喫茶店を作って生計を立てよう《前編》
秋の日の夕方 茜色に染まる空
古びたアパートの一室の畳の部屋
「いや、困ったな。」
「いや、こまったな。」
大学の帰りに天狗さんのアパートに訪れると、
天狗さんと紅美ちゃんがちゃぶ台を挟み、向かい合ってあぐらをかいている。
夕陽を浴びてる2人を見てたら、昔の特撮ので主人公と宇宙人が話をしている場面を思い出して可笑しくなった。
「どうしたんですか?」
「おお一騎
この度、商店街で店を開こうと考えているのだが、何をやればいいのか皆目検討が
つかなくてな。」
「つかなくてな。」
紅美ちゃんが天狗さんの真似をする。
商店街で店を開くの?
僕はある疑問が浮かんだ。
浮かんだというより、以前から気になっていた
事なんだけど…
この際だから聞いてみることにした。
「そう言えば天狗さんって、何の仕事しているんですか?」
「うむ、この一年は働いておらず貯めた貯金を
切り崩して生活していた。」
やっぱりな。
どうりで、いつ訪ねてもいる訳だ。
「そろそろ働かなければと思い店でも
開いて生計を立てようと考えていた訳だ。」
「わけだ。」
なるほどね。
「へぇー、店を開くって飲食店ですか?」
「うむ、それを考えていてな。
我と紅美で働くなら飲食店が無難な気がするのだが…」
「いいアイデアが思い付かないと」
「まあ、そう言うことだ。」
「ことだ。」
紅美ちゃんも一緒に働くんだ。
…ん、紅美ちゃんも
僕にアイデアが閃いた。
みんなを幸せにすると言っても過言ではない
アイデアよ。
「喫茶店、喫茶店はどうです!」
「喫茶店か?」
口調からして、どうやら喫茶店には乗り気ではないようだけど…
僕としては紅美ちゃんのメイド姿が是非とも
見たい。
なので、喫茶店でも紅美ちゃんのメイド喫茶
これしかない!
だから強く勧めなければならないのだ!
「やりましょうよ喫茶店」
「今どき喫茶店なんて食っていけんだろ」
「いえ、そうでもないですよ。
スターマックスとかウメダ珈琲とか流行ってますよ。」
「それはチェーン店の大きい会社がやっているからで、商店街の個人でやる店とは違うだろ。」
「いえいえ、そういう店が流行っているから
こそ個人経営の店の独自の色が引き立つんですよ。」
「個人経営の色って、一体どう出すんだ?」
「紅美ちゃんですよ。
紅美ちゃんで喫茶店、これで決まり!」
「それは個人経営の色でなくて紅美だろう?」
「それですよ。
可愛い女の子がメイド服でいる喫茶店!
それだけで人が集まりますよ。」
「紅美には客寄せパンダではなく、きちんと
労働してもらうのも目的なのだ。」
「看板娘の接客も立派なお仕事ですって」
うーん、と考え込んでいる。
これだけ説明したのだから納得してもらわなければ納得いかない。
そして僕のささやかな希望を無下にしないで
欲しい。
なのに天狗さんは
「やっぱり蕎麦屋か」
なんて言ったもんだから、僕は頭にきて
ブチッとなり
「蕎麦屋なんていつでも出来るでしょうがーーー!!」
溢れんばかりの感情が爆発して、大声を張り上げていた。
何の為に説明したと思ってるんだよ。
「ハァハァ、何が蕎麦屋だ。
ふざけやがって」
「間宮くん、うるさいよ。」
紅美ちゃんに注意されて素の自分に戻ると
ああ~~~。
恥ずかしさが込み上げてしまう。
「お話、聞かせてもらいました。
喫茶店素敵だと思います。」
いつから聞いていたのか、タイミングよく雪乃さんが部屋に入って話に加わると
「ちょうど私も就職活動中でして
その話、加わらせて頂けないでしょうか。」
お、どうやら喫茶店に賛成のようだ。
「雪乃ちゃん、お仕事探してたんだ。」
「我は、珈琲は全然分からんぞ」
「私も珈琲の事は分かりませんが、紅茶なら
多少知識はあります。」
おお、僕に援軍が来てくれた。
いいぞ、なんて頼もしい。
「それに珈琲は、業者にお任せすれば大丈夫ですよ。」
それでも天狗さんは、ウーンと腑に落ちないようで仕方無く、紅美ちゃんに「どうだ?」と
意見を聞いてみると
「面白そうだよね。」
何も考えてない感じで、のほほんと答えると
「ホホホ、決まりですね。
紅美ちゃん、ちょっといらっしゃい」
えーっ?
