第2話 私と幼馴染について
「それはまあ、しゃあないよねえ」
少し遅めの昼食をとるために入ったファミレスで、向かいに座った少年が大口をあけてライスを頬張りながら言った。
テーブルいっぱいに並んだハンバーグ、ステーキ、エビフライ、とんかつ、パスタオムレツグラタンドリア等々。全部目の前の彼一人で食べるものだ。細身で、とても胃袋の中に入りきる量とは思えないが、私の幼馴染である夏木柚春(あだ名はユズ)は、それでも腹八分目ぐらいだと宣う。
私はそれだけでお腹いっぱいになったので、とりあえずクリームソーダをちゅるちゅるとストローで吸っていた。
「だって、カーちゃんってば女の子のくせして圧倒的に『男の子』なんだもん。成績がいいのはまあ置いておくとして、複数の運動部かけもちするぐらい運動神経抜群だし、見た目もカッコイイし。んで、ちょっとだけ寡黙なところ。ポイント高い」
それを物語っているのが、私のとなりにもっさりと置かれた花束や贈り物の数々だろう。
ちなみに、すべて女子からのものだ。
下校するときに先生に聞いたが、いろんな意味で新記録だと言われた。全然うれしくない。
「でも、男子から告白される可能性だってゼロじゃないでしょ? そういう人が好きな人だってきっと……」
「でも、カーちゃんはいっつも俺にべったりだったじゃん。休みの時間でもなんでも、ユズユズって気づいたら俺のとこ来て。幼馴染だし、男子だったら、誰だってノーチャンスだって思っちゃうよ」
「うっ」
そうかもしれない。私は親しい人以外とのコミュニケーションが苦手で、さきほどの告白も、物陰からユズが見てくれていたから、しどろもどろにならずに対応できたのだ。
運動部の掛け持ちも、結局は断り切れなかったら応じただけで。
「まあでも、ちょうどこうして卒業して、来月からは高校生じゃん。カーちゃんは特にリセットできる環境でもあるんだから、心機一転頑張ってみなよ」
そう、ユズも言っている通り、4月から私も女子高生だ。
しかも、私の中学でそこに行くのは私一人だけ。
なので、なおさらチャンスではあるのだけど――。
「ユズも一緒に来てくれたらよかったのに」
なんでも相談できるユズと完全に離れ離れになるので、決断したこととはいえ、不安でもあった。家族親族以外で、唯一の友だち、というか親友。
「気持ちはうれしいけど、それは出来ない相談かな。俺も、高校からはもうちょっと自分に正直に生きようと思ったからね」
そう言って、ユズはステーキの一枚肉へフォークをぶっ刺した。
ユズは私以上に成績がいいが、トップの進学高にはいかず、体育会系の部活が強い男子校に進路を切り替えている。
「えへへ、楽しみだなあ。これからは女の子たちの視線を気にすることなく……待っててね、4月になったら、きっと俺がみんなのお姫様になってあげるから……!」
「はは……まあ、なんというか、ユズも楽しんでね」
理由は、見ての通り。
カミングアウトしているのは私たち家族に対してだけだが、男子校だとそういうのが好きな人もいるんだという。
というか、すでに今の時点で二、三人ほど恋人がいるとか言っていたような……とんでもない男である。
常に一緒にいても、ユズと私が決して恋人関係にならない理由は、これでわかってもらえただろう。どっちもベクトルが同じ方向への平行線だから、交わりようがない。
「っと、ごめんユズ。ちょっとスマホ」
「もしかしてお兄さんたちから?」
「みたい。……四人で卒業祝いするから、今日は早めに帰ってこいってさ」
「そ。じゃあ、今日はもう寄り道せずにしなきゃだね」
「うん」
私には、兄が三人いる。父でもあり、友人みたいでもあり、そしてきちんと兄でもある大切な家族。
もちろん兄たちのことは大好きなのだが……私がこんなふうになったのも、実はその兄たちが原因だったりもするわけで。
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