僕らの町に青塚雪乃がやって来た 《後編》
夕刻
紅美ちゃんと別れた後は、マンションに戻り
昼寝を貪っていたら日が落ちかけていた。
「晩ご飯作るのめんどくさいな」
コンビニのお弁当で済まかと、マンションを
出ると
「雪乃ちゃん、また会ったね」
紅美ちゃんの声、今日で3回も出会うなんて
(その中の1回は雪乃が仕組んだのだけれども)
嗚呼、なんて美しい運命なのかしら。
どうやら紅美ちゃんと天狗野郎は買い物帰りのようで両手にはスーパーの買い物袋を手にしている。
「今、お帰りですか?」
「うん、これからご飯つくるの」
「良いですわね」
「雪乃ちゃんも一緒に食べない?」
ま、嬉しい♪
すぐに、うんって言うのも何だから素振りだけでも1回断っておきましょう。
「いえ、お邪魔でしょうし」
「えー!一緒に食べようよ」
「紅美、雪乃は断ってるのだから無理強いは
良くないぞ」
天狗野郎、余計な事言うな。
しかも、今日初めてあったのに呼び捨てかよ。
「天狗ちゃんだって間宮くんと男子2人
でしょ、紅美も女の子2人がいいよ」
そうよ紅美ちゃん、女2人はいいわよ。
あと間宮って誰?
「えーと、そこまで仰って頂けるなら
お邪魔しちゃおうかなー」
あまり断ってもチャンスを逃すことになりかねないので、ここら辺でお願いすることに
「それじゃあ、決まりね。」
この流れなら図々しい女とは思われないはず
と、安堵していたら天狗野郎が私を見ている。
紅美ちゃんに誘われて、アパートの1室に
通され中に入ると壁三面が白い布で被われている。
この部屋なに?
きっと天狗の部屋なのだろうけど……
カルト宗教か何かかしら?
「紅美、ごはん作ってくるねー」
「あっ、私も手伝いますよ。」
「いいのー、天狗ちゃんとお話しててー」
待って、私は天狗野郎となんて話す事ないわ
アナタとお話がしたいの
無情にも私を置いてご飯を作りに部屋から
出て行く紅美ちゃん
天狗の部屋で天狗と2人きりの私
ちゃぶ台を挟んで無言の天狗……気まずい。
「お主は一体何者だ?」
口を開いたら何者だって、まだ言うの
前職はモデルでしたって言えば満足するのか?
この際だから私は女なのに可愛い女の子が好きで紅美ちゃんを恋人にしたいの、って言った方がいいのかしら?
いえ、駄目よ。
こう言うデリケートな問題は徐々に時間を
かけないと、また失敗してしまう。
など色々考えを巡らせていたら
「あれ?
お客さんですか珍しいですね」
と1人の青年が入ってきた。
「一騎、来たか」
多分、この冴えない小僧が間宮ね。
「間宮一騎です」
やっぱり、冴えない自己紹介をする間宮に
仕方ないけど
「青塚雪乃です」
簡潔に自己紹介を済ませると
「天狗さんの知り合いですか?
凄い美人ですね!」
私の美貌を褒め称える。
当たり前じゃない。 ただ本人を目の前にして、正直な感想を伝えたことだけは評価しま
しょう。
「昨日紅美ちゃんにお会いしたご縁で、
お邪魔させてもらってます」
2人に自分の住むマンションを探していて、
その時に紅美ちゃんに案内してもらったと経緯を説明すると
「できたよー」
と紅美ちゃんが、が晩御飯を運んできてくれて、間宮の小僧も手伝い、4人でちゃぶ台を囲んで食事を取った。
紅美ちゃんの作ったご飯を美味しく頂いてから、一休みしていると間宮の小僧が
「今日の配信、何時から始めます」
「いや、今日はな」
ん、配信って何かしら?
私の顔から疑問が現れていたようで
「天狗ちゃんはね、ゲームをやって動画を配信しているゲーム実況者なんだよ」
ゲーム実況が分からない私に、紅美ちゃんが説明してくれる。
ゲームねぇ、何が楽しんだか。
しかも人様に見せる?
それを見る人がいるなんて、私には理解出来ないわね。
「雪乃ちゃんも一緒に遊ばない?」
「『マインクラッシュ』なら4人で遊べますよ。」
「いえいえ、私は見てます。」
ゲームなんてほとんど遊んだこともないし、
興味もないわ。
「えー、雪乃ちゃんも一緒にやろうよー。」
私の手を取って、紅美ちゃんがあまりにも
誘ってくれるので、少しだけならと付き合う
ことにした。
「ただ私、動画に出るのはちょっと…」
と言うと、皆が私の意思を尊重してくれて今日の動画とやらは中止になって、4人でゲームをすることになった。
「紅美、天狗ちゃんと組むねー、
雪乃ちゃんは間宮くんと」
「あっ、ズルい」
あっ、ズルい。 よく分からないけど、
どうせなら紅美ちゃんと一緒になりたいわ。
よく分からないので、ルールの説明を受けて、いよいよゲームスタート
「雪乃さん、そっちに追い込んで」
間宮がいちいち指示してくるのが腹立たしい。
紅美ちゃんを爆弾で挟んでやっつけた。
「やられちゃった。
雪乃ちゃん上手だね」
「あと天狗さんだけですよ
このままやっつけちゃいましょう」
やかましいわ! いちいち指図すんな。
結局、間宮の小僧がやられて、天狗野郎との
一騎討ちに
頑張ったけれども結局負けてしまった。
「凄いですね。
天狗さん、結構追い詰められてましたよ。」
間宮の小僧に褒められても、嬉しくも何ともない。
あー、もう腹が立つ!
最初はどうでもいいと思ったけど、勝負事で
負けるのは気に入らない。
「もう一戦、お願い出来ますか」
その後、僕と紅美ちゃんは何戦か遊んでから帰ったけど、雪乃さんはその後もムキになって遅くまで天狗さんに挑み続けたそうだ。
彼女は相当の負けず嫌いな性格で、毎日
天狗さんの部屋を訪れては、ゲームをするようになり、元々が器用なので日に日にゲームの腕が上達していった。
ある日曜日の午後
僕と天狗さん、紅美ちゃんに雪乃さんの4人でゲームセンター『狼達の午後』 に遊びに来た。
天狗さんは店長さんと話をしているので、
先に遊ぼうと店内を眺めていると
紅美ちゃんが『シャドウオブウォーリア』の
筐体に向かって
「天狗ちゃん、このゲーム得意なんだよ。」
雪乃さんに教えると 「そうですか」と大して
興味を示さない。
「それでね、このゲームをしてるときの天狗
ちゃんって、カッコいいんだよ。」
それを聞いた途端に、雪乃さんが僕の両肩を
強く掴んで 「そうなの?間宮君!」と僕に顔を近づけて来るので
「いや、強いですけど
カッコよくはないですね。」
そう答えると「遊び方教えなさい!」
と言って、僕の話を聞いちゃいない。
せっかく興味をもってくれたので、操作方法と、ゲームのコツを説明して実際にプレイしてもらう。
いざ始めたら初心者とは思えないくらい上手で、難しいコマンド入力も少し教えて練習したら覚えて、連続攻撃も的確に出せるようになり
試しに対戦してみると、敗けはしなかったものの結構手こずってしまった。
その後、雪乃さんは『狼達の午後』に通い
日々、『シャドウオブウォーリア』を対戦で
腕を磨くと常連達を片っ端から倒していった。
それから2週間も経った頃
僕は彼女との勝負に負けてしまう。
嘘でしょ…。
この店で3番目位の腕はあると自負していた僕が、こうもアッサリ負けるなんて…
「雪乃ちゃん、間宮くんに勝ったの?」
「ええ」
「天狗ちゃんほどじゃないけど、間宮くんも
上手なのに」
驚く紅美ちゃんに、いえいえそんなと謙遜
するけど満更でも無さそうな雪乃さんは
「あとは天狗野郎ね」 と小声で呟いた。
さすがに天狗さんの壁は厚かったようで、
なかなか勝てずにいたけど、それから1ヶ月して、雪乃さんは遂に天狗さんにも勝ってしまった。
「グッ、ヌヌ」
「雪乃ちゃん、すごい!」
なんだかんだ言って 『狼達の午後』の
常連の中では天狗さんが一番強いのに
それに勝つとは…………さすがに驚いた。
「ゲームもなかなか面白いものね。」
ホホホホホ!と高笑い。
天狗さんは、その後2回試合をしたけど
雪乃さんに勝てない。
「雪乃ちゃんが一番強いの」
「いえいえそんな」
一応謙遜してるけど、きっと心の中では
ホホホ、私が一番よ。
私こそが一番に相応しい女なのよ!
とか、思ってるんだろうな。
ま、確かにその通りなんだけど。
天狗さんが負けた事によって店内は騒然と
なっていた。
「へぇー、天狗さんに勝てる人がいるとは
驚いた。」
久しぶりに来ていた風祭君が感心して僕に
「間宮君は彼女に勝てるのかい?」
と聞いてきたけど
「いえ、僕も勝てないです。」と正直に答えると、「へぇー」 と言って雪乃さんに興味を
持ったらしく彼女に
「次は僕と対戦してもよろしいですか」
と勝負を挑むと
「よろしくってよ」と、雪乃さんは挑戦を受け、2人は試合をすることになった。
天狗さんが勝てないんじゃ、いくら風祭君でも無理かな?
そう思って観戦していると、難なく風祭君が
勝利する。
「そんなはずないわ」
雪乃さんは負けたのが信じられないようで、
もう1回試合しても負けて、何度も挑んだけど結局1回も勝てなかった。
「君は天狗さんに本当に勝ったのかい?
それどころか間宮君に勝ったのも信じがたいよ。」
風祭君にそう言われると、悔しそうに彼を
睨み付けながら
「貴方とは仲良く出来そうもありませんね。」
「そうかい。
君程度だったら仲良く出来ようだよ」
風祭くんは余裕の態度、雪乃さんは悔しくて仕方がないといった感じで、表情は違うけど
フフフフと笑う2人
ゲームセンター『狼達の午後』のトップは
天狗さんは風祭くんに
風祭君は雪乃さんに
雪乃さんは天狗さんに勝てるという
一番強いのがジャンケンのような三すくみの
パワーバランスになり
「僕より明らかに強いのが3人もいるのか」
とトップの壁の高さと多さを痛感してしまう。
こうしてゲームにはまった青塚雪乃さんが
『ゲーム天狗放送室』に加わちゃった。
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