第45話 ケフロイヤ
”お前は面白いな、偽りの体を持つものよ”
『
でも、そんな事に驚いている場合ではない。
「ご自身のお体を気遣ってください。
寿命としても、先程まだ1年先と言われておいででした」
”いや、今眠らねばならぬ。
そこを見よ”
そう言って俺に『そこ』を伝えてきた。
念話というより、ピノやビチュレイリワの能力に近い。
『そこ」の壁を見ると、楕円の石がある。
これは卵だ、洞窟で見た封印された卵とそっくり、ただ2周りほど大きい俺の身長を越えている。
さっき黒竜が探していたのはこれか。
世代交代するとおしゃっていたから、これは『
「まだ卵が孵っていないのであれば、なおさら生きなければなりません。
我が子を置いて行かれるのですか」
”わははは。
残念ながら、妾はその子の誕生を見ることは出来ぬ。
母も妾には会わず消えていった。
『
よく見よ、時が無い”
促されもう1度見るとひび割れがある、先程の戦闘の影響か。
”今、この世に出してやらねば我が子は死ぬ”
そうなれば『
”偽りの体を持つものよ頼みがある。
今生まれれば、子は弱い、本来の力が戻るまで我が子を守ってくれぬか”
『
膝を付き、頭を下げる。
「私の真の名アトロフにかけて、その願い謹んでお受けいたします」
”よい”
俺の返事を待って、『
その光の粒子は卵に流れ、吸い込まれてゆく。
もうすぐ孵るだろう、俺は卵の前へ立ってその時を待った。
徐々に小さいビビが増えていき、一気に殻がくだけた。
中には、裸の女性が立っていた!
はっ?
<誤認の可能性あり。
認識能力への干渉のが考えられます。
セルフチェック・・・異常なし。
見えている情報に間違いはありません>
美女が倒れてきたので受け止める。
体にはしっかりした重さがある、本物の人だ。
<私にも人としか認識できません>
振り向いて『
もうかなり薄い影になっていて、もうすぐなくなってしまうだろう。
立ち上がる光の粒子は、今も俺の腕の中の美女に注がれている。
何も考えられない、ただその光景を眺めるだけだ。
最後の光りの粒子が立ち上がり、『
その跡に人の骨が見える。
・
・
・
(人の骨だよね)
<形状はそうですね>
近づいて見る。
すでに灰になっていたらしく、俺が近づいた微かな振動で砕け、舞い上がった。
だが地面には人の型が残っている。
起こっている事が俺の許容を越えている。
(整理しよう、ピノ手伝ってくれ)
<私も、今自分の能力を信じられません>
[ヨガもピノも、正常です。
起きている事が異常なのです。
ヨガが判っている事を上げてください]
(1つは、
[骨も残さず消えるなら発見されないので、不死と考えられていていたのですね]
(多分、腕の中の美女が次世代の『
[私もそう判断しています]
(この子の保護を『
[その件に関しては明確な目標が示されておりません。
また、
”感謝”、”歓喜”、”嬉”、”謝意”
一斉に複数の小さな声が頭に響く。
今度は何が起こった。
すぐにわかった、洞窟から小さなドラゴンが飛び立って征く、洞窟の中でドラゴンが孵ったのだ。
洞窟の中を覗いてみると全部の卵が孵っている、作業していた者も入り口付近に出て空を見上げている。
彼らも混乱している。
なにせ『竜騎士』からのドラゴンの卵奪還という大きな作戦中に、黒竜の襲撃があり。
そして運ぶ予定の卵からドラゴンが生まれてしまうという事が有ったのだから。
流石に選ばれた者達、混乱しながらもこの場を急いで離れている。
洞窟で何が有ったのかのは、彼らが公爵様へ報告するだろう。
火口での出来事は、俺も何が有ったのか理解していない、報告はやめておこう。
先程の『竜騎士』のドラゴンが俺の前に下りてきた。
”誕生、歓喜、友人、賛美、感謝”
ドラゴンが生まれ嬉しいらしい、でも1体しかいない。
「もう1体は」
”死別、悲しい”
「死んだのか、残念だったね」
”感謝、自己、意思、自由、選択、伝達”
伝えようとしてる事はわかる、最後に自分を取り戻せたのを感謝していたと。
ドラゴンは俺の腕の中で眠る美女を見つけ。
”同族の主、不安、疑問”
「先の『
”次王、安心、信頼、依頼”
彼女が何者か判っているようだ。
[ヨガ、『竜騎士』が来ます]
次々に来るな。
距離が有ったので俺は気づけなかったがので、ビチュレイリワが知らせてくれた。
"憎悪、汚れ、復讐"
「待った、『竜騎士』と戦うつもりなのか」
"開放、依頼、開放、救う、依頼”
『竜騎士』20人か、一度に全員の開放は無理だ。
俺がマナを変えている時、他の『竜騎士』が大人しくしてるとも思えない。
「今は無理だ。
方法を探してみるから、それじゃダメか」
"約束、信頼、協力"
その時は協力してくれると。
「それより、今飛び立ったドラゴン小さかったけど、自分で生きられるのか」
俺より小さかった。
"可能、強力、誇り"
「そうか大丈夫か、後はちゃんとした『竜騎士』を選んでほしいな」
"不安、指導”
慌てて飛び立ってゆく、自分のような『竜騎士』を選ばないか不安になったようだ。
先輩として忠告をするため、先に飛び立ったドラゴンを追って行く。
俺は急いでリーシェさんとキューさんのところに向かう。
2人の無事は、認識能力でずっと捕らえていたから知っていた。
でもキューさんが泣き崩れている。
「キキットが、キキットが」
原因は前に広がる惨状だ。
俺達に割り当てられた卵を運ぶため、2人はここで馬車を用意して待っていた。
そのまま国を出るつもりでいたので、自分達の馬をそのまま使っていたが、それが災いした。
馬や荷台が吹き飛ばされている。
「黒いドラゴンに襲われて、全部燃やされてしまった。
キューさんのキキットもその時に」
キキットはキューさんがラーディから乗っていた愛馬だ。
かなり可愛がっていた。
リーシェさんの乗っていた軍馬も吹き飛ばされている。
(軍馬は動かせない?)
