【第16話】ハゲの最後
冒険者ギルドの受付で、ヒューと受付嬢のニーナが対面していた。
「おめでとうございます」
「ありがとう」
にこやかな笑みを浮かべ、ニーナが賛辞を送る。それに対し、笑顔でお礼を述べた。気と魔法の修行をしながら、ゴブリンを多数討伐していたため、冒険者ランクが、GからFに昇格したのだ。
ちなみにモンスターの討伐証明に関してだが。ギルドに登録された時点で、特殊な魔法を施されるため、モンスターの討伐数が分かるようになっている。
モンスターの素材を剥ぎ取って売ることはできるが、ゴブリンは売れる素材がないため、死体は、大抵そのままにすることが多い。瘴気が多い場所ではアンデットになる可能性があるので燃やしたりするが、森や平原はスライムが分解してくれる。
次の日、ランクがFになったことで、1ランク上のEランクモンスターである、スモールボアの盗伐クエストを受ける事にした。実は、この森に出てくるモンスターは、気で作成した玉(オーラボール)の実験で既に倒しているものがほとんどである。
スモールボアは名前の通り猪のようなモンスターで突進して攻撃してくるが、その攻撃は強力であり、直撃すると一流のハンターでさえ危険である。しかし、逆を言えば危険なのは突進のみで、常にボアの横側に張り付き、攻撃を加えれば、簡単に倒せてしまう。
危なげなく5匹のボアを倒し終えたところで、ヒュ―は一息ついた。
クエストの内容は、10匹のスモールボアの討伐なので残り5匹である。
簡単だな、しかし……。
ヒューは森に入る前、いや、ギルドを出た辺りから妙な視線を感じていた。
街には人がたくさん居たので、あまり気にしない事にしたのだが、門を出た後も張り付くような視線が気になった。門を出た後はエコーの魔法を使用し、後をつけてきている人物の位置を、常に把握している。
なぜ、俺を付けている?
つけられる理由として、最も考えられるのは、恨みである。その場合、いつ恨まれたのかになるのだが、まあ考えなくても分かる。そういう意味で絡みがあるのは主に2人だ。
1人目はジース。言わずと知れた【シャンドゥシャス】のハゲである。ギルド内でヒューに絡んできた挙句、手を出して返り討ちにされている。
2人目は、ゲビルドだ。マチの件でヒューに面目をつぶされたゲビルドは、恨んでいても何ら不思議ではない。
まあ別に、その2人なら実力的に怖くないが。
もう1つ考えられる理由は、追跡者がヒューに強い興味を持っている、もしくは警戒して監視している場合だ。魔法と気を組み合わせて使っている人間は、今のところ確認できていない。バルスに関しては同時ではなく、それぞれ切り替えながら使用していた。そのことから、ヒューが目を付けられても、おかしく無いのだ。
その場合、いつ目をつけられたのか。何個か思い当たる節はあるが、今考えても意味はないだろう。
さて、少し試してみるか。
少しの休憩を終え、ボアの討伐を再開する。
さっきと同じようにボアと対峙するが、今度は突進を避けずに、あえてくらって見せた。これは、今まで倒していたボアから、急に逃げるのは怪しいため、油断して飛ばされた演技である。近くにある茂みの中に飛ばされるヒュー、そのまま茂みの中で起き上がり、茂みの先へと全力で走る。
それを追うボアだが、ヒューは気を使って足を強化し、少し引き離す。その後、茂みに隠れ、ボアが来るのを待ち、目の前に来たら、離れた場所にある別の茂みにエアーを放つ。そちらに惹きつけられて、突進するボア。そのボアを追う人物を確認する。
あいつは……。
ハゲ頭が見える、あの光り具合は、ジースだ。ボアを追うが、その先にヒューがいないことを確認し舌打ちしていた。
あのハゲに、ちょっかいをかけられた所で問題ない。
ヒューはそのまま気にせずにボアの討伐を再開するのだった。
「クソ、せっかくのチャンスだったのに」
完全にヒューを見失ったジースは一人ごちる。足を止めて、このままヒューを探すか帰るかを考えはじめる。
(ん? 何かさっきから騒がしいな)
ヒューを追うことに必死だったジース、しかし、何かおかしいことに気づく。後ろから多くの気配を感じるのだ。嫌な予感がしつつも、恐る恐る後ろを確認すると、オークを含む、数体のモンスターがこちらに迫ってきていた。
(ど、どうして? ま、まさか)
ハッとした顔をした後、直ぐに自分の腰付近を確認するジース。ポーチから、何やら液体が垂れている。
(やばい!! やばい!! やばい!!)
