第14話 アイドルの悩み
「――とりあえず、まずはさっきのことは謝る。七原、それに静原さん。びっくりさせちゃってごめんなさい」
ひとまず屋上へと場所を移したところで、まずは花宮さんが頭を下げる。周りに人がいないのは確認済みだ。
詳しく話を聞かせてくれることを引き換えに、私は先ほど撮影した写真をスマホからきれいさっぱりと削除した。ストレス発散は大事だが、だからといってゴミ箱やゴミに当たり散らすようなことは良くない。
もちろん、三人で協力して元に戻しておいた。
「ところで、花宮さんはどうしてあんなに荒れてたの? お昼で出ていくまでは普通、じゃないけど、変わったところはなかったよね?」
ちょうど、お昼休みを迎えて、すぐに校舎の外に出ていった後だ。
「メンバーの学校生活を移したものを撮影して、それを今度出す新曲の特典映像にしようって、テレビ局と組んだ企画をやってるんだけど……その撮影隊のなかにとあるスポンサーの人が混じっててね。ソイツがちょっとヤバくてさ」
「その中に、花宮さんが言ってた、その……」
「うん。××××、××××のエロオヤジね」
「あ、あう……」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと下品すぎたね」
真っ赤になった静原さんが頷くのを見て、花宮さんはけらけらと笑っている。本来、彼女はこういう子なのだろう。
シールを貼り付けたような笑顔より、こちらのほうがよほど生き生きして彼女らしいと私は思うのだが。
三次元のアイドル事情は、私にはやはりよくわからない。
「……その、『触って』くるんだよね、色々なところをさ。もちろん、他のメンバーもやられてるんだけど、私には特にしつこくて。ほら、今日は新しい制服じゃん? だから余計にね」
だいぶ短くしているスカートの裾を掴んでひらひらとさせながら、花宮さんは冗談めかして笑う。
だから今日の収録が終わった後、あれだけ荒れていたのか。
彼女の立場を想像すると、思わず寒気がする。
「でも、それってセクハラ、というか一歩間違えば犯罪じゃないの? 事務所の人も知ってるんでしょ?」
「もちろん。でも、機嫌を悪くさせてスポンサーに降りられちゃうとお金の問題でかなり困ったことになるらしくて。こっちでも注意するよう伝えるから、できるだけ我慢してくれってさ」
しかし花宮さんに対するセクハラが終わっていない以上、事務所の注意は意味を成していない。
「……悔しいけど、泣き寝入りするしかないのかな」
「他のメンバーみたいに上手くかわせればいいんだけどね。でも、私、人より肌が敏感みたいで、触られるとどうしても声が出ちゃってさ。体も反応しちゃうし」
だからしつこく標的にされているのだろう。
花宮さんの周りの大人が役に立たない状況だから、自分でどうにかするしかない。
では、どうしたものか。
「まあ、毎日顔を合わせるわけじゃないから。……二人とも話聞いてくれてありがとう。一人で抱え込んでたから、話せただけ楽になった気がするよ。んじゃ、私は先に戻るわ」
花宮さんは明るく笑って私たちのもとから去っていく。
事情を聞いたせいもあるだろう、屋上から出ていく花宮さんの背中は、とても寂しく、心細そうに思えた。
「……行っちゃいましたね」
「うん」
助けたい、という思いはあるが、子供の私じゃ大したことは思いつかない。
「あんまり頼りたくないんだけど……しょうがないか」
「? 七原さん」
「あ、ごめん。こっちの話」
やはり、ここは大人に相談するしかないだろう。
ふと浮かんだ大人たちの顔ぶれを見ると、信用出来たり、はたまた信用出来なかったりするのだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます