【第29話】飛竜アメジスト
山を登る4人だったが、ここで、風景が一変する。木々が少なくなり、岩肌が目立つようになってきた。標高が高くなってきたため、木々が自生できないのだ。
そのまま、進んでいくと、人の体よりも一回り大きな岩が雑多にある広場のような場所に出る。周囲を警戒しながら進むが、突然周りの岩が動き出した。マウンテンエイプが岩に擬態していたのだ。囲まれてしまう4人。マウンテンエイプというのは岩のような体をしたゴリラだ。
ヒューはエコーを放っていたが、岩に擬態したマウンテンエイプには気が付かなかった。
ダリアを中心にして、前衛3人は背中を合わせる。そして、そのまま自分の目の前の敵を掃討していく。10体ほどいたが、次々と討伐されていくエイプたち。3人の対応が遅れそうなものに対しては、ダリアが魔法を撃ち込む。
全てのエイプを討伐し終わった4人は、昼食の時間のため、この場で飯を食べ、それが終わると、再び登頂を再開する。
そして、ついに山頂部分へ辿り着いた。ここから東を見ると、少し遠いが、マウラの街が一望できる。次に、北、南、西を見ると、この山よりも高い山がいくつも連なっており、とても壮観だった。
最終目的地は、ここからさらに西にあるワイバーンの住処、竜の谷だ。竜の谷は、山と山の間に存在していて、この山脈内にいくつか存在している。、今回向かうのはワイバーンの住処だが、ドラゴンの住む谷もある。
竜の谷、目前まで迫った4人は、キャンプを張って夜を明かしてから向かう事にした。そして、夜が明け、ついに谷に向かう4人。竜の谷は全体的に薄く霧がかかっていて、少しだけ視界が見えづらい。谷といっても、下に降りて戦うのではなく、谷を見下ろすことが出来る、崖上で戦う。
谷底に降りてしまうと、いくら上級冒険者でも、ワイバーンに囲まれてしまい命を落としかねない。
崖際まで進む、一行。
その時、こちらに向かってくる1匹のワイバーンがいた。その姿を視認し、身構える4人。その後ろから、さらに2匹のワイバーンがやって来る。数的には、こちらが4人で、あちらが3匹だが、油断はできない。
最初の一匹に、ダリアがサンダーアローを当てる。すると翼に当たってバランスを崩す。そこに、すかさずサンダーアローを連続で放ち。翼がボロボロになり落ちたところに、レイブンがレイピアの連撃を行う。残りの2匹は上空から、鋭い鉤爪で、ヒューとロバートをそれぞれ狙ってくる。
ヒューは、回避し、ロバートは大剣の腹で受け流す。その勢いのまま、尻尾で攻撃して来るがどちらも回避する。すると、上空に向かった後、もう一度、鉤爪攻撃を繰り返してくるワイバーン。
2人も同じように回避と受け流しを行うが、最初の1匹を討伐し終えたレイブンが、ロバートを攻撃したワイバーンに横から連撃を加える。そして、ヒューを攻撃したワイバーンにはダリアがサンダーアローを打ち込んだ。
ワイバーンにはドラゴンブレスのような遠距離攻撃が存在しないため、数に有利がある場合、このように堅実に仕留めていく事が出来る。その場合、冒険者側にある程度の実力は無いといけないが。
3匹のワイバーンを危なげなく討伐した4人は、この場所で狼煙を上げる。この狼煙は、自分たちだけでは素材を持ち帰れない際に揚げることで、運び屋がギルドから派遣されて、モンスターを運んでくれる仕組みになっている。
その際に、素材の2割を運送料として取られるが、そのぐらいは割り切るしかない。
倒したモンスターはギルドで確認することが出来るので、他のハンターにネコババされる心配もない。たまに、運ばれる前に隙を見て剥ぎ取り、その素材を闇市で売るハンターもいるが、ほんの一握りである。運び屋がいなければ、大型モンスターを倒し、素材を採取しながら冒険は出来ない。
この辺にワイバーンを食べるモンスターはいないが、一応、魔物避けを死体に施し先に進む。
目標にしている10匹を倒すため、谷に沿って崖の上を移動する。そして、順調にワイバーンを倒していく4人。レイブンがワイバーンと一騎打ちを行ったりというイベントを挟みつつ、目標数の10匹を達成した。
「死ぬかと思った」
「大型モンスターだからな、油断大敵ってことだ」
冷や汗を流しているレイブンの肩をたたくロバート。一騎打ちをしたときに、尻尾の軌道が少し特殊で読み切れず、右に回避したら、たまたま回避できただけで、直撃していたら大ダメージを負う場面があった。
倒したワイバーンを一か所に集め、、帰る準備を始める4人。
その時。
「ダリア、危ない!!」
ヒューがダリアを突き飛ばし、瞬時にオーラアーマーを張る。すると、紫色のワイバーンが谷の反対側から現れて鉤爪で攻撃してきた。そのまま弾き飛ばされたヒューは、谷底へと落下していく。
「ヒュー!!」
谷底に落下していくヒューは、どうしようか真剣に考えていた。
これは、やばい、死ぬ。
空飛ぶ魔法が使えたらいいのにと考えたが、そう甘くはないだろう、長い落下が続き、もう地面が見えてきた、覚悟を決めたヒューは強硬策に出た。
ええい、ままよ!!
