【第17話】少年と顔面凶器

「作戦を考えている暇はない、各クランで対応に当たってくれ」

ギルドマスターが慌てた様子で指示を出す。その言葉に頷くクランリーダー達。冒険者ギルドを出て、急いで自身のクランハウスに向かう。



その頃、クラン【イノセントロンド】では、1階にあるロビーの部分にクランメンバー全員が集合していた。ヒューとの面識がないメンバーも、ちらほら居る中、

1人で壁に寄りかかるヒューに、ゼルバが近づいてきた。


「ヒューは俺たちと一緒に行動することになりそうだ、不満などはないか?」


「大丈夫だ、問題ない。不満なんてないさ」


「そうか、緊張は? 大丈夫か?」


「こういうことに、慣れてないからな、少しだけ緊張してる」


昔の記憶を辿ってみても、戦闘に参加している記憶はなく、荷物を持ってメンバーについて行って、後ろで戦闘を見ているだけだった。


「ははは、まあ少し緊張してるぐらいが丁度いいさ」


「チームプレイは不慣れなんだ、迷惑をかけるかも知れないが、よろしく頼む」


「おう、大船に乗ったつもりでいろ、冒険者の先輩として恰好つけるチャンスだしな」

そう言って白い歯を見せて笑うゼルバ。イケメンすぎる。


「一緒に、頑張りましょうね!」

そこに、エレナたちもやって来る。


「ああ、よろしく頼む」


「ヒューは、私たちに頼ることがなくて、寂しかった、今日は私たちが存分に甘やかす」

セイレンがヒューの横に音もなく寄ってきていた。なぜ気配を消す。


「甘やかすのはいいが、今日の戦いはチームプレイのいい経験になるはずだ、しっかりと見守ることも、先輩の役目だぞ?」


「ん、分かった」

セイレンは、しぶしぶ納得した様子でヒューを撫でる。


ボッカスはヒューと目が合うと頷いた。「よろしくな」と目が語っている。彼に関しては、どんどん口数が減っている気がする。


招集された理由を予想しながら、それぞれがクランリーダーの帰りを待つ。

そんな中、イワンが慌てた様子で帰ってきた。

「全員、戦闘準備!! 既にオークが攻めてきている、すぐに出るぞ!!」


「オーク? それだけか?」

疑問に思ったゼルバが質問を行う。


「時間がない、移動しながら話す」


「わかった」




街の西門を抜け、草原に出たイノセントロンドの一同。

他のクランの姿はなく、ある程度の数が揃うまで、ここで待機することになるのだが、遠くに見えるオークの数を見て騒然とする。


「なんだ、あの数」


「1000? 馬鹿言うな1500、いや2000は居るぞ!!」


道すがら、イワンから状況を知らされていた、クランメンバー達だが、そのオークの数に圧倒されていた。


「まさか、これほどとは」


イワンも、この状況は想定していなかったので、額には汗が滲み出ている。

他のクランも続々と集まってきており、どのクランも同様に驚きを隠せないでいる。


そんな中、クラン【疾風迅雷】のリーダーであるマクベスが、それぞれのクランリーダーに確認を行う。


「見た感じ2000は居そうだ、俺たちのクランが正面を担当したいと思うけど、他に行きたいクランはあるか?」


「いや、それが適任だろう」

Aランクのクラン【グリムリッパ―】のリーダー、グリムがそれに賛同する。


「では、私たちノワールローゼが右翼、グリムリッパ―が左翼でよろしくて?」


「了解した」

グリムが頷きながら、そう答える。


「それと出来るなら、マクベスが全体を見て指示を出してくださる? あなたのところに、足の速い子達がいるわよね? その子達を使えばある程度、統率が取れると思うの。戦場の中心だから全体が良く見えそうですし、あなたのところが適任だと思うわ」


「分かった、なるべく全体を見ることにする。だが、指示は細かくは出さない。逆に混乱してしまうからな、そこは各クランに任せる。それと、残りのAランククランは、一番激戦になるであろう中央に来てくれ! Bランク、Cランクのクランについては、右翼と左翼へ、約半数ずつに分かれるんだ。時間が無いから、大体で構わない!」

両者にマクベスが追加で指示を出す。


各クランがそれぞれの配置についた。


「それと、Bランククランは、戦況を見て持ち場を離れ、危なそうなところを助ける役割を頼む」


「おいおい、なかなかきついことを言ってくれるね」

イワンが困った顔でマクベスを見る。


「お前のクランに言ってるようなもんだぞ」


「そんなに期待してくれてるのか、ありがたいな」


「なに言ってるんだ、結成して日が浅いのに、もうBランクになりやがって。もう少しでAに来るんじゃないか?」


「どうかな、まあ、期待にそえるように頑張るよ」


「ああ、健闘を祈る」



そして、右翼を担当することになったイノセントロンドの面々。

その隣には、【シャンドゥシャス】の姿がある。


隣で戦うのはハゲのクランか、ん? ハゲの姿が見えんな。

ジースの姿を探したヒューだが、ハゲ頭が見当たらない。


腹でも壊して、トイレから出てこれないとかだろう、馬鹿そうだしな。

そんなことを考えながら戦闘が始まるのを待つ。


オークが草原の中ほどに差し掛かった時、ついに、こちらの中央部隊が動き出す。

「魔法を撃ち込め!!」


マクベスの指示で遠距離から魔法を放つ魔法使いたち。

色々な魔法が飛んでいき、オーク軍団の前衛に当たるが、十数体が吹き飛んだ程度だ。魔法も遠距離から使うほど威力が落ちてしまう。普通の【気】に比べれば減衰率は全然ましなのだが。


