【第18話】激闘、演奏会
オークと冒険者たちの戦いは、一進一退の攻防を繰り返していた。それだけ聞けば、大丈夫に聞こえる。だがしかし、オークの数は確実に減っているものの、1000匹以上は無傷の状態で残っている。
それに対し、数の少ない冒険者側は、負傷したものは前線を離脱し回復、ある程度回復したら、また前線に復帰して、を繰り返していた。
(このままでは、じり貧だ)
全軍の指揮を任されたマクベスは、この状況を冷静に分析していた。何か打開策がないか探してはいるが、いい案は浮かばない。そのまま、ずるずると交戦状態は続いた。
そして、ついに。
「魔法部隊の魔力が、残り僅かです」
「弓矢も底をつきました。現在、戦場に落ちている、まともな矢を探しながら攻撃を続けている状況です」
「右翼側、左翼側も、ほぼ同じ状態です」
諜報員から、次々に悪い報告が上がってくる。
それを受け、決断を下すマクベス。
「中央の冒険者達に伝達しろ!! 一旦下がり、オークにわざと後を追わせる、右翼と左翼には、その際に追ってきたオークを挟撃してもらいたい、そちらにも情報伝達を頼む、急げ!!」
「「分かりました」」
諜報員たちはすぐさま、それぞれに指示を出しに行く。
(作戦も密に立てられなかったから、あまり陣形を変えたくはなかった。それに、右翼と左翼は、BランクとCランクのクランが大半だ、成功すればいいが)
マクベスの指示通りに、中央が撤退。すると、予想通り、オークがそれを追ってきた。右翼と左翼も、挟撃の準備ができている。
「反転し、反撃を開始しろ!!」
逃げていた冒険者が反転してきたため、少し混乱したオークだったが、あまり頭が良くないせいか、深く考えず、そのまま突っ込んできた。ぶつかり合う冒険者とオーク達、またも一進一退かと思われたが、左右からの挟撃が見事に決まって、混乱するオーク。
(このままなら、いけるぞ!!)
このまま、混乱したオークを殲滅していって終わりかに思えた。
しかし。
―――――グオオオォォォ!!
キングオークの咆哮が戦場に響き渡る。その瞬間、オークたちの混乱は止み、先ほどよりも獰猛になり、冒険者達に襲いかかる。
(くそっ、キングオークの咆哮か、厄介だな)
またもや状況は逆戻り。いや、獰猛になったオークに、右翼と左翼の冒険者達が押され始める。それもそのはず、低ランクの冒険者には、普通のオークでさえ厳しいのだ。
オークを倒していてもキリがない。ならば、キングオークを倒すべきなんだが。
そんな中、右翼にいるヒューも、状況を打開する策を考えていた。
キングオーク単体なら、倒せる術を持っているが、そこまで行くのに【気】が持つと思えない。どうしようか困っていると、どこからか音楽が聞こえてくる。
なんだこれは、楽器の音? たくさんの楽器の音だ。
右翼で冒険者とオークが戦っている。そのさらに右手、草原の彼方から音が聞こえてくる。突然の音楽に、冒険者とオークは戦闘を停止し、そちらに集中する。
すると、音とともにその姿がはっきりと見えてきた。ハンマーと盾を打ち付けあう、ゴリゴリマッチョの男達。剣を両手に持ったまま、楽しそうに回転する女性達。それを大剣とレイピアを持った老人たちが囲んでいる。
そのままの状態で、こちらに近づいてくる集団。
なんだこいつら、戦場には不釣り合いな…… いや、持ってるのは武器だから合ってるのか。なんか、色々音が鳴ってるけど、あれ武器だよな?
