接近! 天狗の素顔 天狗の正体《後編》


午後9時

いつものように『ゲーム天狗放送室!』の動画配信に何食わぬ顔して参加

「今宵はここ迄、皆様よき夢を」

天狗さんの締めの言葉で配信が終わり、後片付けを済ませると、

「それじゃあ帰りますね。」

急ぎ足で部屋を後にして、雪乃さんの部屋に

向かう。


彼女の部屋に着いて呼び鈴を鳴らすと、

雪乃さんはガウンを羽織って出てきた。

お風呂上がりかな?

それにしても、目のやり場に困っちゃうよ。


部屋の中に通されてベランダに出ると、

ハイツホンマの202号室が見下ろせる。

「部屋の明かりが消えるまで待つわ。」



その間、雪乃さんと他愛もない話をしながら、10分置きに202号室の明かりを確認

もうそろそろと見に行くと部屋の明かりが消えたので、1時間待ってから潜入することに


……1時間後

「さあ、行くわよ。」

雪乃さんは羽織っているガウンを バッ!と

脱ぎ投げると中に青いレオタードを着ていた。


フフンといった表情でポーズを決める。

「昔の漫画の泥棒三姉妹がこんな格好してたのよ。」

何だろう、なんか格好つけてる割には間抜けに見えてしまう。

「アンタはこれを着なさい。」

と緑色のジャケットとカツラを手渡されて

「何ですか?」

「泥棒アニメの主役がこんな格好してたのよ。」

「僕達って、泥棒する訳じゃないですよね。」

「気分が盛り上がるじゃない。」

そうかな?

何で、コスプレして人様の家に忍び込まなければならないの?


疑問に思いつつも、言われるがままジャケットを着て短髪もみ上げのカツラを被ると

「あら、似合うわね。」

と雪乃さんは僕のそんな姿を見てゲラゲラ笑う。



そして、いよいよ天狗さんの部屋へ侵入開始!


アパートの外階段では足音が立たないように

靴を脱いでソッと登り

昼間のようにピッキングで鍵を開けて202号室に忍び込む。


雪乃さんが先頭を切って居間に入り、部屋の中を一通り確認して懐中電灯を点灯

後に続けとジェスチャーで僕を呼ぶ。

……

無音で静寂の中

心臓の鼓動は激しくドキドキと脈打つ


僕も懐中電灯をつけると光は金剛力士像を

照らす。

昼間に下見に来て良かったよ。

もし、来てなかったら金剛力士を見た瞬間

驚いて声を上げてただろうから。


ただ何だろう?

何か違和感のようなものを感じる。

昼間とは何かが違う気がする。


雪乃さんがソッと寝室の扉を開けると、イビキが聞こえるので安心


布団の横に天狗のお面が置いてあるのを確認

いよいよ素顔が見られるぞ。


いっせーので!

顔に光を当てると、うつ伏せで顔が隠れている。


息を殺して気配を消し寝返り打つのを待つ。


う~んと唸り、仰向けに寝返りを打とうとした

瞬間


「ダメだよ2人とも」


……


僕らの後ろから声が聞こえて、口から心臓が

飛び出るかと思うほどビックリ!

なんとか口を押さえて声を殺し、恐る恐る振り向くと

背後には紅美ちゃんが立っているではないか!

彼女は、ジェスチャーで部屋の外に出るよう

指示するので部屋の外に出た。



1階の空き部屋に連れてこられた僕と雪乃さんは正座をさせられて

「なんでそうゆうことするの!」

とお説教を受けていた。


「天狗ちゃん、顔をかくしているの知ってるでしょ。」

「はい。」

「ずっとかくしてるんだから見られたくないって分かるでしょ。」

「はい。」

「はい、はいってホントに分かってるの?」

「はい。」

同じようなやり取りが今ので3回目

そろそろキツイ


「だってさ、紅美ちゃんが

天狗さんってカッコいいって言うもんだから、

どんな顔なのか気になって」

「そうやって言い訳してー

雪乃ちゃんも巻き込んでさ。」

「巻き込んだって、雪乃さんの方からから誘ってきて、僕はただその話に乗っただけで…」


「そうなの雪乃ちゃん。」

「いえ、間宮くんが天狗さんの素顔を1人で

見るのは恐いから、どうしても付き合って下さいって…

それに女の人がいればそんなに怒られないから

大丈夫って言うもので…断りきれなくて」


平然とよく言うよ。

この人、僕のせいにして

「ほらぁ、それに何その格好?

雪乃ちゃんにまでそんな格好させて」

「いや、それは雪乃さんの私物で、別に僕

が着たくて着た訳じゃなくて

雪乃さんが気分が盛り上がるからって…」

「そうなの雪乃ちゃん?」

「確かに私の私物ですけど、間宮君が私の部屋のクローゼットを覗き見ると

この方が、気分も乗るし身体のラインも

ハッキリするからとレオタードを着るよう

にって…

あまりにも、しつこく言うので仕方なく。」

は?なんて事言うんだ。

僕そんなこと一言も言ってないよ。


「変態!」

一喝して僕に軽蔑の眼差しを向ける紅美ちゃん。

やっぱりこうなるのか

もう言い訳する気にもなれないや

何を言っても僕の言い分は聞いてもらえないだろうから聞き流そう。


あまりボキャブラリーの無い紅美ちゃんの

似たような言葉を繰り返すお説教は聞いてるのが辛い。

それが、なんと3時間にも及んだ。

「次やったらメッ!だからね。」

そう言い残してやっと部屋から出ていった。


「あー、長かったぁ。

雪乃さん、やっと終りましたね。」

ようやく解放されて雪乃さんに声をかけると、

反応が無い。


どうしたんだろう?

「雪乃さん?」

彼女に顔を近づいてみると、聞こえるか聞こえないかの音でスースーと聞こえるので、

もしかしてと肩を軽く揺さぶってみると

「ん、ん~。」

と寝起きの唸り声

この人、正座したまま寝てたの!

しかも目を開けながら!


「ん、終った?」

パッと目覚める雪乃さん。

「ええ、雪乃さん

もしかして寝てたんですか?」

「私の特技でね。」

「それにしては目も開いてましたし

紅美ちゃんの言うことにも相づち打ってましたよ。」

「私って寝ながらでも相手の言葉に反応する

みたいなのよ。」

スゲエな、どんな特技だよ。


「で、紅美ちゃんなんて言ってたの?」

「どうして人の秘密を暴こうとするのって」

「そこは聞いてた、他には何て?」

「雪乃さんが僕のせいにしたので

僕ばっかり怒られましたよ。」

「あら、人聞きが悪いわね。

紅美ちゃんの言うことに乗っただけよ。」

この人には罪悪感もってものがないのか

あっけらかんとして、ふざけた性格してるよ。


「あとは、似たようなお説教を繰り返しで

聞かされましたよ。

どうして秘密を暴こうとするのって

紅美ちゃんだって天狗さんのパソコン勝手に

見てたのにさ」


雪乃さんはそれを聞いてゲラゲラ笑う。

結局、天狗さんの素顔も見れなかったし

紅美ちゃんには見つかって怒られ散々な目に

合ったよ。



次の週の『ルー デ フォルテューヌ』


雪乃さんは用事があるからと2時間ほど店を

空けるから手伝いをお願いと頼まれて

紅美ちゃんと店番をすることに

しばらくお客さんも入らなくて2人きりに


ちょうどいい機会なので、僕らが天狗さんの

部屋に忍び込んだ夜

何であそこにいたのか聞いてみると

「天狗ちゃん、パソコンのパスワード変えるからお面の中に監視カメラを入れてるの」

はい?

なんか犯罪まがいな事を言い出したぞ


「でね、寝る前に天狗ちゃんを一目見てから

お休みしようとしたら人影が見えて

天狗ちゃん、あぶないって行ってみたら、

間宮くんと雪乃ちゃんだったの」


「えっ、紅美ちゃん

天狗さんの部屋に隠しカメラ忍ばせてるの?」

ニコニコ笑いながら人差し指を立てての内緒のジェスチャーで

「天狗ちゃんには、シー だよ

間宮くんたちのこともナイショにしであげるから」

「いや、それ駄目でしょ!

