第44話 強襲

 リーシェさんが震えている、笑いをこらえているのだ。

 キューさんに至っては、腹を抱えて地面に転がっている、笑うのを堪える気はない。


 俺が上半身裸で、仮面をつけているせいだろう。

 むき出しの肌にはびっしりと模様がある。

『竜騎士長』に渡した剣の補充が間に合わなかったのと、自分の正体を隠すため武道家に扮している。

 それが2人に受けた。


「に・似合って・・るよ」

 リーシェさん、笑いながらの言葉を信じるのは無理。

 よっぽど可笑しいのか。


 計画は俺が単身乗り込んで、2名の『竜騎士』を沈める。

 それまでリーシェさん達は、荷馬車と共に待機したいる。

 彼女たちの他にも30台ほどの馬車と御者が用意されている。

 卵を盗み出し、各地に運搬する予定だ。

 全員仮面をつけているのに、何故俺だけが笑われるのだろう。


 俺は軍馬に乗って山の麓まで来ている。

 山の下側は『竜騎士』に焼かれ隠れる所がない、近寄る物を見張るためだろう。

 それに『竜騎士』が山を周り巡回している。


『竜騎士』が見えなくなった瞬間に、一気に横切って向こう側に隠れる。

 その後は何の問題もなく洞窟の入り口までこれた。


『竜騎士』をどうするかだが。

 ドラゴン同士では念話ができるそうだ、ドラゴンを残せば他の『竜騎士』に連絡がいく、それは避けたい。

 同時に2体のドラゴンを仕留めたい。

 なので俺は同時にやれる時を狙っていた。


 巡回している『竜騎士』は時間が来れば、洞窟の入口に戻り別の『竜騎士』と交代する。

 この時2人と2体がこの場所に集まる。


「何者だ、ここは『竜騎士』以外立ち入り禁止だ」


 俺が飛び込むと2人の『竜騎士』が剣を抜く。

「俺にも殺らせろ」


 1人が空に上がって待機する様子はないし、仲間に連絡してもいない。

 俺を簡単に殺れると思っているのだろう、慢心しすぎだ。


 気合を入れて、全身にマナを行き渡らす。

 本物の『マナまとい』ではないが、それっぽくは見える。

 これで十分ピノの最速に耐えれるようになった。


「『竜騎士』の剣が『マナまとい』で防げるものか」


 俺を挟んで構えて一斉に襲ってきた、ドラゴンにやらせる気もない。


 正面から来た『竜騎士』の手首を抑える。

 同時に後ろから斬りかかられるが、ピノで強化している、剣は表面で止まっている。


「ばかな!」

 なるほど、ドラゴンのマナを使ってマナを吹き飛ばしているようだ、これでは普通の『マナまとい』では防げない。

 残念ながら、俺の身体強化にマナは使っていない。


 そしてそいつの手も掴む。

 これでは近すぎてドラゴンは火炎を吐けない、普段から連携なんて考えていないのだろう。


『竜騎士』のマナを変えた、同時に2人と2体から悲鳴が上がる。

 思っていた通り繋がっているドラゴンにも影響が出た。

 そのまま4つは崩れ落ちる。


 俺は奥に入って行く。

 奥の部屋には大きな塊ある、これがドラゴンの卵なのだろう、100以上はある。


 卵は模様の書かれたものに巻かれている、これが封印か。

 公爵もこの模様のすべてを知ることは出来なかった。


 1つの可能性として、この手の封印には移動も禁止した物がある。

 その模様は事前に教えてもらっていた、なければ封印の解除は後にして卵を運ぶ

 封印が有れば、封印を解かなければ移動は出来ない。


 ただし封印の中に移動を抑えるこの文様が含まれていた場合は、こちらに都合がいい、目印になるからだ。

 目印を探すと、有った。

 そしてこの封印の解き方も教えてもらっていた、魔力のある墨で一部の模様を消すように線を引く。

 引いた線で封印が切れ地面に落ちる、これで封印が解けた。


(ピノ、リーシェさん達へ準備が出来たと伝えて)


 しばらくして仮面を付けた者達が来た。

 封印が解除された卵を運びだし、まだのものは封印を解除してゆく。

 誰も口を効かない、静かな中で淡々と作業を行っていた。

 リーシェさんとキューさんは馬車の場所で待機、悪いが俺と一緒に最後にここを離れてもらう。


 誰も口を開かず静かに作業を続ける。

 静かだったせいだろう、入り口での騒ぎに気がついた。

「しまった」

 ドラゴンが目を覚ました、予定より早い。


 入り口にゆくと、2体のドラゴンが飛び立ち、目の前にいる。

 外に来た者達が攻撃をしているが効果がない。

 俺が『竜騎士』を対処する計画だったので、彼らが戦力として期待出来ないのは仕方がない


「引け!

