第43話 策

「あの『竜騎士長』は200歳以上なのだ」


 そうなのか、でもエルフまじりには見えなかった。


「『竜騎士』はドラゴンと繋がっているので、その特性も受け継いでいる。

 彼以外も全員100を越えている」


 何故カリギュナー王国がこんな惨状なのか想像ができた。


「『竜騎士』の力は、魔王に対抗するためには必要なものだ、失ってはならない。

 だがそれは『竜騎士』が何をしても良いということではない。

 今の彼らでは力どころか厄害だ」


「そのような事を『竜騎士』に聞かれては」


 男爵の心配は判る、覗き見る方法などいくらでも有る事は俺達は知っている。


「彼らは諜報などしない。

 敵なら叩き潰せばいいと考えているからな」


 そして実行する力を彼らは持っている。


「私は、逆に『竜騎士』の秘密を探っていた。

 どうやって『竜騎士』を独占しているのか、その方法を。


 どうやって最初にドラゴンを集めたのかは、当時の資料を調べすぐに判った。

 答えは簡単でドラゴンの卵を各国から奪ったのだ、魔王軍に対抗するためという理由でな。

 問題はどうやって『竜騎士』を独占したのかだ。


『竜騎士』はドラゴンが選ぶ、ドラゴンは知恵もあり高潔な生き物だ、間違っても今の騎士を選ぶなど考えられない。

 ドラゴンに選択を強いる事も、他の者を選ばぬようする事も出来ない。

 ではどうやって、人が『竜騎士』になれる者を操作できるのか」


 公爵は俺を見ながら話をしている。

 はい、これはもう逃げれない。

 これ国家機密どころじゃないよな、多分国王も知らないのでは。

 男爵も気づいた、顔が真っ青だ。


「古い文献を調べおかしな事を見つけた。

『竜騎士』と繋がったドラゴンは卵を産まない。

 しかしこの国にはこの300年以上『竜騎士』を持たぬドラゴンはいない。

 そして他の地にはドラゴンはいない、なら新しく生まれるドラゴンはどこから来るのか。

 答えは1つしかない、前の大戦時集めた卵から生まれている」


「300年以上前の卵が生きているのですか」

 思わず聞いてしまった。


「ドラゴンの卵は普通でも孵るのに数十年かかる、生まれるために大量のマナを蓄える必要があるからだ。

 だが、300年は異常だ。

 そこに『竜騎士』を独占できる秘密がある。


『竜騎士』どもはドラゴンの卵を魔法で拘束し、生まれ出る時を操作していた。

 そして『竜騎士』の補充が必要になった時、拘束を解き卵が熟すのを待つ」


 でもそれはドラゴンの生まれを操作する方法で有っても、『竜騎士』を意図的に生み出す方法ではない。


「1つの卵を選び封印を解く、マナがたまりもうすぐ生まれるという時に、一緒の部屋へ妊婦を住まわせる。

 胎児や生まれたばかりの赤ん坊のマナは無垢、そして強く保護を求める」


「自分を守って欲しいという赤ん坊の本能を使って、ドラゴンに絆を結ばせているのですか」


「お嬢ちゃんの言う通りだ、それが『竜騎士』達の秘密だ。

 この方法で彼らは力を独占していた」


 赤ん坊の時点でドラゴンと繋がるのか、『竜騎士』があんなにも子供なのが納得できた。

 生まれた時にすでに強者なのだ。


「この方法で確実に我が国の者が『竜騎士』になれる。

 ただし、その後『竜騎士』がどう育つか、今の彼らを見ればこの方法は失敗だったとしか思えない。

 間違っているなら正さなければならない。


 時間がない。

 この50年新たなドラゴンは生まれていない、彼らの行っている魔法が影響していると思っている。

 すでに人は『竜騎士』の力を失っているのかもしれない。


 また、私が宰相でなくなれば人材がいない、後任に『竜騎士長』がこの席につくかもしれない。

 10名以上の『竜騎士』が彼の子や孫だ、すでに彼の意のままの組織になっている。

 今後彼らに対抗する力が生まれて来ることはない、私が宰相にいる今が、人が『竜騎士』を守れる最後の機会なのだ」


 公爵は一度話しを止め俺達を見回して、深く呼吸をする。

 熱くなってしまった自分を冷ましたのだ。


「ドラゴンの卵は、『銀鱗翼竜ケフロイヤ』の巣があるリオロセーク山の洞窟に隠されている」


 公爵の声が冷静な物に戻った。


「『銀鱗翼竜ケフロイヤ』!

 守護竜ガーディアンドラゴンの巣がのこ国に有るのですか」


 守護竜ガーディアンドラゴン、その名の通り魔王より人を守る竜。

 先の大戦を生き延びたのは7体、だがどこにいるかは判っていない、目撃例が有るだけだ。

 その1体の巣がここに有るのか。


「国家機密ではあるが、他国も知っているだろう。

 300年ほど前から、リオロセーク山に飛来し火口跡で眠っている。

 常にいるわけではない、数年や数十年眠っている事もあるし、逆にいない事もある。


 山腹の洞窟にドラゴンの卵が隠されてるのは調べがついた。

 あそこであれば、魔物や人は近づかない」


「『銀鱗翼竜ケフロイヤ』が『竜騎士』に味方していると」


銀鱗翼竜ケフロイヤ』が『竜騎士』に味方してるなら、公爵の怒りは間違っている。

 守護竜ガーディアンドラゴンの敵は魔王、そこに正邪の区別はない。


「いいや、『銀鱗翼竜ケフロイヤ』が来た後に移された。

 基本守護竜ガーディアンドラゴンは人には関わらない、『竜騎士』がその存在を利用しているだけだ」


 思わず息を吐いている、良かった。

 いやいや、まだ俺は公爵に何も頼まれていないし、やるとも言っていない。

 公爵様が俺に期待している事は『竜騎士』に敵対する行為だろう、何やる気になってるんだ。


「その洞窟には封印された、ドラゴンの卵が100以上保管されている。

 この卵を国外に輸送する手配はついた。


 問題は常に2名の『竜騎士』が常駐している事だ。

 ヨガ殿に、この2名をどうにかして欲しい」


 あ、言った。

 公爵言い切りやがった。


「私はカリギュナー王国の国民ではないのですが」


「だが人だ。

 人として、このまま魔王との対抗手段を1つ失っても良いとお考えか」


 ーーーーー


「あれは、ずるいよな、断れないじゃないか」


 ベッドの上で仰向けになって、ぼやいている。


「なら、断れば良かったじゃない」


「俺達は話を聞きすぎた。

 権力を持ってる人がその気になれば、俺達が不幸な事故にあうのはそれほど難しくない」


「『竜騎士』には効かなかったみたいだけど」


「数が多いから。

 全員が同時に事故にあうのは無理だよ、残った者に復讐される。


 ここへは『竜騎士』見に来ただけなんだけどな」


[守護竜ガーディアンドラゴンも見たいです。

 リオロセーク火口に何か有る事は判っていましたが、動きがないので飾りだと判断していたのです。

 今日の公爵の話で、あれがドラゴンだとわかりました。

 非常に興味があります]


 気楽に言ってくれる。


[『竜騎士』のドラゴンに比べると守護竜ガーディアンドラゴンは10倍ほどの大きさなのですが、同じドラゴンなのですか]


「そこは言い伝えの話になってしまう。

 最初ドラゴンは1つだったけど魔王が現れた時、従う者、戦う者、争わない者に別れた。

 従うドラゴンは、暗黒大陸へ行き黒竜となり。

 魔王と人との戦いに関わらないとしたドラゴンは、南にあるツグワーサ大陸へゆき白竜となる。


 人と共に戦うドラゴンたちはその姿を変えた。

 力有るものは守護竜ガーディアンドラゴンになり。

 弱かったドラゴンは人にその力を分け『竜騎士』を生み出したと」


 今日ビチュレイリワは、全員に話しかけている。

 リーシェさんが、大陸の人であれば誰でも知っている事をビチュレイリワに教える。


[黒竜、白竜と呼ばれていると思われる、ツグワーサ大陸と暗黒大陸にいる形状た似た生き物は確認できています。

 しかし、大きさが全然違う『竜騎士』のドラゴンを1とすると、黒竜は3、白竜は5、守護竜ガーディアンドラゴンは10になります。

 3種類は形状が似ているのでドラゴンと名が付くのは理解できるのですが、守護竜ガーディアンドラゴンは全く形状が違います。

 別の生き物ではないのですか?]


