第20話 王都へ・後編

「そこまで」

 制止の声が上がると、俺を襲っていた奴が剣を引く。


 続けて木々の間に隠れていた数人が出てきた。

 貴族が1人、他の4名は護衛か。


 ナーエフ公爵が出てくるかと思ったが、違った。

 公爵の外見はビチュレイリワから教えられている。


「この御方はビュッケルス伯爵様である。

 控えよ」


 護衛の1人が言うが、リーシェさんもキューさんも魔法をとかない。

 いきなり襲われたのだ、そんな事を言われてもすぐには従えるはずがない。


 面倒になるので俺は2人に近寄って

「大丈夫だよ」

 と声をかける。


 そして、貴族への礼として膝をつく。

 それを見た2人も、魔法を解いて一緒に膝を落としてくれた。


 ビュッケルス卿は前にでると

「無礼を許して欲しい、君たちの力を試させて貰ったのだ」


「どうしてですか?」

 リーシェさんはまだ警戒を解いていない。


 本来、伯爵の前で許可無く発言することは許されていない。

 でも誰もリーシェさんをとがめてこない。


(リーシェさんの秘密を知っているのか?)


[それは有りえないと思います。

 重大な秘密です、知っているのは10人もいないでしょう。

 ヨガ達に無礼があっても、責めないよう前もって命じられていたのでは]


「君たちを、クラン『アルテミラルの盾』にスカウトしようと思ってね。

 腕前を見せてもらった。


 知っているかもしれないが、『アルテミラルの盾』はツェローラ子爵のクラン。

 私も『アルテミラルの盾』を支援させてもらっている。


 次の遠征へ我々が行くことが内々に決まった。

 数年以内に行くことになるだろう。


 王への忠誠を示すためにも成功させねばならない。

 そこでめぼしい冒険者をスカウトしている」


 半分は嘘だ。

 冒険者を試すために、伯爵本人が出てくる必要はない。


『アルテミラルの盾』はアルテミラル王国の盾と言われるカナーエフ公爵が最大の支援者だ。

 公爵が俺を試すよう指示しているところを、ビチュレイリワが見ている。

 流石にこんなところに公爵が出てくるわけにはいかないので、伯爵が頼まれたのだろう。

 公爵からの指示なら、他の者に任せるわけにはいかない。


「ラーディに戻れば、ツェローラ子爵から連絡があるだろう」

 伯爵は言いたいことを言うと、去っていった。


 伯爵は俺達の都合は聞いていない。

 いかにも貴族らしい強引な計画だ、でもこれを断るのは覚悟がいる。

 元々『アルテミラルの盾』へは入るつもりでいたのでいいのだが、よほどリーシェさんを確保しておきたいんだな。


 宿に戻ると、トゥールさんが

「遅かったな、何かあったのかと心配したぞ」

 伝言は頼んでいたので、火狐様の話をするためにブフルグ伯爵邸に行ったことは知っている。


 スカウトの話をすると、

「そうか」

 と言っただけだった。

 トゥールさんも貴族の末席にいる、何かあると思っただろう。


 飯は食べていたので、風呂に入ってすぐに寝た。

 疲れた!


 横になり、ビチュレイリワに昼間の件を確認した。


(俺、殺されそうになったよね?)


 なら、この国にいるは危険だ。

 俺の排除が国の上層部で計画されている。


[殺されようになったのは確かなのですが、おかしいのです。

 公爵からヨガの腕を見極めるよう指示している現場を見ています。

 殺害は依頼されていません。


 襲撃者の報告も覗く事ができましたが、ヨガを殺そうとしたことなど無かったように報告しています。

 それどころかヨガが、彼が今までに戦った中でも5人に入る強さだと、褒めています。


 あの一撃の理由がわかりません]


 彼が勝手に俺を殺そうとしたの。


(襲撃者ってどんな人だったの?)


[剣聖と呼ばている人でしたね]


 剣聖!

 この大陸一の剣士じゃないか。

 名は確かキナイズ、アルテミラル王国の男爵で、エルフまじり。

 この程度は俺でも知っている。

 俺よく生きてたな。


<あの程度のことで、ヨガが死ぬことはありません>


(首を切られて、死ぬとこだったじゃないか)


<首のキズはわざとです。

 切っ先が首をかすめたので、切れた方が自然でした。


 深手になりそうだったなら、首まわりの液体金属を硬化させました。

 剣で切断される事はかなったでしょう>


(俺の体そんなに固くなるの!

 でも彼の剣は魔剣だったよね、それでも大丈夫なの。

 例えばソニックブレードでも平気?)


<そんな切れ味の剣は確認出来ていません。

 もしソニックブレードの切れ味が有った場合は、液体金属では止める事は出来ません>


(首が切られる可能性はあったんじゃないか)


<安心して下さい、首が切られた程度で、ヨガは死にません。


 生命維持に必要な部分は、コアに収められています。

 コアを破壊できるものなど、この地上にはありません>


 !?


[首が切られたのを見られた場合、後処理が大変です。

 そんな事はしたくはありませんので、気をつけて下さい]


 やりたくないの、一言ですますな。


[それよりもキナイズの動きは、私が考えていなかったものですね]


 ビチュレイリワの、想定外なこと結構あるよね。


[マナで全身を覆っていました。

 あれは武術家が使う『マナまとい』ですね。

 何度も観察したことはあります]


 武器や防具を使わず素手で戦う武術家が使う技『マナまとい』

 マナで全身を多い、体を強化する。


 強さは人によるが、岩を砕いたり、体を守るなどが出来る。

 武道家が一番最初に覚える基本的な技だ。

 何故か防具や武器をもった瞬間に使えなくなると聞いた。


 これは知識ではなく経験によって身につけるものなので、精霊魔法と同じでビチュレイリワに再現はできない。


(でも『マナまとい』が出来ると、なんであんなに早くなるんだ)


[加速の魔法も使用していたと思います。

 加速の魔法も、肉体が耐えれるまでしか加速出来ないはずです。

『マナまとい』で全身を保護したからこそのあの速だったと思います]


(肉体が耐えれる?)


[人は全て『細胞』と言う小さいもので出来ています。

『細胞』が集まり骨や臓器になり、臓器が集まり人を形つくっています。

 急加速や停止する力から、ピノは臓器は守れますが細胞までは守れないのです]


 ピノが概念を俺に教えてくれるので、すぐにイメージできた。

 剣聖はマナで『細胞』を守っているということか。


 俺が早く動けていた時でさえ剣で劣っていた、速さも劣ったら勝ち目がまるでない。


 ーーーーー


 翌日はトゥールさんが出かけ、3人は宿で休んでいた。

 明日王都を立つので、旅の支度をしていた。


 トゥールさんが昼前に戻ってきて、

「ケンテハルから金を預かってきた、昨日の余興の手間賃だとさ」


「金貨4枚か、丁度いいから4人で分けますか」


「俺はいらない。

 伯爵の屋敷にもいってないしな」

「私もいらない、話したのはヨガだもの」

「私もいりません」


「俺が全部もらうのも嫌だな。

 これパーティーの金にしよう」


 昼飯ついでに冒険者ギルドによって余計な金を預けてきた。

 どの街の冒険者ギルドでも戻してもらえるので、旅をしている時には便利だ。


 3日目の朝は日の出前から起きて宿を出た。

 集合場所に行ってみるとすでに商隊の人が来ていた。


「ブフルグ伯爵に呼ばれ、火狐様の話をされたそうで」


 商人の耳は早い。


「もう知っているのですか、おとといの話ですよ」


「何を言ってますか、かなり噂になってますよ。

 ラーディに行ってもしばらくこの話を聞かれる事になると思いますね」


 帰りの荷はラーディでは手に入らない物だが、値段は安いものばかりだ。

 現金も最低限の分しか持っていない。

 往路は盗んでも普通にはさばけない素材、復路は安くかさばるものの輸送だから1つ星に依頼しているのだ。


 帰りは子爵領までで、子爵領は魔境周辺でも外側になる。

 しかも俺の『ロハイラの耳』まであるから、商人達は安心し切っている。

 それは判るが、護衛の冒険者まで気が緩んでいるのはどうだろう。


 こんな時には、何かが起きるものだ。

「前方にでかいの1体」


 見え始めた森の中にいる。


「何が出た」

 トゥールさんが聞いてくるが


「判らない。

 今まで会ったことが無いやつだ。

 まだこちらに気づいていない」


「魔物なら、商隊を狙っているんじゃないな。

 どうするケンテハル」


「ヨガ何かわからないのか」


「巨人族だと思うが、それ以上は無理」


 巨人は弱い種類でも、パーティーで対応する相手だ。


「巨人か、面倒だな」


 倒せるかもしれないが、無傷というわけにはいかないだろう。


「ここで止まってどこかへ行くのをま待つか、迂回するか。

 相手を知りたいな、やばそうなやつなら早々にここを離れたい」


 1つ星では相手にならない巨人も多い。

 そんな奴の近くにはいたくない。


「2騎偵察に行ってくれ」


 ケンテハルさんは相手を確認して次の行動を決めることにした。


 俺は意識をそいつに向けて注意を続けている。


 偵察が近づきすぎた

「まずいぞケンテハルさん、偵察に行った2人が見つかってしまった。

 こっちに連れて来る」


「なにやってんだ、あいつら。

 ヨガ達は商隊を護衛しててくれ、他はついてこい」


 森に向かっていく。


(他に障害になりそうなのはいない?)


