間宮一騎はラジオを始める。

僕、間宮一騎は以前からラジオに興味を持っていたんだ。

ラジオといってもインターネットラジオなんだけどさ。


えっ、ネットでなら天狗さんや紅美ちゃんと

一緒に動画配信してるだろって?

いやいや、それは天狗さんの番組でしょ。


暴走する天狗さんを止めて、紅美ちゃんの天然

ボケに突っ込みを入れる。

そんなゲーム配信も、それはそれで楽しいんだけど、自分で考えた話題を話し、送られてきた

メールに僕なりの考えを語ってみたいんだ。


そこでインターネットラジオを始めてみる事にしたのよ。

動画と違って動きが無くていいのは僕にとってメリットで、声だけなら知り合いに気付かれる心配が無くていいし、それにラジオって映像にない不思議な魅力があると思うんだ。


今はお正月で特にやることも無いし、これから録音始めるよ。


「オーイェイ!

マッキーのインターネットラジオ、第1回

始めたいと思います。」


ラジオDJを気取ってスタートを切る。


マッキーってのは、僕のラジオDJネームで

間宮の頭文字のま、と一騎のお尻のき、を合わせてマッキーにしたんだ。


「この番組は、主にゲームやオタクカルチャーを中心に話したり、僕が今思っている事を話していこうと思います。」


いやぁ、録音とはいえドキドキするね。


「皆さんの近況や、僕に聞いてほしい事などを

メールで募集しますので、どしどし送って来てください。」


初回なのでメールは当然無いから好きなゲーム音楽を一曲かけて、新作のゲームについて話をして、次はいよいよフリートーク


「僕は現在大学生でゲームが好きなんだ。

よくゲームセンターに行くし、スマホゲームでも遊ぶよ。」


うーん、何を話そう?

まずは視聴者さんに少しでも僕を知ってもらいたいから、昔の事を思い出しながら話をしてみよう。


「僕は幼稚園の時から周りと馴染めなくて、

いつも一人ぼっちで過ごしていたんだ。」


水を一口

「中学、高校の修学旅行は休んだし、学校行事もサボれるものは、ほとんどサボったよ。」


休校だって嘘ついて家でゲームしてたら、学校から連絡来て、母さんに怒られたこともあったな。


「引きこもったり登校拒否ではなかったけど、学生生活はつまらなかったよ。」


何だろう?

この駄目な人間が垂れ流しで喋るラジオ

これって懺悔なのかな?


「この先ずっと一人でいるんだろうなって、

それでも僕にはゲームがあるから、これでいいやって思ってたんだ。」


こんなの聴く人いるかなぁ?

それに改めて考えると僕ってゲームしかないのか?後で聴くのが怖いよ。


「そんな僕にも去年の夏、あると人と出会って

生活が変わったんだ。

その人は、少し強引で変な事に巻き込んでくるけど、頼りがいがあって彼と出会えたお陰で、今までにない経験できたよ。」


天狗さんと出会い『ゲーム天狗放送室!』に

関わってから生活が変わったよな。


「今では友達って思える人もいるし、1人で

過ごしていた頃よりも充実してるよ。」


紅美ちゃんに雪乃さん、絵里の『夜の貴族』に

『ホーリーブラッド』の皆

リョウさんも仲良くしてくれるよね。

染々と感謝だね。


「この番組は、僕のような人付き合いの苦手な人や、毎日がつまらない人達の心の支えになれるような番組にしようと考えています。

直接は会えないけど、何か悩みや相談したい事とか、疑問に思っている事、良かった事などがあったらメールを下さい。

僕も一緒に考えて答えたいと思います。」


一体、何人の人が聴いてくれるのかなぁ?

メールは来るかなぁ?

編集を済ませ、期待と不安が入り混じりの

第1回目が終了


2日後


「マッキーのインターネットラジオ!

第2回目!!」


エコーをかけて色っぽい声にしてみたけど、

どうかな?


メールはあえてチェックしないで、早速1曲

かけてからスタート


「メール紹介のコーナー!」


メールは来てるかな?ドキドキしながらメール欄をチェック………一通も来てない。


まあそんなもんだよね、それでもガッカリするもんだ。


「本日はメールが来てないので、また自分の事を話そうと思います。」


今回は何を話そう?

前回は暗い感じだったので今回は、明るく紅美ちゃんの話をしよう。


「今回は僕の好きな娘のお話をします。

彼女はいつも明るく笑っていて、その笑顔が

可愛くて好きになったんだよね。」


うん、いいね。

前回みたいに陰気な感じはしない。


「彼女は料理が上手で動物好き

あとゲームは下手かな。

少し天然なんだけど、そこもまた可愛いんだ。

あと僕に対して結構キツイ……。」


それでも出会った当初に比べれば幾分かは、

優しくなったのかな?


「その娘には好きな人がいるんだけど、それは僕ではないんだ。」


恋愛敗者宣言?

いやいや、これからだよ。


「彼女の好きな人は僕のライバルというか、

越えたい人で今は仲間のような関係で一緒にいるんだ。」


後で聴いて、紅美ちゃんの話をしてるつもりが天狗さんの話になってて、何だかなぁって

思っちゃったよ。


「楽しい毎日なんだけど、今のままでいいのかな?って思って考えたりするんだよね。」


改めて声にしてみると、天狗さんに勝ちたいし、紅美ちゃんには男として見て欲しい僕って強欲なのかな?