「魔法部隊後退。次っ! 弓部隊前へ、弓放て!!」

次々に弓を射るがオークの肌に阻まれて、この距離からではあまりダメージを与えられない。今の段階では、牽制する意味合いが大きい。


「弓部隊、後退しろ!! もう1度、魔法部隊が前に出て、攻撃の指示を待て!!」


中央部隊に倣って、右翼と左翼も攻撃を開始した。


魔法と弓が飛んでいく中、ヒューは考える。

さて、どこまで能力を使うか、出し惜しみしすぎて、誰かがやられるのは嫌だ。かと言って全力を出しすぎても、目を付けられるかもしれない。


しかし、魔法の砲撃を見ていて考えが変わる。


いや、待てこれはチャンスかもしれんぞ、こんなに大量のオークたちに本気でオーラボールを放つ機会なんて早々ない、しかも、これだけ砲撃が飛び交っているんだ、バレはしないだろう。


集中し、気を手に集中する、それを50センチ程の球体にして水で覆う。

見た目上は、ウォーターボールだ。

水属性スキル持ちの魔術師に多く使用されているので目立たないだろう。


さあ、どんな感じになるかな?


それをお馴染みのエコーに乗せ発射した。


まっすぐ飛んで行ったネオウォーターボールは、衝突したときの威力で50匹ほどのオークを吹き飛ばした。


やべ、こんなに威力あるんだな。まあ誰が放ったかバレなければ、大丈夫だろ。


皆は、何が起こったか分かっていなかったが、オークが吹き飛び驚いている。そんな中、シャンドゥシャスのリーダーである、ガノンと目が合う。無言でこちらを見つめるガノン。睨んでいるようにも見える。


まさか、バレたか? いや、たまたま見てるだけだろ。


ジ―――――――。

ジ―――――――――――。

ジ――――――――――――――――。


はい、多分バレてますね。


しばらくの間、ヒューの事をジッと見つめるガノンだったが、不気味にニヤついた後、オークの方に目線を戻した。


なんだ、何を考えている。まさか、脅す気か? 「秘密を話されたくなかったら~」的な。だが今は、そんなこと気にしてる場合じゃない、集中だ集中。戦場では、こういう時に集中力を切らした奴から、死んでいくんだ。


気にしないことにしたヒューは、戦況をしっかりと見ながら、さっきの攻撃で、半分ほど消費してしまった【気】の回復に務めることにする。





俺はガノン、クラン【シャンドゥシャス】のリーダーをしている。

顔が厳つくて体も大きいため周りから誤解されがちだが、かなりの小心者だ。今回のオーク迎撃戦も、平気な顔をしているが内心ビクビクしている。ポーカーフェイスってやつが昔から得意…… というか感情を上手く出せないから、周りからよく誤解された。誤解されて怖がられて、荒くれ者が集まる【シャンドゥシャス】のリーダーにも担ぎ上げられたけど、本当はなりたくなかった。


それでだ、こないだまで俺のクランに白い髪の男の子がいたんだが、クランメンバーから虐めに合っていた。俺がその現場を見かけたときは、ジッと見つめると虐めてる奴らがビビって去って行くけど、いつも俺が見てられるわけじゃないから、見てない時は助けられないし、心配していたんだ。俺にもっと、リーダーシップがあったら、彼の境遇も違っていただろう。


そんなこんなで、先日、イノセントロンドってクランが彼を引き取ったみたいだ、ふぅ、これで安心だ。あのクランは、いい人が多そうだから、彼も安全に暮らせるな。そういえばジースが行方不明だけど、あいつは何をしてるのか。やんちゃな奴だから、良からぬ事でもしてなければいいが。ああ、今はこっちの話だった。


それで、今回、戦場で白髪の彼を見つけたんで、見ていたんだ。

そしたら、とても驚かされた。彼は魔法が使えないと思っていたが、ウォーターボールを使った。「使えるようになったんだ、良かったな」と思っていたら、オークを沢山吹き飛ばした。あんなに威力のあるウォーターボールを見たのは初めてだったから、ついつい尊敬のまなざしで彼を見ていた。


そしたら、彼も、こちらを見てきて目が合った。ここで目を逸らしたら、逆に不自然かなと思って、そのまま見ていた。何秒くらい見つめ合ったか分からないけど、さすがに、見すぎるのも失礼かなと思って、精一杯の笑顔を作った後、目線をオークに戻した。


いつか彼と話してみたい。でも恨んでいるだろうし、無理かな。

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