緊急事態! 僕の紅美ちゃんがデートに誘われた。 その2

あれから約一週間が過ぎたデート当日


 本日は晴天なり。

見上げる空は青く美しく、まさにデート日和。


 それなのに今日のこの天気を忌々しく思ってしまうのは、不安と言う名の暗い雲が僕の心を覆うからだ。


「こんなのは間違っている!

このデートは紅美ちゃんにとっても不本意なんだ」


 そんな間違いを正す為、僕は動き出す。

そして、デートが今日だって事は雪乃さんから聞き出していたんだ。


 もし紅美ちゃんに何かあった時には、いつでも駆けつけれるように見守ろう。


午前9時


 ハイツホンマに着いた。

まずは物置小屋の陰に隠れて、紅美ちゃんが出てくるのを待つとしよう。




1時間後 紅美ちゃんは部屋から出てきた。

おめかしをして今日も可愛いけど、いつもの明るさが感じられない。


「やっぱり、紅美ちゃん行きたくないんだな」


 地下鉄駅へ向かう紅美ちゃんの後を気付かれないよう付いて行く。


 地下鉄に乗っている間も紅美ちゃんは、下を向いて物思いにふけっている。


「相手はどんな人なんだろう?」


 かっこいいのかな?

もしデートしている内に相手と気が合って、

告白されたら紅美ちゃんは受け入れるのかな?


 その時、僕に何が出来るんだろう?

それを止めようとして僕が出ていったとしても

「関係無いでしょ」 って言われちゃったら、

確かにその通りでどうしようもならない。


「ああ、もう!」 

考えれば考える程、悶々とした不安が頭の中で広がっていく。




 地下鉄を降りて地上に出ると商業ビルの

入り口で歩みを止めた。

どうやらここが待ち合わせの場所のようだ。


……数分後 

「お待たせ」 と1人の男性が紅美ちゃんに声をかけてきた。

見た感じお洒落な男性で、僕とそんなに歳が変わらないようだけど……。


「大学生かな?」


「なんとも言えないわね。

いい服着てるし、若いわりに稼ぎのいい社会人にも見えるわね。

それとも親が金持ちなのかしら?」


 ん?! 僕の独り言に返す声が聞こえる。

ギョッ! として振り向くと、雪乃さんが魚肉ソーセージを食べながら双眼鏡で紅美ちゃんを監視しているじゃないか。


「なにしてるんですか?」


「シッ、黙って声が大きい。

それより見てみなさい、あの男のジャケット

あれはね……」


 雪乃さんはデート相手の服や靴にバッグに

時計を品定めしては、僕にいちいち値段を報告するけど……この人、何で人が身に付けてる物を金額に換算出来るんだ?


「雪乃さん、お店はどうしたんですか?

そろそろ開店時間ですよね」


「それは大丈夫。

助っ人を頼んで任せてきたから」


 助っ人? 助っ人って誰だろう?

気にはなるけど、今は紅美ちゃん最優先だ。


「あっ、移動するわよ」


「どこに行くんですかね?」


 僕達はストーカーの如く、紅美ちゃんの後を付けていく。




 2人はショッピングモールに入り高級そうな

洋服屋に入った。


 デート相手の人はスタイルが良いので、紅美ちゃんと並んでいる姿は様になっている。

他所から見た感じ、まるで本当の恋人同士のようだ。


 クッソー! 僕だって紅美ちゃんとデートしたことないのに、あんなポッと出てきた人に先を越されるなんて! と悔しく思っていたら


「アンタがキモかったり、天狗に臆してるから先を越されるのよ」 と雪乃さんが辛辣な言葉を投げかける。


 えっ?! 僕、何も喋ってないのに心の声が聞こえるの?

それに何でそんな酷い事言うの?


 それから2人は店を出てショッピングモールを見て回り、僕達はそれを隠れて追いかける。


 1時間程すると2人はレストランに入った。

これからお昼ごはんにするようなので、僕達はフードコートから2人の監視を続ける。


 雪乃さんは双眼鏡で様子を伺っているので、

僕はハンバーガーと飲み物を購入して渡すと、

それをモグモグと食べて飲み物で流し込む。


「雪乃さーん、どうですか?」


「そうね、今注文した料理が来たわね。

紅美ちゃんが頼んだのはカポナータのパスタよ。 麺はカッペリーニね」


 ん、なんだそりゃ?


「男の方はリブロースのステーキで、焼き加減はミディアムレアのようね」


 男の人が何を食べるなんて、どうでもいいよ! それより紅美ちゃん、紅美ちゃんの様子はどうなんだ?


「僕にも見せて下さい!」


 雪乃さんから双眼鏡を取り上げて2人の様子を見てみると、2人の会話は弾んでいるようで

地下鉄で見た表情とは違い、意外と楽しそうにしている。


「アンタはバカね。

紅美ちゃん、普段からお客さん相手に働いてるの。 相手に話を合わせているだけよ」


 しばらく2人を眺めていると、食事が終わってデート相手は席を立った。 どうやらトイレに行くようだ。


 すると紅美ちゃんは、辺りをキョロキョロと

見回す。

もしかして、僕が心配して見守っている事に

気付いてくれたのかな?


「アンタはバカで自意識過剰ね。

あれは天狗が見に来てくれているかもって、

期待してるのよ」


…………雪乃さんの僕の心を見透かした発言は的を得てるけど、バカで自意識過剰ってのは言いすぎだよ。


 デート相手が席に戻ると2人はレストランを後にする。 次はどこへ行くのやら。




 外の広間に出た2人の様子をガラス越しから伺うと、向い合わせでテーブル席に座る。

するとデート相手は図々しくも紅美ちゃんの手を握りやがった!

そんな2人の雰囲気は、なんか良い感じに見えなくもない。


「雪乃さん! あの人、なんか紅美ちゃんの手を握ってますよ!

付き合って下さい。って告白する気ですかね?」


「そうね、見た感じ2人のムードは甘いわね」


「どうしましょう?」


「どうもこうもないわね。

周りに人もいないし、今のデートで2人の心が繋がっていたらキスまでいくんじゃないかしら?」


 えっ、キスって?! 雪乃さん、それを黙って見過ごすの?


「キスって……そんな、初めてのデートで

早すぎますよね」


「うひょー! 男の方はなんて口説くのかしら? 声が聞こえないのがもどかしいわね」


「雪乃さん、止めましょう。

駄目ですよ、紅美ちゃんには天狗さんだっているのに」


「天狗がいるとか駄目とか言ったって、決めるのは紅美ちゃんよ。

アンタは意気地が無くてグズグズタラタラしてるんだから、しょうがないでしょ」


 僕が意気地無しのノロマだって?


「そんな中途半端な気持ちだから紅美ちゃんはアンタに振り向かないし、お得意のゲームですら私や天狗に勝てないのよ」


 チクショー、言いたい放題言いやがって!

確かに天狗さんや雪乃さんに勝てないのは認めるよ。


 でも、紅美ちゃんが好きって想いが中途半端って、言われるのだけは認められない。

紅美ちゃんに対する想いだけは誰にも負けない……負けないんだ!


 それは配信で紅美ちゃんを初めて観た時から

変わらない。 それだけは絶対に変わらない!

この気持ちを今こそ伝えないと!


「ウワァーーー! 紅美ちゃーーーん!!!」

僕は紅美ちゃんに想いを伝える為、走り出していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る