第4話 魔法と強化
夜になりベッドに入るとすぐ、ビチュレイワから
[起きてますか。提案があります]
(なんで毎回この時間?)
[リンクが不完全なので周りに音が少なくなる、この時間が都合いいんです。
いずれ昼間でも問題なく会話が可能になります]
昼間に話したいわけじゃないんだけどな。
[腹部の機能構築は昨夜に終えて、腕の修復も明日の昼間には終わります。
あなたにはきのう『元の組織と違う人体改造』の許可をもらいました。
この追加条件を検討した結果、観察対象として貴方は再評価されました」
(何言ってるかわかんねえよ)
[こんなに都合のいいのは、今後手に入らないかもしれないから。
出来るだけ死なせないようにしよう。
となりました]
(わかった)
[機能強化を提案します。
強化は『現地人の能力』、及び『現在の貴方から著しく乖離しない』という範囲で行います。
身体能力を強化し、補助頭脳を追加します。
追加した補助頭脳には、剣技と魔法の高速シーケンスを入れます。
剣技は、今の剣の使い方を元に構築したものです。
これで、今までよりロストする確率が低くなります。
代わりに、積極的に多様な経験をする事を希望します。
この提案を受けますか]
言ってる事がわからないところもある。
(要は強くするんで、代わりに色んな事をやってくれと。
俺が提供するものは、今までと変わらない。
で合ってる?)
[合ってます]
(やっていいよ)
[では、起きて枕元に置いた追加資材を食べて下さい]
今日は体動かせるんだ。
上半身を起こして枕元を見る。
紙にくるまれてた四角いものがある。
中を見てみると、焼き菓子のようなものが入っていた。
1口食べてみる、やはり軽い焼き菓子だ。
でも味がしない。
全部食べて寝た。
ーーーーー
休み2日目、今日は冒険者ギルドに行く。
入り口近くの依頼の窓口の脇の壁には、ランク毎に依頼が張り出されている。
冒険者は自分が受けようと思った依頼を、受付に持っていき手続きをする。
奥の討伐鑑定窓口の脇には、ここに持ち込まれたことのある魔物の情報が貼り出してある。
持ち込みが有ったということは、自分たちが出会う可能性のある魔物たちだ。
今日の目的はこれだ。
ゴブリンから1回しか持ち込まれていない珍しい魔物まで数十貼り出されている。
書かれている内容はバラバラだ、判っていることが書かれているのだろう。
ゴブリンの情報が豊富なのは当たり前として、ここには1回しか持ち込まれていないワイバーンの情報もそこそこ有る。
ギルド全体で情報を共有しているのだろう。
すべての魔物には最低限の情報は書かれている。
後からきいいたが、本当に珍しいと目撃者の情報を絵だけにしたのもあるらしい。
幸いここにはそんな魔物は張り出されていない、ハバルが初心者向けと呼ばれる理由だろう。
全てに絵があり、名前、討伐部位、いる場所、判っていれば弱点も書かれている。
後追加報酬の部位が、有るものがある。
ヴモグは肉の方が討伐部位より高い。
同じ量ならゼルフルよりも高価じゃないか。
思わず
「ヴモグの討伐部位、肉にしてくれてたら良かったのに」
思わず声が出ている。
聞こえたらしく、受付の女性が
「1回で全部持って来るのが難しいからです。
1匹を倒して、肉を数回に分けて持ってくるやからが出ないようにです」
なるほど、追加報酬ではポイントはもらえない、不正ができないよう討伐部位は決まっているのか。
窓口に冒険者はいない、受付の女性は暇にしている。
近づいて疑問に思ってた事を聞いてみた。
「どうして鑑定の窓口が奥に有るんです。
結構重いものも持ち込まれるじゃないですか、依頼窓口と逆なほうが便利じゃないですか」
女性は質問の意図を判ってくれたらしく、少し身をのりだして小声で
「その討伐部位を他の冒険者に見せるためです。
自分たちの討伐した成果を見せびらかせて、自尊心を満足してもらうように。
その方が、やる気出るでしょう」
「受付に若い女性が多いのも、冒険者に男性が多いからです」
ーーーーー
リーシェさんと話し合いで、無理しない狩りをする事にした。
日帰り、弱い相手を数多く、赤字にならければ良し。
以上の3つの方針で行く。
1回の狩りで、2、30のポイント。
報酬はバラツキがでるが、一応毎回50テル以上は稼いでいる。
1日狩りをして翌日休む、という無理のない日程えを繰り返していた。
順調にポイントを稼いでいる。
それに気を良くしたのか、タルクさんから宿代はいらないと言ってくれた。
各自のポイントが200を超えた夜。
[よろしいですか]
久しぶりにきた。
[人体強化が完了しました。
詳細はナノマシンに聞いて下さい]
<はじめまして、ナノマシンです>
別の女性の声がしてきた。
今まで話していたのより少し若い。
(彼女は?)
