第27話 3つ星最初の依頼

「ヨガさん、ギルド証をお返しします」


 3つの丸が刻まれたギルド証を、受付から返してもらった。

 パーティー全員で一緒に3つ星に上がった。


「先程なんですが、3つ星に強制依頼が発生しています。

 ほんとヨガさんすごいですね、上がったその日に強制依頼だなんて」


「おいヨガ。いい加減にしてくれよ」


 いや、トゥールさん俺はなにもしていないから。


「3つ星へ出るなんて、ほんと珍しいですね。

 普通、強制依頼は4つ星に出るものですよね」


 リーシェさんが口にした疑問は、パーティー全員が持っていた。


 強制依頼とは、冒険者ギルドが出す依頼で、その名の通り強制的にやらされる。

 指定された冒険者は拒否できない、あまりに一方的なので個人や少数に依頼する事はない、大抵は星のランクで指定される。

 冒険者は4つ星が最も多い、5つ星以上に上がるにはポイントだけでは上がれない、ここで足止めをくっている冒険者が多いのだ。

 強制依頼はこの4つ星に出される事が多い。


「内容が調査だからよ、4つ星だと関わる人数が多くなってしまうの。

 まだ詳しいことがわかっていないから、5つ星に依頼もできない。

 ということで3つ星に依頼が出たという事よ。

 詳しくはこれを読んで、その依頼書は持っていっていいわ」


 と受付嬢に依頼書を渡される。


 依頼の内容は、事件の原因調査だ。

 最近ラーディで行方不明者が出ている。

 魔境周辺と呼ばれているこの街で、行方不明者が出ただけでは強制依頼は発生しない。


 いなくなったと思われていた4人が、教会に居ることが判った。

 4人とも記憶を失っていて、教会に保護されたのだ。

 怪我はしていない、教会では力仕事をしていた。

 4人目の記憶喪失者を保護した時点で、教会から相談がきて冒険者ギルドが動きだしたのだ。

 ギルドは街の治安も仕事だからだ。


 ギルドとしては、精神攻撃を行う魔物の発生を疑っている。

 過去にはそんな魔物も街の近くに出たことがあるのだ。


 依頼の期間は10日間、その間に原因が判ればそれで依頼終了だ。

 判らなかった場合でも、ギルドへの報告内容で報酬とポイントが貰える。


 確かに4人の足取りを追うには、4つ星では人が多すぎる。


 でもトゥールさんごめん、これは俺のせいだ。

 俺が犯人です。


 被害者は、本当は6人いる。

 全員ミツルの手先で、リーシェさんをさらうためラーディに来た。

 リーシェさんに接触する前に、俺が排除していたのだ。


 死んでもいいやと思い彼らのマナに干渉した。

 そのレベルでマナを変えてしまうと、記憶が飛び性格も変わるようだ。

 殺さないですむならその方がいいと、今ではギリギリまでマナに干渉している。


「これどこから、調べる?」


 リーシェさんは、やる気だ。


「まずは4人が、どこでそうなったか。

 それとも身元を調べるか」


 トゥールさんも順当な方法を提案してくる。


 でも今回まともに調査する気はない。


「この依頼は俺達向きではないな。

 強制依頼は失敗時のペナルティが発生しないからいいけど」


 最初から失敗する予防線をはる。


「その言い方、ヨガらしくないね」


 リーシェさんあなたを、この件に近づけたくないからです。


 調べはするが、正解に当たらないよう誘導した。

 結局10日間で俺達に判った事は、彼ら4人が最近ラーディに来たことくらいだった。


 冒険者ギルドに行き報告をすると、ギルド長のグレリオスさんが対応してくれる。


「お前らには期待してたんだがな」


「俺達にも苦手なものはありますよ、なあヨガ」


「俺の耳ではどうにもなりません」


 お手上げというように、両手を上げてみた。

 ギルド長は過度な期待を俺達にしている、この辺で下げておかないと、後でとんでもない依頼をされそうだ。


「まあいいさ、調べるのが得意な連中もいるからな」


