第7話 羊が二匹?

ルーシーちゃんは立ち上がって羊を睨みつけた…


「ダ、ダメだって…ルーシーちゃん!君だけでも逃げるんだ!」


少しかすれたような俺の声は静かな夜の草原に響き渡った…



「メラメラ…!」呪文を呟いた彼女のてのひらに炎が宿る…



ルーシーちゃんが炎にフッと息を吹きかけると

炎は激しく強く燃え上がって羊目がけて襲いかかった…


「メェ、メェェェェ!」



…炎に包まれる羊…燃え盛る炎の中で羊は燃え尽きて倒れてしまった



す、すごい!ルーシーちゃんの姿からまるで恋愛ゲームのキャラのように守ってあげなきゃと思っていたけど…彼女は魔族でSSレアキャラだった…


そりゃ、強い筈だよ…。



俺の方を見てニコッと笑うルーシーちゃん…



その時、彼女の背後に大きな影が現れた…



「ルーシーちゃん!後ろ!」


「えっ!」




彼女が後ろを振り返るとコゲ臭い匂いの羊が立ち上がってフラフラになりながら俺達の方へ歩み寄ってくる…


…お、俺が何とかしなきゃ…


頑張って起き上がろうとするが…


む、無理だ…身体に力が入らない!


俺はヤケクソになって大声で叫んだ…



「だ、誰か…誰でもいいから彼女を助けてくれえっっっ!」




俺の叫びは静かな夜の草原に虚しく響き渡るだけだった…


「くっ……!メラメラ!」


ルーシーちゃんはもう一度掌にちいさな炎を宿した……が、


「ブォォォォォォォォ…」



コゲコゲになった羊は口から激しく強い息を吐いて

彼女の魔法の種火を吹き消してしまった…



そして羊は前足を高く振り上げた…


「メエエエエェェェェェェェ…!」


「キ、キャアァァァァァァァッ」



…う、動けって…俺の身体…ちくしょう!




その時…


「ドス!ドス!ドス!ドス…」


な、なんだ…何かがこっちに向かってくる…




「メェェ!」


…もういっぴき…おおきなひつじがあらわれた…



…マ、マジか…?一匹でも大変なのに…


お、終わった…ゲームオーバーだ…




俺がガックリと項垂うなだれた…次の瞬間…


「メエッ!」 「グエッ…!!!」


猛スピードで走ってきた羊は…コゲコゲの羊にそのままのスピードで体当たりした…


体当たりされた羊はすごい勢いで十数メートル程

吹っ飛んでガックリと倒れて…もう起き上がって来なかった…




…た、助かった…いや…助けてくれたのか…?



「メエッ!」


助けてくれた羊は俺の元に駆け寄って来てくれた…



「羊さ〜ん!ありがと…」


後ろから同じ様に駆け寄ってきたルーシーちゃんにむかってその羊は…


「メェェ?」


事もあろうかルーシーちゃんを睨みつけた…



「ア、アハハハハ…」淀んだ空気を笑って誤魔化すルーシーちゃん…



バサッ…


羊は僕の側に少量の草を差し出した…



「えっ?な、何…?」


「それ…薬草よ…光輝くん…」


「や、薬草…?」


ルーシーちゃんは指をパチンと鳴らす…


「ボワッ…!」


スリ鉢とスリコギ棒を魔法で出してくれたようだ…

「擦り潰して飲んでみて…」 「う…うん!」




俺は言われるままに薬草を擦り潰して指ですくって

口に含んだ…



「ウェッ…苦い!」



でも…身体に見る見るうちに元気がみなぎって来た

……直ぐに起き上がる事が出来た…



俺は心配そうにみている羊に向かって…


「君のおかげだよ…ありがとう…」


お礼を言うと羊は嬉しそうに俺に擦り寄ってきた…


「ああっ…やめてって…くすぐったいよ…アハハハハッ…」



…ブッスゥゥゥゥ…


…あれ?ルーシーちゃん…めっちゃ機嫌悪そう…


「ル、ルーシーちゃん…どうしたの…?」



「その羊…メスよ…」


「えっ…そ、そうなんだ…でも、何で分かるの…?」


「分かるわよ…その羊…光輝くんの事大好きみたいよ…」 「えっ?」 




俺は羊の顔を見た…羊も俺の顔を見てニコッと笑ったような…


嬉しそうに俺の顔をペロペロと舐め始めた…


「うわっ、ちょっ、助けてよ…ルーシーちゃん!」


「知らないわよ…フン!」



…ルーシーちゃんの機嫌は直らない…


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