第13話 金貨の冒険者

俺とリーシェさんは宿を、トゥールさんとキューさんが借りていた部屋に移した。




 寝室は2部屋あり、1部屋には二段ベッドが2つある。


 寝室を出るともう1部屋ある、打ち合わせするためのものだろう。


 半年分は支払い済みだと聞いていたので半分だすと言うと。


 父に出してもらった金だからいらないと断わられた。




 この宿は、貴族の子息が多いそうだ。


 品がいい。




 食事は出ないが、1階が食堂になっている。


 日の出から日没までやっていて、酒はおいていない。




 この宿には生活級の精霊使いが働いている。


 なので風呂は、毎日夕方に1回だけ沸かしてくれる。


 ただし、ぬるくなったら自分で温めろと言われた。


 ここには火が使える精霊使いも多いから、それで問題ないのだろう。




 リーシェさんがパーティー内のルールを、一通り決めた後。




「今日は依頼を受けないで、魔物狩りに行きたいと思う。


 連携の練習をしたいんだけど、どうかな」




 仮のパーティーの時は、2組のパーティーが一緒にいたようなものだ。


 俺とリーシェさんはすでに、お互いの動きや出来る事は理解していたし。


 トゥールさん達も個人の能力は高かったので、それで問題は無かった。




 でも本格的にパーティーの仲間となれば、トゥールさん達との連携はしたい。


 そのほうが、効率がいいし、安全だ。




「ヨガの考えに賛成だな」




「お兄様が良ければ」




「私も、そのほうがいいと思う」




 ーーーーー




 ゴブリンの肩に矢がささり、トゥールさんの一撃で首が飛ぶ。




 リーシェさんは、わざと急所を外している。


 トゥールさんの攻撃に合わせて、敵に当てているのだ。


 ゴブリン相手には不要な攻撃だが、強い相手を想定しての連携を考えていた。




「今のはいいね。


 俺か、リーシェさんの2方向から連続して攻撃される。


 両方交わすのは、難しいんじゃないかな」




 俺たちは、弱い魔物でいろんな組み合わせを試していた。




 あ、前方に大きな蛇がいる。


 距離はあるが、俺たちに気がついてこっちに向かっているようだ。


 匂いかな。




 急いでみんなに知らせる。


「大きな蛇が、向かって来ている。


 早くて、逃げ切れないと思う」




「ヨガは本当にロハイラの耳を、持っているんだな」




 ロハイラの耳とは、ビチュレイリワが他の冒険者を参考に考えた、俺の能力だ。


 気配で離れた魔物の存在を、知ることができる。




 ロハイラという耳の大きな魔物がいて、探知に優れている。


 そいつには見えるところまで近づくのも難しい。


 ロハイラの耳とは、そいつからつけられた上級冒険者の能力だ。


 ただし、俺の能力はピノが探知しているものなので、他の冒険者の能力とは違う。




「どんなやつなの」




「かなり大きい、長さは100歩を超えるな。


 高いところにいるようだから、木の上を移動しているみたい」




「それ、森の大蛇のスオユザ・リードじゃないの。


 たしか3つ星の討伐依頼に、前あったわ。


 大丈夫なの」


 さすがリーシェさん、記憶がいい。




「多分、大丈夫じゃないかな。


 今の俺たち、そのくらいの力はあるよ」




 俺は、みんなの顔をみる。




「俺はやってみたい」


 トゥールさんはやる気だ。




 キューさんもうなずいている、お兄様がそれでいいなら、なのだろう。




 俺がおとりになって、森の中を走っている。


 スオユザ・リードは木の上のほうから俺を狙って追ってきている。


 木や枝に巻き付きながらでも、その速度は早い。




 俺は本気を出せば逃げ切れるが、今はギリギリ飛びかかれない距離を保って誘導している。


 今、通り過ぎた下に、トゥールさんとキューさんが隠れてた。




「その罪深きもの、神の名を借りて告発する


 無知のものよ、汝の罪の重さを知りなさい」




 キューさんの詠唱が終わった瞬間に、大蛇が木から大きな音をたてて落ちる。


 スオユザ・リードは、本来の10倍以上の重さになったはずだ。


 支えたいた幹や枝が折れている。




 落ちたところを狙って、後ろはトゥールさん。


 俺とリーシェさんは前から攻撃を開始した。




 俺の魔法と、リーシェさんの矢が、左右の目を潰す。


 でもスオユザ・リードは、相手を匂いと熱で感知している。


 これではまだ、奴には俺たちが見えているはずだ。




 頭の方に炎の円が走る、リーシェさんの精霊魔法だ。


 炎と下草が燃える匂いで、奴の『視界』を遮る。


 やっと俺たちは見えなくなったはずだ。




 スオユザ・リードは炎の円から逃げだそうとする。


『視界』を奪っていたので、俺は炎を飛び越え、一気に奴の前にでる。


 もう剣の届く距離だ、一撃を加える。




 切断しようと思ったが、硬い。


 鱗を割った程度にしかならない。




<支援します>




 ビチュレイリワにもらった剣が、小さく唸る。


 刃が激しく振動していると説明されてた。




 今度は一撃で首が落ちる。


 すごい切れ味だ、液体金属とか言ってたが、どこが液体なんだこれ。




 安心すると。


 首の無くなったスオユザ・リードの胴が激しく暴れ出した。




「リーシェさん逃げろ!」


 慌てて、俺も逃げる。




 首のないスオユザ・リードは、まわりの木々を数本倒して暴れまわった。


 しばらくして止まったが、生命力が強い。


 今後は気をつけよう。




 暴れるのが収まった後に、トゥールさん達が来た。


 無事だったようで、良かった。




「ヨガが、首を切ったのか。


 俺は全然だめだった、硬すぎる」




「でもヨガ、これどうしよう」




「右のキバが討伐部位で、追加報酬分の左キバと毒袋は持って行けそうだけど。




 スオユザ・リードは革が一番高いんだよけど。


 俺たちでは、革ははぎ取れないしな」




 魔物の素材解体には、専用の道具と知識が必要だ。


 ギルドに持ち込めば、やってくれる。




「この大きさじゃ運べないな。


 明日、馬車を借りてきて回収しようか」




「その間に、横取りされないといいけど」




「その時は、助かっただけ良かったと、諦めましょう」




 夕方にはギルドに戻れ、討伐の鑑定窓口に持ち込んだ。




「これ、スオユザ・リードのキバですよね」


 さすが、受付嬢はひと目見てそれが何か判った。




「胴体はどうなさったのです」




「俺たち歩きだったんで、持って来れなかったんです。


 明日、馬車を借りて取りに行こうかと思っているのです」




「多分、無くなっていると思いますよ。




 スオユザ・リードは肉も美味しいので、近くにいた魔物たちが漁りにきます。


 一晩たてば、かなり荒らされているでしょう。




 一年ぶりのスオユザ・リードの革だったのに、もったいない」




「すいません。


 俺たちも、襲われて仕方なく倒したので」




 受付の女性はがっかりしている。




 ギルドを出ると、トゥールさんが


「やった、これで金貨の冒険者だ。


 思っていたより、早いぞ。


 父に手紙で教えてやろう、自分達で早く宿代を稼げるようになれと、言わていたからな。


 これで、少しは安心してくれるだろう」




「リーシェさん、金貨の冒険者ってなに?」




「1回で金貨1枚分を、稼げるようになった冒険者をさしているの。




 この大陸はお金の単位は同じでも、貨幣は国ごとに違っているでしょう。


 大きく4種類に別れているけど。


 でも金貨だけは統一されていて、どの国にいっても金貨だけは通用する。


 それにかけて、どこに行っても通用する冒険者として、金貨を稼げる事が1つの目標になっているのよ。




 そこからは、新人と呼ばれなくなる」




 なるほど、1000テルで金貨1枚、確かにそのくらい稼げれば生活はできるか。


 装備を考えると、厳しいだろうけど。




 ーーーーー




 翌日になって、革を拾いに行くのはやめた。


 馬車を借りて、お金にならなかったら赤字になる。


 今、そんな余裕はない。




 また、魔物狩りをしていたほうがましだ。


