第10話 新しい仲間

 待ち合わせには、彼らが先にきていた。

 ガチートさんと若い男、そして女性がいた。


 俺たちに気づいて、立ち上がり挨拶をしてきた。

 俺たちも返す。


 ガチートさんの横の男がトゥールさんなんだろう。


 精悍な顔立ちでいかにも騎士らしい。

 金色の髪を短くしている。

 体つきは、今の俺より少し大きいかな。

 筋肉もありそうだ。


 トゥールさんに隠れるように立っている女性は恋人だろうか、若い。

 なにより艶っぽい。

 彼女は聖職者の服を着ている。

 露出の少ないその服が、逆に彼女の女性らしい躰を強調している。

 美しい顔にはおさなさが残り、髪は肩まで伸ばしている、

 顔とその躰がアンバランスだ。


(ビチュレイリワ

 俺、今凝視してた?)


[すぐ目をそらしましたが、彼女はあなたがどこを見ていたか気づいていますよ。

 そんな視線を受けることが、多かったのではないかと思います]


 あんな大きな胸をしてたら、目が行ってしまうって。


「待たせて済まない、リンディ卿」


「ガチートでいい。

 それに俺達が早く来たんだから、謝る必要もない。

 彼がトゥール・タード」


 立ったまま、彼を紹介した。


「はじめまして、トゥールです。

 27歳になったばかり。


 それと、俺はまだ貴族の息子で、正式には貴族じゃない。

 家名で呼ぶのはやめてほしい」


「俺はヨガ、剣を使っている。

 魔法も使えるが、あまり得意じゃない

 年齢は22くらいだと思う」


 ガチートはおや、いう顔をしたが何も聞いてこない。

 さずがラーディの冒険者。


「そして彼女が、リーシェさん。

 弓を使う、精霊使い。

 彼女はエルフの血が入っているので、こうみえても2X・」


 いきなり足を踏まれた、しかも踵で。

 いくら小さいリーシェさんでもこれは痛い。

 女性に年齢は禁句だった。


 足を押されている俺を無視して、最後に女性が自己紹介を始めた。

 トゥールさんに隠れながらだが。


「私は、キュー・タード。

 お兄様の妹」


 彼女の言うお兄様は、トゥールさんのことだろう。

 聞いていない。

 男爵の子供は全員、冒険者にならないといけないのか?


 ガチートを見ると、苦笑いしながら


「キュー様は、いつの間にか1つ星になられていた。

 トゥール様と一緒に、パーティーを組むためだそうだ」


「一緒に冒険者になると、約束をしていました」

 キューさんが、兄を見て宣言している。


「あれは俺が家を出る時に、お前が泣くから、黙らすために父上が言った事だ。


 それにガキのころの話しだし、無効だろう」


 ここに来る前にも、1揉めあったようだ。


「あの時、お父様とお兄様も約束なさいました。


 お父様の勧めで入った教会で、神に誓いました。

 これは聖約です」


 これが噂に聞いた、お兄様大好き妹というやつか。

 聖約とはすごいな。

 嘘が無いから、始末に悪い。


「聖約というと、キューさんは神の声が聞こえるの」

 リーシェさんが聞いている。


「私は偉大なるムーバラル神の神官。

 神聖魔法も使えます」


[ヨガ!

 彼女を、あなたのものにしてください]


「ビィな」

 ビチュレイリワが突然、とんでもないことを言う。

 驚いて思わず声が出てしまった。

 みんな、俺を見たが、なんでもないとごまかす。


[すいません、神聖魔法を解析できるチャンスだったので]


(チャンスじゃない。

 とんでもないなお前は。


 リーシェさんみたいに、俺のものにでもしろと言いだすのか)