そんなことを考えているうちに、こちらに到着した謎の集団。
その中の1人が、こちらに話しかけてきた。
「お見かけしたところ、とても困っている様子、助けが必要でしたら助太刀いたしますよ」
簡単なことを手伝うかのように協力を申し出る謎の男。
「もしや、あなた方は、国境なきクラン【シンフォニア】の方々かしら?」
それに対し、右翼のリーダーである、リタが対応に当たる。
「いかにも、私たちはシンフォニアであります」
「協力してくださると助かります」
「喜んで!」
どうやら、シンフォニアと呼ばれる集団が戦闘に参加するようだ。
疑問に思ったので、ヒューはゼルバに問いかける。
「なあ、シンフォニアってなんだ?」
「ん? ああ、シンフォニアは国境なきクランて言われててな、言葉の意味そのまんまで、どこにも属してないんだ」
「ふーん、強いのか?」
「まあ、強いという噂は聞くが眉唾もんだな」
「どうして?」
「音楽を奏でながらドラゴンを倒したとか、生きたワイバーンをそのまま楽器にしようとしたとか、そんな噂ばっかりだ」
「なるほどな」
「これで、真実かどうか分かるな」
固まっていた、オークも動き出し、冒険者も戦闘を再開した。
そんな中、準備をするシンフォニアのメンバーたち。
「どの楽譜で行く?」
「第2で!!」
「えー、第4がいい!」
「こらこら、早くしなさい、今は戦闘中なんだよ」
「じゃあ、第4でいいよ、次回は第2ね!!」
「決まったな、じゃあ行くぞー」
手に楽器(武器)を持ち、戦闘態勢に入るシンフォニア、途端に真剣な表情に変わる。
――――開演。
綺麗な音が聞こえてきたと思った瞬間。
目の前にいたオークたちが一瞬にしてバラバラになる。双剣使いの女達が切り刻んだようだ。さらに突撃する女達、音楽を奏でながら、次々とバラバラにしていく。そして、なぜか悲しい音楽が流れる。双剣を振った際に空気が振動し、音が鳴っているようだ。
双剣の女達は、自分たちの出番は終わったとばかりに静かに後退していった。
次に出てきたのは、盾を持った男達とハンマーを持った男達。盾とハンマーを打ち付け合いながらゆっくりと進んでいく。
そこに、しびれを切らしたオークが突撃してきた。男達は突撃してきたオークの頭をハンマーで叩いて音を奏でたり、オークの攻撃やオーク自体を盾に打ち付けて音を出したり、合間にハンマーと盾を打ち付けあって音を出したりと、陽気な音楽を奏でている。
演奏に満足したのか、男たちは後退していった。
最後に大剣とレイピアを持った老人たちが出てきた。大剣とレイピアをこすり合わせて音を出している。地球で言うバイオリンのような感じだ。大剣とレイピアの両方を使用し、鮮やかにオークを屠っていく。オークの血が大剣やレイピアに付着し、その付着率で音が変わるようだ。
右翼のオークを粗方、倒し終えたシンフォニアの面々は清々しい笑顔でこう言った。
「「ご清聴ありがとうございました」」
そして、武器に付着した血を拭き取っていく。
「あのー」
彼たちに恐る恐る声をかける冒険者A 。
「はい、なんですか?」
「武器を片づけているように見えるんですが」
「武器? ああ、違います楽器ですよ。それで、片づけていますが何か?」
「え? あの、まだ戦いは終わってないんですが」
「と言われましても、本日は閉演しましたので、またの公演をお待ちください」
実に自由な集団である。
「では、私たちはこれで」
そして去っていく。
その姿を見つめたまま、呆気にとれらる冒険者達だが、気を取り直して戦いに集中する。右翼のオークは、ほぼ殲滅されたので、キングオークまで道のりが近くなった。
「私たちは、これよりキングオークの討伐を行います」
リタが指揮を取り皆がそれに賛同する。
「突撃!!」
右翼の冒険者たちは、掛け声と同時に突撃を開始する。
一方その頃、中央の冒険者達は。
「ん? なんか音楽が聞こえないか?」
「ばーか、戦場で音楽なんて鳴ってるわけないだろ」
「はは、それもそうか」
「それよりも、これ、やばくねえか」
「ああ、オークの数が一向に減らん」
「それに比べてこっちは」
「満身創痍って感じだな」
「「はぁ」」
(右翼で何かあったか?)
右翼付近で大きな気配が発生し、その気配が消えたので、マクベスは何かあったと考えた。しかし、オークと冒険者がごった返しているので、精密な気配の察知が出来なくなっていた。
(クソ、気配が完全に把握出来ない)
そんな中。
「伝令!! 右翼のオークが殲滅されました、現在、右翼の冒険者たちがキングオークの元へ向かっています!!」
「なに!? 殲滅? どうやったんだ?」
「クラン【シンフォニア】が加勢し殲滅、その後去って行ったそうです」
なぜ、最後まで戦ってくれなかったのか、という疑問は飲み込んで、マクベスは中央の冒険者達に指示を出す。
「現在、右翼の冒険者達がキングオークのもとに向かっている!! 倒すまで持ちこたえれば我々の勝ちだ!!」
「「おー!!」」
地獄のような戦いが、終わるかもしれないと聞いて、冒険者達のやる気が蘇る。
そして、最後の戦いが幕を開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます