驚愕!一騎 夜の姫君エリザベートに出会う
天狗さんのアパートを訪ねた数日後の夕方
《シャドウオブウォーリア》の大会に向けての練習の為に、ゲームセンター『狼達の午後』に自転車で向かっていた。
相変わらず暑い日が続き、夏の西日を背中に
浴びながら風を切り駆け走る。
大会まで3日しかないので特訓しなければと
今日もゲームセンター『狼達の午後』に足を
運ぶのだ。
到着して、駐輪場に自転車を入れてから店に
早足で向かうと
「坊や、そこの坊や」
ん?どこからか女の子の声が聞こえてくる。
辺りをキョロキョロ見回してみるけど
それらしい人は見えない。
なんだ気のせいかと、店内に向かおうとしたら
「お待ちなさい、そこの坊や」
やっぱり僕の事かな?と足を止めてみると
「そうよ、そこの貴方よ。」
どうやら僕に呼び掛けているようだけど、
どこから声がするのかな?
辺りを探してみても見当たらないぞ
「ここよ、坊や」
どうやら上の方から声が聞こえてくるので、
声のする方を見上げると駐輪場の屋根の上に
人影が立っている。
西日を背にして姿は、ハッキリと分からなく
ゆらゆらと陽炎をまとい、その姿は黒い太陽のようだ。
「やっと見つけたわね。」
「せーの」と言って人影は駐輪場の屋根から
飛び降りようとしたらしいけど、思ったより
高くて無理だと判断したのだろう。
「よいしょ。」
屋根の縁に手をかけて柱を抱いて移ると、
スルスル降りるんだろうなと、待っても木に
張り付く蝉のように降りてこない。
しかも高い所でお尻を向けているので、スカートの中のパンツが丸見えだよ。
……しかも黒
目のやり場に困って背を向けていると
「うう、もう駄目
坊や、私(わたくし)を受け止めて下さるかしら」
「キャッ」と手を離し落ちてきたので慌てて受け止めようとしたけど、非力な僕では受け止めきれずに彼女の下敷きになってしまった。
「イテテテテ」
人影は「よいしょ」とその場に立って、僕を見下ろしている。
もう、パンツが見えてるし
ああ、もう何でそんなとこに立つかなぁ
僕の方が恥ずかしくなっちゃうよ。
慌てて起き上がると
「ウフフ、エッチねぇ。」
なんて言うもんだからイラッとなる。
先日、紅美ちゃんに散々エッチって言われたことが尾を引いているので、尚更だよ。
人影の正体は黒いゴスロリ服を着た少女で、
銀色の髪の彼女は僕を指差して
「貴方、天狗のところの坊やね。」
なんだろう、この子は…天狗さんの知り合いかな?
背丈からして小学校高学年か中学生くらいだろうけど…
しかし、人のこと坊やって失礼な子だな。
これは言ってやらないと
ただ、ここは怒るのではなく優しく諭して
分かってもらおう。
「お嬢さん、年上の男性に坊やってのは
無いんじゃないかな」
穏やかで爽やかな笑顔で余裕を見せる。
「分かったかな、お嬢さん」
うんうん、これが紳士たる大人の男ってものだ。
彼女は僕の話を聞いてるのか、ただ僕の目を
ジッと見ていて、気のせいか少女の頬が紅くなってるように見える。
しかし、こう見続けられると照れてしまうな。
それに、この娘よく見ると可愛いなぁ。
銀色の髪をお下げで結び
顔は幼さを残しつつも目鼻立ちがハッキリして人形のようだ。
イヤイヤ、見とれている場合じゃない。
「あの、聞いてる?」
少女はハッと我に戻ると、取り出した扇子を
広げて口元を隠すと
「フフ、私を子供扱いとは心外ね。」
なんて言うもんだから、見た目と違って僕より年上なのかな?
女性に年齢を聞くのは失礼かと思いながらも、
確認してみることに
「あの、失礼ですが…
おいくつですか?」
「フフ、女性に年齢を聞くなんて困った坊やね
16才よ。」
なんだ、僕より年下じゃないか!
彼女の下敷きになって痛い思いしたり、さも僕がパンツを覗き見したみたいにエッチ呼ばわりされてイラついていたので
「僕の方が年上だよ!
なんだよ、その坊やってのは!」
強く声を上げていった。
チクショウ、僕はエッチでも無いし、坊やでも無いんだ。
ふざけやがって!
