第40話 竜騎士の国

「そこの女、怪しいな、服を脱げ全部だ」


 ここは商人の国・ジュア・ニフス国と竜騎士・カリギュナー王国の国境。

 カリギュナー王国に入るため俺が『竜騎士』からの召喚状を役人に渡していたら、国境警備の兵がリーシェさん達に難癖をつけてきた。

 他の兵もニヤニヤして近くに寄ってきている。


 怒りで何か言おうとした2人を抑え

「無理にこの国に入る必要はない、行くの止めて海を目指さない?

 2人もそれでいいよね」


「お待ち下さい」

 俺の相手をしていた役人が慌てる。

「困ります」


「俺達は困らない。

 仲間への辱めを、黙って受ける必要もないかと思いますが」


「お待ち下さい、兵達は何か勘違いをしております。

 少しお時間を下さい」


「なんだカーズ、綺麗な女の前だからってカッコつけているのか」


「みなさん、彼を追い返して良いのですか。

 彼は『竜騎士長』から呼ばれ、それに応じてここまで来た狂鬼ヨガ殿です。


 その彼をみなさんが追い返しているのですよ」


 役人の言葉で、笑いが固まる。


「どこへ行くつもりだ、竜騎士殿より召喚されて来たのだろう。

 それを無視するつもりか」


 兵は相変わらず高圧的だ、でも俺達は気にしない。


「俺たちはこの国の国民じゃない、召喚されようが、それに応じる義務は無いね」


「そんな事は許されない、直ちに王都へ迎え」

 兵は自分の言っている事に、何の意味も無い事を理解しているのだろうか。


「無理に王都へ行きたい理由は無い、これからは適当に旅を続けるさ」


 俺の言い草に、兵達は武器に手をかけた、今にも俺達に飛びかかってきそうだ。


「お止め下さい。

 少しは場所をお考え下さい」


 カーズと言われた役人が大声で止める。

 ここはジュア・ニフスの首都とカリギュナー王国の王都つなぐ大きな道にある国境の関所。

 通行する人も多く、今も関所には10人以上の人がいる。


「『竜騎士長』が侮辱されたのだぞ、許せるのもか」


「みなさんは狂鬼に勝てるとお思いなのですか。

 ヨガ殿が、何故狂鬼と呼ばれているか、ご存知では無いのですか」


 噂がすごいことになっていないか、どんな噂が流れてるんだよ。

 あと狂鬼って恥ずかしいから、自分で名乗った事も無いので止めて欲しい。


「『竜騎士の召喚』に応じない事が罪になるとしたら、それはカリギュナー王国の国民に対してだけです。

 ヨガ殿は冒険者、この件で彼の罪はとえません。


 罪を問うとすれば、我々になるというのは理解出来ていますよね。

 私はとばっちりはごめんですので、正直に言いますから」


 こんな事が本当に罪になるのか?


「何を言うか、我らが何の罪で罰っせられると言うのか」


「法として明確な罪はないかもしれません。

 ですが『竜騎士長』は自分の命令が無視されたとお怒りになるのはあきらか。


 怒りの矛先は、罰せる相手に向かいます。

 申し訳ありませんが、生贄になってもらいます」


 兵達は何か言い返そうとしたが、結局は何も言わず関所から出ていった。

 役人は申し訳ないと何度も謝って来る。

 俺達が入国しなかった場合、自分も罰せられるので、このまま王都へ向かってもらえないかと頼まれてしまった。

 あまり気が乗らなかったが、俺達のせいで目の前の役人が罰を受けるのも、良い気がしないので王都に行くことにした。



「君たち王都に行くと言っていたが、よかったら俺の護衛をたのめないか」


 と一緒に関所にいた商人が声をかけてきた。


「王都へ行くんですよね、そんなに治安が悪いんですか」


 王都に続く大きな道に盗賊が出るとも思えないので、聞いてみた


「いや、カリギュナー王国では王都近くでも、魔物が出るんだよ。

 大きな声では言えないが、この国の魔境からの防御は雑なんだ。

『竜騎士』が空から見張って適当に焼き払う。

 その結果、魔境近くは焼け野原になっていてね」


「『竜騎士』がそんなやり方で魔物を駆逐しているから、冒険者ギルドが無いんですね」


「冒険者ギルドが無いのは『竜騎士』が彼らを嫌っていることが大きな理由だ。

 魔境での狩りは出来ないが、護衛の依頼なら沢山あるさ。


『竜騎士』での駆逐方法で魔境周辺は見晴らしがいい。

 大きな魔物はすぐに見つかり倒されるが、逆にゴブリンなどが漏れてしまうのさ。

 そのゴブリンが出るんで護衛を雇いたいんだが、冒険者はこの国に入りたがらない。

 ギルドが無いんで待遇が保証されていないからな。


 君たちが王都に行くと聞こえたんで、護衛を頼めないかと思って声をかけたんだ。

 ジュア・ニフスに戻ったら、緊急依頼にするからお願いできないか」


「良いんじゃない」

「ヨガが決めて」

 2人も反対はしない、俺も別にいいかと思って依頼を受けた。


 商人の商品は魔物の素材だと笑って教えてくれた。

「全部まるごと焼き払ってしまうから、この国では魔物の素材が貴重なのさ」


 また商人は国境での揉め事を見ていたらしく。


「君が言い返したんで、国境警備兵の奴ら驚いてたな。

 普段言い返すやつなんていないからな、気持ち良かったぜ。


 あいつらいつも難癖つけて遊んでたからな、いい気味だ」


「役人に嫌な感じはなかったけど?」


「この国でダメなのは兵士だけさ、役人はそれで苦労している」


 護衛中本当にゴブリンが出た、しかも翌日には王都に着くという近さでだ。

 兵士はちゃんと仕事しろよと言いたくなる。



 王都に入る時にも1悶着有った。

 リーシェさんが入れないと言うのだ。

 理由は

『人外が入る事は禁止されている』

 と言われた。

 エルフまじりも人外だと、街門の衛兵は引かない。

 ここでも『竜騎士』の召喚状でなんとか入ることができた。


 そのまま離宮に案内され、半日待たされた後

「なぜ、早くこなかった」

「6日後に朝にもう一度来い」

 と言われて宮外に放り出された。


 6日後なら、宿くらい提供しろ。

 次に何かあったら、この国を出て行こうと考え始めた。


 そう考えてすぐに嫌な事がおこる。

 王都に入る時揉めた後で商人に注意されていたが、泊まれる宿が無いのだ。

 そう言っても1軒くらいあると思っていたが甘かった。

『人外お断り』と宿だけでなく、酒場や飯屋にも入れない。


「私、耳隠そうか」

 とリーシェさんが言ってくれたが


「馬鹿な事は言わない、リーシェさんがそんな事する必要はない。

 かってに呼びつけておいて、何この扱い、気分が悪い。

 こんな国さっさと出ようよ」

 と言うキューさんの意見に全く同意だ。


「ここまで来て、そのまま戻ったら流石にまずいよ」

 俺とキューさんが熱くなってしまったからか、リーシェさんが冷静に諭す。


 王都内に泊まれる場所が無いので、1度街を出ることにした。

 門の衛兵が嫌な笑いをしていた事は忘れない。


 商人に少し離れた場所に、エルフ混じりがいる村を教えてもらっていたので、そこへ向かってみる。

 そこなら泊めてもらえると言われていたからだ。


 馬で行けばすぐだ。

 村に着き、宿をお願いする。

 村人はなれていて、専用の家まで用意されていた。


「同じ立場の人を救いたくて」

 と村長が言っていた。


 食事は自分たちですると断ったが

「食事は、宿代に含まれているので遠慮はいりません。。

 じつは、宿は村の数少ない現金収入の方法なので、食事は使って欲しいです」

 と言われれば、断れない。


 味はリーシェさん好みの上品な味付け。


「味が無い」

 キューさんは隠れて塩を振っていた。


 村ではすることが無いので、昼間馬に乗って村の回りを散歩する。

 のんびりするつもりでいたらゴブリンが出た、7匹も。

 あっさり倒して討伐部位を切り取る、ギルドが無いので意味がないが習慣になっている。


 村に帰ってその話をすると、村人に喜ばれた。

 何でも最近ゴブリンの被害が出て困っているとの事だった。


 王都に討伐を頼んでもなかなか来てくれない。

「この村は、あまり重要視されていませんから」

 と村人も諦めている。


