第22話 悪い話

 パーティー全員が2つ星になって、クランにも入った。


 だがやることが変わったわけじゃない。

 冒険者ギルドに行って依頼を確認、出来そうなのを受ける。

 その繰り返しだ、依頼完了でラーディに戻って来た時に、翌日休みなのも変えていない。


 俺はその休みに、魔境に行っている。

 軍馬が義体なので、その気になればものすごい速さで移動できる。

 見つからないよう夜に移動して、魔境を日帰りしているのだ。

 ハバルと違って出入りの門もない。


 魔境ではピノに丁度いい相手を、探してもらっている。

 俺より広い範囲を探せるのだ。


<オーガー2>

 相手を次々見つけてくれるので、密度の濃い訓練になる


<私も、他に支援する方法がないか考えてみました。

 こんなのはどうでしょう>


 前にいるオーガに重なって、数字と緑の横棒が見える。

 ピノがしているのだろうが、なんの役にたつのだろう?


 戦闘中にこの数値が変わる、緑の棒も長さが変わっていく。

 気が散る、なんだこれ。


 オーガーを倒した後ピノに聞いてみる。

(何が見えてたんだ。

 すごくやりづらかったんだけど)


<あの数値はオーガーの攻撃力と防御力で、緑の棒は倒れるまでの残りです>


(そんなのはやっていれば判る、なんで見づらくするの。

 そもそもこの数値はピノの予想だろ、合ってない可能性もあるじゃないか)


<可能性はありますが、今までの経験ではほぼあっています>


(今まで戦ったこと無いやつなら、逆に知りたい。

 それが当てにできないなら邪魔だけだよ)


<おおよそのところは判ります>


(そんなのは俺でも判るか。

 戦っている相手が少しでも見えなくなるのはイヤだ、この変なのはやめてくれ)


<判りました。

 船の資料にヨガがやっているような戦闘時の支援方法として記録がありました。

 有効な支援になるかと思っていました。

 すいません>


[ライブラリへの閲覧許可を求めて来た理由はそれでしたか。

 ヨガ、それは子供の遊びで行われていたもので、ここでは使えないと思います。

 ピノが支援するなら補助脳を強化したほうがよいでしょう、検討してみます]


 ビチュレイリワとピノの差が何となく判ってきた。

 ピノの方が単純なんだ。


 ギリギリまで俺の力で戦って、ピノの言う『リミッタ解除』をできるだけ行わないよう訓練を続けた。


 ーーーーー


 いつものようにボロボロになって、魔境からの帰りビチュレイリワが話しかけてきた。


[良くない知らせと、悪い話があります]


<体は私が預かります>

 ピノがそういった次の瞬間、別の場所に転送された。

 何処かの部屋で、大きなソファーに座っている。


(生きたままの転送が可能なのか?)


[ヨガの体は、軍馬の上から動いていません。

 今まで目と耳へ介入した事があったと思いますが、それを体全体に行っただけです。

 起きたまま夢を見ているようなものです、この方がゆっくり話ができると思いまして]


 話の内容にいい予感はない。

 だからこんな場所を作ったのか。


[良くない知らせと、悪い話があります。

 どちらを先に聞きますか?]


(普通こんな場合は、良い話と悪い話になるんじゃないのか)


[残念ながら、両方とも悪い話です。

 では、良くない話から。

 遠征ですが、行けない可能性が高いです。

 これは私にとって良くない話です]


 俺には、あまり悪い話には聞こえない。

 もともと自分で希望して行きたかったわけでは無いからな。


[ヨガ達がクランに入りましたが。

 その報告を聞いて、リーシェさんが4つ星になる前に、遠征を実施する事が決まりました。

 リーシェさんを危険な目に合わせないためです]


(遠征は少なくとも1年以上先だ。

 俺達はその前に、4つ星になればいいじゃないか)