「原因がわかったんですか」


 残念だけどそれはないよトゥールさん、もし判っていたら横に俺はいない。

 捕まってる。


「原因は判っていない。

 だが魔物じゃなかった、人だった。

 怪しい奴が出てきた」


 ビチュレイリワに他のパーティーの動きを覗いてもらっていた。

 監視対象の数が多いと文句を言われたが、仕方がない。

 真実にたどり着く冒険者がいるかも知れないのだから。


「せっかく頑張ったんだ、答え合わせをしたくないか」


 ギルドが手に入れた情報を、俺達に教えるというのだ。

 ただで教えてくれる事はない、裏がある。

 みんなが俺を見て判断を委ねてきた。


 俺は何が起きたかは知っている。

 そしてギルド長が何を言ってくるかは想像できる、できれば聞きたくない。


「答え合わせだけならば」


 ギルド長は、俺の返答の意味を理解し口角が上がる。


「用心深いな。


 まあいい、聞きな。

 被害にあった4人は、最近お隣フルーフ王国からこの街にやってきた。

 1人は冒険者、3人は商人と言っていたが、冒険者ギルドにも商業ギルドにも顔をだしていない。

 人に合わないようにしていた、怪しすぎる」


 そりゃ怪しいさ、うしろめたい事をしようとしていたんだから。


「そしてもう1つの共通点が有った。


 この街で1人の男と接触した後に、被害に合っている。

 その男は自分の周りが騒がしくなると街から出ていきやがった、行き先は多分フルーフ王国だろう」


 それは違う、奴はまだこの国にいる。

 失敗して戻れば殺されるとわかっている、まだ失敗の報告はしていない。

 チャンスを待っているのだ。


「男をフルーフの冒険者ギルドに照会したら、エルフェースの街から連絡が来た。

 意外と知られた男だったよ。

 エルフェースを領地にしている伯爵の犬で、名はロイドと言う。

 名前まで知られている、裏の仕事をするのは向いてなかったんじゃないか」


 ロイドは父上の犬ではない、ミツルの犬だ。

 ミツルは自己顕示欲が強い、犬も飼い主に似たのだろう。


「国なのか、伯爵個人の考えなのか判らないが、この件にはフルーフが絡んでいる。

 慎重に調べないとならなくなった。

 国にも報告したが、兵を動かして刺激したくない」


 ミツルはそんな事になっているなんて、思ってもいないだろうな。


「密かに動くなら俺達冒険者の出番だ。

 既にそういう事が得意な奴らに調べて貰った」


 3つ星では役にたたなかったか。


「ロイドがこの街で何をしていたのかは少し判った。

 お前たちのクラン『アルテミラルの盾』に探りを入れていた。


 何を探っていたか知りたい、お前たちでちょっと調べてくれないか。

 クランの中を調べるなら、そのメンバーが都合がいい」


 来たか。


「これは依頼ですか?」


「そうだ指名依頼だ、しかもギルドからの特別な依頼になる。

 依頼を完了したらお前らは4つ星だ」


「なんですかそれは」

「そんなこと出来るんですか」


 トゥールさんやリーシェさんが知らないとは、本当に珍しいことなのだろう。


「ギルド本部からの決定でな、お前らをさっさと4つ星に上げて、上の依頼をさせろとさ。

 本部はこの国の王都にある、ラーディで目立てば噂は聞こえるさ」


「やっぱり、ヨガのせいか」


 ーーーーー


 ツェローラ子爵へ話していい許可を、ギルド長から貰っている。

 子爵のクランだ、話を通しておいた方がいい。


「隣国がこのクランに何かしているかもしれないのか。

 君達が絡むと、話が大きくなるな」


「ヨガのせいです」


 違うトゥールさん、これはリーシェさんのせいだから。

 子爵もそこを一番疑っているだろう。


「存分に調べてくれ、人手が足りないようなら言ってくれ、誰かに手伝わせよう」


 協力するとまで言っていただいた。


「何処から調べるつもりだ」


 それには考えがある。


