テロリスト ゲーム般若の脅威! その2

『テロリスト ゲーム般若』 の挑戦状が

送られてから、2週間がたった土曜日の夕方


 喫茶『ルー デ フォルテューヌ』 から

僕の携帯電話に連絡が入った。


「もしもし、天狗にお客さんが来てるんだけど今忙しいから、アンタがアイツの所まで連れていってあげて」 と頼まれた。


 雪乃さん、『ルー デ フォルテューヌ』の営業時間に、天狗さんが来るの凄い嫌がるから、僕に頼むんだろうな。


 その人は『ルー デ フォルテューヌ』の

オープンの時に天狗さんが、ここの住所を動画で宣伝してたので、それを頼りにここまで来たんだって。


 店に着くと雪乃さんが「この娘よ」 と、

それだけ言って仕事に戻った。


 驚いたことに、天狗さんを訪ねてきた客人は、透き通るような肌をした外国人の少女


 見とれてしまう綺麗な顔立ちをしている。


「やぁ」 挨拶すると彼女は青い瞳の少女は、頭をコクリと下げて僕を見ている…………と言うよりも睨んでいるように見える。


「君、天狗さんのファンなの?」


「…………」


 日本語が分からないのかな?

なんか怒ってるようにも見えるけど、きっと

緊張しているんだろう。 そう見えるだけだよね。


 それにしても、異国の地で僕達の動画を観てくれている人がいるなんて、嬉しいな。

しかも遠い海外から訪ねて来てくれたなんて、天狗さんも喜ぶよ。


「一緒に来て」


 彼女はコクリと頷くと、床に置いてあった

大きなカバンを肩にかける。


 その細い身体には、不釣り合いな大きさの

カバンなので「大丈夫、持とうかい?」 と

聞くと、頭を横にブンブン振って断ってきた。




「天狗さーん、お客さんを連れてきましたよ」


 ご機嫌な僕は、201号室に入って声をかけると天狗さんは、横になって本を読んでいた。


「そうか! 上がってくれ」 と言って立ち上がる。


「ほう、海外から来られたお方かな?

よく来てくれた。 ゲーム天狗だ」 

少女に右手を差し出して握手を求めると少女も

「ソフィ・ローラン、イイマス」 自己紹介をして握手を交わす。


「うむ、大したべっぴんだな」


「今日の配信に、ゲストとして出演してもらえないですかね」


「うむ、そうだな」


「言葉が通じないから、何てお願いすればいいのかな?」


「ワタシ、ニホンゴ、スコシワカリマスヨ」


 そうなんだ、それなら話は早い。


「これから動画配信するけど、ゲストとして

出てもらってもいいですか?」


「ノゾムトコロヨ」


 ん? なんか変な言い回しするな。

まあ、外国の人だからなんだろうけど、出演してくれるんだよね?


 それにしても、さっきから天狗さんを睨んでいるように見えるな。




 ソフィには配置したテーブルの中央に座ってもらうと、彼女は肩にかけていたカバンを床に置いて、僕と天狗さんが彼女を挟んで座る。


 準備が整い生配信スタート、進行役は僕


「本日も始まりました。

『ゲーム天狗放送室!』 天狗さん、今日は

海外から来てくれた方がゲスト出演してくれるんですよ」


「ウム、実に素晴らしいではないか。

ワールドワイドな配信となって、喜ばしい」


「そうですね。

それでは、自己紹介をお願いします」


「ワタシはソフィ・ローラン、イイマス。

フランスからキマシタ」


「おお! フランスからですか。

ソフィは、わざわざフランスから来てくれたのは、やっぱり天狗さんのファンだからですか?」


 テンション高く僕が質問をすると、ソフィはテーブルを両手で バン! と叩いて、急に立ち上がる。


 あれ、何か気に触ることでもいったかな?

心配になってソフィを見上げると、僕じゃなくて天狗さんを睨み見下ろすと


「ワタシのコエにキキオボエナイカ」 なんて言い出す。

 

 ん、なんだろう?

