第16話 大切なひと
日がとっぷりと暮れても白嵐の城下町は姿を見せてはくれなかった…
「何処かでキャンプを張ろうか…」
「ええ…」
風を避けるようにキャンプを張りたい俺達は少し道からは離れてしまうけど、小さな林のような場所を見つけてそこを今夜の拠点にするようにした…
「…よいしょっと…これでよし…」
テントを張った後、ルーシーちゃんに目をやると
彼女は食事の準備をしている…
「ハァ…」彼女は大きなため息を一つ…
…まだ…さっきの事…気にしてるのかな…?
ブウゥゥゥゥ…ン…
その時、林の方からカミキリムシのモンスター(♂)が俺達のキャンプを襲ってきた…
ドカッッッッッッ!ジュウウウウッ…
カミキリムシはルーシーちゃんの作っていたシチューの鍋をひっくり返しながら彼女に襲いかかってきた…
「キャアァァァァァァァッ!」
「危ないっ!」
彼女の上に被さるようにしてカミキリムシの攻撃を避けようとした俺…
「ウッ…!」
「光輝くん…!」
「お、俺なら大丈夫…それよりアイツを何とかしないと…」
羽音を大きく響かせながらカミキリムシは空中で方向転換をして僕達に襲いかかろうとしている…
ルーシーちゃんは夢中で呪文を唱えた…「メラボー…!」
巨大な火の玉がカミキリムシに向かって飛んで行く…火の玉はカミキリムシを包み込んでモンスターを倒してしまった…
同時に彼女もその場に倒れ込んでしまった…
「ルーシー!ルーシー!しっかりするんだ!ルーシー…!」
彼女が目を覚ましたのは明くる日の朝方…
テントの中の布団だった。
そして布団の上にうつ伏せに光輝が寝ていた…
「光輝くん…光輝くん…」
ルーシーが光輝を揺さぶり起こした…
「や、やあ…大丈夫…?」
光輝の手の癒しの杖がぼうっと緑色の輝きを宿している…
「光輝くん…まさか…ずっと私に回復魔法を…」
「ア、アハハ…俺は呪文が使えないから杖任せだったけどね…」
「で、でも…自分も回復しないと倒れちゃうよ…」
「俺なら大丈夫…少し休んだしね。アイテムも残り少ないから白嵐の城下町へ出発しようか…?」
「そ、そう…?じゃあ…」
そうして俺達は再び歩き出した…
…クラッ…
「あっ…」倒れそうになった彼女を俺は支えた…
「まだ体力が戻っていないんだね…」
僕は彼女の横でしゃがんだ。
「え…?」「いいから…早く…」
「光輝くん…」
「や、やっぱ…美少女は軽いなぁ…アハハハハ…」
「それ…イヤミ?」「ち、違うよ…ホントホント…」「もう…」
歩き出した光輝の背中でルーシーはニコッと笑って呟いた…
「…ありがと…」
…カランカラン…
癒しの杖が光輝の手から滑り落ちた…
「あっ…光輝くん…杖…落としたよ…
私が拾うから下ろして…」
光輝は黙ってその場にしゃがんだ…
「よ…っと…………!」
光輝の背中から降りて何気なく後ろを振り向いたルーシーは驚いて声を失った…
今まで自分達が歩いて来た道にまるで道標のように血痕が点々と残っている…
よく見ると光輝の右足から少しずつ出血しているようだった…
「光輝くん!」ルーシーが彼に駆け寄ろうとした時…
…バタッ…
光輝はその場に倒れ込んでしまった…
「わ、私を気遣って一晩中看病して…今も私を負ぶって…
自分の回復は一切気にしないで…
ど、どうして私の事なんかをそんなに…」
ルーシーの目に涙が溢れ出す…
「光輝くん…お願い!目を覚まして…光輝くん!」
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