「子爵様、このクランにフルーフ王国出身の冒険者はおりませんか。

 このクランを調べていたなら、私達みたいに中からのほうが楽なはずです。

 既に密偵がいるのかと」


 あれ、リーシェさんに言われてしまった。


「すまない、流石に全員の出身地までは把握していないな」


 クランには密偵が1人いる。

 逆に彼女から手先の居場所を掴んでいた。


「思い当たりが有るのですが」

 キューさん、その人で当たりです。


 彼女は既に俺達に接触していた。

 リーシェさんにはまだ近づいていないが、同じ神官でもあるキューさんとは顔見知りだ。


「『白豹』のキリスさんが、フルーフでの事を話していたと思います。

 でも彼女がそんな事をするとは思えません。

 裏のある人では無いと思います」


「キリス君は知っているが、入ったのは2年も前だ。

 そんな昔から探られていたとは思えないんだがな」


「2年もいたのなら、知りたい事はもう掴んだんじゃないか。

 知ったからこそ、ここ最近で何かが動き出したかもしれない」


「考えられますね」


「いいえ、彼女は神に仕えています。

 心に反した行動を取れば、神聖魔法が使えなくなります」


 冒険者の間では、有名な話だ。

 程度の差は有るが、精神の状態は神聖魔法に影響がでる。

 精霊の存在を信じていない俺が、精霊魔法を使えないように、心理的な理由で影響が出てしまうのだろう。


 ただし。

「そのキリスが、平気で嘘をつけるなら、神聖魔法に影響はでない。

 女はわかんないからな」


 本人が神の意思に反していないと考えていれば影響はでない。


「でもお兄様、キリスさんはそんな人ではありません」


「ここで話していても始まらない、まずは彼女の事を調べてみよう」


 俺が話をまとめ始めた。


「キューさんは彼女を知っているから、今回の強制依頼の話をしてみてくれないか。

 ロイドという男が追われていて、この街を出て今はいないと教えてみて。

 でもフルーフが絡んでいる事は黙っていたほうがいいかな。


 お兄様、彼女をよろしく」


「ヨガ、そのお兄様はやめろ」


「リーシェさんは俺と一緒に冒険者ギルドに行こう。

 調べたい事がある」


 調べるのは、複数に別れた方が効率がいい。


「キリスさんとは3日後に、ネーダの菓子店に新作を食べに行く約束をしています。

 そこで話して見ます」


「菓子店に俺も入るのか」


「お兄様は、その後私に帽子を買ってくださるんです。

 一緒に行きましょう」


「本当に買わされそうだな」


「クラン内での事だ、私も報告がほしいな」


「ならば3日後の夕方、ここで各自の集めた話をしましょう。

 子爵様それでよろしいでしょうか」


「それでよい」


 宿への帰り道で、

「子爵様はクランにフルーフ出身の冒険者がいるか聞いた時、嘘を言いましたよね。

 知らないと」


「リーシェさん、気が付きました。

 ツェローラ卿は、昔から嘘が下手で顔に出ます。

 多分、キリスさんの事は知っていたと思います」


 俺は思わずトゥールさんを見た、彼も俺を見ている。

 このパーティーの男はポンコツだ。

 女性陣が優秀なのか。


(ピノ気づいてた?)


 思わず聞いてしまった。

 俺の中でピノも一応女性の分類になっているらしい。


<はい。

 子爵は視線を故意に泳がせましたので>


 やはり彼女も優秀だ。


「ツェローラ卿にも隠し事があるということですね。

 その秘密が今回の事に関係しているかは判りませんが」


「だからキューさん、必死にキリスさんをかばっていたんですね」


「私達に知らせないという事は、彼女に何かよくない事を考えていたのだと思います。

 ツェローラ卿にはそんな事はして欲しくないんです」


 キューさんは、本当に神に使える身なんだな。


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