第5話 毒を飲まされました
狩りは、かなり順調に行えていた。
装備も少しずつ整えている。
最近リーシェさんはピアスを変えたけど、あれは買ったのかな。
幼く見えても大人の女性、綺麗な宝石は好きなんだ。
小さな小さなキズが見えるが、品はいい。
1つ星の冒険者に、手が出せるものではないと思うけど。
リーシェさんが査定窓口に行くと、毎回ギルド長が出てくる。
最近では、リーシェさんを見ると担当が横に席を移動している。
「すげえな、リーシェちゃん」
「『ちゃん』じゃない」
毎回これで始まる。
「これで2人共400ポイントを超えた。
後2回か3回狩りに出れば、見習い卒業か。
俺がおごる、シルスの酒場で祝いだ」
100ポイント毎に祝っている。
俺は酒が強くない。
乾杯だけ付き合って、後は食べる。
「リーシェちゃんと、そのお供の無事な帰還に乾杯」
「『ちゃん』じゃない」
の掛け声で酒杯がぶつかりあう。
毎回バーナーさんとロウントさんが来る、2人とも本来かなり忙しい人達だよ。
最近では1口目が美味しいと思えるようになってきた。
それに今日は喉が乾いているし、一気に飲みほした。
ーーーーー
ベッドの上で目が覚める。
前にもこんな事あったな。
「気がついた」
リーシェさんが、俺を覗き込んでいる。
「リじぇ」
リーシェさんと、言おうとしたが声がでない。
「水を飲んで」
リーシェさんが、水を飲ませてくれた。
美味しい。
「2日間、目を覚まさなかったの」
「済まない、俺達がいながら」
バーナーさんが、彼女の後ろから謝る。
「酒に『飛びサソリ』の毒を入れられていた。
ご丁寧に、この辺には出ない魔物の毒を使ってきやがった。
運良く、エルフェースから来た冒険者がいて、そいつが解毒剤を持っていた。
そうじゃなければお前死んでたな。
酒場の女の子が1人と、その家族の居場所がわかんねえ。
畜生が」
バーナーさんは怒りが収まらない。
「解毒剤を飲ませたあと、治癒を施してくれて何とか命がつながった」
「2日間眠りっぱなしだったから、このまま目を覚まさないんじゃないかと心配していたわ。
大丈夫?」
代わりに腹の虫が返事をした。
リーシェさんは少し笑って
「何か作ってもらうわ」
「俺が持ってこよう」
ロウントさんが出ていった。
その間に、リーシェさんが上半身を起こすのを手伝ってくれる。
武装した冒険者の姿がみえた。
守っていてくれたらしい。
スープが運ばれてきた。
リーシェさんが食べさせてくれる。
恥ずかしいので、自分で食べようと手を出そうとしたが持ち上がらない。
まだ毒の影響があるらしい。
ゆっくりとスープを飲ましてくれた。
「ここまで来ればもう大丈夫だろう。
リーシェちゃんも帰って休みな、ほとんど寝てないだろう」
確かに顔に疲れがでている。
「もう大丈夫。
休んで」
少し食べたからか、声が出せる。
「お父さんごめん、今日も帰れない。
私はここで休ませてもらう」
入り口付近にタルクさんがいた。
泣きながら、こちらを見ている。
そんなに心配してくれていたんだ。
バーナーさんに肩を叩かれ、一緒に外に出てゆく。
他の人も出ていった。
横にしてもらい、目を閉じた。
すぐに寝息を立て始める。
体は眠りについても意識はハッキリしている。
[すいません、あなたをロストするところでした]
(俺は、もう大丈夫なの)
[はい、生命の危機は回避しました。
それも機能強化をしていなければ、出来なかったかと]
(毒をもられた?)
[酒に入っていました。
物理的な脅威のみを警戒していました、すいません]
<今後はどんな毒を飲んでも影響のでない体に改修しました>
(どんな毒でも?)