体をオーラアーマーで包み、体を空中で回転させ、なるべく衝撃を分散するために背中からの着地にする。柔道で言う受け身の体勢だ。そして、体の背面にオーラアーマーを3重4重でかけていく。気の消費が尋常じゃないがそうも言ってられない。
そして。
――――ドゴン!!
地面に衝突したが、地面が人型にへこんでいる。背中から落ちたヒューは、原形をとどめているが、ピクリとも動かない。
そして、30秒ほど経った頃、動きがあった。閉じていた目を開け、辺りを確認してから、ゆっくりと起き上がる。
死ぬかと思った。気を半分以上、消費したな。
手を閉じたり開いたりして、体が動く事を確認したヒューは、これからどうするか考える。
さて、ここからどう戻ろう。
上を見上げ、そのあと辺りを確認するが、階段らしきものはない。当たり前だが。
もう1度、山を登らんといけないのか? いや、そんなことをしている時間は無いか。
紫色のワイバーンの話は聞いたことがない、それに先ほどのワイバーンの動きを考えると3人が強いのは知っているが、不安になる。一番手っ取り早いのは、このまま、落ちてきた最短ルートで戻ることだが。
もう1度上を見るが、どう考えても無理そうだ。一応、壁も調べてみる。ぼこぼこしているので、登れそうだが、時間がかかるだろう。少しだけ考えたが、このまま迂回して、もう1度山を登るか、ワイバーンに掴まり、もしくは捕まり上に行ってくれることを願うか、ボルダリングで堅実に行くかの3択だ。
迂回して、向かったのでは、遅すぎる。しかもワイバーンが出る道だからな。2つ目は運要素が強すぎるから現実的じゃない。3つ目は距離は最短だが、ワイバーンの攻撃を捌きつつ登るのは危険だ。
そうこうしているうちに、ワイバーンが襲ってきた。
不味いな。
先を見据えて、気をこれ以上消費したくないため、生活魔法で倒すことにしたヒュー。生活魔法には、威力が無いのは確かだが、密度を変えることで威力が増すものを発見したのだ。それが水だ。水を勢いよく高密度で噴射することでウォーターカッターを再現できた。射程は短いが。
接近してきたワイバーンに対して、ウォーターカッターで迎撃する。射程が50センチ程なので体を一刀両断は行かないが、翼を切断して落とすことに成功した。フラッシュを使い隙を作ってから、頭にウォーターカッターを撃ち込む。
それを受けたワイバーンは、一瞬だけ暴れた後に力尽きる。接近していたヒューは攻撃が当たる部分にだけアーマーを張ってしのいだ。
次々に現れ襲いかかるワイバーン。2匹以上はさすがに、気を使用して倒す。
このままだとじり貧だ。
そう思ったヒューは、ある行動に出る。おもむろに壁に手を突き刺したのだ。
―――ズシャ。
いける。
少しだけ助走を取ったヒューは、そのまま勢いよく壁を登っていった。足だけバトルアーマー化して壁に足を突き刺すことを繰り返し行っているのだ。出っ張りが大きい場合はそのまま足場に使い、出っ張りがない部分だけ突き刺してなるべく足の負担を減らす。あまりの速さにワイバーンも着いて来ることが出来ない。
そして、ついに崖上に到着した。
周りを見渡すと、地面には大量の血と焦げた跡が見える。そして、翼がボロボロになった紫色のワイバーンが、こちらに背を向け、3人を威嚇しているのが分かった。
それに対して、全身血だらけになりながらも、突撃を行うレイブン。その後ろには右腕に大きな傷を負ったダリア。そして、左腕を失い地面に倒れているロバートの姿があった。
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