少女は呆気に取られた顔で無言だったが、
少しの沈黙の後
「…そんな言い方しなくてもいいじゃない。」
そう言って、僕を見つめている少女の瞳には
みるみる涙が貯まっていく
泣かないよう堪えながら身を震わせているけど、貯まる涙はどうしても流れ最初の涙が頬を伝わった時には感情が溢れだし、ビエーンと泣き出した。
えっ、え、え?!
「ゴメンゴメンね。」
ああ、どうしよう参ったな。
戸惑って謝る僕
しかし、ビエーンと泣くのって漫画以外で
初めて見たよ。
困ったな、こんな事で泣くかな?
どうしたら泣き止んでくれるんだろうな
放って置いて店内に入ろうかな?
それも後味悪いし、どうしよう。
色々考えたけど女の子を泣かしたの初めてで、こんな時、どうしていいのか分からない。
こうなったら一か八かで
「僕、君とお話したいな。
お店で一緒に飲み物でも飲まない?」
機嫌を取るように優しく誘ってみると
「うん」と言って、あっさり泣き止んだ。
僕は少女を連れて店内に入ると、彼女は僕の
Tシャツの裾を摘まんで付いて来る。
ジュースの自動販売機の前まで来て
「何飲むの?」と聞くと
「ミルクティ」と答えるので硬貨を入れて
ミルクティを買うと僕も同じのでいいやと、もう1本買う。
「ありがと」
少女はお礼を言うと、摘まんだ指をTシャツ
から離してミルクティを受け取りベンチに座り、僕も並んで座る。
彼女は両手でペットボトルを掴むと一口飲む。
身体が小さいので500mlのペットボトルが
大きく見えてしまう。
顔をうつむかせ小さくなっている。
しかし、さっきの高圧的な態度と
打って変わって大人しい。
ミルクティを飲みながら何を話せばいいのかなと、考えていると少女の方から話かけてきた。
「あのね、私も大会に出るの」
大会?ああ、《シャドウオブウォーリア》のことかな。
この娘がね…意外
「でね、天狗の動画観てたらね。
えーと…」
何か言葉に詰まっている。
さっき強く怒ったから気にして言葉を選んでるんだな。
「一騎、一騎でいいよ。
一、二、三の一に騎士の騎でかずき」
「うん、それでね一騎を見てね。
…お話したいと思ったの」
そうか、あれを観たのか
さぞかし馬鹿みたいに見えたんだろうなぁ。
と思って一口飲む飲む。
「ここに来れば会えると思ってね。
でね、私一騎とお話できると思って、
…待ってたんだ。」
少女はモジモジしながら左右の足を前後に
振っている。
「そしてね、一緒にゲームしたりしてね…。」
うつ向いた顔を上げると、頬を紅くして僕の目を見つめて
「…遊びたいと思ったの」
ん、何故だろう?鼓動が激しくドキドキする。
彼女の潤んだ瞳から視線を離せなくて、吸い込まれそうになりながら彼女を見つめていると
「間宮くん?」
僕を呼ぶ声がして影が覆う。
前を向くと、なんと目の前に紅美ちゃんが
立っているではないか!
「あっ紅美ちゃん!」
「あっ紅美ちゃん!」
僕と少女はシンクロして紅美ちゃんの名前を呼んでいた。
「絵里ちゃん!
なんで間宮くんと一緒なの?」
「えっとね、…そのね。」
少女は動揺して言葉に詰まっている。
2人は知り合いなのか!
やましい事はしてないけども、紅美ちゃんには見られてはいけない気がした。
「店の前で声をかけられて僕からは別に誘った訳でも無くて…」
あたふたしながら早口で言い訳のような事を
言ってしまい、そんな自分が男らしく無いと、情けなくなる。
紅美ちゃんは、僕を見てニコッと笑うと
「こっちこっち」と誰かに呼び掛けて手招きをしている。
「天狗ちゃん大変だよ!
間宮くんね、絵里ちゃんとデートしてるよ!」
と大声で呼ぶ。
げっ!よりによって天狗さんもいるの!?
「紅美ちゃん違うんだ!聞いて」
「しかも見つめ合ってキスしようとしてたよ」
「してないよ!話を聞いて!」
紅美ちゃんに誤解を解く間も無く、天狗さんが早足で近づいて来る。
お面で表情は見えないが怒っているのは、
オーラというか雰囲気で伝わった。
「一騎、貴様!
