春休み対抗戦 その3

 天狗さんを迎えにトイレ入ると、ブースの中から苦悶の声が聞こえるので、一応様子を伺って声をかけてみる。


「天狗さーん、大丈夫ですか?」 


「か、一騎か?……駄目かもしれん」 

 

 あーあ、弱ってるね。 こんな調子なら、対戦なんて出来やしないな。


「駄目ですか、そうですか。

じゃあ、棄権しますね」 


 そう言ってトイレから立ち去ろうとしたら、─ギィー と木製の扉が音を立てて少し開き、

その隙間からスッと手が出てきた。


 そして、おいでおいでと僕を手招きで呼んでいるけど……なんかホラー映画のワンシーンみたいだな。


「何ですか?」


「お、お主これを渡しておく」


 扉の隙間から、ヒョッコリと天狗のお面が出てきた。


「…………これでどうしろって言うんですか?」


「すまない……。 これを着けてお主が

彼奴(あやつ)と試合をしてくれ」


「ええ?! そんなの無理ですって」


「大丈夫だ。 お主なら、勝てだろう」


「そんな問題じゃないですって、棄権しましょうよ」


「いや、それは出来ん」


「それは出来んって……僕が変わりに出ても、駄目なんじゃないですか?」


「いや、そのお面を被っていれば、お主も立派にゲーム天狗だ。

 それにサークルの代表1人の参加だから、

ルールは破ってはおらん」


 そんな理屈って通るのかねぇ?


「………もう、分かりましたよ。 

その代わり、負けても責任取りませんからね」 


 こうなったら仕方がないな。

みんなも待たせてるし、とりあえず天狗面を受け取って戻る事にした。


「頼んだぞ! 2代目ゲーム天狗」 


 そう言い残して天狗さんは扉を閉めると、

再び苦悶の声を上げる。


「たっく、何が2代目ゲーム天狗だよ」


 それでもまあ、僕もKAZUYAとは対戦したかったので、こうなったら楽しもう。


「それじゃあ、お面を着けてっと」


「クサッ!」 お面を着けた瞬間、独特の臭いが僕の鼻に突き刺さった。



────────────



「フッフッフッ! 待たせたな諸君」 


 僕がゲーム天狗として登場すると、雨竜君もリョウさんも僕を指差して驚いている。

どうやら、天狗さんが腹痛から復活したと思っているんだな。


 この様子だと、誰も僕が天狗さんのお面を

被ってるなんて思ってないようだ。


「フフフ、我ながら大した演技力だ」


 自分の演技に満足していると、真彩さんは

何故か僕を見て不思議そうに「んー?」 と

頭を傾けている。


 KAZUYAも僕に近付くと、ジロジロと見回し「お前、ゲーム天狗なのか?」 と尋ねてきた。


 まずい! もしかして疑われている?

……でも大丈夫だ。 負けた方がお面を取るって話だから、試合が終わるまではバレることはないから、何とかシラを切ろう。


「ゲーム天狗だよ……だ!」 


「そうか、まあいい。

俺とお前で命のやり取りを始めようじゃないか」


 焦った。 一瞬疑われたと思ったけど、僕の巧みな演技力で何とか乗り切ったぞ。


「フッフッフッ、僕に勝てるかな……だ」


 こうして、僕こと2代目ゲーム天狗とKAZUYAの試合が始まる。




 僕は闇の少女ミレイユを選択、KAZUYAは

雨竜君の予想通り蒼の処刑人を選ばず、逃亡者アドルを選択。


「へぇ、アドルを選択するんだ」


 逃亡者アドルは、オールラウンダーなキャラなので、彼のような一癖のある人が使用するのは意外に思えた。


1ラウンド開始


 まずは前後に動いて相手の様子を伺うと、KAZUYAも僕と同じような動きをしている。


「なかなかやるな、面白い」


 お互い攻撃の届くか届かない所で牽制しつつ、自分に有利な距離を計り合う。


 先にダメージを与えたのは僕、その攻撃から

連続攻撃を繋げてダメージを与えながら距離を積める。


《アルターオブデス》 で投げようとした瞬間対空無敵技の 《エレメンタルブレイド》

で反撃を受けた。


「さすがだ。 そう簡単には勝たせてくれないか」


 それでも僕の方がHPゲージが多いので優位なのは変わらない。


 積極的に攻めに行くと、KAZUYAも応戦して

お互い激しくぶつかり合う。

そして、一進一退の攻防の末に僕が1本目を

先取した。


「攻める力は僕の方が上のようだな。

次もこのまま行かせてもらうよ」


2ラウンド開始


 先程と同じように、前後に動いて牽制の攻撃を出しながら様子を伺っていると

「IZUMI、メタモルフォーゼだ!」 KAZUYAがIZUMIさんに大声で指示を出す。


 すると彼女はKAZUYAの肩に手をかけて、思いっきり上着を引っ張って剥ぎ取ると、中には緑衣の服を着ていた。


「間宮君! じゃなかった。

天狗さん、KAZUYAが着替えたよ。」


 そんな馬鹿な?! 別の衣装に着替えるって、ゲームの最中に、そんなこと出来るわけないでしょ?

 でも確かにKAZUYAのゲームスタイルは変化している。


「どうなってんの?」 


「だから、荒谷の衣装をIZUMIが剥ぎ取ったら、中に別の衣装を着ていたんだよ!」

 

「何だ、それ?」 


 足を使って器用にスボンを脱いだ脱皮後のKAZUYAは、僕の攻撃をギリギリでかわして

反撃に移る。


 その上 《アルターオブデス》 の吸い込める距離には近づいて来ない。


「これはやりにくいぞ」


 ただでさえ、ミレイユはリーチの短いキャラなので不利な状況だ。

どう打開しようかと、色々手段を考えている内にタイムオーバーで2本目を取られてしまった。


「これは参ったな」


最終ラウンド


 ギリギリで攻撃を避けてから反撃か?

この動きは風祭君に近いけど……彼ほどの腕はなさそうだ。


 そして、風祭君の天敵は天狗さんなので

それなら天狗さんのような戦い方に変えてみよう。


 チクチクと攻めたり、不意に距離を取って動かずに様子を伺うと、彼はそんなに我慢強くない性格のようで、戦い方から苛立っているのが分かる。


 ミレイユは接近戦向きのキャラなので苦労はしたけど、焦らず的確に単発でダメージを与えては逃げての繰り返しで優位に立てた。


「IZUMI メタモルフォーゼだ!」


 IZUMIさんは指示を受けて、再び衣装を剥ぎ取る。


「間宮くん! 今度は青い衣装になったよ」


「それは動画で観た本来のKAZUYAのスタイルだ!」


 この動きに対応するために散々練習したので、適応するのに苦労はしなかった。


「これも通用しないか?

IZUMI! メタモルフォーゼだ」


「KAZUYA、今のが最後だよ」


「えっ? マジかよ」


 KAZUYAは動揺して動きが止まったので、

悪いけどこのまま《アルターオブデス》 で

止めを刺して終わりにした。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る