<無理ですね。
動力系が死んでます>
[軍馬は予備で1頭近くに待機させています。
もうすぐ着くので待っててください]
「キューさんしっかりして」
肩に手を乗せ声をかけるが、手を振り払って泣き続ける。
「ビチュレイリワが軍馬を近くに待機させていたって、もうすぐくる。
リーシェさんはキューさんと一緒に乗ってもらいたい」
「それはいいけど」
リーシェさんの視線は俺が抱えている美女に向いている、それはそうだよな。
「俺も良く判っていないけど、『
後で説明するから」
「わかった」
納得してないようだが、ここを早く離れよう。
卵を隠すつもりで用意してた毛布が無事だったので、それで眠れる美女を包む。
そう言えば俺もドラゴンに着ていた服を燃やされ裸だった。
早く着替えよう、リーシェさんの視線が冷たい。
ーーーーー
リーシェさんがキューさんと、俺が裸の美女とに別れ軍馬に乗る。
西に向かって高速で移動したいが、夜が明けると目立つので普通の速度に落とす。
もう1日走り続け、国境付近の街に宿をとった。
リーシェさんにお願いして先に街で古着を買ってきてもらっている。
キューさんはまだ復活していない。
部屋にはベッドが2つ有り、1つは眠る美女が横になっている。
あれから1度も目を覚ましていない、寝息はしているから寝てるだけだと思うが、いつ起きるのだろう。
キューさんも泣き疲れて、もう1つのベッドに眠っている。
眠る美女は、背丈は俺より少し低い感じで女性としては大きめ。
髪は金、そこは銀じゃないかと思ってしまうが。
大人の女性で、見た目はともかくリーシェさんよりは年下だと思う。
リーシェさんが可愛くて、キューさんが女性らしいなら、彼女は豪華で野性的印象。
そして2人とは、また別の美形。
俺は冷めた目のリーシェさんの前に座り、何が有ったのかを話し始めた。
・
・
・
「なに、それ。
その話を信じろと」
「無理かもしれないけど、これがホントの話なんで、他に言いようがない」
<ヨガは真実を話しています>
「ピノが言うなら本当か」
ひどい。
「何で俺より、ピノを信じる」
「だってピノは嘘を言う理由が無いもの」
俺にも理由は無いですが。
「その話が本当なら
死んだ『
「骨と言うより灰だったけど、人骨の形をしてた。
だから彼女が『
でなければ、俺をからかってると考えてしまう」
「その、可能性はあるの」
「無いと思うが、
「本来、人が関われる物じゃないからね」
「そう言われているね。
でも前の対戦では勇者と一緒に戦ってなかった?」
「『
でも勇者だかこそ背に乗せたのかも。
それに、この話に出てくる『
あれ、勇者ミハイロファンはアルテミラルの初代国王だったな。
「何で『
「それこそ、国なんて人の営みに興味が無かったからかな」
「国境に意味があるのは人だけか。
その国境だけど、どうやって抜けようか」
明日には、カリギュナー王国を出れる街にいる。
俺達冒険者だけなら、出国に問題はない。
問題は冒険者じゃない彼女をどうやって一緒に連れ出すかだ。
『
良い案が浮かばない、しばらく2人で考え込んでしまった。
「公爵様の依頼書が使えないかな」
公爵様から渡された依頼書とは、今回卵を運び出すために用意してもらったものだ。
冒険者だけならすぐ通してもらえるだろうけど、馬車は怪しすぎる、荷物も厳しく調べられると思われた。
だから依頼を受けた事にして、卵を運ぶ計画になっていた。
依頼書に公爵様の名前はないが、国からの依頼になっている、優遇してもらえるはずだ。
「依頼書をどうするの」
「ヨガ、中身読んでないの」
「一応読んだよ」
「あの依頼書には、運び先は書いてあって国印もある。
でも何を運ぶかは書いてない、それでよけいな詮索するなという意味になるらしい」
荷を調べられないようにするため、そんな依頼書を用意してもらっていたのだ。。
「私達は、彼女を運んでる事にするの。
そうすれば眠ったままでも、通してもらえるだろうから」
「リーシェさん、それいい考え」
翌日の打ち合わせをして、3日ぶりに眠った。
「なんだ、あれわー」
翌朝はキューの大声と、踏んづけられてる痛みで見が覚めた。
キューさん復活したようで、良かった。
昨夜と同じ事をキューさんにも説明。
リーシェさんも見てないで、助けて欲しい。
・
・
・
「彼女が『
なんで嘘と思うだろう。
<ヨガは真実を話しています>
「え、そうなの」
そして、なんでピノなら信じる。
「その者の言うことは本当だ。
我が名はケフロイヤ、誇り高き銀の翼を持つものだ」
あ、起きた。
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