[貴方の体の中にいるナノマシンの総合管理機能です]
俺の中?
そういえば、目に見えないほど小さいなにかを体ん中に入れたって言ってたな。
[今後、体の事に関してはナノマシンに聞いて下さい。
私は能力を本来の業務に割り振り直します]
(覗くのをやめるのか)
[貴方の監視は、私の最優先事項です。
やめません。
貴方の体の管理をナノマシンに任せ、他にもやるべき事を行えるようにします]
(ナノマシンって女性なのか)
[いいえ。
ナノマシンに性別はありません。
このような状況では、異性の声の方が受け入れられやすいという判断で女性の声にしました]
(もしかしてお前も)
[はい、そうです。
男性の声の方がよければ、変えますが]
(もう慣れちゃったからこれでいいや。
ナノマシンというのは新入さんの名前なの)
[ちがいます。
ナノマシンには人権申請を行えるほどの容量はありません。
固有名を持っていません、話す道具だと思ってください]
(話す道具って、魔法道具みたいな。
でもそんな魔法道具には、普通名前が有るぞ。
それに愛着のある道具なら、持ち主が名前をつけるし。
まして俺の体の中にいるんだろう、一生付き合わなきゃなんないし。
名前なしじゃなにかと不便だ)
[前例は有りませんが、認識用に名称が欲しいのであれば、名前を付けてもかまいません]
(俺が)
[かまいません]
(じゃピノ)
<判りました、今後はピノと名乗ることにします>
<ではピノから、現在の状況をお知らせします。
体の修復、改修が終わりました。
監視機能の構築も終了し、今後はより詳しい観測が可能になりました>
(今まで、覗いていなかったの)
<生命維持を優先させていたため、暫定的な情報しか収集しておりませんでした。
今後は本格的な観測できます>
そうですか。
<次に能力の強化ですが、速度を20%、力を50%上げました。
また、補助頭脳の生成にも成功しています。
以前にご説明した通り、今の剣の使い方を元にして剣技を構築しました。
その剣技が入っています。
ギルドで以前見た魔物の資料。
インパクト魔法の手順を高速化したシーケンスを記録させています>
[他にも魔法書は確認したので、随時追加は可能です]
(どうやって見たの)
[魔法ギルドに図書館があるという情報を得ましたので、各地の魔法ギルドに監視モジュールを取り付けました]
お得意の覗き見か。
<補助頭脳とのリンクを繋げます。
補助頭脳には思考と判断の機能はありません。
純粋に情報のみ記録されています。
ただし今までの自分の記録との区別は不可能です。
では、心の準備をお願いします>
(いいよ)
いきなり、いろんな事を思い出した。
ギルドでななめ読みした、魔物の情報まで全て詳細に覚えている。
インパクトもほぼ唱えるだけで使えるんじゃないか。
(これは、言っていたズルにならないのか?)
<全てこの地にある情報です、追加しても問題ありません。
ただし、覚える機会のない情報を知っているのはおかしな事になるので、貴方が習得のチャンスがあったものだけにします。
1度見聞きしたものは、確実に覚えることが出来るようになりました>
<これらの強化だけでは、この地ではまだロストする確率は高いです。
高位の魔物には力がたりません。
低いレベルの魔物でも、急に襲われれば対処がおくれます。
私としては、これは避けたいと考えています。
優秀な冒険者は気配によって、敵の存在を予測しています。
残念ながらこの仕組は解明できておりませんが。
貴方にはこの能力があるという設定にし、私の観測能力でとらえた危険を教えるようにします。
これにより不意打ちを受けたり、間違った状況判断をしないですみます>
[問題がありますか]
(ありません)
ーーーーー
一段と狩りが、楽になった。
半径200歩ほどの中にいる魔物の種類と個数が判る。
いきなり襲われることも、2つのグループに挟まれる心配もない。
効率のいい倒し方も出来る。
体は少しだけ強くしたという話だが、体感では2倍くらい強くなった感じだ。
剣の使いかたも無駄が無くなっている。
「どうしたの、何かあった」
流石にリーシェさんに聞かれる。
「なんだか、つかんだっぽい」
と言って誤魔化した。
あんまりやりすぎないようにしよう。
近くのゴブリンが俺たちに気がついたらしい、ゆっくり近づいてくる。
リーシェさんに教える。
試してみるか。
魔法の届くところまで来たので、手を向けて。
「インパクト」
と叫ぶ。
「短詠唱出来るの」
リーシェさんが驚いてくれたが、魔法は発動しなかった。
俺の声を合図にゴブリンが襲ってくる。
1匹なので、剣であっさり倒す。
「調子にのらない」
リーシェさんに怒られてしまった。
(どういうこと?