確かに聞き覚えのある声だけど、フランスに

知り合いなんていない、それどころか海外すら知り合いなんていないよ。


 天狗さんも釈然としないようだ。


 ソフィは足下に置いてあるカバンを開くと、何かゴソゴソしている。


「お主は、一体何をしているのだ!」


 天狗さんが、彼女の肩に手をかけて呼び掛けると、振り向いたソフィの顔は般若の面に変わっていた。


「あ、お主は!」

「あ、君は!」


 なんという驚きの事実! 

ソフィ・ローランがゲーム般若だったんだ!


 彼女は再び立ち上がると、天狗さんを見下ろして


「ソウ、コレガワタシのホントのカオ

ヒトヨンデ『テロリスト ゲーム般若』!」


 カメラに指さして、左腕を水平に広げると「ババーン!」 自分の口で効果音をつけながらポーズを決める。


 うん、なんてカッコ悪いんだ。


「ワタシが、ショウタイもアラワサナイ、

ヒキョウモノとはキキズテナラナイ。

ダカラ、コウシテヤッテキマシタ」


 それを言う為に、わざわざフランスからやって来たんだ?


 よっぽど悔しかったのか、すごい暇なのかは分からないけど、大した行動力だよ。


「それを言いに、ここまできたのか?

お主は暇なのか?」


 ウワー! 天狗さん、そんなこと言っちゃ駄目だよ。 僕は、あえて口にしなかったのに……。


 ソフィがどんな顔しているのか、恐る恐る

振り向いてみると、般若のお面を着けているので、表情が分からない。 


 ただ、全身をワナワナと震わせているので、相当怒っているようだ。

 きっとお面の中の素顔も、般若のような顔になってるんだろうな。


「テロリスト ゲーム般若をオコラセタコト、コウカイスルガイイ」


 そう言って、ソフィは服を脱ぎ出す。


 何てやり方をするんだ、この娘は!

映してはいけないものを映して、動画配信が

出来ないようにする気なのか?


「ストリップを始めるのか?

それが、お主のテロリズムなのか!」


「駄目だよ。 動画配信でそんな事しては!

それに女の子としても」


「一騎! カメラの前に立って、コヤツの姿を

隠せ!」


 天狗さんは下着姿のソフィの両腕を押さえ、僕はカメラの前に立って、必死に彼女の姿を

必死に隠す。


 暴れるソフィ、もといテロリストゲーム般若


 健全なゲーム配信で、こんなハプニングは

許されてはならない。


「ハナセ、キガエ、デキナイデス」


 えっ、着替え?

天狗さんは驚いてソフィの腕を放す。


「お主、裸になって配信出来なくするのが

目的ではないのか?」 


「ソンナコトシマセン」


 下着姿のソフィは手を振って、違う違うと

否定する。


「ゲームテングホソシツは、コメントでエロでシチョーシャをツルとカイテマシタ」


 エロ? ああ、紅美ちゃんが水着になった回の時だ。

確かに、あれで視聴者を稼ごうとしていたもんね。


 僕が加入してからは、やらなくなったけど、

それを言われると返す言葉がないな。


「ダカラ、シチョーシャにナマキガエデ、

サービスデス」

 

 それにしたって駄目だよ。

それにいつまでも下着姿でいられても困るし、

と思っていたら、ソフィが着ているのは水着だ。


「とにかく、隣の部屋で着替えを済ませるのだ」


「ハイワカリマシタ」 と返事をしてカバンを持って、渋々隣の部屋へ行った。


 僕はソフィが着替えをしている間、天狗さんをジッと見つめて、紅美ちゃんの時はあんなに視聴者を煽っていたのに、他の女性が着替えようとすると必死に止めるんだ。


 この人の倫理観って、よく分からないよ。

なんて考えて考えていた。




「カッコヨクキガエテ、シチョーシャをオドロカセタカッタノニ」 


 ぼやきながら、着物ドレスに着替えて戻ってきた『テロリスト ゲーム般若』


 視聴者を驚かせるのには成功したと思うよ。


「お主は結局、何しにここまで来たのだ?」


「ソウデス、ソウデシタ。

テングサン、ショーブデス!」


「ほう、勝負とな」 


「ワタシは、ココマデキテ、ショータイを

アカシマシタ」


「うむ、まさか来るとは思わなかった」


「ソシテ、ワタシタチは、ゲームをナノルモノ、ソレナラ、ゲームでシロクロツケマショ」


「よし、分かった!