[リーシェさんが、4つ星になる前に行く事になるんです。

 期間はいくらでも早める事が可能ですよ]


(俺達が半年で4つ星になりそうなら、その前に行く事になるのか。

 無茶苦茶だ、まともな準備はできない)


(彼らもヨガ達の実力なら、遠征の準備が間に合わない場合も有りえると考えたようです。

 なので、クランから指名依頼をして意図的にランクアップを邪魔する計画のようです。

 元々そうするつもりで、クランに入れたようですね)


(遠征に行けなかった場合、魔境の奥へ行かなくて良くなるのか)


[ヨガ一人で行ってもらいます。

 義体を用意しますので、危険はありません]


 ビチュレイリワはいくら強力な武力を持っていても、それを自分勝手に使用する事はできない。

 行使するためには俺が必要なのだ。


[ですが、遠征に参加してもらうのが一番良い方法です。

 何か方法がないか検討してみます]


 俺が1人で行くとは、ビチュレイリワの依頼で魔境の魔物を殺しに行くということだ。

 今までの彼女への制約から考えると、駄目な事ではないのか。


(これ国王から出ている命令なの?)


[直接口にはしていませんが、国王の意図に沿ったものですね]


(そう言えば、王宮を覗けるようになったの?

 以前は身分の高い屋敷にはなかなか入れなかったよね)


[対策しました。

 高位の人が小動物の侵入を避けるようにしていたのは、アニマル・コントロールへの対応でした]


 そうか、リーシェさんでさえ小鳥で監視されていたんだ、国の中央にいる人達へはもっと監視が厳しいか。


[小動物での監視は当たり前にあると考えられているようです。

 その対応として厳重な仕掛けが施してあったのです。

 ただその仕掛けのほとんどがアニマル・コントロール中の動物に発動するものだったため、義体には発動しません。

 何割かは成功していたので、罠の存在に気が付かなかったのです」


 アニマル・コントロール対策の罠は、魔法道具で作られた物がほとんどだろう。

 でも義体にはマナがないためそれらには掛からず、補助として置かれた一般的な罠にかかっていた。

 なら罠の意図が判らなくてもしかたがない。


[虫サイズの義体を使っています。

 流石に自然界の物と同じにはできなかったので、使用は制限されていますが]


 ビチュレイリワも色々頑張っているんだな。


 あ!

(なら、リーシェさんを監視している小鳥の出どころが判ったんじゃない。

 侯爵の屋敷も覗けるようになったんだよね?)


[残念ながら、侯爵の屋敷へは虫でさえ入ることができません。

 異常です]


(そうなんだ。

 侯爵の名前なんて言うの、リーシェさん口にもしたくないと教えてくれないから)


[グヴート・ダルリ侯爵ですね。

 そして2つ目の話は、その小鳥に関わりがあります]


[王都に行った帰りから、小鳥がいなくなったのを気づいていますか]


(気づいてたよ。

 何かあったの?)


[別の所で話が聞けました、ミツルのところです]


 そこで何故あの兄の名前が、悪い予感しかしない。


[ダルリ卿が遣わした使者との話の中でです]


 その2人がどうして繋がる!


「驚いた事に、ミツルはフルーフ王国の簒奪を考えていました。

 ただし具体的な計画は、全く無かったと思います。

 妄想と言っていいものです」


 どうしてそんな事を、バレれば伯爵家は終わりだ。


[使者が、その野心を羨ましいとダルリ侯爵が思っていると伝えています。

 野心と力がある者が、国の頂点にいるべきだとも。

 そう言われ、ミツルはまんざらでもありませんでしたよ]


(なぜ自分の思いがバレたのかを不審に思わなかったのか)


[彼の中では国王にとって変わるのは事実と一緒です。

 今までは具体的な計画がないのでバレるものも無かったのですが、異常な野心を持っているのは身近な者には知られていました]


