

 

「な、何……!」


 外は予想した野外じゃなく、大広間に見えた。

 だけど、風景より俺の目を釘付けにしたのは、巨大な八つ首の龍!

 モンスター? モンスターだよなあれ!

 「英傑伝説」の敵キャラは「人間」または「亜人」だ。だが、あれはどうみても人間じゃあない。

 

 驚く俺の視界が突如真っ白に染まる。

 突然の眩しさに尻餅をついてしまう俺。


「熱っ!」


 それと同時に右腕の肘辺りに熱を感じたと思ったら、激しい痛みとなって俺に襲い掛かる。

 これまで感じた事の無い痛みにあえぎ、全身にびっしょりと汗をかき息絶え絶えになりながら、自分の右腕を見た。

 見てしまった。

 

「肘から先が無い!」


 肘の辺りでスパッと鋭い刃もので切ったかのように肘から先が無くなっている。

 しかし、不幸中の幸いか血は出ていない。何故血が出ていないのかなんて考える余裕が今の俺には無かった。

 俺の右腕はどこだ……。肘から先は……。

 

 開いたままの扉の外を見やると、灰になった何かが地面に落ちていた。

 ちょうどそこへ風が吹き、さらさらと灰が風に乗って飛んでいくではないか。

 扉の内側にも灰が飛んでこようとしたが、見えない境界線があるらしく灰は空中で停止しそのまま地面に落ちた。

 

「扉から外に出ていた肘から先だけが、ダメージを受けたのか……」


 歩け、行くんだ。祭壇に。

 動けないとか、倒せないとか……そんな甘えた気持ちはもう吹き飛んでいた。

 痛みが俺を追い立てる。

 だが、焼けつくような腕の痛みとは裏腹に、俺の脳は冷えていく。

 これが火事場の何とかってやつなのかもしれない。

 

 やらなきゃやられる。

 外は「英傑伝説」の世界じゃあなかった。

 腹を括れ。もう引き返せない、帰る手段も不明。

 だけど、このままやられっぱなしじゃあ腹が立つ。

 あがけるだけあがいてやるんだ。

 

 祭壇の階段を登り切ると、宙に浮いた大剣が青色に輝く。

 

『よくぞ参りました。ソウシよ。選びなさい。英傑を』


 声まで同じなんだな……。大剣から穏やかな女性の声が聞こえた。

 すると、俺の視界に英傑選択メニューが浮かび上がる。

 

『剣聖 アーチボルト』

『大賢者 ミネルヴァ』

『魔導王 シーシアス』


 誰を選んでも俺のステータスは変わらない。

 だけど、選ぶことのできるスキルが違うんだ。とっとと選んで「ポーション」か何かのカードを使い、傷を癒したいところだが……この選択で命運が決まるからな。

 勝つことでなく、生き残ることを重視しろ。

 俺は強くない。体を動かすのも苦手だ。

 ここで食糧が尽きるまで、体を鍛えることはできるけど……余り有効な手だと思えない。

 この先どれだけの道が待っているのか分からないのだから、悠長に構えていては餓死の可能性が高まる。

 

 決めた!

 

『大賢者ミネルヴァよ。ソウシの前に顕現せよ』


 大剣が光の粒子となり、人型を形成し実体化する。

 現れたのは新緑のような長い髪に切れ長の目をした美しいエルフだった。神秘的な緑色の目は髪色と同じで、裾に金色のローズをあしらった純白のローブに身を包んでいる。

 頭には黄金にルビーがちりばめられたティアラを装着していた。


『「カード化」、「鑑定」スキルを獲得しました』


 メッセージを流すと、次のメッセージが表示される。

 

『スキルを選択してください

 次元断

 飛行

 合成

 ことわりの反転

 真眼

 シャドウウォーク

 エア・ステップ

 ……』

 

 スキルには英傑を選ぶだけで必ず手に入る「基本スキル」とリストの中から一つだけ選択することができる「選択スキル」の二つがある。

 大賢者を選んだのは――

 

『「理の反転」スキルを獲得しました』


 このスキルを選ぶためだ。

 

『チュートリアル完了。基本装備を支給します。

 カードフォルダを取得しました。

 ショートソードを取得しました。

 ポーション(ランク1)を取得しました』


 左の手首にシュルシュルと黒い帯が巻き付き、名刺サイズの板を形成する。

 自分のステータスをチェックしたいところだけど、先にこの痛みを何とかしたい。

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