第21話 入団

「1人でやっちまったのか」

 後ろからトゥールさんが声をかけてきた。


「自滅だけどね」

 疲れた、振り向く元気もない。


 でも、そうも言ってられない。


「逃げた商隊をつれ戻さないと、遠くまで行ってしまう。

 あとキューさんに来てもらって怪我人の治癒たのまなきゃ。

 俺は魔力が残っていない」


「すぐに行けそうなのは俺だけだ、行ってくる」

 ありがたい、トゥールさんが行ってくれるらしい。


「お前すごいな」

 今度は一緒に護衛をしていた冒険者が褒めてくれた。

 でも、剣聖はもっとすごいよ。

 あの一撃で到達できそうもない世界の存在を教えられた。


 まわりを見ると、怪我人がぞろぞろと集まってきていた。

 いつの間にか俺が、集合の目印にされている。

 その中にはケンテハルさんもいた。


「その亜種は、ジュエリー・ストーンだな。

 ほぼ宝石でできている、ヨガはこれで大金持ちだな」


「護衛中に倒した魔物は山分けだったろう、金持ちになれるならケンテハルさん達もだよ」


「俺達は、そこまで恥知らずじゃねえぞ」

「この人数で誰も1振りも当ててねえ、お前1人でやったんだろうが」

 まわりの冒険者から声が上がる。


「ヨガに俺達は助けられたんだよ。

 一方的にやられてこのざまだからな、戦闘にもなって無かった。

 さすがにこれで山分けはありえないな。

 みんなにおごれ、それでいいな」


 ケンテハルさんが話をまとめると、店中の酒を飲んでやると声が上がる。

 これで、この話は終わりのようだ。


「お兄様は、リーシェさんと後から来ます」

 とキューさんが来てくれた。


 トゥールさんとリーシェさんは商隊を護衛しながら来る。

 キューさんは治癒のため先に来てくれたのだ。


 転送ナイフを取り出して、柄に結んである紐を伸ばし魔物の大きさと比べる。

 この紐の長さが円の半径になり、その円がこのナイフで転送できる大きさだ。

 このナイフで大丈夫なようだ。


 転送準備だけして、トゥールさん達を待った。

 この転送ナイフはパーティー共有のものだ、勝手には使えない。


 トゥールさんが来た時には、キューさんの治療も終わっていた。

「後遺症が残る人はいない」

 との事だ、良かった。

 キューさんは高位の治癒魔法は使えない、手におえない場合もあり得た。


「転送するのは良いんだけど、魔石は採っておこうよ。

 ストーン・ジャイアントには魔石が入っているはずだわ」


「なんでリーシェさん?

