夏休みだよ!店舗大会 二回戦 その2

「天狗さん、遅いなぁ」

会場の皆が天狗さんを待っていた。

彼がトイレから慌てて戻ってくると、司会の人に

「後は天狗さん待ちですよ」

と注意を受けてしまう。

「スマンスマン、腹の調子が思わしくなくてな」

と会場の皆に謝ると周りからはゲラゲラと笑いが起きて準決勝の2回戦が始まる。


次の対戦相手は『スクラップワークス』という

女の子3人のチーム

その中のリーダーらしきショートカットの女性が僕達の所に来て

「『スクラップワークス』のリョウだよ

よろしく」

自己紹介をして天狗さんに握手を求めてきた。


「ウム!」

と言って握手を返すと、

「お主達の実力試させてもらおう」

とか偉そうな物言いをするもんだから

「天狗さん失礼ですよ」

呆れて注意するとリョウさんは

「そうだね、ボク達がどこまで通用するか

楽しみだよ」

そんな天狗さんの失礼な態度にも笑って応じてくれた。


「素敵な人だなぁ」

柔らかい物腰に爽やかな立ち振舞い

ボーイッシュな服装をスマートに着こなして、

凛々しい姿の彼女に好感を覚えた。

でも紅美ちゃんは

「天狗ちゃん、デレデレしすぎ」

何故か面白く無さそうに不満を漏らしている。

そうかな?

元々が天狗のお面で顔が隠れているから表情が

分からないけど、そんなこと無いと思うけどな。


リョウさんは、チラッと、こちらを見て

「初めはボクが行くよ」

『スクラップワークス』さんの方は、

どうやらリョウさんが一番手で出るようで、

できれば僕が手合わせしたかったけど

「ほう、ならば我が先陣を切ろう」

と天狗さんが名乗り出たので先鋒を譲ることに

彼女となら正々堂々と戦えると思ったので

少し残念。

次が僕、3番手は紅美ちゃんの順番になった。


「紅美よ

我のランサーにプロテクションを頼む」

天狗さんが指示を出すと紅美ちゃんは無視して

「間宮くんにかけるね」

ポチっと僕のソードマンにプロテクションを

かけた。

……。

あれ、どうしたんだろう?

いつもの紅美ちゃんなら天狗さんの

言うことなら素直に聞くのに

紅美ちゃんは不機嫌なままでいる。


リョウさんの使うユニットはマジックナイト

多少扱いが難しいけど剣技と魔法どちらでも

戦えるオールラウンダー

スタートスキルにプロテクションをかけて

マジックシールドを選択しているので守備力を高い設定にしてある。


「先鋒は天狗さんかぁ」

リョウさんは人差し指で頬をくすぐる。

1回戦の動きを見る限り、リョウさんの動きは

オーソドックスな攻めのスタイルで

上手いのだけど特化したものが感じられなく、

天狗さんにとっては格好の相手に思えた。



試合が開始すると予想通りの動きで攻めてきた。

「あーあ、天狗さんの思う壺だな」

まあ、天狗さんの事だから勝てる相手と見越して最初に出るって言ったんだろうけど

と、思っていたら天狗さんも攻めて戦っている。


あれ、どうしちゃったの?

珍しく相手の様子も見ないで戦っている。

しかも慣れてない動きだし

「いつもの天狗ちゃん

あんなんじゃないもん!」


そうだよね。

紅美ちゃんも僕と同じように思っていたようで、確かに天狗さんらしからぬ動きだよ。

マトモって言うか姑息じゃないし

相手と同じ土俵で正々堂々とぶつかり合っている。

只でさえ相手はプロテクションをかけてるから

状況が不利なのに


それでもぶつかり合うように打ち合う

天狗さんのランサーはHPゲージ1/3を切っても果敢に戦っている。

「あれ、逃げない」

違和感は確信に変わった。

そうだ、僕と同じで正々堂々と戦いたかったんだ。

でも、これではいけない!