 駄目じゃないか。


「使者は今の状況を打破するために、ミツルを支援すると申し出ました。

 1つの技術と1つの策を語ったのです」


「その技術とは、生き物の集団制御の方法でした。

 あの寄生生物ビッシュ・クラエテルを使う方法です。

 具体的にはビッシュ・クラエテルをモンスター・コントロールの術下に置き、そして分裂と寄生を行わせる。

 そうすれば1人で多くの対象を制御出来るようになる」


 これが、キラー・ビー襲撃の真相か。

 あの襲撃は、偶然ではなく、やはり侯爵のせいだったのか。

 集団制御の実験と、リーシェさんの誘拐を計画したのだろう。


「しかも使者は、寄生対象を人間に限定して話していました。

 これを使えば、近衛兵を一晩で寝返らせれると」


(なぜ、自分で使わない?

 自国の王家には忠誠があるのか、それともこの計画そのものはフルーフ王国への混乱が目的か)


[ダルリ卿の個人的な計画のようです。


 ダルリ侯爵家は古い家柄ですが、政治的に中央にはいません。

 他国を混乱させても功績とはならないと思うのです、彼がこのような事を行うのか推測できていません]


 確かに、こんな戦力の使い方は、フルーフ王国に混乱を招く程度で終わりだ。


[そこで策です。

 国王を運良く倒せても、そのままミツルがこの国を治める事は無理です。

 彼にはその実績や人望、威信はありません。


 そこでリーシェさんを后にすべきだと進言しています。

 古い王国の血筋の后がいれば、国王を名乗ることも可能だと。

 しかもアルテミラル王国との関係を築けば、反対勢力への牽制になりうるとも言っています」


(穴だらけの策じゃないか、成功するとは思えない。

 このアルテミラル王国まで巻き込むつもりか)


(ミツルは乗る気なのです)


 恐ろしかった。

 ミツルの無能さと、その行動力が徹底敵な破滅を引き起こす。

 その混乱は一国ですむ話ではない、下手をすればこの大陸中が巻き込まれる。


[侯爵はリーシェさんの事をかなり前から知っていて、小鳥を付けて監視していたと。

 この話で、あの小鳥が何の目的で監視していたのか判りました。


 この役目は、ミツルの片腕であるイシューリフが受け持つことになりました。

 今、この街にイシューリフの手のものが入っています。

 リーシェさんを、ミツルの元に連れ去るためです]


(大丈夫なんだよね)


[はい、全員に監視を付けています。

 何かの計画を立てた場合、すぐにヨガに知らせます。


 ミツルはリーシェさん本人に興味を持っていません。

 子供は彼の好みでないそうです。

 手下にリーシェさんを辱め抵抗出来なくしろとさえ命じています]


 アトロフの元相棒というのが、彼の苛虐的な性格を刺激しているのだ。


 俺は今ハッキリとミツルへの殺意を自覚した。

 リーシェさんへのミツルの考えを放ってはおけない。

 しかも忘れようとしていた、怒りまで思い出させてくれた。


(ミツルは絶対に殺す)


[遠征への妨害、ミツルの計画ともにリーシェさんが重要な役割を持っています。

 念の為に聞きますが、リーシェさんと別れる気は?]


(ない、有り得ない。

 前に逆の事があった時、リーシェさんは俺を見放さなかった)


[そうでしたが、それだけですか。

 ヨガの気持ちはどうなのです?]


(リーシェさんと一緒にいたいだけだ)


[判っています。

 では、なぜそれを彼女に言わないのです]


(言うさ、彼女にふさわしい男になったら)


[リーシェさんが王女様と判って、おくしているのですか]


(判る前からさ、俺は彼女にとっては少年でしかない)


[ヨガの考えは判りました、基本ヨガの意思にそって行動します。

 ただし忠告が1つ。

 ヨガの考えるリーシェさんにふさわしい男と、彼女の好みが一致しているかは、一度考えた方がよいと思います]

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る