 俺がやる」


 空に浮いているドラゴンに素手はきつい、攻撃が届かない。

 計画は失敗か、先に運び出していた卵を載せていた馬車は出発している。

 1つでも運び出すためだ、これで全部の卵を運び出す事はできなくなった。


 仕方がない。

 倒すことは無理かもしれないが、足止めは出来るだろう。

 前に出て構える、適当だ本物の型だど知らない。


 "感謝、開放、歓喜”


 突然、頭の中に大音響で声が響く。


<高出力で思念が流れ込んできました。

 頭が壊れる危険があります、強制的に感度を落としました>


 声を聞けば、その主を知る事が出来る、目の前のドラゴンだ。

 俺に嬉しいと謝意を送ってきたのだ、お礼されて死ぬとこだった。


 ”相棒、汚い、怒り、不潔”


 そうか『竜騎士』のマナを変えたので、ドラゴンとの絆が切れたんだ。

 これなら、他の『竜騎士』からもドラゴンを開放できる。

 頭に響く声は人の念話ではない、直接的な感情が流れてくる、それを俺が言語として理解している感じだ。

 驚いたがドラゴンも『竜騎士』に怒りを持っていた。


「大丈夫だ、このドラゴンは敵じゃない」


 周りにいた者へ声をかけ、攻撃を止めされる。

 しばらくドラゴンを見ていたが、安全とわかると作業に戻った。

 プロだね。


「なかに有ったドラゴンの卵を運び出している。

 各地で正規の『竜騎士』を生んでもらうつもりだ、手を貸してくれないか」


 俺はドラゴンに対し言葉で伝えてみる、長年人と暮らしていたんだ言葉くらい覚えただろう。


 ”承知”


 運び出せなかった分を彼らに運んでもらおう。


[こちらに向かって、何か飛んできていきます。

 来た方向と形状から黒竜かと、数は24]


 黒竜だって、なんでこんな時に魔王軍が。

 文句を言っても仕方がない。


「黒竜が、来る。

 お前達は中に戻って作業を続けくれ。


 ドラゴン俺を山頂まで乗せてってくれないか」


 この洞窟から注意をそらしたい、上に行って囮になるつもりだ。


 ”拒絶、非相棒”


 なんだ『竜騎士』以外、乗せてくれないのかよ。


 ”運ぶ”


 と言うと俺を掴んで飛び上る。


 "敵、倒す、卵、守る”


 俺を頂上に運んだ後、ドラゴンの怒りが流れ込んでくる。

 黒竜がここに来たのは、卵が目的だと思っている。

 『竜騎士』の敵は魔王軍だ、それを狙うのは分かるが、なぜ今夜なんだ。


 2体のドラゴンは、上空に上がって敵を迎えようとしている。

 黒竜は彼らの3〜5倍の大きさがある、抑えきれない。

 俺もできるだけ卵を運び出す時間を作るつもりだ。


 身構えている俺の後ろで爆音が鳴る。

 鳴き声だ、けたたましい叫びを上げて『銀鱗翼竜ケフロイヤ』が火口から飛び上がる。

 銀色の羽根が全身を覆い、鳥の翼を持つ姿、大きく何より神々しい。

 高く舞い上がると、一直線の炎を吐き出した。


[黒竜に命中。

 奴らは散らばりました]


 続けざまに、まだ見えない敵に炎を吐き出している。

 黒竜も応戦してきた、炎の塊が飛んでくる。

銀鱗翼竜ケフロイヤ』と2体のドラゴンが突っ込んでゆく。

銀鱗翼竜ケフロイヤ』の炎は一撃で黒竜を撃破している。

 黒竜の炎も『銀鱗翼竜ケフロイヤ』に当たってはいるが無傷だ。

『竜騎士』のドラゴンでは黒竜には効いていない、黒竜の火炎は早く動くドラゴンには当たらない。


 黒竜が1匹火口に下りてきた、上空には手が出ないが地上でなら相手にできる。

 急いで駆け下りて黒竜に向かう。

 下りた黒竜は何かを探している、卵を狙うなら洞窟で行くと思うった違った。


 後ろから卑怯かと思うが、サンダースピアを叩きつける。

 雷の槍はぶつかった瞬間に消えた、魔法防御か。


 切り替えて、思いっきり殴る。

 こちらも魔法で守られていたが、ただ完全には保護出来ていない表面の鱗を砕いた。

 それほど効いてはいないだろうが、狙いはこの次。

 黒竜のマナを変えようと、マナを探したが無い。


 ばかな!

