第3話 休息
討伐部位を冒険者ギルドに持ち込むと、ギルド長のバーナーさんが対応してくれた。
「ヴモグだなんて、いきなり無茶をするな
死んだら元も子もないぞ」
「狙ってたのはゼルフル、ヴモグは予定外。
それに冒険者に成れないなら、死んだほうがまし」
「ゴブリン3、ゼルフル3、そしてヴモグが1、合わせてポイント49。
報奨金が601テル。
最初でいきなりポイントが50近くいったな」
バーナーさんの声は嬉しそうだ。
討伐鑑定の受付係の仕事を奪っている。
「大丈夫か」
俺は右腕を押さえている。
見れば大丈夫じゃないのは判っていて聞いてきている、性格が悪い。
「腕をやっちゃいまして」
『だらしねえな』って口が動いた。
でも声にしたのは反対のものだった。
「あまり無理するな。
休んでキズをちゃんと癒せ。
うちのギルドで見てやるか」
「治癒が少し使えるので自分でやってみます」
「そうか」
「リーシェちゃんは、ポイント狙いだろう。
ゼルフルは1回に狩れる数が限られるから効率悪いぞ。
だからって大物狙いも止めておけ」
「そうねヴモグ1匹よりはゴブリン20匹の方が簡単だし、狩りももう少し続けられた。
赤字にならないよう他のも混ぜながら、ゴブリンを狩るわ」
「それが、狙うとそこまで狩れないんだよなあいつら。
いっぱいるが、20は狩れない」
ほんと中途半端で迷惑な奴だな。
お金をもらって、宿に戻る。
俺はタルクの宿で一番安い部屋を用意してもらった。
無論、宿代は自腹。
稼いだお金から経費を引いて、リーシェさんと半分にした。
「少し休みたい」
リーシェさんは、あれから右手の事は聞いてこない。
話すと言ったから、待っくれてるのだろう。
ベッドに腰を下ろして、やつを呼び出す。
(おい、聞こえてるか)
[聞こえています]
(手の事を説明してくれ)
[あの傷に覚えはありますよね]
(昨日襲われた時、最初に両手を切られた。
今日、取れたのはその切られた所だった、治ったんじゃないのか)
[人の体はそう簡単に治ったりしません。
1日で治るだなんて、私を買いかぶり過ぎです。
応急処置で治ったように、見せているだけです。
両腕が完全に治るには、後4日かかります。
いえ右手が振り出しに戻ったので、5日になりました]
簡単に治らないと言っていながら、5日で治るのか。
(腹の傷も治っていない?)
[痛みを消して、機能はナノマシンに代行させています。
こちらも修復中です。
腹部は複雑な処理をおこなっていたところを負傷しています。
完全修復には20日かかります]
(代行できているんなら、それでいいんじゃないのか。
何か問題があるの)
[元の体の組織ではありませんよ]
(だから、それでなんか不都合でるのか)
[いいえ、100%代行できますので機能的には問題ありません]
(ならそれでいいよ)
[いいんですか?]