 そうそう大きな魔物は、ラーディの街の近くには出ない。


 結局1日目は、ゴブリンとヘルウルフが数匹だけ。




 2日目は、街道を外れて進んでみた。




<この先で、オークに襲われています>




 4匹のオークに襲われているのを認識した。




「この先で魔物に襲われている」


 と叫んで俺は走りだした。




 全力で向かう。


 近づくにつれ、詳細が判ってくる。




 襲われているのは、3人。


 荷馬車が襲われていた。


 騎士1人が4匹を相手に頑張っている。


 1人が倒れていて、もう1人は隠れているようだ。




 なんとか間に合った。




「助けにきた」




 すぐに、斬りかかる。


 オーク4匹では、俺の相手にはならない。


 1振りごとに、1匹ずつ倒していく。




「すごい」


 騎士が、感嘆の声を上げる。




 4匹目を倒して、倒れていた人に駆け寄る。




「大丈夫か」




 怪我をしていたが、深い傷じゃなかった。


 俺は、治癒魔法をかける。




 トゥールさん達が追いついた。


 肩で息をしている。


 リーシェさんも苦しそうだ、彼女はあまり身体強化はされていない。




「子供がさらわれた。


 ギニ、ギニを助けて下さい」




 傷の治癒をしてた男が、思い出したように叫びだした。


 周りを見て、子供がいなくなった事に気づいたのだ。




 認識能力で遠くを探すとオークが3匹、その内1匹が子供を担いで運んでいる。


 何処に連れて行くんだ?




「この近くにオークの集落があるのか」




 男がうなずく。


「最近できたらしい。


 領主様に、ご報告したばかりだ。


 こんな事になるなんて」




「判った。


 みんな、行けるか」




「ま、待ってくれ」


 トゥールさん達はまだ、苦しそうだ。




 走るのは無理だ。




「ばしゃを貸してもらえない」


 リーシェさんが、男に頼む。




「もちろん、お願いします。


 ギニを助けてください」




「俺も行く。


 オークの集落ができたらしいと、報告があったから俺が派遣されていた。


 俺が行かなきゃならない」




 騎士が、悔しがっている。


 見るとボロボロだ、立っているのもやっとだ。


 行っても、何もできないだろう、休んでいたほうがいい。




「この人達を、守っていていただけませんか。


 オークは倒しましたが、けが人を置いて行くのは心配です」




 騎士は自分の状態が判っていたのだろう、承諾してくれた。




 俺たちは馬車に乗りオークを追いかける。


 俺は認識能力でずっと追っていたが、集落に入られてしまった。




「子供はオークの集落に入ってしまった。


 数は51、多分上位種は4。


 やめるという選択もあるけど」




 後ろを向いて全員の顔を見る、その選択はない。


 良かった、いいパーティーだ。




「キューさん加護はトゥールに。


 キューさんとリーシェさんの2人は、後方で障壁の中から長距離攻撃をしてトゥールさんを援護。




 俺は先に行って、子供を助ける。


 トゥールさん達は敵を殲滅しながら、進んでくれ。


 それでいいか?」




「おう」


「はい」


「判ったわ」




 馬車が近づけるところまで行って全員で駆け出す。




 俺は、集落の中央にいるデカイやつに向かった。


 子供を担いだやつも、そいつのほうに向かっている。


 オーク・キングだろう、柔らかい子供の肉を献上する気か。


 ふざけるな!




 子供を抱えた奴になんとか追いつた。


 見つけた瞬間に叩ききる。




 良かった子供には息がある。


 子供は気を失っていた、静かに寝かせる。




 立ち上がった俺の前に、ひときわ大きなオークがいる、残り2匹も大きい。


 3匹とも、ハイ・オークだろう。




 ハイ・オークは、俺を見て笑っている。


 自分の手下がやられるところを見ているのに、大した余裕だ。


 俺を倒せると、思っているのだろう。


 俺の力量を測れないのか、数でしか考えられないのだろう。




(こいつらが、知性生体?)