「俺達は『竜騎士』以外のドラゴンを生き物とは考えてはいない。

 そして守護竜ガーディアンドラゴンは7体すべて姿が違う。

 白竜程度の大きさや『銀鱗翼竜ケフロイヤ』の倍以上の守護竜ガーディアンドラゴンもいるらしい」


[そのような生き物は観測できていません。

 本当にいるのですか]


「先の大戦後、目撃されているのは7体。

 守護竜ガーディアンドラゴンに巣があるなんて知らなかった。

 でも国の上の方で知っている人はいるみたいだから、他にもあるかも」


[非常に興味が出てきました、調査してみます]


「ところで、リーシェさん、キューさん何で俺のベッドにいるの」


 リーシェさんとキューさん、俺に腕枕をさせ同じベッドにいる。

 キューさんに至っては抱きついている。


「別にいいだろう」


 キューさん良くないから聞いてるんですが。


「多分キューさんも私と同じで怖かったの」


「何が怖かったんですか?」


「試合の開始前に『竜騎士長』が言った戯言」


 あれか。

 2人をよこせとか、ふざけた事言ってたな。


「まさか、俺が負けるとか思ってたの」


「ヨガは強い、知ってるけど不安だったの。

 試合で殺されるかもと考えてしまったし」


「『竜騎士長』そんなに強くなかった。

 1人では難しいと思うけど、2人でなら倒せるほどに」


「それは試合が始まってすぐに判った。

 でもそうなると、どうやってこれ終わらせるんだろうと」


「あ、リーシェさん俺がわざと負けると思った。

 2人が懸かっていてそれはしないよ、そんな事思われてたんだ心外だな」


「大丈夫、そんな事は私もリーシェさんも思ってはいない。

 ただ全部を相手にしないといけないのかとは考えてしまった。

 でも『竜騎士長』の言いなりも絶対にヤダった」


 そう言いながらキューさんが余計に抱きついてきた。

 1つの国を相手にするかもと考えたのか、不安になるのは仕方がないか。


 ところで

「ピノ聞きたい事有るんだが」


<何でしょう、私に対して声を出すだなんて>


「2人にも聞いて欲しいからだよ」


<なら、私も3人に話しかけていいですね>


「そうして。

 確認したいんだが、キューさんにここまでされて反応しない俺って、男としておかしいよね。

 ピノ何かしてる?」


 2人がピクっと動いた、やっぱり。


<え〜とですね>


「私が頼んだの」

 リーシェさんが白状した。


「キューさんじゃ無かったんだ」


<ラーディで最初に同じ部屋に住み始めた頃、リーシェさんを怯えさせた事を覚えていますか>


「そんな事有ったっけ」


「有った」

<有りました。

 その時、リーシェさんに提案したんです、リーシェさんが許可しない限りヨガはそんな事が出来ないようにしますと>


「パーティに入る時にその事教えてもらって、私も対象にしてもらった」


 キューさんが続ける。

 2人が無防備なのはそのせいか、今の俺は人形と同じなのだろうな。


「なるほど」


<怒ってます?>


「いいや、2人がそれで安心して俺と旅してるんならそれでいいや。

 そうか、何も出来ないのか」


<そうでも無いですよ>


「「え!」」

 2人も驚いてる、聞いてないの。


<その行為のみ出来ないだけで、他は何でも出来ますが>


 そうなの、試しに手をキューさんの胸にまわしてみた。


「何すんだ!」


 思いっきり殴られた。

 何故かリーシェさんからは蹴られた。

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