対決《後編》

 次は、天狗さんと試合なのだけど…

正直やりたくない。

阿久津、雷堂との連戦で疲れてるしね。


 それに天狗さんに負ける度、紅美ちゃんから

「間宮くんは、まだまだだねぇ」って、言われるの……あれ嫌なんだよね。


 この動画観たら、また言われちゃうだろうし


「天狗さんとは、いつも遊んでるから別に試合をしなくたっていいよね」


 試合をしないで方向で話を進めると


「天狗から逃げるのか!」


「俺らに勝ってメンツが保てたから、後は

どうでもいいってか! なめんじゃねぇぞ!」


 阿久津、雷堂が僕を挑発する。

嫌なこと言うよな。


「いやいや、天狗さんとは普段から一緒に

ゲームしてるから、わざわざ試合だなんて、

そんな必要が無いんだよ」


 2人に説明しても、逃げるなの一点張り。

何なんだ全く


 勝てる可能性が少ないのに、誰が好き好んで

負けた動画を撮られて、配信なんてされなきゃならないの


 この場をやり過ごす為、2人に説得を試みていると阿久津が


「ナイト、天狗の飼い犬のままでいいのか?」

なんて言ってきた。


 何だと!今の言葉は聞き捨てなら無い。

僕が天狗さんの飼い犬だって!


「今、なんて言ったの」


「ああ、天狗の飼い犬でいいのか」


「取り消してよ」


僕が阿久津に詰め寄ると雷堂が


「アグニ、取り消す必要なんてないぞ!

都合悪い相手には、戦わないで尻尾を振る。

正に飼い犬だろうが!」


 冗談じゃない、何でそこまで言われなければならないの!


「いいよ、そこまで言うんだったら天狗さんと戦うよ!」


 ふざけやがって、僕が逃げてるだと!


「その代わり僕が天狗さんに勝ったら、2人には謝ってもらうからね」


 結局、彼らの挑発に乗ってしまい天狗さんと試合をすることになった。


「素敵よナイト。

貴方が天狗に勝った暁には『夜の貴族』に

特別待遇で入れて、あ・げ・る❤️」


 絵里は、色っぽくスカウトするけど

正直、それはいらない。


 ただ、天狗さんと対戦を繰り返す度に思うのは、戦えば戦うほど、勝ちから遠くなっている

気がする。


 何故だろう?テクニックは、僕の方が上だと

思うのに、天狗さんの壁は高くて厚い。


 そういえば、雪乃さんが天狗さんの強さに

ついて語っていたな。


「天狗って、ゲームが強いんじゃなくて、

アイツ自信の人生経験からくる強さじゃない?

小僧が勝てるようになるまで、まだ時間が

かかりそうね」


 その答えに納得がいかなくて、何で雪乃さんは勝てるの? って聞いたら


「ま、私もそれなりに人生経験積んでるし

あと、アイツって女性に弱いんじゃない?

変な人ぶってるけど、真面目で不器用だから」

と笑って答えた。


 僕だって、こんな強敵相手に戦い勝ってきたんだ。

以前の僕とは違うはずだ。

いいよ、今日こそ天狗さんに勝利するんだ。


試合開始


 天狗さんの使用キャラは、タメ系のキャラで

銀の狩人の証を持つ刑事 『ベルナール』

 開幕すぐにしゃがみで待ち構えている。

ま、そうだろうな。


 僕も動かないで出方を見ていると、少しだけビクッと後ろに動く天狗さん。


 その動きに反応して垂直ジャンプをすると、

天狗さんは、隙を見逃さず遠距離攻撃の

《エアストライク》を着地に合わせて当ててくる。


「クソッ、まずいな」


 そして絶妙な位置を取り、しゃがんで待つ


 動かない天狗さんの動きは読めるけど、何を

やっても叩き落とされるのが見えるから攻め

づらい。


「ナイト、何故動かない! 

それがお前の生き様か!」


阿久津うるさい!


 天狗さんは、地道に距離を詰めては止まり

《エアストライク》を的確に当てて様子を伺い勝ちを焦らない。


 そろそろ勝負に出ないと負けるぞ。

牽制で攻撃を仕掛けたら、それを空かされて

《オーラブレイド》で反撃を受けてしまう。


 こうなったら、一か八かで飛び込もうとしたけど、確実に返されるのが見えてしまい、躊躇しているうちにタイムアップ


 今回も負けてしまった。


 まあ天狗さんには負けたけど、雷堂と阿久津には勝ったから面目は保てたよね。


 そう思って、ホッと胸を撫で下ろしていると

「おい、天狗のコピーみたいな戦い方だな」

と、雷堂がイチャモンをつけてきた。


僕が、天狗さんのコピー?


「つまんねぇ試合しやがって、

お前はそんなんじゃなかっただろうが!」


「しょっぱい戦い方で負けて、世話無ぇな」


「俺に勝っても、天狗には通用しねぇな!」


 相手にしないでいても立て続けに罵るので、

いい加減腹が立ってきた。

僕に負けたくせに言いたい放題だ。


「僕に勝てないからって負け惜しみ?

男らしくないんだよ!」


僕も感情的になって言い返すと


「あんな試合するテメェに、男らしくねぇなんて言われる筋合いはねぇんだよ!」


殴りそうな勢いで突っ掛かってくる雷堂を

「やめろ」と阿久津が体を入れて止める。


「やめんか雷神!

何を言ったって、貴様は一騎に負けたんだ!」


 天狗さんの怒号に怯んだ雷堂は、チッと

舌打ちして面白くなさそうに店から去っていった。


「ナイト、好き勝手言って悪かった」


阿久津は、約束通り頭を下げて謝ると


「お前は勇気を持って天狗と戦った。

飼い犬と言った言葉は取り消す」


そう言い残して彼も店を後にした。


「お主はお主だ。

そんな言葉などに惑わされるな」


僕に配慮して言葉をかけてくれる天狗さん。


天狗さんのコピー……か

その言葉は、負け惜しみだけには聞こえなくて

頭から離れなかった。








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