第10話 アイドル
「おはよ、七原っち」
「昨日のアレ、とってもよかったよ」
「あ、うん、おはよ。あと、ありがと……」
翌日教室に入ると、私の姿を見たクラスメイトたちが声をかけてくれた。
色々あったが、おかげで顔のほうは覚えてくれたようで。
ちなみに人見知りであることは、昨日の帰りのHRの自己紹介の時に伝えておいた。
やさしくしてください、と。
「お、おはよう……」
「おはよう、静原さん」
「うん、その、七原さん……」
席につくと、静原さんがこちらに近付いてきてくれた。
さっきから『とある理由』により、ちょっとだけ居心地が悪かったので、その気遣いが嬉しい。
「……えっと、おはよう、藤乃さん」
「……ふん」
相変わらず、私の左隣の藤乃さんは不機嫌なままだった。
成績トップをとられたのが、そんなに悔しかったのだろうか。
そんなの、これから先にいくらでも取れるのに……と思ったが、そういえば私のバックには七哉兄さんという鬼教官がいることを思い出した。昨日の夜から、早速七哉兄さんが睡眠時間を削って作成した宿題をやらされたから、学力は基本的にトップレベルを維持することになるだろう。
試験で手は抜かない。というか、抜けない。なぜなら、勉強を怠けて成績を落とす以上に怒られるから。
以前ちょっとだけ好奇心でやったことがあったが……あの時のことはちょっと思い出したくない。
とりあえず、早いところ席替えをしたい。
「おーい、お嬢ちゃんたち。HRやるぞ、さっさと席つけー」
毎日洗っていないのか、タバコの煙やらでうっすらと黄ばんでいる白衣にノーネクタイといういで立ちで、担任の矢沢先生が入ってきた。担当教科は化学。
起きてそのまま来ました、と言わんばかりのボサボサ頭に、不健康そうな落ちくぼんだ目――教師というよりは、マッドサイエンティストに近い。
「さて、今日は俺の化学が一限なんでさっさと移動を、と言いたいところだが。一人、このクラスでまだ紹介してない奴がいてな。……どうぞ」
「ん?」
矢沢先生の合図でドアが勢いよく開けられると、どやどやと大勢の大人たちが入ってきた。
「え? なになに?」
「おっきいカメラ……もしかして、テレビかなんかの撮影?」
教室内がにわかに色めきだつ。と同時に、クラスメイトの子たちが一斉にスマートフォンを構えた。
「っと、こらお前ら。一応、権利関係とかあるから、なるべくそういうのはやめて――」
「――あ、その点に関しては社長の浦和も承知してるので、自由にしてもらっていいですよ~?」
そんな言葉とともに、大人たち集団の中から、きらきらとしたオーラを纏った女の子が現れた。
「うわ、すご。かわいい」
一瞬でそう思うほどだった。金髪が一本一本さらさらで煌めているし、しかも瞳は透き通った海みたいに青い。全体的に黒めの私とは大違いだ。
「花宮アリア……どうりで入学式なのに一人欠けてたわけね」
そういえば、昨日矢沢先生が一人事前に連絡がどうと言っていた気がする。
ということは、あの子が一年七組残りの一人ということになる。
「藤乃さん、あの子のこと知っているの?」
「私に気安く話かけないで」
「うっ……」
こういうイレギュラーな時ぐらいは応じてくれてもいいと思うのだが。面倒くさい人だ。
「こんにちは、七組の皆! 知ってるけど思うけど、一応、自己紹介するねっ!」
パシャパシャとカメラのフラッシュが瞬く中、まるで慣れた様子で、金髪少女が私たちの前に立つ。
「私は、花宮アリア! これから日本一のアイドルになる予定の女の子で~すっ!」
「へえ、アイドル」
どうりでやけにきらきらとしたかわいらしさ全開だと思った。
でも、女の子だらけのクラスに、さらにおまけでアイドルまでついてくるなんて。
どうして、私の周りの環境は、女の子でいっぱいになってしまうのだろう。
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