月下の歌姫 エリザベートのカラオケでライブ その2



 休憩が明けると、プロジェクターを使っての写真集作りの回想のコーナーが始まった。


 苦労話やお気に入りのページの紹介の解説を始める三笠君と照れ笑いの絵里


 今日の三笠君、楽しそうだけど…………。


 雨竜君達を蔑ろにしたままで、大丈夫なのかな?

複雑な気持ちでステージの2人を見ていると


「ケッ、あの野郎調子に乗りやがって、ただ親が金持ちなだけじゃねえか!」


 雷堂は、三笠君を憎悪の目で睨みつけてる。


 彼もそうだけど、身近の人達の様々な感情が

渦巻いて、何か大事にならなければいいなと

不安になる。


「皆さーん、このページの写真、見てくれましたよねー!」


 例の鏡の前で、黒い下着姿で振り向く写真が

出てくると会場は沸き上がる。


「やだミカエル! なんでよりにもよって、

その写真出しちゃうの?」


 やだ! なんて恥ずかしそうに言ってる割には、満更でも無さそうな絵里


 そして、一番前にいる雪乃さんは特に盛り上がっている。……というか、はしゃいでる。


「や~、エッチで可愛すぎ~❤️」


 女性客が1人だけなので余計に目立つ。


「今日は何で髪の色、いつもと違うのー?」


「月の光を浴びて、この様になりましたの」


「なに、その設定!

素敵、今度はお姉さんと一緒に写真撮りましょ!」


「…………」


 雪乃さんからの問い掛けに絵里は、苦笑いで対応している。


 それもそうだよね。 絵里って雪乃さんが苦手そうだし、ましてや女性客がいるとは思ってなかっただろうからね。


 写真集のコーナーが終わって、5曲目から

8曲目まで歌い続けると、2回目の休憩タイムに入った。


 雷堂がトイレに立ったので、僕も用を足しておこうと部屋を出ようとしたら、絵里と三笠君が僕に声をかけてくれた。


「ナイト、楽しんで頂けてるかしら?」


「絵里、歌上手だね。

声が可愛くて聞き惚れたよ」


「やだもう、ナイトったら」


 絵里を褒めると彼女は照れながら嬉しそうに

パンッ! と僕の肩を平手で叩く 


 イテッ!


「三笠君、ギター弾けるんだね」


「今回の曲は、エリザベートの作詞に合わせて僕が曲を作ったんだ」


 三笠君は作った曲について、早口で熱く解説してくれるけど、僕にはサッパリ分からない。


 ポスターも自分が描いたと自慢してきて多才だなぁ。 と感心する一方で、雨竜君と山田君をほっといて大丈夫なの? と心配にもなる。


「じゃ間宮君、楽しんでいって」


 2人は他の来場者にも挨拶に回り、僕は

トイレへ向かった。


 部屋に戻ると、間もなくして休憩が終わり

三笠君と絵里はステージに戻っていった。


 次は、プロジェクターに映っているリスト内の曲から、お客さんからのリクエストを聞いてカラオケで歌うコーナー


 なるほど、そういうのもあってカラオケで

ライブをすることにしたのか。

そのアイデアに、つくづく感心してしまう。


 リクエストされた曲は全てアニソンで、6曲

続けて歌い終わり次のコーナーに入る。


『エリザベート 一夜の想い』


 入場前に渡された券の番号に、当選した人が

絵里とのツーショットをポラロイドカメラで

写してもらい、その写真がもらえるという企画


「エリザベートとのツーショット写真が、

欲しいかー!」


「欲しいー! 一緒に写りたーい!」


 雪乃さんが、ステージの真ん前で我先に

「はい!はい!」 と手を上げる。


 三笠君の持っている箱の中に、絵里が手を

入れて1枚1枚の抽選券を取り出す。


「4番の方」

「12番の方」

「27番の方」

「44番の方」


 読み上げられる当選番号

当選した4人は、ステージに上がるポラロイドカメラで絵里とのツーショット写真を撮影


「今宵が貴方にとって、素敵な想い出になりますように」


 絵里は微笑みながら、1人1人に写真を手渡し、それを嬉しそうに受け取る当選者達


 彼女の佇まいや仕草には、人を惹き付ける

魅力を感じてしまう。

 

 そして、当選しなかった雪乃さんは

「えー、残念!」 と大声でぼやいて、

「私も素敵な想い出が欲しいー!」なんて

言ってるし


 三笠君が会場にマイクを向けると

「これは1名の方だけにプレゼント!

エリザベートの秘蔵写真があります。

みんな欲しいかなー!」


 会場中が一斉にシンクロして

「欲しいーーー!!!」と反応が反ってくる。


「欲しい欲しい欲しいーーー!!!」


 やっぱり、雪乃さんは人目もはばからずに

一番大きな声で手を上げている。


「それでは何番なんでしょうか?