そして、青ざめた顔で腰についていたポーチを外した。そのポーチをモンスターの方へと投げる。すると、ジースの事を無視して、ポーチにモンスターが群がった。
(良かった)
ホッとした顔で落ち着きを取り戻す。
(危なかった、もう少し気づくのが遅れてたら)
――――フゴッ。
「え?」
知らない間に、後ろから別のオークが近づいていた、そして斧が振るわれる。
次の瞬間、胴体を横から両断された。
ゆっくりとその場に崩れ去る。
(どうして? ポーチならあそこにあるのに)
崩れ去ったジースの肩から腕をむしり取って、指先辺りを舐めまわすオーク。
(投げたときに手に付いたのか)
肩口からは血がとめどなく流れていく。そして、だんだんと視界が暗くなっていき。瞳には何も映らなくなった。
なんか、来る時よりもモンスターが少なかったな。
ボアの討伐を終えて街に帰るヒュー。帰りに森を抜ける際、妙な違和感を感じた。違和感を感じつつも門までたどり着くと、門番が話しかけてきた。
「大丈夫だったか?」
「ん?」
「いや、ジースの野郎がコソコソと何かしてやがるみたいだったからよ」
「ああ、ハゲの事か、問題ない」
「気づいてたのか?」
「まあな、気づいたが放置してた」
「そうか、なにも無かったならよかった」
「ハゲは、まだ帰って来てないのか?」
「まだ帰ってないな」
「ふーん、まあどうでもいいか」
「気いつけろよ」
「ありがとう」
門をくぐり、冒険者ギルドに向かう。ギルドにクエスト達成の報告をした後、帰路に就いた。部屋のベットに横になり、これからの事を考える。
今日は、ストーキングを行っていたのがハゲだったから良かったが、プロに後をつけられたら気づかないだろう。
エコーによる気配の察知も、さすがに魔力の問題があるため、常時行えるわけではない。そもそも、目を付けられなければ良い話なんだが、それは難しい話だ。目標として一流の冒険者になるのだから、いつかは目立ってしまう。その際に、対処できるような力を、身につけなければならない。
難しいな、でもそんなに急いで考えなくてもいいか。
ベットに横になっていたヒューに眠気が襲ってきた。
少し早いが、もう寝よう。
色々なことを考えて疲れたため、少し早い時間だが眠りについた。
「まだ帰ってこねえってことは、あの野郎、何かヘマしやがったな」
【シャンドゥシャス】の食堂でベンが一人ごちる。どうやら1人で酒盛りをしているようだ。
(まあ、使用結果を聞けないのは残念だが、あんな奴がいなくなった所でどうでも良い)
その日の夜、森の中では異変が起きていた。
ほとんど集団行動をとらないオークが、森の中ほどにある開けた場所にひしめき合っていた。
そこに、一際大きなオークが1匹だけいる。ソレは、大きな岩の上に立つと集まったオークたちに向け命令を下す。
―――ニンゲンヲコロセ!!
――――――――フゴ!! フゴ!! フゴ!!
―――ソシテ、クエ! チカラヲ、テニイレロ!
数日後、冒険者ギルドは騒然としていた。
「森の中に大規模なオークの集団を発見!! 数は、正確なところは分かりませんが推定1000匹以上です!!」
ギルド職員が慌てながら報告を行う。
「1000匹だと!? あいつらは群れを作らないはずだろう?」
考え込むギルドマスターだが、ハッとした顔をする。
「まさか、キングオークか?」
「はい、1匹だけ大きな個体を確認しました! 間違いありません!」
「まずい、まずいぞ」
青い顔をして考え込むギルドマスター。
オークはランクD、キングオークはランクAのモンスターである。
キングオークはAランクだが、率いているオークの数で危険度は上下に変動する。
今回の場合は、数が多いため、ランクSに匹敵すると予想した。
「今すぐミネドラにいる、Sランクギルドに応援要請を出す!!」
そう言って、通信の魔法具を使い、王都ミネドラのギルドに要請を行うギルドマスター。
「こちら、ミネドラの冒険者ギルド、どうした?」
「マウラのギルドマスターです、キングオーク出現につき応援要請を!」
「それなんだが、現在、他の街にも応援を送っているため、こちらから応援を送ることは出来ない」
「え?」
「他の街でも、強力なモンスターが出現したらしく、そちらにも派遣を行っており現在こちらも手一杯だ。」
「ならば、どうすれば」
「数日待ってくれれば、こちらに戻った冒険者を派遣できるが」
「それでは遅いです!!」
「……すまない、こちらから出来ることは無い。健闘を祈る」
そこで通信が途絶する。
「そんな……」
絶望に暮れるマスターだったが、少しだけ考えた後、気を引き締めて命令を下す。
「街に避難勧告を! 並びに、この街に居る全ての冒険者に対して緊急クエストを発令します!!」
その後、冒険者ギルドには、この街にあるクランのリーダーが集められた。
「で、なにが起きたのかな?」
Aランクのクラン【疾風迅雷】のリーダーである、マクベスがギルドマスターに問いかける。その問いかけに対し、マクベスの目を見据えて答えた。
「キングオークだ」
その瞬間、集まっていたクランリーダー達に動揺が見られた。
「なるほどね、ちなみに規模は?」
「オークが1000匹以上、それ以上は把握しきれていない」
ちなみに、この街の冒険者クランはAランククランが7つ、Bランククランが10、Cランククランが20程度ある。人数は 全員で900名ほどだ。犠牲者は、かなり出ると思うが、オークが1000匹程度なら食い止めることができるかもしれない。
マクベスはあごに手を当て考え込む。
「ちょっといいかしら」
横で手を上げるのは、同じくAランククラン【ノワールローゼ】のリーダーであるリタだ。彼女がギルドマスターに問いかける。
「他のギルドへ応援要請は?」
「したんだが、他の街にも強力なモンスターが出現し、そちらの対応に追われて応援は送れないと言われたよ」
「あら、困ったわね」
そこに、新たな知らせが舞い込んできた。
「伝令!! オークの集団がこの街に向けて侵攻を開始しました!!」
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