「では少々お待ち下さい。」
雪乃さんは、紅美ちゃんに考える暇を与えずに
拐うように部屋から連れ出した。
喫茶店に乗り気でない天狗さんに僕は、
紅美ちゃんを中心とした店を作るよう説得を
試みるのだ。
「お主が勧めるのはメイド喫茶だろう。
オムライスにケチャップで字を書く、今ほとんどないだろうに」
「オムライスにケチャップは置いといて、
そこが狙い目なんです。
他に無いからやっていけるんです。」
「狙い目かぁ?」
「それに紅美ちゃんがメイド服を着るだけで、
メイド喫茶とは違うんですよ。」
「違わんだろ。」
「いえ、あくまで紅美ちゃんのお店だから
主役は紅美ちゃん、メイドではないんですよ。」
「なら、普通の服でいいだろ。」
「紅美ちゃんがメイド服を着ることで、より
一層魅力が増すんですよ。」
「それはお主の願望で、何の説明にもなってないだろ」
「僕の願望はお客さんの願望なんです。
僕が一番のお客さんになるんですから、
これで決まり!」
これだけ説明したので、分かってもらえただろうと思ったら、天狗さんは、ウーンと納得が
いってないようで
「どう聞いてもお主の欲望しか伝わらなくてな。」
何を言っても駄目かこの分からず屋め!
僕がこれ程までに言ってるのに
この天狗め!
「それでも僕は、
紅美ちゃんのメイド姿がみたいんだーーー!」
また情熱の導火線に火が付くと、感情の爆発が
起きてしまった。
「間宮くん、キモいよ。」
タイミング悪く戻ってきた紅美ちゃんに僕の
轟く叫びをまた聞かれてしまうとは…
ああああぁ!
恥ずかしい。
どう言い逃れをしようと考えていたら、
紅美ちゃんは短めのスカートのメイド服
雪乃さんはロングスカートのメイド服を着ていて、僕が見たかった紅美ちゃんが目の前に立っているではないか!
「おおおお!」
「どうかしら、お2人さん?」
雪乃さんは、着ているメイド服のスカートを
掴んで身体を左右に振って感想を求めてくる「あ、ああぁ」
なんて神々しい。
2人とも素晴らしすぎて声にならない。
雪乃さんは僕の願望を叶えてくれてるのに、
天狗さんは何も言わないんだ。
何も言わない天狗さんに、紅美ちゃんの方から
恥ずかしそうに
「天狗ちゃん、どう?」
って、感想を聞かれると小声で
「まぁ、似合うではないか。」
とポツリと言った。
どうやら照れているようで演技とはいえ、
ふんどし一丁で水着の紅美ちゃんに襲いかか
ろうとした人の反応じゃないよ。
笑っちゃうね。
最後まで喫茶店に乗り気ではなかった天狗さんだったけど、僕や雪乃さんの説得に押し切られ渋々了承した。
「お主は何でそんな服持ってるのだ?」
「女はね、一度や二度はメイドかバニーに
なって奉仕してみたい願望があるものよ。」
雪乃さんはどこか遠くを見ながら意味深げに
呟いた。
それは、あくまでも個人的な意見だろうけど……
バニーも持ってるのかな?
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