<外見に変化はありません、また消化・吸収の機能も以前以上の能力を持っています>
(そんなこと言った記憶があるな)
[身体の保護はピノにまかせました。
私は、あなたの敵の動向を、探る事にしました。
その方が、手間が少なくてすみます]
(敵ねえ、誰だったの)
[あなたの兄 ミツル]
やはり、そうか。
(エルフェースの冒険者もグルだったんじゃない)
[ええ解毒剤と渡されたものも、毒でした。
しかも最初の毒とは、性質が全く逆のもの。
そのせいでこんなにも時間がかかってしまったんです]
(その冒険者はまだ街にいるの)
[います。
この冒険者と連絡を取っている男がいます。
この男は、最初にあなたを襲った2人を殺しています。
あなたと契約をした時に、2人を追尾していました。
その時は2人が殺されたので、追跡を止めていたのですが。
今回は全て調べています]
[男の名前はロイド。
ミツルの側近イシューリフが使っている男です]
(イシューリフは知ってる、紳士風の人だったね。
まあミツルのそばにいるんだから、見た目通りの人だとは思ってなかったけど)
[全ての関係者の周りに、監視体制を作りました。
もう私の邪魔はさせません]
(どうすんの)
[計画を事前に察知して、あなたに教えます]
(殺ってくれないの)
[なにを言うんですか。
私はこの地への過度な干渉は、禁じられています。
出来るわけないじゃないですか]
(強化された俺が、兄を倒すのはいいの)
[あなたの強化は、この地にありえる範囲でしか行われないので、問題ありません]
(ありえる範囲ね)
[まだ強化が、必要なようです。
ただし、あなたが急に強くなるのは不要な注目を浴びてしまうので、注意しながら行います]
(勇者クラスになったりして)
[勇者はかつてこの地に存在しています。
あなたがなっても問題ありません]
びっくりした、強化の上限を勇者と考えられていたとは。
[なにか判れば知らせます]
(お願いします)
(ピノ周りの状況を教えて)
ギルドの周りの状況が認識できた。
リーシャさんは、ベット横の床で毛布にくるまって眠っている。
部屋の外やギルドの建物は、冒険者で警備されている。
襲撃に備えてだろう。
翌日は、立ち上がることができた。
流石にまだ力が入らない。
リーシェさんが今晩も床で寝ると言い張る。
「そんなに俺といたいなら、同じベッドに寝ますか」
と言ったら、バーナーさんに殴られた。
隣の部屋で寝てくれる事になった。
数日して、普通に動けるようになったので、宿に戻る事にした。
バーナーさんはもっといろと言ってくれたが、辞退させてもらう。
気が休まらない。
出ようとした時、ちょうど解毒剤をくれた冒険者がギルトに来た。
心配で、毎日見にきてくれていたらしい。
「解毒剤、ありがとうございます。
おかげで助かりました」
と、礼を言うと、驚いた顔で
「金は貰っているから礼はいらない」
その顔をするようでは二流だな。
これで、また兄に動きが出るだろう。
宿に戻ると、街の冒険者で部屋が一杯になっている。
みんな、この宿に泊まる必要なんかないのに。
これは、侯爵に対して見せつけているらしい。
今回の犯人を、侯爵だと思っての行動だろうな。
夜はビチュレイワと作戦会議になった。
[起きてますよね]
(寝れないようにしてるのは、そちらでは)
[情報を共有しましょう。
昼間合った冒険者から、ロイド、イシューリフを通してあなたが死ななかったとミツルに報告されました。
失敗したことを怒り、実行した冒険者を殺すよう命じています。
残念ながら酒場の女性とその家族は、すでに亡くなっていました]
(殺しすぎだ)
[彼を快く思っていない人は多くいます。
あなたのお姉さんのジルもその一人です。
ミツルがどうして、あなたが1度めの襲撃を生き延びた事を知ったかわかりました。
前回ロイドは、あなたが死んだと思ってその場から離れています。
そのままなら、生きていたとは知らなかったはずです。
冒険者ギルド内では、目ぼしい新人を教え合う習慣があるようです。
2人は冒険者になれば、すぐ他の地に行くのが決まっていましたので、早めに伝えていたようです]
(殺されそうになったのは、バーナーさんのせいか。
ならもっとギルドの世話になってもよかったな)
[ジルの夫は、エルフェースの冒険者ギルドの上役です。
彼女はここであなたが期待の新人になっている事を知り、その情報を領民に流していたようです。
人々は英雄を好みますから。
あなたは領地で結構人気があるんですね]
(俺は望んでない。
それで殺されかけるなんて)
[それにミツルの無謀な行動を助長している原因は、あなたの父親のサビツオーニにあります]
父は伯爵だ、呼び捨てにされるのを初めて聞いた。
国王でさえサビツオーニ卿と呼ぶ、新鮮だ。
厳格な父は、息子の俺でさえ近寄りがたい。
無口なため、一層冷たい印象を持っている。
[あの小物感はないですね]
は?
