クリスマス特別企画 聖夜に天狗がやってきた。《後編》

翌日のクリスマスイブ


紅美ちゃんに渡すクリスマスプレゼントは、

少し値段の張ったオルゴール

天狗さんには、適当に買ったキーホルダーを

リュックに入れて家を出た。


午後7時

「お邪魔しますねー。」

いつもの通りハイツホンマの201号室に入ると、天狗サンタにミニスカサンタの紅美ちゃんがいる。

まあ、予想はついてたけどね。

それにしても紅美ちゃん

なに着ても可愛いよ。


「よく来た!

一騎、お主にはこれを着てもらう。」

「何ですか、これは?」

突然渡されたトナカイの着ぐるみとハンディ

カメラ

嫌な予感しかしない。

「お主には、トナカイカメラマンになってもらう。」

…トナカイカメラマンって何だ?

そう思いながら奥の部屋で着替えた。

今夜は、何をさせられるんだろう?


「よし!今宵の『ゲーム天狗放送室!』は、

クリスマス特別企画、天狗サンタがやって来ただ!」

「紅美サンタもいるよ。」

「どういうことですか?」

「うむ、日頃お世話になっている方々に、感謝の気持ちを込めてプレゼントを持って訪れる。

そして、クリスマスにかこつけて、再生数を

稼ぐという訳だ。」


まあ、よくやるよ。

でも、紅美ちゃんサンタと一緒なら悪くないかな。

「で、誰の所に行くんですか?」

「まずは、雪乃ちゃんのところー。」



『ルー デ フォルテューヌ』を訪れ店に

入ると、クリスマスイベントの真っ最中


「雪乃、天狗サンタがやって来たぞ。」

天狗さんが店に入ると、雪乃さんは鬼のような形相で

「その天狗の面着けて、私の時間帯に入って来るなって、前に言っただろうが!」

お客さんの目もあるのに怒鳴る雪乃さん

天狗さんの天狗のお面は、店のイメージが崩れるからって、前から嫌がっていたけど…

今日は特に凄い。


「サンタの姿をしているから大丈夫だろ。」

「ツラが変わってねぇだろ!」

「それにプレゼントを持ってきたのだが…」

「うるさい!私の店から出てけーーー!!」

物凄い剣幕で店を追い出されてしまった。


「なんか、雪乃さん…凄く怒ってましたね。」

「あやつ、クリスマスイベントに紅美を出勤

させなかったこと、根に持って逆恨みしているな。」

やっぱり『ルー デ フォルテューヌ』の

イベントに紅美ちゃん呼ばれてたんだ。

今日の企画のために天狗さんが断ったので、

それで雪乃さん怒ってるのか。


「次は、どこに行くんですか?」

「いや、決めておらん。」

ノープランかよ。

「いやな、雪乃の所で2時間くらいは時間を

稼げると思ってたんだが…」

紅美ちゃんの出勤断っておいて、自分の企画で訪れるのは無理があるでしょう。

ましてや、雪乃さん動画に出たがらないのに


「そこでだ。

予定が狂ったので、一騎の方から誰かいないか連絡を取って欲しいのだが…」

「天狗さん、今日はクリスマスイブですよ。

みんな予定入れてるんじゃないですか?

急に電話が来ても困るでしょ。」


僕に注意され珍しくショボンとする天狗さん

それに見かねた紅美ちゃんが僕に

「お願い。

ここは、間宮くんが頼りなんだよ。」

なんて、目を合わせてお願いしてくるから

仕方がない。

僕も男だ!何とかしよう。


まずは駄目もとで、リョウさんに電話してみるかな。

あんな美人さんなら、彼氏がいて一緒に

クリスマスイブを過ごしているかもしれないけど。



「もしもし、間宮クン

どうしたんだい?」

「すいません、こんな夜分に

今、お時間ありますか?」

「ボク達『スクラップワークス』のクリスマスパーティーが終わって、みんな帰ったところだよ。」

「そうですか。

近くにいるんですけど、クリスマスプレゼントを渡したいので、これからお伺いしてもよろしいですか?」

「えっ、間宮クンがボクにプレゼント?

分かった。

駅前に行くから、そこで待っててくれよ。」

「あっ!」


天狗さんと紅美ちゃんがいるのを伝える前に、

電話が切れてしまった。

2人にリョウさんが来てくれると伝えると、

天狗さんは「そうか」と言ってソワソワして、

紅美ちゃんは少し不機嫌になった。


駅前でリョウさんを待っている間、天狗の面を着けたサンタが異様だからなのか

それとも紅美ちゃんのミニスカサンタが可愛いからなのか、周りから注目を浴びていた。


「間宮クン!」

リョウさんの声に呼ばれて振り向くと、彼女は僕の姿を見て

「どうしたんだい、その格好は?」と聞いてくるので

「トナカイカメラマンです。」と答えると

「なんだいそれ?」と笑った。


「リョウよ、よく来てくれた。」

天狗さんがリョウさんに声をかけると、彼女の

表情が曇ったように見えた。

「…ど、どうも」と挨拶をする。

「うむ、メリークリスマス!」

天狗さんも挨拶を返して、大きなプレゼントの袋を手渡す。

「あ、ありがとうございます。」

リョウさんは両手で受け取り、お礼を言うけど嬉しそうにしてない、というか困った顔をしている。

もしかして迷惑だったかな?


