夏休みだよ!店舗大会 一回戦 《前編》

僕がいる。

僕、間宮一騎はゲームセンター『狼達の午後』にいる。


僕がいる。

『ゲーム天狗放送室!』の一人として ここにいる。


 今日という日がなければ今年の夏休みは、

アルバイトとゲームだけの日々を無為に過ごしていただろう。


 まあ、やるのは結局ゲームなんだけどさ。

それでも僕にとって生まれて初めて参加する

イベントで、本日は夏休み企画


《シャドウオブウォーリア》店舗大会の開催日


 今のところ参加者は7チーム21人が集まり、

開催まで約1時間あるけど、結構な人が集まって皆それぞれに会話を楽しんでいる。


「みんな早く来るもんだなぁ」


 13時45分までエントリーを受け付けているので、参加者はまだ増えるかもしれない。


 天狗さんは店の人と話をして、紅美ちゃんは横でニコニコしている。


 それに引き換え、僕は緊張して他の参加者と

話すどころか、ただキョロキョロするばかり

気持ちはウキウキしてても


 あまりキョロキョロして、変な奴に見られても嫌なので、ジュースの自動販売機のベンチに

でも座って大人しくしてよう。


「はぁ、退屈だな」


 溜め息混じりの独り言を漏らしてベンチに

腰を下ろす。


 試合が始まるまで…何しよう?

暇だし、適当にゲームでもやって時間を

潰そうかな?

まあ、取りあえずお茶でも飲みながら考えるとするか


 そう思って立ち上がると

ん?何だ、誰かに見られてるような感じがする。


 気になるので辺りを見回すと、僕と同じ年頃の3人組がこちらを見ていて、自分と目が合った。


 あの人達、大会の参加者だよね。

何で見てるのかな?


 人見知りの僕は、ジロジロ見られたり周囲から注目を浴びるのが嫌いで、そんな時は知らない気付かないを装って顔を背けるんだ。


 そうしていると、その中の1人が近づいてきて声を掛けてきた。


「間宮一騎さんですよね?」


「…そうですけど」


 何で僕の名前を知っているんだろう?

不思議に思うと


「僕は三笠と言います。

あなたの事は天狗さんの動画を観て知りました」


 自己紹介を始める三笠君

なるほど、君もアレを観たのね。

あの天狗さんが勝手に僕のフルネームを生配信で発表しちゃったやつ。


 絵里といい、この三笠君といい結構観てる

人がいるんだな。

ま、僕も人の事言えないけどね。


「面白かったですよ」


 え、何が?いきなり面白かったですよ。って言われても何が?


「間宮さんのツッコミが!」


 えっ、予想もしない事を言われて驚く僕に

三笠君は『ゲーム天狗放送室!』の動画についての解説を始めた。


 彼が言うには、天狗さんと紅美ちゃんは基本2人ともボケなのでボケにボケが被って、分かりにくい。


 それに天狗さんのゲームをしながら似てない物真似を紅美ちゃんがただ、笑っているだけの動画で何をしたいのか伝わらない。


 まだ、突っ込みがいれば違うのに、と思っていたら、キレのある突っ込みの僕が出て面白くなった。と説明してくれた。


 彼の洞察力に感心してしまうし、思わぬ事で

誉められて悪い気はしないけど……

アレって、ただのハプニングだよね。


「それで僕達も、動画配信を始めようと考えているんですよ」


「へぇ、いいなぁ。

どんな内容にするの?」


「取りあえずは複数で出来る

ハンティングアクションで考えてますね。」


「楽しそうだね」


 三笠君が興味のある話を振ってくれて、

ちょうど退屈しのぎになった。


 最初は嫌だったけど、話している内に会話が弾み、動画配信を始めたら一緒にやりましょう。と誘ってくれて、意気投合して楽しく会話をしていると、3人組の1人が何か気付いたようで三笠君に


「おい、『夜の貴族』だ」


 耳打ちすると彼らの雰囲気が打って変わり、気になったので後ろを振り向くと、絵里が2人の男に挟まれて、僕の後ろに立っていた。


 今日も黒を基調としたゴスロリ服を着て、髪型は前に会った時と違って、銀色の髪を

ローツインテールで結んでいる。


「フフ、御機嫌いかがかしら?

ナイト」


「やあ、絵里」


「エリザベート

そう呼んで下さるかしら」


 彼女の相変わらずの澄ました振る舞いに、

しょうがないなと思いながらも


「今日の服も可愛いね、

似合ってるよ」


彼女の衣装を褒めると一変して


「やだぁ、もう」


 両手で頬を押さえて喜んでいる。

気取ってるんだか無邪気なんだか、分からない娘だな。


絵里の隣にいる1人の男性が笑顔で


「良かったね、絵里ちゃん」


 彼女に優しく語り掛ける。

絵里は、僕と話していた後ろの三笠君達に

気付いたようで小声で


「ミカエル?」


 呟くと、気まずそうに彼らから視線を反らして、知らない振りを装ってるように見えた。


「丁度いいわ、貴方に紹介するわね。

風神と雷神よ」


 絵里の左右にいる男達を紹介する。

右の男が軽く会釈をして


「風祭です」と笑顔で挨拶をしてくれる。

彼の口調は物腰柔らかく礼儀正しいの青年で

年も僕と近いのかな?


