第9話 先輩に怒られた

 今回の狩りでは牛頭巨人・ミノタウロスが狩れた。

 初めての魔物だった、ポイントと報奨金も高い。


 ラーディに戻り、討伐部位を鑑定窓口に持ち込んでいる。

 受付担当のオヤジが、何か言いたそうだ。

 結局はなにも言わず、換金だけしてくれる。


 ラーディの受付は半分が男だ。

 混んでくると7人がカウンターに並ぶ。

 中には暴言や無茶を言ってくる奴もいるので、若い女性だけでは対応できないのだろう。


 金をもらいカウンターを立つと、後ろに5人の冒険者が立っている。

 俺達に怒っているように見える。

 オヤジ言えよ。


「おい、一杯おごれ」


 真ん中の1人が、何かの依頼書を俺に見せながら言ってくる。


「なんで、ですか」


「人の獲物を横取りしておきながら、その言いかたか」


 怒鳴りだした。


「横取り?」


 目の前に出しているのは、ミノタウロス討伐の依頼書だった。

 しかも赤い文字で書かれている。

 たしか赤字の依頼は、同じランクの依頼でも高難度、高報酬の依頼だったはずだ。


「あ、

 すいません、気づいてませんでした」


「そんな訳ねえだろう。

 赤字で書いてあっただろうが、これを見逃す冒険者はいねえ」


 確かに目立つ、だがそれは3つ星の依頼書だ。


「俺たち1つ星なんで、3つ星の掲示板にあっても気づかないですよ」


「上位の魔物倒せるのに、上の掲示板みないのかお前ら」


「そいつら、見てないと思うぞ。

 この前1つ星になったばかりの、期待の新人だからな」


 俺にいつも声をあけていた冒険者のホルさんが、近くにいた。


「依頼を受けてない奴が、魔物狩っちまったら受けてたパーティーに酒を一杯おごるのが、冒険者の仁義だ。

 俺、いいこと教えた。

 俺にも一杯おごれ」


 ここはおごったほうがいいだろうな。

 ついでに


「一杯じゃなく、今日の酒代は俺が持ちますよ。

 その代わりに、他の冒険者の仁義も教えてもらえませんか。

 知らないで、面倒を起こしたくないんで」


「やったね、酒代が浮いた」


 ホルさんが嬉しそうに、冒険者の肩をたたく。

 冒険者達の怒りは、少し和らいだようだ。


「私は行かない、先に宿へ戻ってる。

 みなさん、ヨガをよろしく」


「一緒に行かないのか」


「彼女、酒場がきらいなんで。

 俺だけでいいでしょ」


「お前だけ。

 他の奴らは」


「俺ら2人組ですが、何か問題ありますか?」


「期待の新人つったろう」

 なぜかホルさんが自慢している。


 ーーーーー


 酒をおごらせたパーティーのリーダーは、ツオットと名乗った。

 彼のパーティーは全員3つ星だった。


「何かいないかと洞窟を覗いて、ミノタウロスがいたから倒したと」


「簡単に言えば、そうなります」


「簡単に倒すな」


「そう言えば、さっき上位ランクの魔物って言ってましたけど。

 それってどう判るんですか、ギルドの壁に貼ってある魔物の情報にそんなことは書いて無かったと思うんです」


「そっからかよ。

 受付近くの見やすい所に有るのが弱い、見にくい場所のものほど狩るのが難しい魔物になる。

 わかったか」


 それじゃわかんないだろう。

 反論しても、酔っぱらいに正論は通じない。


「なるほど」


 明日、他ランクの依頼書を見て、討伐対象で調べてみよう。


「討伐の依頼って思ったり少ないんですね。

 仕方がないんで、魔物狩りばかりしてますよ」


「それは、正解だな」


「どうしてですか」


「1つ星になりたてなんて、先に依頼を受けていても気にされない。

 後からどんどん受けられてしまう。

 自分たちにやれるチャンスがまだあるからな。


 それだと、早い者勝ちになるんで仕事が荒くなる。