 実際にはリーシェさんは、俺のものじゃない。


 この2人とパーティーを組むメリットを考えてみる。


 トゥールさんは、純粋な騎士だろう。

 多分、普通の1つ星より腕がありそうだ。

 戦力としては期待できる。


 キューさんは神官か。

 パーティーに治癒役は必要で、神官はその専門家だ。

 ただし、俺達の場合は微妙になってくる。


 俺とリーシェさんは、蜂の件以降は怪我をしていない。

 無理をしないようにしていたためと、俺の認識能力のおかげだ。

 それに、怪我をしても大体はピノが治してしまうだろう。

 治癒役より、攻撃力か防御力を上げるメンバーと組みたい。


「俺たちあまり無理しないから、怪我は少ないんです。

 治癒は俺も少し出来るんですが、使ったことないです」


「ミノタウロスをやったんだろう、その無理しないレベルは、普通の1つ星なら無理なんだよ。

 だから、トゥール様と組んで欲しいと思ったのさ」


 ガチートさんは俺らの腕を買ってくれている。


「キューさん、攻撃や防御が出来ますか」


「一応、神の加護や断罪系も使えます」


 すごい!

 キューさんお兄さんより、貴重な戦力になるのでは。

 複数パーティーから声がかかるレベルだ。

 お兄さんやガチートさんが、彼女の参加を断りきれなかったのはそれが理由か。


 こちらに断る理由がない。

 試しに組んで、いくつかの依頼をしてみようという事になった。


 パーティー名は『閃光3』でいいと、問題なく決まった。

 リーダーを俺とトゥールさんの、どちらにするかで揉めた。


 リーシェさんは、俺の認識能力をしっている。

 いままで、その能力を元に狩りをしてきた。

 周りに何があるか、判って行動をした時の、安心感を知っている。

 俺をリーダーにおす。


 キューさんは、兄以外にはありえないと譲らない。

 トゥールさんも警備隊では小隊長だったらしく、自分がふさわしいと思っているようだ。


 一緒に組む話が流れそうになった時、ガチートさんが


「最初は交互にやってみたらどうだ。

 そうしてリーダーを決めればいい。

 どうしてもまとまらない場合は、しかたがないがこの話は無かったことにすればいい」


 ガチートはチームのリーダーの重要性をしっている。

 トゥールさん側には立たなかった。


 まずは、トゥールさんがリーダーをする事になった。


 彼は、巨大女王蟻の討伐依頼を、受けることにした。


 巨大蟻シルキース1匹では、ゴブリンよりも弱い。

 だから女王蟻以外の蟻は、討伐対象に入っていない。

 当然女王蟻は巣穴の奥にいる。

 女王蟻の討伐とは、巣穴の壊滅を意味している。


 成功時のポイントも報酬も低い。

 トゥールは、これで俺達のようすを見るつもりだ。


 俺はこの依頼を、誰も受けていないのが気になった。

 駆け出しがまっさきに受けそうな、依頼に思えたからだ。


「安すぎるんだろう、1つの巣穴には100匹以上いるからな、割に合わないのさ。


 蟻は巣に近づけば、攻撃のために出てきてくれるらしい。

 戦闘は地上になるから、何とかなるだろう」


 ギルドを出ようとした時、同じ依頼を誰かが窓口へ持って行った。

 俺達が失敗すると、思われているということだ。


 巣穴は依頼書に書いてある場所にあった。

 周りの木々がなくなり、大きな円状の草原になっている。

 真ん中の土が盛り上がっていて、横穴が見える。

 それが巣の入り口で、雨水が入らないようになっている。

 縁から巣穴までは200歩以上はある。


 巣の中は、入り口からまっすぐ下に伸びていて、途中横に目的別の部屋があるらしい。

 外にでてくる奴がいなくなったら、焚き火を中に入れると煙で女王蟻が逃げ出す。

 そこを仕留めればいい、難しくない。


 早速、巣に近づいて討伐を開始した。