「ダメだよ、天狗さん

相手に合わせては!」

僕の声に気付いた天狗さんは、元の地道な戦法に戻って何とか勝てた。

あのまま戦っていたら負けてたよな

「負けちゃったか」

リョウさんはハハハと笑って頬をくすぐる。

「ふう、危うかった」

「天狗さん、どうしちゃったんですか?」

「スマンな、あのような真っ直ぐな者には

胸を貸したくなってな

それで真っ向勝負をしたのだ」

気持ちは分かるけど

らしくない事言うなぁ、なんて思っていたら

「スケベ天狗」

と紅美ちゃんは悪態をつく

あれ、一体どうしたんだ?


続けて2人目にあっさり勝つと

3人目もHPゲージの半分まで減らして僕に

繋げた。

「ほらぁ、天狗ちゃんの動き全然違うもん」

紅美ちゃんの言う通りで、いつもの地味な天狗さんのスタイルに戻っている。

次はプロテクションをかけた僕のソードマンで

3人目を難なく倒して決勝戦に勝ち上がった。


試合が終わってから

「紅美よ、何故我のランサーにプロテクションをかけなかったのだ」

そう天狗さんに注意されて

ブーとむくれている紅美ちゃんは、

「だって、あの人天狗ちゃんの好きなタイプ

でしょ」

「一体何を言ってるのだ?」

そうだね何言ってるの?

「だって天狗ちゃん、いつもみたいに逃げて

なかったし」

なかったし?

「それに天狗ちゃんのパソコンの中

あの人に似てるエッチな画像でいっぱいなんだもん」

………。


「止めなさい」

何も言わない天狗さんの代わりに僕が

紅美ちゃんを注意したけど構わず続ける。

「そんな画像見たから紅美も髪切ったのに

天狗ちゃん、全然その気になってくれないんだもん」

なるほど嫉妬であんな態度取ってたのか

そんな僕達のやり取りが聞こえていたようで

リョウさんは顔を紅くしながら動揺して

「な、な、な、何を言ってるんだ

…キミ達は」

まあ、そんなの聞かされたら、

たまったもんじゃ無いよね。


恥ずかしがっているリョウさんの為にも、

場の雰囲気を変える面白い事を閃いたので

「天狗さん、顔が紅くなってますよ

あっ、天狗のお面だから元々紅いか」

なんて言ってみたけど周りの反応は極めて

冷ややか

どうやら面白くなかったようだ。

そんな空気に耐えられなくなったので

「なんてね」

と、おどけてみても周りの空気は変わることは

無かった。


……。

天狗さんは無言で僕を見てるし

紅美ちゃんには

「間宮くん、そういうとこだよ」

と、呆れられて注意される。


うう、余計な事言わなきゃよかった。

そんな惨めな気持ちの僕にリョウさんは

照れながら笑って

「ハハハ負けちゃったね

ボク達もまだまだ精進が必要だね

よかったら、またお手合わせ願うよ」

そう言って握手をを求めてきてくれた。

女の子の手なんて握ったことのない僕は

恥ずかしくて躊躇したけど

差し出してくれた右手を握り返すと

「ホントはキミと試合がしたかったよ」

そう言って

じゃあ頑張ってくれたまえと、エールを送ってくれた。


リョウさんの爽やかな振る舞いに

「憧れるなぁ」

僕も彼女のように誠実でありたいよ。


それに比べて…この人達は

天狗さんと紅美ちゃんに目をやると

「何故、人のパソコン勝手に使っているのだ」

「紅美が天狗ちゃんのパソコン使えるように

したんだもん

そんなの簡単だよ」

「そうではなくてな、

プライバシーとかあるだろうに」

「紅美と天狗ちゃんには、そんなの無いんだもん

ベーだ、天狗ちゃんのエロ天狗」

嗚呼、みっともないなぁ。


こうして僕達『ゲーム天狗放送室!』は決勝戦に勝ち上がる事が出来た。

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