エリザベート、お願いします」


 当選番号の書かれた当選紙をゆっくりと開け「ウフフ」と笑うと気のせいか? 一瞬、僕を見たように思えた。


 そして数秒の間、焦らしてから「42番」と

絵里の口から番号が読み上げられた。


 確か、入場の時にもらった僕の抽選番号が

42番だったよな。

 ポケットから取り出して確認してみると、

やっぱり僕の番号が当選していた。


「42番の貴方、どうかこちらへ」


 注目を浴びてステージに上がると、会場中

から「いいなー!」との声が上がる。


 人から注目を浴びるのが、なにより苦手な僕にとっては全然良くない。

早く受け取ってステージを降りたかった。


「おめでとう。

私だと思って大事にしてね」 と絵里は僕の手を握りしめ便箋を渡してきた。


「いいなー」と、羨む声と拍手喝采を浴びて、恥ずかしながらステージを降りる。


 客席側に戻ると雪乃さんが来て

「小僧、ちょっと見せなさいよ」と催促する

もんだから、便箋を開けてみると1枚の写真が入っている。


 例の鏡台の前の下着姿の写真なのだけど、

違うのは胸を服で隠しているのではなくて、

左腕で胸を隠している別バージョンだった。


 しかも、写真集の表情は恥ずかしそうにしているけど、この写真は挑発するように妖艶な

表情をしている。


 な、な、な、なんて物を景品にするんだ!


「アンタ、それ私によこしなさいよ」


「駄目ですよ」


「ケチ」 と文句を言って雪乃さんはステージの前に戻って行った。

 

 そんなところで、プログラムが一通り終了したので、絵里と三笠君に挨拶してから帰ろうと2人の所へ向かうと



「本日はエリザベートのライブにお越しください、ありがとうございます。

最後に重大な発表があるので聞いてください。

間宮君、ステージに上がって来て」


 アナウンスが流れると、談話をしていたり

帰ろうとしていた皆の視線が、ステージに集中する。


 なぜ、僕がステージに呼ばれるのだろうか?

何か嫌な予感がした。


 嫌々ながらもステージに上がると三笠君が、隣に来て僕の肩に手を回すと


「聞いてください! エリザベートと間宮君と僕の3人で、新たなクリエイティブなサークルを立ち上げます」と訳の分からない重大発表を宣言する。


 三笠君、何を言い出すの?


「エリザベートを中心にしたプロジェクトを

進め、そして僕はミカエル改め、ルシファーと名乗ります」


 はい、なんだなんだ?

三笠君、何を言い出すの? 色んな意味で?

ミカエルとルシファーって兄弟だったから、

ミカエルが堕天してもルシファーにはならないっよ……って。


 いやそんなことじゃなくて、と疑問に思う僕に三笠君は小声で


「大丈夫、間宮君は名前を貸してくれるだけでいいからさ」 と勝手な事を言う。


「駄目だよ、そんな勝手に決めて」


「いいから、いいから」 と聞く耳を持たない

三笠君


 その後ろで、絵里が不敵な笑みを浮かべる。

そうか、彼女が三笠君をそそのかしたんだ。


「そして、次のプロジェクトは……」


「いい加減にしろよな!」


 会場から雨竜君の声が三笠君の発表を遮るように叫び、ステージの上に乗り込んできた。


「ウリエル、止めてよ。 こんな所で」


 雨竜君を止めようとする絵里だが、殺気立つ

彼の目を見て怯えている。


 ざわつく会場、雨竜君が三笠君に詰め寄り

胸ぐらを掴むと「止めろ、みっともないぞ」と三笠君は冷静な態度を崩さない。


「エリザベートが恐がってるだろ。

聞き分けろよ」


「お前、そのエリザベートってのを止めろ!

彼女はエリシアだろ!」


 雨竜君の気迫に横から口出せないけど、

エリザベートでもエリシアでも、どっちでも

いいよね。 と心の声


「お前が、そんな勝手な事ばっかりやってんなら、俺は『ホーリーブラッド』辞めるぞ!」


「エリザベートと間宮君で『夜の血族』を結成したんだ。

お前達はお前達で勝手にしろ!」


「お前、本気で言ってんのか!」


 今の三笠君の言葉は、売り言葉に買い言葉

でも酷い。


 あと、僕はそんなのに加わってないよ。


 雨竜君は、今にでも三笠君に殴りかかりそうな勢いなので、彼を止めるために2人の間に

割って入ると


「ああ、今まで黙って聞いてりゃ好きな事言いやがって、姫と誰が一緒に組むだぁ?」


 雷堂までもがステージに上がって来て、三笠君に突っ掛かり収拾がつかない状態に


「いいぞ、やれやれ!」


 そんな状況なのに、雪乃さんは楽しそうに

煽りながら

「小僧、アンタが『ゲーム天狗放送室!』を

辞めるって、私の方から天狗に伝えといてあげる感謝なさい。」 なんて事を言う。


「紅美ちゃんの言った通りだ!

絵里ちゃんが絡むと、ろくなことがないよ」


 山田君も困り果てている。


「いい加減にしろ!」 僕が叫んでも、3人の服の引っ張り合いのようなケンカが収まるはずも無く、力づくで止めようとしたけど非力な僕では無理であった。


 一体どうすればいいんだよ。


「間宮君もさ、知ってて俺に黙っているなんて!」


「いや、三笠君が勝手に決めた話で……

僕だって知らないよ」


 そう言っても、冷静さを欠いている雨竜君は耳を貸してくれず、こっちにまで矛先が向いて突き飛ばされてしまい、その勢いでステージ

から落ちてしまった。

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