 シルキースは大きな虫といっても、キラービーまでは大きくはない、

 せいぜい膝くらいの大きさだ。

 1匹1匹は弱い。

 問題はその数だ、1つの巣に100匹以上はいる。


 攻撃はキバのみ。

 だが、そのキバが面倒だった。


 斬りつけると、最初に剣に噛み付く。

 噛みつくと剣に蟻がぶら下がり、離れない。

 1匹倒すのに、手間がかかる。

 少しの手間だが、数が多い。


 幸い火が苦手らしく、リーシェさんが横に火の壁を作ると越えては襲って来ない。

 ただし、火玉をあてても燃えはしない、苦手なだけだ。


 正面からくる蟻を俺とトゥールさんが殴り、リーシェさんが弓で倒して行く。

 キューさんは蟻を遠くに吹き飛ばして、正面の数を減らしてくれていた。


 今のところやられる、不安はないが、きりがない。


「矢、残り20を切った」

 リーシェさんが忠告をくれた。


「トゥールさん引こう。

 リーシェさんの弓がなくなる」


「なにを言っている。

 まだまだ大丈夫じゃないか、前線は維持できている」


 だが彼も肩で息をしている、俺達にこの戦いを続ける力は残っていない。

 俺には判るが、巣の中にはまだ多くの蟻がいて、押し切れる数ではない。


「俺は引く。

 これ以上は、逃げることも出来なくなる」


「このまま進む。

 リーダーとして命令する」


「俺は兵隊じゃない、命令されるいわれはない。

 5を数えたら、向こうに走るぞ」


 指を指して、後ろのリーシェさんに合図する。


「そんな不名誉なことは許さない」


「お兄様に従いなさい」


「5,4,3」

 これで引いてくれればいいが。

「2,1,引くぞ」


 リーシェさんが、前に高い炎の壁を作る。

 蟻の前進が一瞬とまる。


 後ろを向いて走り出す。

 横にトゥールも来ている。


 そのまま走るが、蟻との距離は縮まっている。

 足はむこうのほうが早い。


 もう少しで追いつかれそうになった時、冒険者達とすれ違った。

 俺達の後に依頼を受けた連中だろう、10人以上いた。


「戻ったら一杯おごれ」

 と俺は声をかけた。


「おう」

 と1人が返事をした。


 走るのをやめ、みんな歩きだした。


「状況が変わった、戻って戦闘に参加するぞ」

 トゥールが言うが


「彼らは同じ依頼を、受けた冒険者だ。

 俺達が失敗したので、権利は彼らの物になった。

 ここで手を出すのは、冒険者のルールに反する」


 助けを求められたら別だが、手を出さない決まりだ。

 それに、彼らは次々と蟻を倒していた。

 問題ない。


 無言で帰路についた。

 トゥールは全身怒りで震えている。


 もうダメだな。

 考えが違いすぎる。


 ーーーーー


 反省会と言われ、酒場に呼び出された。

 リーシェさんも付き合ってくれた。


「俺の邪魔をしてまで、リーダーになりたかったのか。

 あのまま戦っていれば、女王蟻を倒せた」


 怒鳴っている。

 そのまま別れずに、自分の正しさを示したいらしい。

 馬鹿らしい事だ。


「こっちの底が見えたのに、向こうの終わりが見えていなかった。

 あそこで引かなければ、逃げるのも難しくなる」


 当たり前だが俺も十分に若い、相手になってしまった。


「いや、まだ大丈夫だった。

 リーダーの俺がそう判断したんだ。

 お前は勝手に逃げ出した卑怯者だ」


「リーシェさんの矢がなくなれば、蟻の攻撃は激しくなる。

 すでに俺達は疲れ始めていた」


「少なくとも俺はまだ行けた。

 それにキューの神聖魔法で、疲労の回復も可能だった。

 十分に戦う力は残っていた」


「タード卿、一杯おごりにきたよ」

 トゥールが俺を殴る直前で、男が割り込んできた。


「ケンテハルか」


「そうだよ。

 こっちに一杯おごってやって」