[だいたい自分を過大評価しすぎです。
何が起きているのかは全て知っているようでした。
この街にも彼の手の者がいます。
貴族の社会では策略、謀略は当たり前にあるとミツルの行動を見て見ぬふりをしています。
その罠を乗り越えた者が、自分の後継者にふさわしいと、それっぽい事を言っていましたね。
でもそれは単に決断ができないだけです。
ただ見ているだけ、そしてそれに言い訳ばかりをしている]
そんなふうに見たことはなかった。
[自分の役割に対し、義務を遂行する能力がない人は大変ですね。
しかも出生で決まっている場合、放り出すわけにもいかない。
自分を正当化して誤魔化すしか、なくなるのですね。
高い地位のものには能力を求めないといけない、よいサンプルになります]
辛辣だな、でも気持ちがいい。
[すいません、脱線しました。
そんな状態ですので、ミツルの行動を止める人は誰もいません。
今度は、死体を持って来いと騒いでいます。
無論私は介入できませんし、あなたでは剣が届くところまでミツルに近づく事もできません。
しばらくは一方的に殺される事になります」
(一方的か、何度も失敗したら諦めないかな)
[諦めると思いますか]
(希望を言ってみただけです)
[ロストする危険が高いので、その案は採用できません]
(俺が死ぬまで、諦めないだろうな)
[そう推測されますね]
しばらく考えたが、いい方法が見つからない。
ふと窓辺で何か動く。
一瞬緊張するが
<大丈夫です>
の声で緊張を緩める。
ピノが見張ってるんだった、危険があれば事前に知らせてくれる。
木戸には鍵がない、外から器用に開けて小さな生き物が入ってくる。
リスのようだった。
よく見ると何かを持っている、それはあの味のない焼き菓子だった。
ベッドをよじ登り、菓子を置いて俺の前で止まる。
[解毒ユニット生成のため、特定の部質が不足してしまいました。
食べて補充してください。
不足した物だけの供給は考えていなかったので、その形態でしか供給できません]
ミツルたちの詳細な情報を、どうやって調べているのかわかった。
(こいつらを使っているのか)
[そうです、これらなら怪しまれずに情報収集が可能です。
屋外ではリス、室内ではネズミを使っています]
(他にもあるの)
[ありますが、主にはこの2種類ですね]
(ナノマシンを入れて使ってるの?)
[知性のない動物から、ナノマシンのインストール許可をもらうのは不可能です]
(じゃ作ったの、生き物を)
神じゃないか。
[生命の制作は重大な犯罪です。
どんな理由があっても、1級隔離です。
するはずがありません。
これらは義体です。
個体に判断能力は持っていません、全て私が制御しています。
操り人形の、もっと高度なものと思ってください]
魔法にもそんなのが有ったと聞くな。
(人に捕まってもバレないの?)
[私が制御をやめれば、普通の死骸になります。
受信機だけは通常の生物と違いますが、食べられても問題ありません。
すでに獣に数個捕食されています]
(魔王軍に、ネクロマンサーと言って死体を動かすのがいたな。
それと同じか、気持ち悪いね)
[死体ではありません。
知能を持たない体を作り、それを制御しています」
(どのくらいの大きさまで作れるの)
[私の施設では人の2倍くらいまでですかね、本来人型擬体を作る目的のものですから]
!
(俺ソックリなの作れない)
[可能です。
本来は100日ほどかかりますが、すぐ動かなくしてしまうのなら、そこまで精巧に作る必要はないですね。
20日で作れます。
あなたには1度死んでもらいますか]
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