「今の僕には答えが出せないので、もう少し

この関係を続けてみるよ。

最後に僕の好きな娘がよく聴いている曲をかけて、第2回目の放送を終わりたいと思います。」


次はお便りメール来てくれるかな?



3日後

年が明けて、一週間ぶりに天狗さんの部屋を

訪れる。

「天狗さん、明けましておめでとうございます。」


ドアを開けて部屋に入ると天狗さんはパソコンの前で正座をしている。

エッチな画像でも見てるのかな?と横から

ディスプレイを覗いてみると何かを聴いていて、グスっと鼻をすすって泣いてるように見える。


「天狗さん、どうしたんですか?」


「いやな、このネットラジオが素晴らしくてな。」


へぇー、大の大人が泣くほど感動するラジオってどんなのかな?

耳を済ませて聴いてみると、何やら聞いたことのある声がする。

それに話している内容も知っている。


……これって?僕のラジオだ!

何で聴いているの?

顔に出さないよう平静を装うけど、心の中では

かなり驚いている。


そんなタイミングで、紅美ちゃんと雪乃さんも

部屋に入って来た。


「天狗さん、小僧、明けましておめでとう。」


「おめでとー。」


「おめでとうございます。」


「うむ、おめでとう!

3人とも、これを聴いてくれ。」


2人に挨拶を交わすと、僕のラジオを聴くよう

勧める。


第2回目まで聴き終わって雪乃さんの感想はというと

「つまらない男ね。

自分の事ベラベラ喋って、情け無さしか伝わらないわ。」


やっぱり酷いな、この人

知らないとはいえ、本人を前に言いたい放題だよ。

まあ、驚かないけど。


「貴様アホか!」


「な、なんですって!」


「この優しい気心が分からんのか!」


言い合いを始める天狗さんと雪乃さん

そんな2人を他所に紅美ちゃんは、もう1回

再生して聴いている。


そして「うん」と頷いて僕に


「間宮くん、ちょっと」


紅美ちゃんに呼ばれて内心ギクッとしたけど、

まさか、僕だって分かるはずないよ。


「あのマッキーってラジオの人、

間宮くんでしょ。」


そう耳元で囁く。

な、何で分かったの!

僕は否定も肯定もしない。

けど、紅美ちゃんは何か確信を持ってるようだ。


「天狗ちゃんは気付いてないようだけど、

紅美には分かるよ。

浮気されてるみたいで嫌だけど、楽しそうに

聴いているから続けてあげてね」


浮気?とかではないと思うんだけど……。

紅美ちゃんって、たまに鋭くて怖いよ。


言い合いから喧嘩になりそうな勢いの天狗さんと雪乃さん

2人とも知らないとはいえ、原因が自分なので

心が痛い。


「マッキー殿の人間としての優しさが理解できんとはな!」


「人間だったとしても男じゃないわね!

弱くて笑っちゃうわ。」


「強さだけが男じゃないだろう!

考えてもの話せ!」


「はぁ?いい歳してラジオ聴いて泣くなんて、馬鹿みたいだわ!」


「お前には、人としての感性が欠落してるのか?

このラジオの素晴らしさが分からんとはな!」


「あーあ、嫌だわ

自分がちょっと泣けたからって人に共感を

押し付けるなんて。」


「この冷血漢め、帰れ!」


「言われなくたって帰るわよ。

この泣き天狗!」


雪乃さんは、そう言い残して怒って部屋から出ていった。


「一騎、お主はどう思う。」


まさか自分のラジオに感想を聞かれるとは、

なんて言っていいのやら………。


「うーん、いいんじゃないですかね。」


お茶を濁すように無難に答える。


「紅美は、どうだ?」


「んー、雪乃ちゃんが言うのも分かるよ。

男の子ならもっと強くないと」


やっぱり、紅美ちゃんもキツイな。

このラジオのDJが僕だって気付いてるのに…


「でもねー。

マッキーさんがラジオを通して、他の人を応援したいって気持ちは伝わるよね。」


く、紅美ちゃん

今の君の言葉で報われたよ。

嗚呼、許されるなら抱き締めたい。


「そうか、そうであろう

さすがは紅美だ。」


天狗さんは上機嫌で紅美ちゃんに頬擦りする。


「もう、天狗ちゃんったら」


「よし、我はコメントを送るぞ!」



マッキー殿、お初にかかります。

我はゲーム天狗と申す者

貴殿のラジオにいたく感動し、メールを送らせていただきました。


我は過去に別れがあり、その淋しさから孤独を感じる日々を過ごしておりました。


我も一時期は1人でいる方が楽でいいかなと思っていましたが、今では弟と妹のように大事な2人のお陰で、楽しい日々を過ごしております。

マッキー殿も、その仲間達を大事にして下され。



この人、文章の内容を喋りながらキーボード

打つのね。

それを後ろで聞いている当人の僕……

変な気分


「フフフ、自分の事なのに」



その夜


「マッキーのインターネットラジオ第3回目!

この番組は、皆さんの心の拠り所になれるようなラジオを作っていきたいと思います。」


「始めてのメールが届きました。

ラジオネームは『ゲーム天狗』さんです。

読んでいきたいと思います。」


知らない人から感想をもらうつもりで始めた

ラジオ

最初のリスナーの天狗さんからの初メール

僕の予想とは違ったラジオになっちゃったな。

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