 俺が認識出来る範囲には何もいない。

 ピノに広く探してもらう。


<いません>


「馬車の方向を反転、いざというときすぐ逃げれるようにして下さい」


 商人たちは、俺の指示で馬車の向きを変えた。


「まだ、移動しないで下さい。

 今行った人たちで、倒してしまうかもしれませんので」


 商隊のリーダーが俺を見て、

「判った」

 と応じてくれた。


 その可能性は低いな、今行った13人と先行した2人が合流して魔物のまわりに散らばった。

 15人では一気に倒せる相手でないと判断したからだ。


 15人で陣形を作っていると、そいつが光った。

 かなりの光量だ、肉眼でも森の中の光が見える。


「ここから少し離れます。

 慌てる必要はありません、魔物はまだ商隊には気づいていませんから。


 キューさんは商隊の前に、リーシェさんは後について下さい。

 トゥールさんは俺と一緒に他の人達の救出に向かいましょう」


「ヨガ無茶は止めて」


「戦うつもりはありません。

 おとりになって、みんなから引き離します。

 トゥールさんもそのつもりでいて下さい」

「判った」


 商隊が動き出したので、反対側に2騎で駆け出した。


 戦っている場所について見ると、すでに陣形は意味をなしていない。


 ケンテハルさんを見つけて

「商隊にはここを離れる指示をだしました。

 何があったんです」


「ストーンジャイアントの亜種だ。

 全身が光る、それで視界が奪われたとこを襲われるんだ。

 攻撃はぶん回すだけだがこのざまだ」


 死んでいる人はいないが、無傷の人もいない。


「俺が時間を稼ぎます。

 トゥールさんみんなを集めて、仕切り直して下さい」


「大丈夫か」


「俺は目をつぶっても、アイツが見えるんで大丈夫です」


 ストーンジャイアントの前に飛び出すと、軍馬から下りて叫で注意を引く。

「こっちだ、のろま」


<支援します>


(いらない)


<どうして?>


(1人で何処まで出来るかやってみたい)


[危険です、許可出来ません]


(なら30数える間は、黙って見てて)


<10まで待ってみます>

[危険と思ったら、介入します]


(ありがとう)


 目をつぶった。

 丁度今光った。


 俺の目を潰したと思ったのだろう、無造作に左で殴りに来た。


<1>

 殴りにきた拳に1撃を加えるが、弾かれる。

 硬い。


<2>

 弾かれた反動を使って今度は反対の足に剣を振るう。

 ちょっとヒビが入った程度か。


<3>

 右手を広げて上から潰しに来た。

 俺はハエじゃない。

 胸に飛び込んでかわした。


<4>

 飛び込んだついでに胸に1撃を入れる。

 これもヒビが入って終わり。


<5>

 奴は自分の胸を叩く。

 俺を潰す気だったようだが、巨人はやはり動きが遅い。


<6>

 ストーン・ジャイアントは、次の攻撃のため両手を上げる。

 俺は後ろに飛び距離をとった。

 胸のキズが見える、自分で胸を叩いからかヒビが広がっている。


<7>

 ストーン・ジャイアントはジャンプして前進してくる。

 胸が丸見えだ、『ファイヤー・アロー」ヒビに火矢をぶちかます。


<8>

 ジャンプした反動も使い、俺めがけてまた右手を振り下ろす。

 大きな音と粉塵は上げるが、俺には当たらない。

 今度は『サンダー・アロー」


<9>

 雷撃で一瞬動きが止まったので、一気に飛び込んで胸の同じ場所に突きを入れる。

 ついでに「ファイヤ」、内部から破壊をこころみる。

 さっきより深く刺さる、しまった抜けない。


<10>

 よろけたがまだ動ける、また俺を潰すつもりで胸を叩く。

 俺の剣が刺さっていたが、俺はいない。


 ストーン・ジャイアントは、胸の剣を叩いて深く突き刺したのだ。

 それがとどめになった。


 後半ピノはゆっくり数えてくれた。

 おまけだが、なんとかなったか。


 でも

(剣聖ならこいつをたたっ斬れたかな?)


<ヨガが受けた最後の一撃なら切れたと思います>


[ヨガがこんな負けず嫌いだと思っていませんでした]


(自分でも驚いた。

 でも、なぜか悔しくて仕方がないんだ)

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