 店の人にお金を渡しながら言う。


「ケンテハルが、どうしてここに」


「一杯おごるためだよ」


 トゥールは気づいていないのか。


「昼間は助かりました」

 俺は、軽く頭をさげる。


「いるのわかってて、俺達のほうに逃げて来たんだろう」


 彼は昼間、俺たちの後に女王蟻討伐を行った冒険者の1人だ。


「タード卿、昼間俺とすれ違ったのに気づいていなかったの。

 つれないな」


「お兄様は、あんたなんかに興味ないわよ」


「キューそれは無いだろう。

 俺のおかげて、冒険者になれたんだから」


「あんたなんかに世話になっていない」

 ケンテハルさんを睨む。


 ケンテハルさんのギルド証は2つ星だ。

 見習いの間、手伝ってもらったのだろう。

 面倒見がいい。


 2人を知っていると言うことは、彼も貴族の子か。


「ケンテハル。

 君なら判るだろう、俺達がどう生きなければならないかを。

 俺は、こいつの間違いを正さなければならない。

 少し待っていてくれ」


 怒りは収まっていないようだ。


「今、言いあっていた事か?

 彼が正しいよ。

 タード卿が間違えている」


「なに?」


「お兄様に何を言うの」


 味方が増えたと思っていたのだろう。

 裏切られた顔だ。


「タード卿、俺達のした事をどう見てた」


「俺の獲物を、横取りした。

 こいつが逃げなければ、俺達が依頼を完了させていた。

 今回はたまたま上手くいったが、次は上手くいかないだろうな」


「あんたは、どう見た」


 俺にふる。


「14人いたから、数パーティーが組んでたと思う。

 俺達の弓みたいに、たま切れをおこす攻撃手はいなかった。

 神官が2人、残りは槍と剣が2人1組になっていたように見えた。


 多分それが、シルキース討伐の正しいやり方なんですね。

 先に依頼を受けてないはずだ、準備に時間がかかる」


「あたりだよ。

 キバを槍に噛ませ、剣で首を切る。

 それが簡単なシルキースの討伐方法なんだな」


 ケンテハルさんが、討伐方法を教えてくれた。


「でも、そんなに人がいては、割が合わないだろう」

 トゥールさんは安いから、簡単な依頼と思っていた。


「追加報酬も無かったはずだ」


「追加報酬は無いが、金にはなる。

 シルキースのキバは、商会が買ってくれる。

 1つはそれほど高価じゃないが、数が手に入る。

 やり方を知っていれば。この人数でも割と美味しい依頼なんだ」


「それに今回は、半分近くお前たちが倒してくれてたからな。

 すごく楽だったよ」


「まだ半分だったのか!

 いいや、頑張れば駆逐できたはずだ」

 まだ、言っている。


「無理だよ、トゥールさん。

 その半分を倒すのに、俺たちは矢をほとんど使っている」


 それに戦う手段をなくした、リーシェさんを危険にさらす。


「キューの魔法で回復できた、俺達2人だけでまだ戦えていたはずだ」


「タード卿それは無理だ、そんな余裕は与えてもらえない。

 俺達は、前衛で壁を作り、その中で順番に回復していた。

 2人では、そんな事はできない」


「それに、撤退が不名誉になるのは騎士の考えだ。

 間違った判断に、無条件に従う冒険者はいない。

 俺達は今、冒険者なんだ。

 自覚を持って、タード卿」


 ケンテハルさんの言葉に、トゥールさんは目を閉じた。

 そして大きく数回を深呼吸をする。


「ケンテハル、俺を家名で呼ぶな、まだ家は継いでいない」


「やっと気づいたか。

 焦りすぎだ」


「ヨガすまなかった。

 私が間違っていたようだ」


 トゥールさんは、ここで間違いを受け入れられる人か。

 ケンテハルさんに免じて、今回は許してあげようかな。

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