<分類上、そうなります>




 奴らに、剣を振るう。


 ハイ・オークは、俺の速さについてこれない。


 武器を振る事もなく、首が飛ぶ。




 一瞬で3匹とも倒して、まわりを見る。


 まだ多くのオークがいる。


 オークたちは逃げない。


 好戦的な種族なので、助かる。




 ここで殲滅しておきたい。


 逃げに回られたら、4人で抑えるのは無理だ。




 俺は、子供の近くで、襲ってくるオークどもを倒している。




 他の3人も問題ない。


 トゥールさんも1対1ならハイ・オーク程度は楽に倒せる。


 だから、リーシェさんとキューさんの2人に、トゥールさんが1対1で戦えるよう、支援してもらっている。


 オークを倒しながら、俺のほうに向かっている。


 蹂躙戦だ。




 3人が、来た。


「向こうは、全部倒したぞ。


 残りはその3匹だけだ」




 その言葉を合図に、1匹が襲ってくる。


 2匹は逃げだした。




 襲ってきたのは俺が倒し、逃げた1匹はリーシェが射ぬいた。


 全部で3匹逃してしまったが、しかたない。




「キューさんこの子見てて。


 俺たちは、討伐部位を集めよう」




 結局オークは全部で48匹倒した。




「ハイ・オークの、討伐部位って魔石だよね」




「そうだ、耳を持っていっても普通のオークと数えられるぞ」




「胸の奥にあるそうだけど、トゥールさん魔石とったことある。


 俺達はなくて」




「俺も無いな、国境付近にいたのは魔石を持って無かったからな。


 昨日の、スオユザ・リードも持ってない魔物だったしな。




 そう言えばお前ら、前にミノタウロスやっているじゃないか、取らなかったのかよ」




「ミノタウロスの討伐部位は、角だったんだよ。


 魔石は追加報酬だったんだし、探したけど見つけられなかったんで諦めた」




「魔石は魔境生まれじゃないと、持っていないと言われているしな。


 そのミノタウロスは、持って無かったんじゃないか」




 ハイ・オークは4匹とも、魔石を持っていた。


 それは、豆粒ほどの黒い丸い石だった。


 初めて見た。




 驚いたが、魔石の中にマナを感じる。


 だから、見つけられたんだけど。




 そして、そのマナはかなりまがまがしい。


 1つ手に載せて眺めている。




「気持ちが悪い」




 キューさんが魔石を覗き込んできた。


「ヨガさん、マナが見えるの」


 驚いている。




「ぼんやりと、だけど」




 本当に気持ちが悪いマナだ。


 そのまがまがしいマナを、どうにかならないかと思ってしまう。




「しまった」




 その声に、他の2人も覗き込んだ。


 魔石が白くなっている。




「魔石の色が変わっている」




「ヨガさん、浄化ができるの。


 神官の私でもできないのに」


 ますます驚かれてしまった。


 そんなつもりは無かったんですけど。




「これは、ギルドじゃ引き取ってもらえないぞ」




 無意識にマナを、直接いじってしまったのか。


 自分のマナじゃないから、痛みがない。


 痛みがないので中断せずに、マナを変えれたようだ。


 マナは簡単に変わってしまう。




 馬車に乗り、襲われていた場所に戻る。


 子供は、帰る途中に目を覚ましたが、ひどく怯えていて、話かけても声を出せなかった。


 襲われていた人達の近くまでくると。




「おとうしゃん」


 やはり、さっきの人はお父さんだったんだ。




「ギニ、ぶじだったか。


 良かった、本当に良かった。


 ありがとうございます」




 男は頭を深々と下げる。




「ありがとう。


 これで俺も、怒られる程度で済みそうだ」


 騎士も、安堵していた。




「お礼をさせて欲しい。


 そうだ、ご領主のザペーロア様に合っていただけないか」




「遠慮させていただきます。


 ギルドに行けば、お金はもらえるので、それで十分です。


 言ってはなんですが、堅苦しいのは苦手なんです」




「そうか。


 仕方がないな」




 別れる時、ギニがバイバイと手を振ってくれた。


 今回の最大の報酬だろう。


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