出来るんじゃなかった)
<出来るはずですが>
「インパクト」
今度は小声で近くの木を狙ってみる。
魔法が発動した感覚がない。
<調査します>
魔法は当てにしないほうがいいらしい。
今日は十分に稼げた。
宿に戻り、魔法の件を聞いてみる。
(どうなってんの、危ないじゃないか)
<危険はなかったはずですが>
そうだけど。
<マナのエネルギーの転換が行われませんでした>
(マナの動きが判るの)
<はい。
検出可能です>
[まずは、判っている事を整理しましょう。
貴方は魔法をどう思っていますか]
(俺の体には魔力の元があって、それをマナとよんでいる。
このマナを決められた呪文や動作で、別の力に変えている。
といった感じかな)
[私の、情報を提供しましょう。
この地では、地中から特殊なエネルギーが放出されています。
あなた方の言い方に合わせ、マナと呼びましょう。
このマナは、以前別の地域でも確認されていました。
ただし、そこと比べここは千から1万倍ほど濃度が濃いです。
マナは、全てのものを通り抜けるため、採集・保管ができません。
最近になりやっと計測のみ可能になったばかりです。
マナは生命体の中に蓄積される性質を持ちます。
蓄積量はその生物の種類により異なり、個体での差は余りありません。
マナは思考と強い結びつきを持ちます。
思考パターンが条件になって指向性を持ち、多様な性質のエネルギーに変わります。
この地ではその変化は観測できたもので、300パターン以上あります。
発見された場所では、長距離の通信にのみ使われていました。
魔法に発展しなかったのは、蓄積されるマナの量がここより遥かに少ないためです。
マナの蓄積量は、周りにあるマナの総量に影響されると推測しています。
呪文や動作はその思考をより明確にするものでしょう。
補助頭脳に記憶したシーケンスは、その手順を省いても同じ思考が出来るようにしたものです]
確かに使った時、魔法発動への流れは問題なく思い浮かべられた。
[実は以前義体を使って魔法を試みましたが、マナを蓄積できませんでした。
義体が生命でなかったためと推測しています。
また、小さな生命にもマナは存在しますが、魔法を使うにはある程度の知性が必要なようです。
魔法の使用状態を詳細に観測できたのは、貴方が初めてです。
まだ情報が不足しているのです]
なんだ、俺で試してたのかよ。
両方使ったことのある、俺が一番判りそうなのか。
あのシーケンスとか言うのは、完璧だったと思うな。
なんで発動しなかったんだろう。
使った仕組みに問題があるのか。
魔物の知識は完璧だったよな。
あと剣の使い方か。
(剣の使い方どうだった。
おかしなところなかった?)
[そのようなデータは取れてい無いですね]
<設計された動作に対し平均で96%と確認されています>
[体調にもよります。
96%は許容範囲です]
<逆に測定中一瞬、想定された値より高い能力をしめした事があります>
[それも、ありえます。
先読みや、筋肉が思考前に動作を開始する事で想定以上になります。
同じ条件を繰り返すと、その傾向があります]
このやり取りを聴かせているのは、彼女らなりに俺に説明してくれているのだろう。
(体が覚えるというやつかな)
[そう言われるものと考えて良いと思います。
でもそれが魔法とどう関係しますか]
(シーケンスは実際には、俺の頭の中には無いんですよね)
[そうです]
(剣術は体が覚えてないから、完全に使えないなら。
魔法は頭が覚えていないから発動しないのかもしれない。
シーケンスを何回も繰り返せば、俺の頭ん中で覚えるんじゃないかな)
[それは、やめてください。
発動しないシーケンスを繰り返したら、魔法が発動しないと記憶に定着されてしまいます]
[貴方の言った仮説は検討に値します。
脳に直接、記憶させてみたいですね。
協力をお願いできますか]
(そんな事出来んの)
[可能です。
一度に大量の情報は無理ですが、魔法シーケンス程度なら100くらい問題なく行えます。
ただし、実施するのはイレギュラーな事が発生しない睡眠時に行います。
インパクトの魔法で試してみたいです]
(許可)
[要求する前に言われても、困ります。
すいませんが、正しい手順でなければ問題になるので、私が要求した後にお願いします]
面倒くさいな。
[魔法インパクトのシーケンスを脳へ定着させます、よろしいですか]
(許可します)
翌日からインパクトのシーケンスは、すぐに使えるようになった。
試しに精霊魔法も可能かと聞いてみたが
[精霊魔法、神聖魔法には魔法書がないのでどんな思考で魔法を使っているか判りません。
使う場面は何度か観察しているのですが、その方法は全く不明です]
『血』や『祈り』を理解できていないんじゃないのか。
中から覗こうとするはずだよ。
ついでに。
(精霊って見えているの)
と聞いたら。
<残念ながら観測できておりません>
と言われた。
やはり彼奴らにはロマンが判っていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます