天狗のアパートにお邪魔する その1
ある日曜日の夕方
僕こと、間宮一騎はゲーム天狗に呼び出されていた。
彼のアパートは僕の家から15分位の所と以外と近くて、歩きながら前回の
『ゲーム天狗放送室!』の配信を思い出していた。
そう、水着姿の紅美ちゃんに卑猥な行為をしていた回だ。
「クソッ!こんなに近いなら紅美ちゃんを助けに行けたのに」
「今思い出しても腹が立つな」
そんな独り言を呟きながら待ち合わせの
コンビニに着いた。
天狗の住むアパートが分かりづらい所にあるのと、携帯電話を持ってないので、紅美ちゃんが来てくれるんだ。
「今時スマホも持ってないなんて、不便な人だなぁ」
配信でパシャパシャと撮っていたスマホは
紅美ちゃんの物で、我には必要の無い物だとか言っていたな。
確かに、天狗のクセにピンクのスマホなんて変だなぁと思ったんだ。
そのお陰で天狗の面を着けた怪しい男じゃなくて、可愛い紅美ちゃんが来てくれる事になったから、全然良かったけどね。
どこにいるのかなぁ?
辺りを見回すけど見当たらない。
「早く会いたいよ」
また紅美ちゃんに会えると思うと心が踊る。
「まだかなぁ」と胸の鼓動を押さえながら
5分位待っていると「間宮くん?」僕を呼ぶ声がする。
振り向くと声の主は、やっぱり紅美ちゃんで
黒のTシャツにデニムのショートパンツ
熱いからだろう結構薄着だ。
うん可愛い
やはり可愛い
どう見ても可愛い
「こんにちは」
彼女に見とれてながらも挨拶をすると、紅美ちゃんは不機嫌そうに「こんにちは」と、短く挨拶を返して横目で僕を睨む。
やっぱり嫌われてるのかなぁ?
話をして打ち解けようとしたら
「紅美に付いてきて」
彼女は冷たく言い放つと、スタスタと早足で
歩き出したので後に付いて行く
5分位歩くと寂れた商店街が見えてきた。
その間にも話をしようとしたけど、紅美ちゃんは歩くのが早くて話掛けられない。
商店街の店と店との間の細い路地に入って、
砂利道を進んで行くと、奥にはいかにも昭和に建てられたような2階建てのアパートがあった。
アパートの周りは、店やマンションに囲まれて日中でも日の光が入らなさそうな立地だ。
「うわー、古いアパートだなぁ」
つい声に出してしまうと
「古くて悪かったね。
ここ、お母さんのアパートなの」
アパートの看板を見ると『ハイツホンマ』と書いてある。
紅美ちゃんの名字は本間さんなのか
紅美ちゃんは不機嫌そうな顔をしていたけど、露骨に不愉快そうな顔になっていった。
しまった!
なんて余計な事を言ってしまったんだろう。
「天狗ちゃん2階の201号室にいるから
そこに行って。」
彼女はそう言い残し、1階の部屋にスタスタと入って行った。
ハァー、怒らせちゃったかな?
自分の迂闊さに溜め息を漏らして僕は、
紅美ちゃんの言われた通りに階段を上がり、201号室ので前に来たので扉をノックしようとしたら部屋の中から
「一騎か、入れぇー!」
力強い天狗の声が響く
「お邪魔しまーす」と、一応ノックをしてから扉を開けて入ると居間の扉は開いていて、8畳位の広さの部屋で壁三面が白い布で覆われて、パソコンにカメラと冷蔵庫があるだけだった。
「へぇー、ここで動画配信してるんだぁー」
初めて来たのに知ってる気がするなぁ。
それもそうか配信で見慣れているもんなぁ。
しかし部屋が動画配信の為だけにセットされたようで生活感が無い。
そんな感じで部屋を見渡していると
「よく来た!」
部屋の奥で天狗は腕を組んで立っていた。
彼は黒いツナギを着ていて胸のところに天狗のワッペンが張り付けてある。
ああ、配信でも着てるよな。
「あっ、こんにちは」
天狗は僕が挨拶すると壁から下がっている布をめくって、押し入れからちゃぶ台を出して
「まあ、座ってくれ」
座布団を出して渡してくれたので、腰を降ろす。
冷蔵庫から2リットルのジュースを出して
コップに注ぐと
「まあ、飲んでくれ」
飲み物を進めてくれて、天狗はちゃぶ台を挟んで向かいに座り僕がジュースを一口つけたところで話を切り出してきた。
「まあ聞いてくれ、本日来てもらったのは他でもない。
あるゲームの大会に出場しようと思ってだな」
「はあ」
「その大会と言うのが3人一組でないと出場できないのだ」
ん!?もしかして?
