第17話 特訓
昼、いつもの場所となりつつある学校の屋上にて。
「ねえ、一つ言わせてもらっていい?」
「……はい」
「七原……アンタってバカでしょ」
「はい、バカです。大変申し訳ございません」
花宮さんから呆れ顔で言われ、私は平身低頭するしかない。
まだ知り合ったばかりの人に『体を隅々まで触らせて』だなんて、しかも女の子であるはず私がそれをお願いするだなんて、私はなんて馬鹿なヤツなのだろう。七希や美嘉さんがあまりにもノッてきたものだから、つい。
「あ、あはは……ご、ごめんなさい。そうですよね~……やっぱり別の方法を考えたほうがいいですよね。あ! そうだ、やっぱり一番はセクハラの証拠を写真かなんかで隠し撮りして、『これをばら撒かれたくなければ大人しくしておけ』って脅してやるのが……」
「七原」
「え?」
「ちょっと落ち着く。ステイ」
「はい」
花宮さんに言われて、私は犬のように待機してご主人様からの指示を待つ。
「私はアンタに『バカ』とは言ったけど、『やらない』なんて一言も言ってないでしょ。『バカ』とは言ったけど」
バカなのは変わらないらしい。
「商業漫画家やってるっていうアンタのお兄さんの提案を私が受け入れるとすると、アンタが私のことを『触る』ことになるけど、本当に任せて大丈夫なの?」
「うん。一応、知り合いの人からお墨付きはもらったよ」
美嘉さん曰く、『やっぱり七香ちゃんは良い筋してる』らしい。
そんなことで褒められても、という感じだが。
「……その、ちょっとだけ試して、みます?」
「随分な自信ね。……なら、ほら、やってみなさいよ」
花宮さんが私に背を向ける。多分、後ろから抱き着くなりなんなり自由にやってみろということだろう。
「えっと、じゃあ……」
昨夜、美嘉さんから言われたことを思い出しながら、教えられた手つきで、私は花宮さんの腰付近に触れた。
「――んにゃんっ!?」
瞬間、花宮さんの体がびくり、と跳ねた。
「は、花宮さん……その、大丈夫?」
「へ……へ、平気よこれくらい。ちょ、ちょっとアンタが急に来たもんだからびっくりしちゃったってだけ! い、今のはなし! ほら、もう一回」
別に強がらなくてもいいのに。
負けず嫌いな人だ。
「それなら……はい」
「ふにゃっ……!?」
また同じように身を震わせて、花宮さんは膝から崩れ落ちた。
「七原、アンタ今なにを」
「制服越しに体に触れただけですけど……」
本当にそれだけだ。美嘉さん仕込みの、ではあるけれど。
「やっぱりこの作戦は止めた方が……」
「は? 何言ってんのっ? 平気だ、っつってんでしょ? こんなお触り一発で腰砕けになるほど私はヤワじゃないのよ。子役時代も含めれば、私はこの道10年のベテランなのよっ!?」
その割に、一夜漬けの私の技術にやられすぎな気が。
「ああ、もう。いいわよ。やったろうじゃない! 私は花宮アリア。いずれアイドル界の頂点に立つ(予定)の女ッ! こんなセクハラごときに屈する人間じゃないのよっ!」
「…………」
口には出さないけど、花宮さんも相当変わっている。
「次の収録日は一週間後ッ! それまでに絶対、どんなセクハラをモノともしない無敵の体を作り上げてやるんだから。……ということで、ほら、さっさと続き! やんなさいよ!」
胸をぽんと叩き、私を迎え入れようとする花宮さん。
負けず嫌いだ。
「……七原さん、私、誰かが来ないように、見ておきますね」
「うん、ありがとう静原さん。助かるよ」
空気を呼んでくれた静原さんに感謝して、私は花宮さんとともに、屋上にある貯水タンクの陰へ。
ちなみに、その後の午後の授業、花宮さんはまともに動くことができなかったことだけ、ここに報告しておくことにする。
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