 失敗しやすくなるのさ。

 最初は魔物を狩って、自分たちの力を他の奴らに示す必要が有るな」


「まあ明日からは、ミノタウロスを殺ったお前らの後から受けるのはいねえだろう。

 あと、おんなじ方面の討伐いらいは全部受けとけ」


「そんな事していいのか」


「同じ依頼を複数のパーティーが受けていいなら、同じパーティーが複数の依頼を受けてもいいさ。

 倒した時の報酬が違う。


 だたし、期日のないのにしとけよ」


「そんな、一応みたいに受けて討伐遅れたら、問題になるだろう」


「複数受けてたら片手間なのがバレバレだから、後から依頼を受けるのも出てくる。

 問題ない」


「それから討伐以外の依頼も受けるようになれ。

 討伐以外の依頼をこなせないと、星を増やすのが難しくなるぞ」


 ツオットさんは親切だ。


「お前、うちのカンパニーに入らねえか」


 親切心だけではなかったらしい。


「俺が、先につば付けてたんだぞ」


 ホルさんが割って入る。

 あんた、酒飲んで寝てたんじゃないのか。


 冒険者は複数のパーティーが集まってグループを作る。

 ギルドでは兵団と言うと思ったが、ここではカンパニーと名乗っているのか。


 パーティーの人数が何十人にならないのは、1回に解決できる依頼や討伐出来る魔物の数に上限があるからだ。

 効率が悪い、だからいつもはバランスを考えて少人数のパーティーで行動する。

 カンパニーはパーティーが協力しあい大きな仕事をするために組んでいる。


 また情報交換、討伐や採集の効率や技術を高めることも目的にしている。

 この街の冒険者は半分、どこかに入っているはずだ。

 いずれどこかに入ろうと考えていたから、話を聞いてみるか。


「ツオットさんの、カンパニーってどこです」


「この街最大の『赤錆の槍』だ。

 この街で1番なら、世界で1番さ」


 俺でも知っている、団員は300人以上だはずだ。


「そこ入れば、遠征に行けますかね」


 ツオットが嫌な顔をした。


「お前、貴族になりてえのか?」


「なんですかそれは。

 絶対に嫌ですね」


 関わりたくない。


「じゃ、なんで遠征に行きたいだなんて言うんだ」


「魔境の奥地にいってみたいんですよ」


 全員の動きが止まって、俺を見ている。


「見たいって、行くところじゃねえぞ。

 9年前にいった240人は、50人近くが帰って来れなかった。

 割に合わない、やめとけ」


「遠征に参加したいなら、俺の話も聞いて損はないぞ」


 突然、横から男が加わってきた。

 冒険者だと思うが、少し身ぎれいだ。


「ガチート。

 お貴族様が割り込むな、品がないぞ」


「狙ってた新人を、お前が連れてったと聞いてな。

『赤錆の槍』に入るってんなら、黙ってようと思ってたんだが。

 遠征に行きたいっていうなら、俺の話も聞いてもらおうと思ってさ」


「彼は」

 ツオットさんの知り合いらしいので、聞いてみた。


「元『赤錆の槍』のリーダーで、今は士爵様のガチート」

 貴族様と言いつつ、呼び捨てにしている。

 言われた方も気にしていない。


「何を驚いてる」


「貴族に、そんななれなれしく」

 と言うと、笑われた。


 ガチートも笑いながら

「俺も冒険者だからな。

 貴族と言っても、領地を持たない騎士身分だ」


「なんで貴族になんてなったの」

 俺には理解出来ないから聞くと、みんなの笑い声が大きくなる。


「普通そう思うよな、金は冒険者のほうがいい。

 貴族になっても、堅苦しいだけだ」


 ツオットさんが続ける。


「そうなんだがな。

 冒険者を、無事にやめられるのは、10人に1人。

 その内半分は貯めてた金で、何かしらを始める。


 ところが残り半分は金がない。

 たんまり稼いだはずの金が、何故かなくなってるのさ。


 俺も金を残せない部類だった。


 6つ星になると、爵位に興味がないかと1度は声がかかる。

 ちょうど娘が生まれたんで、そいつのために爵位をもらった。

 この国では士爵は世襲しないが、かわりに俺が死んでも女房には年金がでる」


 家族のためか。

 舌打ちをした冒険者もいたが、それぞれの生き方だろう。


「ところで、遠征の話は」


「そうだった。

 冒険者の集まりは兵団と言われている。

 この国では、貴族が金を出している兵団をクランと名乗っている」


「俺たちの『赤錆の槍』は、頭が貴族じゃないいんで、判るようにカンパニーと使い分けているのさ。

 遠征に行くのはクランだけだ」

 ツオットさんが補足してくれる


「冒険者が行くんだと思っていた」


「冒険者さ」


「ここ魔境周辺は、数多くの男爵、子爵の領地になっている。

 領地には、魔境から溢れてくる魔物を殲滅する目的がある。


 領主は冒険者になる事が、義務付けられている。

 全員、冒険者ギルドに正式に登録してるしな」


「それは知らなかった。

 この国は貴族と、冒険者の関係が近いんだ」


 俺の知っている常識ではありえない。

 例外もいるが、貴族は爵位を持っていない人を、同じ人間と思っていない。


「この国の建国からの流れがあるかな。

 クランは伯爵以上の貴族が仕切っている。

 流石に伯爵以上に冒険者はいない。


 だが王への忠誠をアピールするため、魔境に入る狩りを支援している。

 それが遠征だ、俺たちカンパニーは行く意味がない」


 そういうことか。


「クランて貴族じゃなきゃ入れないんですか」


 聞いてみる。


「いいや、貴族でないのも、かなりいる」


「活躍を認められて貴族になりたい、みみっちい奴らばかりだがな」

 ツオットさんには彼らの生き方は、理解できないらしい。


「良かった。

 貴族でなくても行けるのか」


「貴族になりたくないのに、魔境の奥には行ってみたいんだ。

 そんなのは初めて聞いたな」


「で、どうする、入るか」


「クランもカンパニーも、もう少し考えてからにするよ」


「そうか」

 あっさり引いてくれた。


「話は変わるが」


 ガチートさんが話を変えた、これが彼の本題らしい。


「1つ星になったばかりの知り合いがいる。

 彼と組んでくれないか」


 ガチートさんが、頼みごとをしてきた。

 仲間を増やしたいと思っていたので、興味はある。


「どんな人か判らないと、組めないな」


 俺らにも事情がある。


「判っている、一緒に戦う相手だ。

 会って決めてくれないか」


「どんな人だ」


 一応聞いてみる。


「俺の仕えている男爵のご子息だ。

 男爵と言っても、こんな俺に気さくに接して下さるお方だ。


 ご子息のトゥール様とは、何度か飲んだこともある。

 自分の身分を鼻にかける嫌な人ではない。


 それに腕は立つ。

 国境警備隊に10年いたからな」


「修行か」

 ツオットさんが口を挟む。


「そうだ。

 この国では男爵は冒険者でなければならない。

 しかも4つ星以上ないと、爵位は継承できない」


 思ってたより条件が厳しいな。


「大抵は中央か国境付近で力を付けてから、冒険者になる。


 その方が、4つ星になれる確率が高い。

 トゥール様は国境で腕を磨いて、家を継ぐ準備を始めた」


「どうして俺と組ませようと」


「強いやつと組むと、生き残る確率が上がる。

 しかも、ランクが早く上れる。


 どうだ、合ってくれないか」


「相棒と相談してみる」


 リーシェさんと相談して、合ってみる事にした。

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