 面倒だよ」


「この護衛依頼で、私達は1つ星のポイントが上限に到達するわ。

 星のランクは冒険者が申請して上がる、パーティー全員が同じになるようにね。

 だからポイントは上限まで来ると、それ以降は加算されないのよ。

 魔石は2つ星になってから出して、加算してもらおうよ」


「そんな事出来るんだ」


「ランクが上がった後に討伐部位を持ち込む事は良くあるし、ギルドも認めている。

 ポイントが半分になるけど、加算されないよりよっぽどいい。

 魔石だけを持ち込んだ場合は、大きさだけで計算されるので割安にもなるけどね」


 何の魔物から取り出したか考慮できないからか。


「そうしようか、トゥールさんキューさんそれでいい?」


「それは、ヨガのだ。

 俺達は何もしてない」


 トゥールさんが言うが、ここは引けない。


「何を言っているんだよ、パーティー内でそんな事言ってたら今後やっていけなくなる」


 ポイントは星を揃えるために平等に分ける事にすぐ決まった。

 問題は金の分配で揉め、結局この話は護衛が目的地に付くまで続いた。

 俺が半分、パーティーの金として4分の1、残り4分の1を3人で分ける事に収まった。


 ラーディに着くと、すぐに冒険者ギルドから呼び出しがかかる。

 ラーディのギルド長・グレリオスさんの他に2人が待っていた。


「おいヨガ、いきなりあんなもん送って来んな。

 警備が大変だろう」


「すいません」

 なんで怒られるんだ。


「グレリオスさん、そんな言い方はないでしょう。

 始めまして、私はラーディの商業ギルドの副ギルド長・ヤルーラと言います」


 細身で背が高い、トゥールさんよりは歳は上だがまだ若い、やり手なんだろう。


 俺達も自己紹介をする。

「始めまして、ヨガと言います」

「トゥール・タードです」

「キュー・タードです」

「リーシェと言います、よろしくお願いします」


「こちらこそお願いします。

 タードさんと言われますと、タード男爵様のご子息様でしょうか」


「はい、父を知っているのですか」


「ご高名な、お名前だけではありますが」


 この人は、爵位の家名を全部知っているのか。

 やり手なの決定。


「そしてこの無愛想なのが、商業ギルドの宝石部門責任者のツーダバガンだ」


 グレリオスさんが、椅子に座ったままの男を紹介した。

 タルクさんとは違い、いかにもドワーフまじりの頑固な職人と判る。


「正直に言えば、ラーディの冒険者ギルドだけでは、ジュエリー・ジャイアントの買い取りは厳しい。

 商業ギルドにも声をかけて、素材を見てもらっている。

 それでも、一度には無理だ」


 なんか大事になってないか。


「で、お前らに頼みがある。

 あれを一気に市場に出しちまうと、相場がおかしくなってしまう。

 そうならないよう、ギルド内で寝かせて置くには金が厳しい。


 大陸中に声をかけて、ばら撒こうと思っている。

 そうなると捌くのに時間がかかるので、売れた分毎に金を払うようにさせてもらえないか」


 俺には異論はない、みんなを見ても問題無いようだ。


「それでいいです」


「よかった。

 まずは、ラーディで買い取る分は1200万テルだ」


「リーシェさんなにを驚いているの、これでも一部だぞ。

 だから俺達はもらい過ぎなんだよ、ヨガ配分考え直そうや」


「いや、配分の話はもう終わっている」


 話を戻されると面倒だ。


「タード男爵の2人は流石に驚かないか。

 ギルド長をやってると、何年かに1回こうやって冒険者驚かすのが楽しみなんだ。

 ヨガもリーシェさんと同じように驚くと思ってたんだが、普通にしてるな」


 思わず実家の予算と比べていた。

「驚いてますよ、ただ実感が無いので」


「でお前らこれから、どうする」


「どうするとは」


「これだけの金が手に入ったんだ、危険な冒険者家業をする必要はなくなるだろう。

 引退するか聞いたんだが」


「俺は修行の身ですから、4つ星までは続けますよ」

「私もお兄様が続けるなら」


「ヨガが冒険者やめるか、後で聞こうと思ってたんだ。

 話が出たついでだ、教えてくれ」


「トゥールさん俺がやめると思ってたの」


「ヨガが、続ける理由が見当たらないんだよ」


 やめると思って、俺に報酬を多く割り振ろうとしてたのか。


「やめようとは考えていなかったな。

 リーシェさんどうする」


「ヨガに付き合うよ」


<やめないで下さい、お願いします>

 やめられない理由が、俺達にはある。


「それを聞いて安心した。

 今後もよろしくたのむよ」

 ギルド長は、俺達が今後持ち込む物に期待している。


 今度はクラン『アルテミラルの盾』からの呼び出しが来た。

 ラーディの中にクラン拠点があるので、ツェローラ子爵領まで行かないですむ。


 拠点は少し大きめの二階建だ。

 広い庭は訓練用なのだろう、木々は植えて無い。

 建物の一階は全員が集まれるように集会場になっている。

 二階は色々あるようだが、下っ端の俺達には用はない。


 驚いた事に、ツェローラ子爵様本人が来てくれていた。


「呼び出して悪かった、ビュッケルス伯爵様より命ぜられてな、急がねばならなかった。

 中央にいる方々は、我々の都合などは気にしてはくれないからな。