(腹ん中がどうなってようと、前と同じ事が出来ればそれでいいよ)
[それならば今晩中に腹部の修復は終わります。
その後、ナノマシンを腕に回せますので2日で修繕できます]
言い方が昨日よりちょっと優しい。
(下手にでるね。
どうかした)
[今、貴方が言った。
『元の体にこだわらないでいい』と言うのは、私の国では中々許してもらえない内容なんです。
しかも、許可をもらうために私が行える行動に制約も多いのです。
かなり観測の自由度を上げてもらえました、感謝します」
(何でもかんでも自由にやっているわけじゃないんだ)
[当たり前です、私はルールに従った行動しか取りません]
[今後も組織を変更する場合は許可を取るようにしますが、緊急時は今言われた方針で行います。
よろしいですね]
(ああ、見た目が変わるのは困るが、最低限、前と同じ事ができればいいよ)
(ところで、どうしてこんなに俺を治そうとするの)
[せっかく手に入れた貴重な観測対象です。
早々にロストしてはコストに合いません]
(なるほど)
俺の立場はあまり変わってない。
(昼間ヴモグが遅く見えたのも、俺が死なないようにしたため)
[そうです。
神経系をバイパスして認識速度を上げました]
(すごいな、毎回やってもらえるの)
[緊急時でしたので今回のみです。
連続使用は筋肉と脳が持ちません。
しかもナノマシンを神経系に回したため、腕の結合が弱くなり外れるアクシデントも発生しました。
もう行いません。
基本的には死なないよう強くなってください]
(それしかないのか)
[元々そのつもりだったでしょう、私でズルをしないでください]
状況は確認できた。
リーシェさんに適当な嘘をつこう。
食堂に向かう。
宿では朝夕に簡単な食事が出る。
夕食にはまだ早く、準備をしているところだった。
少年がテーブルを拭いている。
リーシェさんが冒険者になるため、手伝いを辞めたので雇われていた。
「リーシェさんどこいるか知らない」
「部屋で休んでると思います」
初めての魔物狩りで疲れたのだろう。
「ありがとう」
厨房の奥でタルクさんがこっちを睨んでいる。
彼女の部屋の前まで行き、ドアを叩く。
「昼間のけんで話したい事があるんで、食堂まで来てもらえないですか」
「鍵かかってないから、そのまま入って」
「タルクさんに殺されたくないです」
笑いながら、すぐ行くと言ってくれた。
食堂で待っていると、本当にすぐ来てくれた。
周りに聞こえないよう、すみによる。
「腕大丈夫?」
「この通り」
彼女の前で、握ったり開いたりして右手を見せる。
「大丈夫そうね」
「本当は大丈夫じゃなくて、完全に治るまであと2日ほどかかるんです」
「昨日襲われた時、実は両手を切られていました」
「それでお父さんが言うような大量の血が出ていたのね」
「腕を切られたって、どういうことかわかりますか?」
「治癒魔法を使えなくした。
襲ってきた人達は、治癒魔法をアトロフが使えるのを知っていたのね。
トドメも刺さないなんて、苦しませて殺そうとした残忍な方法ね。
心当たりがあるの?」
リーシェさんなら話しても問題ないか。
「俺の生家はちょっと資産のある家でして、兄達は次期当主の座を争っていました。
俺はその争いにかかわれる序列じゃなかたんで、最初から家を出る準備をしてました。
魔物討伐の募集に参加したり、家に有った誰も見ない魔法書を読んだり。
子供の憧れそのままに、冒険者になろうかと思っていたのです。
ところが上の兄たちが続けて亡くなり、俺の立場も変わってしまいました」
「お兄さんは殺されたの?」
「判りません。
調べて自分も死ぬのはいやだったんで、ほっときました。
それに序列が上がっても、俺には迷惑な話です。
全く興味を示せませんでした。
それが、何故か一部の人達に人気が出てしまったんです」
「ライバルになると思われた」
「まさか、跡取りになるのは人気ではなく実績が必要です。
何もしなかった俺に実績などあるはずがありません。
実際には候補として名前は上がっていなかったでしょう。
その少しの人気を妬まれたようです」
「男の嫉妬かな」
「16才の成人になったので、さっさと逃げてきました」
一応、家名だけは誤魔化した。
「でも、逃げ切れなかった」
「そうみたいです」
「でも両腕を切られた状態で治療できるなんて、すごい治癒魔法ね。
アトロフの家に伝わる秘術なの」
「いいえ、家のものは誰もしりません。