お主の心意気と行動力に免じて、挑戦を受けよう!」


 配信映えするという理由で、2D格闘ゲーム

『バウンティハント 闇狩人』 を選んで、

ゲーム天狗とゲーム般若のお面ゲーマーの対決が決まった。


「フフフ」 ゲーム般若の余裕の微笑みは、

強者の風格を感じる。


「この余裕の態度……これは、手強そうだ」




 いざ、試合開始


 まずは、慎重に様子を見ている天狗さん、

それとは対照的に堂々と近くゲーム般若。


 初手はゲーム般若が仕掛けると、天狗さんがガードをしてから反撃でダウンを奪って、距離を取り様子を伺う。


「オカシイデスネ~」


 再び近付くゲーム般若は、飛び込んで攻撃を仕掛けると対空技で落とされて、そのまま何も出来ずにボコボコにされて負けてしまった。


 …………この娘、もしかして弱い?

いや、長旅で疲れて調子が出てないだけかもしれない。


「オー! ヤリマスネ~。

デモ、マダマダデスヨ!」 とやる気に満ちて

2回目の試合に突入




 ──────────


 10回試合した結果ゲーム般若は全て負け、1ラウンドも勝てないどころか、そのうちの

5ラウンドはダメージを与えることすら出来ない。


 この娘、やっぱり弱いよ。

僕の感想はそれだけしかなかった。


「もうよいであろう。 我の勝ちだな」 


 天狗さんが、勝ち名乗りを上げようとすると


「イエイエ、ワタシ、マイッタシテマセン。

オメーンがジャマでミエナカッタダケデス」


 そんな言い訳をしてお面を外す。

美人さんだから『ゲーム天狗放送室!』 としては都合がいいけど、そんな簡単にお面を取っていいのかな? 


 コメント欄を見てみると、ゲーム般若への

応援メッセージが、ぎっしりと埋まっている。


「ワタシのココロは、コレクライでオレマセーン」


 お面を外したソフィは、そのまま対戦を続ける。


 ──────────


 結局、あれから1ラウンドも取れないまま、ゲーム般若の戦いは続き、24時を回ろうとしていた。


 午後7時位から始めたから、かれこれ5時間は経つのか。


 ソフィは、参ったしてないから負けてないと言い張って、同じような展開の退屈な作業を

天狗さんは繰り返している。


 つまんない試合だなぁ。

いい加減飽きてきたので、そろそろ帰ろう。


「天狗さん、ソフィ、帰るね」 


「一騎、帰るのか?」 天狗さんは珍しく気弱な声で僕に訴えてくる。


 さすがに気の毒だな。

よし、助け船を出すか。


「ソフィ、夜も遅いし長旅で疲れてるよね。

そろそろお開きにしよう」


「イエ、マダマダデス。

テングサンをヤッツケテマセン」


 凄いね。 こんなに負けっぱなしなのに、まだ勝つ気でいるんだ。


 これじゃあ埒が明かないや、それなら天狗さんにアイデアを授けよう。


「わざと負けてあげて、早く終わらした方が

いいんじゃないですか?」 そう提案すると


「わざと負けるなど出来ん!」 なんて力強く断る。


 この人もこの人で困ったもんだ。

まあ、天狗さんのポリシーがそうさせるのなら仕方がないね。

 

 悪いけど、付き合いきれないから僕は帰らせてもらうことにした。


「2人ともよくやるよ」 そんな言葉を扉の外から投げ掛けて、天狗さんの部屋を後にした。






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