 顔も芸能人にいても不思議でないくらいの

いい男で、正直彼みたいな顔に生まれたかったと思ってしまうくらいだよ。


 もう1人の左の男は金髪を逆立て、パンクか

ビジュアルロックのような風貌で、テカテカに黒光りしたレザーのジャケットとパンツを着ている。


 高校生位なのかな?

顔は童顔なのに目付きが悪くカッコつけてる

感じが嫌みで好感が持てない。


その金髪の男が僕の前に来て


「貴様は、姫の頬を涙で濡らした

その罪は万死に値する」


 なんて言ってくるもんだから「はい?」と

返してしまう。


なんだコイツは?初対面で何を言ってるんだ。


……ああ、そうか

この間の絵里を怒鳴って泣かせた時の事を

言ってるんだな。


 僕は絵里の目をジーッと、見ると彼女は目を

反らすと慌てて


「そんなこと言っちゃ駄目なの」


と金髪の男をたしなめると風祭君も

申し訳無さそうに


「ごめんね、彼こんなんで

雷堂、挨拶くらいしろよ」


 雷堂と呼ばれた男はチッと舌打ちすると、

仕方がないと言った感じで


「俺は雷神だ。

今日は貴様の力を試させてもらう」


 人差し指を顔の中心に親指を広げ右手でLを

作ると顔を隠してポーズを決める。


 雷神? 確か風祭君は彼の事を雷堂って

呼んでたよな?


風祭君は疑問に思った僕を察してくれて


「絵里ちゃんがね

僕らを風神と雷神て呼ぶんだよ」


 なるほど名字の風祭と雷堂で風神雷神か、

駄洒落みたいだな。

絵里はエリザベートなのに2人は和名って、

何か変なの


それに、こっちはこっちで


「ああ、俺は姫に勝利を約束するために召喚された雷神だ」


 なんて言って何かになりきっているし、

少なくとも、僕が歴史の教科書で知った尾形光琳の風神雷神じゃないって事だけは確かだね。


 風祭君は苦笑いを浮かべている。

僕が何を考えてるのか、おおよそ見当ついたのだろう。


「私達、エントリーはこれからなの

それでは後程、お会いしましょう」


 絵里御一行は、エントリーを済ませに受付

カウンターに向かう。


 ただ、立ち去り際に雷神?が三笠君達を睨み付けてるように見えた。


絵里達が去ると三笠君が僕に


「『夜の貴族』と知り合いなんですか?」


思い詰めたような表情で聞いてくるので


「いや、あの絵里って子だけだよ。

そもそも、この前初めて会ったんだけど、動画を観たとかでスカウトされそうになってね」


 正直に答えると、三笠君の様子が何か変だ。

他の2人も僕に聞こえないようにコソコソ話をしているし


「スカウトって…

『夜の貴族』に行くんですか?」


「いやいや、そんなつもりはないよ」


 そう答えると、三笠君は「良かったぁ」と

言って安心している。


 どうして僕が『夜の貴族』に行かないほうが

いいのか気になるので、理由を聞こうとしたら


「一騎、そろそろ始まるので戻って来い」


 天狗さんに呼ばれたので「また後で」と戻ることにした。

どうも絵里達と三笠君達の態度が引っ掛かるな。


 天狗さんに、どうしたのだと聞かれたけど、

彼らと絵里達の事情がハッキリと分からない

以上話ようもないので


「いえ、何でもないです」


と、はぐらかした。



「はい、『狼達の午後』夏休み企画

『シャドウオブウォーリア』店舗大会を開催したいと思います」


 店員の司会者が、拡声器を使って参加者に

呼び掛けると筐体の周りにゾロゾロ集まる。


「全8チーム24名が集まってくれました。

今回の大会はカード使用無しでお願いします」


 カードについては、カスタムキャラ使用不可

なのと勝敗の成績だけなので特に問題無い。


「それでは始めたいと思います」


 チームの代表が呼ばれると、箱の中にある

ピンポン玉を取って出た数字の順番に戦っていくトーナメント方式で試合が行われる。


天狗さんは7番のピンポン玉を引くと


「あっ、ラッキー7だね」


紅美ちゃんが言うと、なんだか幸先がいい気がするよ。


 絵里も引き終わったようで2番の玉を僕らに

見せてくる。


「『夜の貴族』とは決勝まで当たらんか」


天狗さんは静かに呟いた。

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