「お主と戦った『シャドウオブウォーリア』の大会なのだが」
おお、やっぱりか!
興奮する僕に話を続ける。
「来週の日曜日に、ゲームセンター『狼達の午後』で大会が催されるだ。
それで我と紅美と一騎、お主とでチームを組んで『ゲーム天狗放送室!』として出場を考えているのだ」
「おおー!」
僕も参加したかったけど、友達がいないから
出場は無理だと諦めてたので願ったり叶ったりな話。
しかも紅美ちゃんとチームを組めるなんて
最高だ!
心踊る僕は二つ返事で「お願いします」と
言おうとしたら
「ところが一つ問題があってだな。
紅美がえらい反対してるのだ」
「ウオッホン!」天狗は咳払い一つをすると
「あの人って、天狗ちゃんにとって良くない人
だから別の人探した方がいいよ。
と言うのだ」
天狗は紅美ちゃんの真似をしているつもりなのか変な裏声で説明する。
やっぱり嫌われているのかなぁ。
ああ、泣きたい。
そして似てない。
「我としては、お主の腕を買っているのだ。
あの店に来る常連の中でも、5本の指に入る強さを持ち合わせているので是非とも一緒に優勝を果たしたいのだ」
そう言われて悪い気はしないのだけれど、
天狗に腕を買われているより、紅美ちゃんに
嫌われている方が問題だ。
「そこでだ。
この前、我に文句を言ったのは誤解だということにしてもらいたい」
「でもどうやって?」
「やらせだったのを知らなかったと、
そして本当は天狗のファンであったが故に
天狗の事を思い怒りを露にしてしまった。
と言うのはどうだ?」
なんかしっくりこないな。
特に天狗のファンってところが
「うーん。
やらせで知らなかったのは、その通り何で問題無いのですけど……
僕は紅美ちゃん目当てで動画配信を見てたので……」
天狗の面に表情は無いけど、何となく苦笑い
しているのが分かった。
「まあ正直なのは美徳だとは思うが、お互いにメリットが無いぞ」
「えっ、どうしてですか?」
天狗はまた咳払いをすると
「あの間宮って人、天狗ちゃんの敵でしょ。
天狗ちゃんの敵は紅美の敵だから、あの人は敵なの、とも言っておったぞ」
また紅美ちゃんの物真似をしながら言っている。
この人は何でこんなに紅美ちゃんに味方してもらえるのだろう?
羨ましい。
「と、言うことで我のファンともなれば紅美も納得するはずだ。
何故だか紅美は我を信頼しておるのでな」
天狗の提案には凄い不満だけど、紅美ちゃんに嫌われないのと『シャドウオブウォーリア』の大会に出られるのは、秤にかけても悪い話ではない。
「分かりました。
ただアナタは、いずれ倒さなければならない
相手だけど、その日が来るまでは手を組みます」
仕方がないが任せる事にした。
「うむ、良い答えだ」
天狗は「ヨシ!」と声を張り上げると
パソコンの隣にある電話を使って
「もしもし、話が終わったので上がって来てくれ!」
と言って電話を切った。
紅美ちゃんにかけたんだな。
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