 ケンテハル君から君たちが、うちのクランに入るつもりだと聞いていて良かったよ」


 40前くらい、この地の子爵様なら元冒険者だろう、話ができそうだ。


「一応確認だが、我がクラン『アルテミラルの盾』に入ってくれるんだよな」


「はい、喜んで。

 あ、ヨガすまん」

 トゥールさんが、リーダーの俺の前に返事をしたので謝ってきた。

 彼は興奮していて顔が真っ赤だ。


「構いませんよ」

 そのおかげで、他の3人が冷静でいれる。


「詳しい規則は、あの壁に書いてある、後で読んでくれ。

 そう堅苦しい事は無いはずだ」


 これで終わりか、簡単な入団だな。


「話は終わりましたか、ツェローラ卿。

 ではヨガ君、俺とちょっと模擬戦してくれないか」


 それまで横に控えていた冒険者が、割って入る。

 名前はフェンメット、彼のパーティー『暁』はラーディに3組いる8つ星パーティーの1つだ。

 前衛3人、後衛3人のパーティーで、多分ラーディ最強だろう。

 フェンメットさんは前衛で2つの剣を同時に使う、赤の双剣のあざなを持っている。

 圧倒的に強い。


「え、試験ですか」


「入団試験は無いよ。

 お前有名だからな、やってみたくなってさ」


「俺が有名?」


「なんだよ自覚がないのか。

 火狐様に会って、ストーン・ジャイアント一人で倒して、極めつきは剣聖キナイズがお前を認めたんだよ

 それで目立たないと思ってたのか」


 俺は希望してないけど、ここのところ続いてるな。


「軽くでいいんだよ」

 そう言いながら、フェンメットさんは前に出てきている。


 仕方がない。

「お願いします」


 最初は俺からいってみる。

 探るための俺の一撃はすぐに返され、次からはフェンメットさんの一方的な攻撃になった。

 前にも有った展開だ。

 フェンメットさんも剣聖と同じように次の手を読んで攻撃をしてくる。


 剣聖は2、3手先を見越していたが、フェンメットさんは1手先を見ている。

 少し甘い攻撃もあり何度か反撃が出来ている、防戦で手一杯だった剣聖との時とは違う。


 でも剣聖のあの一撃はフェンメットさんも使える。

 マナを全身に巡らせた一撃。


 剣聖と違いフェンメットさんは何度か使ってくる。

 攻撃の一瞬は俺より早いが、その前に何処を狙っているかが彼の動きで予測出来る。

 いくら早くとも、判っている攻撃を食らうことはない。


 こうして見るとあの攻撃は、直前にどう動くかが決まっている。

 連続して使えるものじゃない。


「はい、そこまで」


 2人の間で光が弾ける。

 フェンメットさんの仲間が止めてくれた。


「なんで止める」


「フェンメットが本気になったから。

 彼を殺すつもり?」


「こいつ手を抜いてたぞ」


 俺を指さすが、まさか。

「手なんか抜いてないですよ」


「奥の手を見せていないのはフェンメットも同じ、殺し合うわけじゃないでしょう。

 違う?」


「俺本気になってたか?」


「それを聞いて来る?

 十分本気だった証拠だよ」


「ヨガ君済まなかったな」


「しかしヨガ君すごいね。

 うちのフェンメットどころか、剣聖にも負けなかったんだから」


「短いあいだなんとか守れたというのが、ほんとうのとこです」


「ところで、剣聖と比べてどうだった?」


 フェンメットさんが一番気にしていたのはそこか。

 嘘は言わないほうがいいな。


「剣聖の攻撃は防ぐので精一杯でした。

 フェンメットさんには何度か反撃出来ました。

 俺にはそのくらいしか、判りません」


「ちきしょう、まだまだか」


「だから、彼は剣聖なんだよフェンメット」


「次は勝つ」


「フェンメットさん剣聖をご存知なのですか」


「一度手合わせして、手も足も出なかった」

 フェンメットさんの仲間は容赦ない。


「俺はどのくらい、力の差があるのかも判りませんでした。

 ただ大陸一と呼ばれるのだけは判りました」


「ヨガ君、そこ大陸一の剣士と言わないと、面倒な事になるから。

 カリギュナーの竜騎士達は自分達こそ一番という思いが強い。

 他に一番があるなんて、彼らの耳に入ると面倒なことになる」



 カリギュナー王国の竜騎士:ドラゴンライダーは、冒険者以上に少年の憧れの存在だ。

 俺もカリギュナー王国に生まれたら、一度は目指していたかもしれない。


「あいつらか、面倒だよな」

 でもフェンメットさんは微妙な言い方してるな。


「そう言えば、剣聖とやったとき初めて見たんですが、フェンメットさんも『マナまとい』出来るんですね。

 武道家の技だと思ってました」


「『マナまとい』?

 俺がマナを全身にまわしてたあれか、あれ『マナまとい』じゃないぞ」


「そうなんですか。

 てっきりそうかと」


「『マナまとい』まで固くないし、武器を持っていても使える。

 そこそこ剣が立つやつなら使えるのも多いぞ。

 ヨガ君が、出来ないほうが信じられないんだが」


 クランに入った甲斐はある、こんな事を直接聞けるのだから。

『暁』の前衛3人は、その後も時間があると訓練に付き合ってくれた。

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