 でも詳しく話を聞くと、7匹以上いると思うんだけど。

 そんな事が有った2日後の朝、兵士が6人村に来た。


「王都から派遣された討伐隊だ。

 ゴブリンを倒しに来たが、もう倒してしまっただと、困った事だな。

 これでは村が報告したゴブリンがいた事が嘘になってしまうぞ。

 村が罰が与えられてしまう。


 俺がなんとかしてやろう。

 切り取った耳が有ると聞いた、証拠に渡してもらおう」


 討伐部位を要求された村長が相談に来た。


 7匹くらいの、討伐部位は別に構わないが。

「兵士はゴブリンが倒されたと知って村に来たんだと思います。

 しかも自分が倒したと上に報告して、手柄にするつもりなのでしょう」

 と村長は深い溜息をついていいる。


「村長、そんな顔をしない。

 兵が来たらないい機会じゃないですか、残りのゴブリンも駆逐しましょう。

 話を聞くともっといますよね、俺達も行くんで兵士に頑張ってもらいましょう」


 と提案してみた。

 村長が喜んで、『お願いします』と頼んでくる。


「村が困っているから、私も賛成だけど。

 たぶん全部兵士の手柄にされると思う、そんな事やだ。

 私達だけでやろうよ」

 とキューさんは兵士と一緒なのが気に食わない。


「キューさんヨガの目を見て、あれは何か悪い事考えている時の目よ」


「さすがリーシェさん、良くわかるね。

 ヨガそうなの」


「リーシェさん何を言うんです、何も考えていませんよ」


 村長と一緒に兵たちの所に行って


「申し訳ありません、もう持っていません。

 討伐部位なんですが、考えたらギルドが無いんで持ってても仕方がないので捨ててしまいました」


「なに、そうか。

 残念だ、ゴブリンはいなかったと報告しなかればならない。

 まあ何かあれば俺も考えてもいいが」


 隊長は、口止めに賄賂を要求している。

 本当に報告しても、この村が罰せられる事は無いだろう、ゴブリンは移動する。


「でもゴブリンはもっといるようです。

 そちらを倒してはいかがでしょうか、俺達もお力になります。

 無論倒したゴブリンは全てそちらにお渡ししますので、どうでしょう。


 お世話になった村の脅威を取り払いたいと思っているんです。

 先程も言ったようにこの国には冒険者ギルドが無いんで、討伐の報告義務も無いんです」


「そうか、少し相談させてくれ」

 兵士達が集まって話し合いを始めた。


 本当にゴブリン討伐に来たのなら、相談する必要は無いんだけどな。

 最初から戦う気がなくここへ来ている。


「わかった、ゴブリンを討伐する、お前達の同行も許す。

 どこにいる」


 言い方にイラっとするが、ここは流す。


「村の西にある森で遭遇した者が多いので、その奥にいると思うのですが」


 村長と事前に打ち合わせ、どの辺にいるか検討していた。

 兵士と一緒に西の森に入る。


 見つけた!

 俺の認識能力が、森の奥にゴブリンの集落を見つけた、かなり大きい。


「この先にゴブリンがいます、向かいましょう。

 リーシェさん、キューさん気をつけて」


「気をつけて?」

 キューさんが変な顔をする。

 ゴブリンごときで何を言っているというのだろう。


 リーシェさんは、少し笑いながら

「わかったわ」

 もしかして、わかっちゃいました。


 集落の近くまでいき

「200歩先にゴブリンがいます」


「聞いたか、みんな準備しろ。

 お前達が先に行け」


 あくまで俺達を使うつもりだが、気にしない。


「じゃあ突っ込むよ。

 逃したくないから、キューさん広く壁張ってくれませんか。

 ゴブリン相手なんで丈夫でなくてもいいから」


 キューさんの祈りで兵達の後ろに光の壁が出来る。

 壁はゴブリンの集落を囲んでいる、これで逃げられる心配はない。


 俺達は集落の中心に飛び込みゴブリンどもを蹂躙した。

 俺は手当り次第に剣をふるい、リーシェさんはサラマンダーで炭に変えている。

 キューさんは逃げていくゴブリンに落雷を落としている。

 一方的な殲滅戦だ。


 順番に確実に倒してゆく。

 今倒したのが、最後の1匹なのを確認して

「はい、終わり。

 全部、倒したよ。


 兵達のとこに行こうか、結局こっちにこなかったね」


「いいねヨガ。

 ちょっと気がはれた」

「やっぱり悪いこと考えてたじゃない。

 なんでそんなに血だらけなの、わざとだよね」


 兵たちと別れた場所に戻ると、近くに隠れていた。


「100は越えてましたね。

 お手柄じゃないですか」

 俺は、わざと持ってきたゴブリンの頭を兵たちの前に投げた。

 その首、次に血だらけの俺を見る、声にならない悲鳴が上がる。

 キューさんがニヤリとする。


 一応彼らも国の兵士だ1対1でゴブリンに遅れを取ることはない、あたりには10匹以上のゴブリンの死体がある。

 ただ数が問題だった、対応しきれなくなって逃げだそうとしたが、今度は壁で逃げる事ができない。

 仕方なく隠れる事にしたようだ。


 彼らをそのままにして、俺達は村への帰路についた。


「あのゴブリンの数、自分たちで倒した事にするのかな」

 王都に行って以来、暗くなっていたリーシェさんに笑顔が戻った。


「別にそれでもいいよ。

 でもそんな事すると、次は実力以上の仕事を振られて困ることになると思うよ」

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