あの『自己修復』が使えるのは俺だけなんです」
「そうなの」
「他の人にはあの魔法は使えませんし、治せるのも自分の体だけです」
「私はその魔法で、治癒してもらえないのか、残念。
でも、そんな力を持っていたなら、冒険者になろうと考えるはずね」
「知っているのはリーシェさんだけです。
教える事も出来ないので、秘密にして下さい」
「誰にも言わない。
確かに、知られたら大変そうだしね」
「戦っている最中にまた手が取れたら大変だから」
と言われ翌日から2日休みになった。
ーーーーー
ビチュレイリワに強くなれと言われたからじゃないが、朝から魔法ギルドに来た。
俺の使える魔法は、生活級のもののみ。
生活級は言葉通りで、生活に役立つレベルでしかない。
魔法書も街なかで売られている。
冒険者なら戦闘級の魔法を使えるようになりたい。
魔法ギルドの建物は、冒険者ギルドに比べて小さいが十分立派だった。
中に入ると、ロビーも冒険者ギルドのものの3分の1の大きさしかない。
カウンターの中には、若い男が1人本を読んでいる。
俺に気づいて
「いらっしゃい、なんか用ですか」
と声をかけていた。
「昨日、冒険者見習いになったばかりなんですが、いずれ戦いに役立つ魔法を覚えたくて。
いくらくらいお金がかかるか、聞いておこうと思いまして来ました」
「なるほど。
でも冒険者なら、同じ冒険者に教えてもらうほうが多いと思うぞ」
口調が客商売に向いてないな。
ここで冒険者に振るなんて、魔法ギルドは客商売してない。
「冒険者の魔法は我流がかなり入っていて、それで覚えると無駄が多いって聞いた事があったので、ここに来ました」
「あんた、えらいね。
そうなんだよね、冒険者の魔法見てると手順が1個か2個多いんだよな。
安く覚えようとした弊害さ。
安さを求めると自分の命も安くなってしまう、魔法ギルドは自分も魔法も大事にする奴を相手にするのさ」
「生活級のインパクトを使えるので、まずはこれを戦闘級の威力にあげたいんです。
いくらかかりますか」
男は、横に置いて有った本を広げ調べている。
料金表かそれ?
「それなら、使える魔法使いに半日教えてもらうってのは。
料金は1200テル。
知ってるかも知れないが、1回で使えるようになることはまずない。
何回か教えてもらってなんとか魔法が発動するようになる。
あとは自分で何度も練習して、使えるレベルまで仕上げる」
魔法ギルドに魔法を習いに来ないはずだよ。
「かかりますね。
全然、手持ちがたりません」
「普通は稼げるようになってから、覚えようとするからな。
あんたに魔法の事教えたやつは、金持ちだっただろう」
お抱えの魔術師だったからな金はあったな。
「そうだったかも。
金ができてから考えてみます」
「あと、最初に一度魔法書読んどいたほうがいいぞ」
「そうなんですか」
「やっぱり合う、合わないがあるから、魔法書読んで自分に合いそうな魔法を選ぶ。
そのほうが覚えが早い。
ここでの経験上の話だけど」
なるほど。
「ありがとうございます、参考になります」
「生活級の魔法は使えるんだよな。
その魔法も修練してたほうがいいぞ、上位の魔法も覚えやすくなるからな」
口調は軽いが、いいやつみたいだ。
宿に戻って、タルクさんに魔法の練習場所を相談すると
「宿の敷地内にリーシェが精霊魔法の練習にしてるマトがある。
それを使えばいいんじゃないか」
と教えてくれた。
確かに中庭の隅に、マトと直線で30歩ほどのスペースがある。
両腕で胸の前に何かを持った形にして
「マナよ集まれ我が腕に、渦となり形を成せ」
マナが手の中が渦巻いているのが判る。
今度は両手を突き出し
「力になり、打ち砕け」
と言いながら目標のマトを見る。
腕先にあった力が飛んでいき、マトにぶつかった。
音を立ててふるえている。
生活級の威力では石をぶつけた程度しかない。
見えない力だから避けられない、相手には当たる。
致命傷にはならないけど。
ただし発動に時間がかかるので、すこし知恵があれば発動前に避けてしまう。
今のままでは戦闘には使えない。
練習して自分のものにできれば、威力は変わらなくとも発動までの時間は短くできる。
やらないよりはいいだろう。
連続して10回インパクトを放つ。
俺の魔力では10回ほどが限界だ。
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