大会も近いというのに何やっとるか!!」
店内に響く大声を上げている。
一瞬すくんだけれども、弁明しなければならない。
「違うんだ!
ただ話少しを聞いていただけで…」
何でこんな目に会ってるんだろう僕は…
あたふた戸惑ってると、少女は天狗さんの前に
出て来て
「ウフフフ天狗、ご機嫌いかがかしら?」
少女は先程の態度に戻っていて、スカートを
摘まみ貴族のような一礼をした。
「エリザベート、一体どういう事だ!」
「天狗ちゃん、エリザベートじゃなくて
絵里ちゃんだよ。」
紅美ちゃんが訂正しても聞いてる様子はない。
しかしエリザベートって…。
「なぜ、お前が一騎といるのだ。」
絵里は扇子で口元を隠し、妖しく微笑むと
「フフ、私も今回のシャドウオブウォーリアの大会に出場を決めましたの」
「ほう、それと一騎といちゃつくのと何の関係があるのだ?」
天狗さん、僕いちゃついてません。
少しでいいんで、言い訳を聞いて下さい。
と言おうとしたけど2人の間に入る余地が
無い。
「スカウトよ!
間宮一騎をスカウトに来たのよ。」
「何だと!
それで一騎を誘惑したのか。」
「フフ、そうよ。」
絵里さん、誘惑なんてしてないでしょ。
嘘言わないで本当の事を言って下さい。
とも言おうとしたが、2人の話に割って入れない。
「一騎はね、私の下着を熱い眼差しで
ずっと見てるんですもの
身の焦げるような想いでした♥️」
やめて!アナタが勝手に見せていただけで、
僕は顔そらしてたよ。
それを聞いた天狗さんは、ギロッと僕に顔を
向けて
「貴様!
こんな時になんと不埒な」
ああもう、訳分かんなく怒ってるし
もう、こうなったら僕は紅美ちゃんが助け船を
出してくれる事に期待して、視線を送ってみると目が合ってコクッと頷いてくれた。
どうやら僕の意図を汲み取ってくれたようで、良かったと安心したら
「天狗ちゃん、この際だから鼻の下伸ばしている間宮くんじゃなくて、別の人を入れた方がいいよ。」
紅美ちゃんは酷い事をサラッと言っている。
僕の意図を汲む気はサラサラ無いどころか、
追い出そうとさえしている。
「いいや駄目だ!
一騎は、我がゲーム天狗放送室の大事な戦力で
代わりなどおらん。」
天狗さんが必要としてくれるだけ、まだまし
なのかな?
「フフフ、でも一騎の気持ちはどうかしらね」
絵里は祈るように両手を胸の前に組むと、
うっとりとした表情で
「私達、話してみて分かったの
一騎は『夜の姫君』たる私に仕えるのに相応しいわ」
大した話もしてないのに解り合った様に言われても困るんだよね。
しかも何だよ『夜の姫君』って
絵里は僕の鼻の頭に人差し指を当てると
「一騎、あなたは今日からはナイトよ。
私のナ・イ・ト、よろしくって」
いや、駄目だよ。
よろしくないよ、何だよそれはと言おうとしたけど、先程みたいに強く言って泣かれても困るしと、色々考えていたら
「それでは御機嫌よう
大会でお会いしましょう。」
スカートを摘まみ、貴族の一礼をして絵里は「フフフ」と微笑み去って行った。
言いたい事、言うだけ言って
こっちは言いたい事も言えずに
そんな彼女の去り際を見て天狗さんは
ふう、と溜め息をつくと
「おかしな者に気に入られたものだな」
と僕の肩に手を乗せて、染々言うけど
おかしいのはアンタも負けてないからね!
と心の中で呟いた。
エリザベートこと絵里が帰った後で、天狗さんに絵里との関係や『ゲーム天狗放送室!』を
辞めて彼女の所に行くのかとか、色々聞かれて
こっぴどく絞られた。
それもゲームセンターの皆の見ている前で
後で紅美ちゃんから聞いた話だと絵里とは
子供の頃からの知り合いの同い年
彼女が高校生になってからゲームセンターで
見かけるようになり、その時には銀髪のウィッグにゴスロリ服を着てゲームサークルを立ち上げてたそうだ。
そんな時に天狗さんと知り合いになって、
彼をライバル視するようになったとかで…
まあ、色んな人がいるよなぁと
つくづく思うよ。
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