僕らも人の事言えないけどさ

それは駄目だよ。」

「紅美は天狗ちゃんのお嫁さんになるんだから

いいんだよ」

いや、良くないよ夫婦でもプライバシーってものがあるし

まだ夫婦でもないよね。


そんな驚きの話を聞いていると、天狗さんが珍しく

『ルー デ フォルテューヌ』の営業時間帯に顔を出して

「一騎、後でうちに寄ってくれ」

と言い残して去っていった。

どうしたんだろう?

緊急で動画配信でもするのかな?


営業時間が終了してから帰宅する紅美ちゃんと

一緒に『ハイツホンマ』へ向かう。

「じゃあね間宮くん、お休みー。」

アパートの階段前で彼女と別れて201号室へ


部屋に入ると、天狗さんはちゃぶ台であぐらをかいて待っていた。

「まあ、座ってくれ。」

座って出された麦茶に口をつけながら、なんで呼び出されたのか考えていると

「一騎、そんなに我の素顔がみたいのか?」

突然予想もしない事を言い出してきた。


えっ、いや、あの…!?戸惑う僕に

一枚の写真を出すので見てみると…

その写真には懐中電灯を持った雪乃さんと僕が写っている。

この前、天狗さんの部屋に忍び込んだ時のだ!

げっ、バレてたんだ!

それにも驚いたのだけれども


その写真には僕らの後ろに半裸の男が写って

いるではないか!

物凄い形相で

「これは誰だ?」

「いえ、知らないです。」

天狗さんの質問に、そう答えるしか出来ない。

何故なら本当に知らないのだから

間違いなく紅美ちゃんではない。

ってことは一体誰なの?

背中に寒気が走った。


「知らんことないだろう、お主達と一緒に

写っているのだからな。」

「本当に知りません。」

そう言ってもなかなか信じてくれない。

そりゃそうだよね、一緒に写ってるんだから

ただ、こっちも説明しようにも説明が出来ない。


もしかして心霊写真?

もうそれ以外、考えられなかった。

「て、天狗さん…

多分ですけど…」

意を決した僕が全てを言おうとする前に写真を

胸ポケットにしまうと

「まあ、よい

これは我だからな。」

えっ

「あの夜、金剛力士像の吽形に化けていたのだ。」

えっ?えーーー!

部屋に入ったとき、何か違和感があるなと思ったけど正体はこれだったのか


「それでどうだ、我の顔を見たであろう

満足したか?」

あっ、心霊写真だと思ったから怖くてハッキリ見てないや

「もう一回、見せて下さい。」

と、お願いしたけど駄目だと断られて見せて

もらえず。

何度もお願いすると部屋に勝手に入ったことで、こっぴどく怒られてしまった。


「紅美が隠しカメラで我の部屋を監視しているように、我も留守の間はカメラを回しておるのだ。」

天狗さんの話だと、僕と雪乃さんがこの部屋で

話していたことは全て筒抜けで、夜に僕達が来ることは分かっていたから

金剛力士に変装して待ち構えていたんだって


僕と雪乃さんを部屋に閉じ込めようとしたけど、紅美ちゃんが来たので止めたんだってさ。


あと、一つ分からないことが

「天狗さん、布団で寝返りを打とうとしてましたよね。」

の答えに

空気で膨らます人形を布団に入れて首の部分を回るように細工し、リモコンで操作してたそうだ。


「お主達は何であんな格好してたんだ?」

と聞かれて説明すると呆れながら

「何をやってるんだ。」って言うけど

天狗さんも金剛力士の姿で僕らを待ち構えて

たんだから、お互い人の事言えないよ。


「全く、お主達にも紅美にも困ったもんだ」

とぼやいた。


今回で天狗さんの素顔を見ようとするのは、

懲りたので諦めたよ。

ま、人のプライバシーに勝手に立ち入るのは

良くないって事だね。

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