「天狗ちゃん、デレデレしすぎ!」

「もー!」と言って紅美ちゃんは、天狗さんの腕を叩く。


その様子をカメラで撮影する僕にリョウさんは近づいて小声で

「間宮クンだけじゃなかったの?」

「ええ、天狗さんがお世話になってる方に

プレゼントを渡して回るって企画で…」

「なんで、そう言ってくれなかったんだい。

ボクはてっきり…」

「伝える前に電話が切れたもので…」と答えると、「あっ!」と言って頬を紅らめ恥ずかしそうに下を向いた。


「ごめんね、ボクはプレゼント用意してなかったよ。」

いえいえ、来てくれただけでも感謝してます。

リョウさんにお礼を告げると

「じゃあ、またね。」と帰っていった。


次は誰に連絡を取ろうかな?

あと僕が連絡取れるのは、『夜の貴族』と

『ホーリーブラッド』の人達かな。


絵里だと、紅美ちゃん嫌がるだろうし

風祭君は、きっとデートだよね。

モテるから

雷堂に関しては、電話番号を交換してない。


そうなると『ホーリーブラッド』か

彼らに電話してみますか。


三笠君とは連絡がつかなかった。

雨竜君に電話をかけると、ちょうど山田くんも

一緒にいてゲームをしてると言うので

「これから訪ねてもいいかな?」

と聞くと、快く了承してくれたので、彼の住むマンションに向かう。

今度は、意図して天狗さんがいることを隠して


開いた玄関ドア

「こんばんわ。」

「えっ?!天狗さんもいるの?」

僕の後ろにいる天狗さんに雨竜君は驚いてる。

というか、困ってると言った方が正しいかもしれない。

それは、彼の表情から読み取れる。

やっぱりね、リョウさんも同じ反応をしてたもんな。


「ウリエルにサンダルフォンよ

メリークリスマス、これを受け取ってくれ。」

「あっ、ありがとうございます。」

「あっ、ありがとうございます。」

シンクロしてお礼を言う2人

プレゼントを手渡されて唖然となる。


雨竜君は、ウリエル

山田君は、サンダルフォンって呼ばれてるんだ。

ちなみに名付けたのは絵里


雨竜君は、僕の姿を見て

「間宮君、何その格好?」

「いつものように付き合わされてね。」

と答えると、大変だねと慰めの言葉をかけてくれた。


「2人とも良きクリスマスを

ではサラバだ!」

「やまだくん、バイバイ」

紅美ちゃんと山田君はお互いに手を振り合う。

サンダルフォンこと山田ヒロムは、紅美ちゃんと顔馴染みの同級生

彼の容姿は女の子そのもので

手を振る紅美ちゃんが可愛いのは当然だけど、

困ったことに山田君も可愛いのだ。


次は、どうするのかな?

「僕は、もう連絡取れる人いないですね。」

「そうか、我もいないな。」

「紅美もいないよ。」

アナタ達、最初から誰にも連絡してないで

しょ。

本当に何も考えないで企画したんだな。


これでは仕方がない。

「…帰りますか。」

「そうだな。」

そもそも僕達の交遊関係の少なさからして、

この企画自体に無理があったんだよ。



ハイツホンマに戻り着替えを済ませると、

ちゃぶ台を囲んでケーキを食べて天狗さんからプレゼントを頂くと、紅美ちゃんと部屋を出た。


「お休みなさい、紅美ちゃん」

「お休み、間宮くん

今日は天狗ちゃんに付き合ってくれて、

ありがとう。」

はい、これと言って鞄からマフラーを取り出すと僕の首にかけてくれた。

「えっ、僕に」

「うん、紅美と天狗ちゃんとお揃いだよー。」

「待って、僕からもクリスマスプレゼント」

リュックから取り出したプレゼントを渡す。

「ありがとう、なにかな?」

「部屋に戻ってから開けてよ。

メリークリスマス!」


紅美ちゃんが僕の首にかけてくれたマフラーにありがとうの言葉は最高に嬉しかった。


今までのクリスマスイブは1人でゲームを

してるか、アニメを見てるだけだったけど

今年は違った。

紅美ちゃんとのクリスマスイブは、想像してたものとは全く違ったけど

それでも楽しく過ごせたから良かった。



次の日

天狗さんから頂いたプレゼント

中身は何かな?と開けてみるとレトロゲーム10本が入っていて、中には結構なプレミアが

ついてる物もある。

あと手紙が入っていた。


どれどれ、読んでみよう。


このゲーム達は、我のお気に入りです。

貴殿に気に入って頂けるような物を考え厳選しました。

一通り遊んだら感想を聞かせて下さい。

そして語り合いましょう。

ゲーム天狗より


と書いてあった。


ふふ、天狗さん

頂いたゲームのハード……

1つも持ってないよ。






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