クリスマス特別企画 聖夜に天狗がやってきた。《前編》

僕、間宮一騎は明日のクリスマスイブの事を

考えていた。

どうしたら、紅美ちゃんと一緒のクリスマスを

過ごせるのだろう。


色々考えて、まず邪魔なのは天狗さんだ。

あの人、仕事以外はほとんど家にいるから、

紅美ちゃんも天狗さんに付き合って、ちゃぶ台を挟んでクリスマスケーキでも食べるのかな?

いやいや、そんな惨めなクリスマスイブは、

天狗さん1人で充分だ。


僕が、紅美ちゃんに楽しいクリスマスイブを

提供しなければならない。

なので、天狗さんの予定を把握するために探りを入れよう。


ハイツホンマの階段を駆け上がり、いつもの

201号室の扉を開けて

「天狗さん!

明日のクリスマスイブは、何か予定はあるんですか?」

「いきなりどうした?」

突然の質問に驚く天狗さん

「どうなんですか?予定あるんですか!」

「うむ、明日は買い物に出掛けるが…」

そうか、出掛けるんだ。

珍しいな。


「お店は、どうするんですか?」

の質問に、『憩いの場天狗』のお客さんは、

大半がお爺さんお婆さんで、自分のお孫さんと一緒に過ごすから、店はクリスマスイブから

来年の5日までは休みだと言う。


お、これはいいぞ。

次は、雪乃さんの予定だな。

紅美ちゃんが『ルー デ フォルテューヌ』に駆り出される可能性は高い。


「雪乃さん、明日はどうなんですかね?」

「ああ、雪乃は今年は30日まで店を開けると言ってたな。」

そして『ルー デ フォルテューヌ』は、

明日のクリスマスイベントで店を貸し切りに

するそうだ。


学生は冬休みに入るので稼ぎ時、大晦日と

三ヶ日以外は店を開けるそうだけど、今は雪乃さんのスケジュールなんてどうでもいい。


肝心なのは紅美ちゃん

彼女の予定を少しでも多く聞き出さないと

「紅美ちゃん、雪乃さんのお手伝いするんですかね?」

「いや、紅美も我と同じく、来年の5日までは店に出ない。

ああ見えて、忙しく働いていたからな。」


確かにそうだね。

平日は『憩いの場天狗』

日曜祭日は『ルー デ フォルテューヌ』

夜は『ゲーム天狗放送室!』の配信だもんね。

それに大晦日と三ヶ日は、お祖母ちゃんのお家で過ごすのが、毎年の恒例なんだって


「明日の買い物は、紅美ちゃんも一緒ですよね。」

「いや、明日は我1人で行く。」

やったぞ!

これなら、紅美ちゃんをクリスマスデートに

誘える。


聞きたいことは全て聞けたので、もう天狗さんに用はない。


「すいません。

用事を思い出したので、失礼します。」

「おい、待て!」


天狗さんは何か言いかけてたけど、今の僕は

紅美ちゃんが最優先

僕は彼女を探しに、急いで天狗さんの部屋を後にした。



『ルー デ フォルテューヌ』かな?

スーパーに買い物に行ってるのかな?

まずは電話だ!


「もしもし、紅美ちゃん!

今、どこにいるの?」

「うちの近くの公園にいるけどー」

「今、行くから待ってて!」と電話を切って

走って公園に向かう。



あっ、いた。

「紅美ちゃーん。」

彼女は公園の少ない雪で、小さなウサギを作っていた。

「明日のクリスマスイブは、紅美ちゃんと一緒に過ごしたいな。」


僕は、気持ちを込めて伝えると

「うん、そだね。」と意外な答えが返ってきた。

ホントに?!

えっ、うそ?やったー!

よし!明日は最高のクリスマスイブにしなければならない。

「紅美ちゃん、ちょっと待っててねー。」

「えっ、間宮くん?」


僕は予定を立てる為に、公園を飛び出して

近くの自動販売機でスマホを開いた。

明日は、どこに行こうかな?

色々と考えてみる。


2人の聖夜……

レストランのテーブルを挟んで紅美ちゃんと僕

「君の喜ぶ顔が見たくて、この店を予約したんだよ。」

用意したプレゼントを差し出すと

「間宮くん…素敵♥️」

嬉しそうに微笑む紅美ちゃん。


うん、これだ!

クリスマスイベントの定番!

レストランでディナーだよ。


まあ、妄想はこれくらいにして善は急げで、

早速レストランを予約しよう。


人気のレストランのレビューをチェック

5軒ほど目星をつけて電話電話♪


「すいません。

明日は全て満席で、空いておりません。」

まず、最初の1軒目は断られてしまった。

「ま、そういうこともあるよね。」

気を取り直して、他の店にも電話をかけてみたけど、残りの4軒全て満席で断られてしまった。

「駄目だったか~。」


そうこうして、30分位電話をかけていたかな。

紅美ちゃんをこれ以上、待たせては申し訳ないので、一旦公園に戻って説明しよう。



「間宮くん、急に飛び出してどうしたの?」

「ごめんね。

レストラン予約できなかったよ。」

「えっ、レストラン?」

「うん、紅美ちゃんと行こうと思って、電話

してみたけど予約、取れなかったんだ。」

紅美ちゃんは、「アハハハ。」と笑いだすと

「クリスマスディナーって、最低でも1ヶ月前には予約入れないと取れないよ。」

と教えてくれた。

そうなの?

だから全て断られたのか。


「それに、予約取れたとしても紅美

着ていく服ないよ。」

しまった。

僕は、なんてマヌケなんだ。

そんなことも知らないなんて


「それに明日の夜はね…」

紅美ちゃんが、そう言いかけると彼女のスマホが鳴った。

「あ、天狗ちゃんだ。」

ちょっと待ってねー、と言って電話に出る。


「うん。うん、間宮くんならいるよ。

わかったー。」

短い会話を済ませ、すぐに電話を切った。

そして、彼女は僕の手を握りながら目を合わせると、

「天狗ちゃんがね。

間宮くんを確保しておくようにって」

「えっ、天狗さんが?」

「うん、だから逃げちゃだめだよー。」

はい、紅美ちゃんが握ってくれる手を振りほどくなんてしないよ。


5分ほどして、天狗さんが走って来た。

「一騎よ、明日の夜は開けといてくれ」

げっ、しまった。

「明日は、我々3人で配信がある。」


紅美ちゃんの言う一緒に過ごすって、天狗さんも一緒ってことだったの

それに、クリスマスイブもいつも通り配信放送なんだ。

まあ、レストランは予約が取れなかったし、

紅美ちゃんも一緒だからいいけどさ。

でも正直がっかりしたよ。




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