 マナは生き物ならどんな小さいものにでも有った。

 それに魔法はマナがなければ使えない、黒竜の飛行や炎は魔法の力を使っている、ならマナがあるはずだ。

 戸惑っている俺に尾が当たる、吹き飛ばされた。


 続けて黒竜の火炎の直撃、身につけていた物は灰になった。

 俺は無事だ。


<今の攻撃100回程度なら問題ありません>


 だけど攻撃の決め手がない。

 どうして黒竜のマナを掴めなかった、対峙している今でも奴からはマナを感じているのに。


<頭部にマナが集中しています。

 魔石と推測出来ます>


 黒竜の攻撃をかわしながら、反撃を試みようと考えていると、ピノが助言をくれた。

 魔石?


<残念ながら魔石の解析はまだ出来ていませんが、マナを集め貯める性質は判っています。

 そのマナを使って魔法を行使しているのではないでしょうか>


 軍馬にも性質を変えた魔石を載せているが、魔法は使えない。

 以前俺が魔石のマナを使おうとした時は止められたが、ドラゴンなら可能なのか。


 狙うなら、その魔石ということか。

 マナで全身を保護してピノの力で高速移動、頭を狙っての連続攻撃、これならどうだ。


 何十と拳や蹴りでの攻撃を頭に当て弱らせ、最後に渾身の一撃を拳を頭に突き入れ魔石を取り出す。

 黒竜が倒れた、やっと1匹。

 気は抜けない、なぜなら1匹倒す前に2匹の黒竜が戦闘に参加していたからだ。

 高速移動を続け、なんとか2匹も倒すことができた。


<警告します。

 体内温度が上がり過ぎました、冷却のため行動を控えてください>


 動くなと言う事だが、大丈夫だ疲れて動く気はない。


 ドラゴン達の戦闘は続いている、『銀鱗翼竜ケフロイヤ』が火口上空でまわりを飛び回る黒竜に炎の攻撃をしている。

 黒竜の攻撃は当たっているが全くの無傷だ、これならもうすぐ終わる。


 いきなり空が三角に光る。

 その中に『銀鱗翼竜ケフロイヤ』がいた、落ちてくる。


(何が有った!)


[4匹の黒竜で正三角錐を作り、その中を高エネルギーで一瞬満たしたのです]


 正三角錐?、と思ったが頭に図形が思いうかべる。

 なるほどこの中に閉じ込められると、やられるのか。


 4匹はその形を保ったまま下りてきた、もう一度、同じ事をしようというのだろう。

 させない、1匹に狙いをつけて攻撃を開始した。


 禁止されていたが高速移動で攻撃を再開する、もう少し持つだろう。

 なんとか俺が1匹倒したところで、『銀鱗翼竜ケフロイヤ』は最後1匹を引き裂いていた。

 俺が頑張らなくとも大丈夫だったか、いや俺も役に立ったと思いたい。

 空に2回炎を吐いて黒竜を殲滅、これで敵はいなくなった。


<もうこれ以上の高速移動の連続使用は出来ません>


 自分の体から煙が出ている感じがする。


(しないよ)


 そう答えながら目の前の『銀鱗翼竜ケフロイヤ』を見た。

 上空の敵へ炎を放つため伸び上がっていたが、音を立てて崩れ落ちそのまま動かない。

 さっきの攻撃が効いているのか、こちらは本当に体から煙が上がっている。


(助けられないか?

 ピノでなんとかならない)


 ”妾は望まない”


 頭の中に声が響く、『銀鱗翼竜ケフロイヤ』からだ。

『竜騎士』のドラゴンと違い、言葉になっている。


「大丈夫ですか」


 ”騒ぐな妾は、もうすぐ死ぬ”


 とんでもない事を言いだした。


「『銀鱗翼竜ケフロイヤ』様、諦めないでください。

 その怪我を、なんとかします」


 この場に居合わせたんだ、なんとかしなければ。


 ”敵の攻撃のせいではない。

 もう寿命なのだ、奴らはそれを知って襲ってきた。

 妾が消滅するには1年早かったが”


「寿命?

 不老不死では無かったのですか」


 ”妾とて生き物ぞ、死す定めは持っている。

 600年生きれば死んで当然、どこぞの狐と一緒にするな”


「600年?

 ですが、もっと古くから『銀鱗翼竜ケフロイヤ』様はいらしゃったのでは」


 1000年以上前の記録もあるはずだ。


「妾はそこまで年寄りではない。

 母上たちであろう」


 母上?

銀鱗翼竜ケフロイヤ』様は世代交代していると言ったのだ。


「他の守護竜ガーディアンドラゴンにも寿命があるのですか」


 ”当たり前だ”


 守護竜ガーディアンドラゴンに寿命がある。

 俺はその事に衝撃を受けている、守護竜ガーディアンドラゴンは不死だと思っていた。

 魔王軍に敗れでもしない限り存在し続けると、誰もがそう思っていたはずだ。

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