【第15話】大ハゲと小ハゲ

街に入り、ランスと共に冒険者ギルドへ向かう。

ランスが一緒なのは、ランスが依頼したクエストの失敗報告をするためである。今回は護衛する冒険者と護衛対象であるランスが途中ではぐれてしまったので、クエストは失敗となる。ランスもランスだが、護衛対象を見失う冒険者も冒険者だ。


ギルドに到着し中に入る。


時刻が昼の12時頃ということもあり、ギルド内にあまり人がいない。見る限り、酒場に数人いる程度だ。ちなみに、この世界にも四季があり、1年が360日というところ以外は地球と変わらない。1日も24時間であるが、この国では時計が発明されておらず、太陽の位置や、日時計で時刻を判断している。


早速、クエスト達成の報告に向かうヒュー、ついでにランスの状況についても伝えておく。報告の最中、ランスが薬師ギルドに所属していることが判明し、慌ててギルドマスターを呼び行くニーナ。ギルド同士の問題は、大きくなってしまうこともあるため、誠意を見せなければいけない。


ギルドマスターがやって来る、冒険者ギルドのギルドマスターと言うと、厳ついおっさんのイメージだったが、そんなこともなく、メガネをかけた30歳ぐらいの男だった。


「ギルドの者が、失礼をいたしました。今回は依頼が失敗したことにより依頼金は返金いたします。それに加えて謝礼もお支払いいたします。」

頭を下げながら謝罪を行うギルドマスター。


それに対しランスは、にこやかに笑いながら返答する。

「頭をお上げください、私が採集に夢中になっていたこともあるので、謝礼まで貰うわけにはまいりません」


「ですが」


「それに、しっかりと護衛していただきました」

そう言って、ヒューに目線を向ける。


「ありがとうございます、しかし本当によろしいのですか?」


「ええ、気にしていませんので」


「では、これだけでも持って行ってください」


そう言って、種のようなものを渡すギルドマスター。


「これは」

驚きの表情で、それを受け取るランス。


「はい、マンドラゴラの種です」


マンドラゴラは錬金術、調合、魔術に使用される万能な植物である。

希少性があり、買うととても高い。


「こんな貴重なもの、頂いていいんですか?」


「ええ、お詫びの印にどうぞ」


「では、ありがたく頂戴いたします」


そんなやり取りも終わり、ギルドを後にする2人。


「今日は、助けてくれてありがとうございます」


「ああ、今度からは気をつけろよ」


「それと、ぜひ今度お礼をさせてください」


「お礼? 別にいらないぞ、偶然近くにいただけだし、ゴブリン討伐がクエスト内容だったから、全く問題ないからな」


「私側の問題なんです。あなたに、その気があった、無かったは関係ありません」


「はぁ、分かったよ」


「では、お礼の内容を決めた際には、冒険者ギルドに行きますね」


「いや、それだと、すれ違いになったり何かと不便だろう。【イノセントロンド】のクランハウスに直接来てくれ、場所は分かるか?」


「大丈夫です、では、そのようにいたします」


「じゃあな」


「それでは、ごきげんよう」


ランスと別れたヒューだが、まだ時間もあるため、もう1つクエストを受けるか、何をしようか悩んでいた時。


―――グゥー。


大きな音でお腹が鳴る。そういえば昼飯が、まだだった。その場で少しだけ考えるが。食べ歩きしてみることにした。


そうと決まれば早速、東にある商店街へ向かう。

マウラの街は、東に商店街、西にギルドとクランが集まり、南に民家、北に貴族街と領主の館がある。

ギルド街を抜け、商店街に到着した。


財布から小銭を取り出して握りしめながら歩く。商店街には武器、防具、薬、占い、様々な店が並んでいる。商店街を東に進んでいくと店がまばらになってきた。


雑貨屋を最後にし、店舗は見当たらなくなる。そこからは、代わりに屋台が現れた。


その中で、まず目に入ったのは串焼きの屋台だ。


「すいません」


「はいよ、いらっしゃい!!」

元気よく挨拶をするガタイの良いオヤジ。


「種類は何がありますか?」


「スモールボア、ベルトスネーク、ビッグラビットの3種類だね」


スモールボアは小さな猪、ベルトスネークは蛇、ビッグラビットは大きな兎だ。ビッグラビットの肉しか食べた事がないので、味について詳しく聞いてみた。



ビッグボアは野性味溢れる濃厚な肉の味で、噛んだ瞬間に肉汁が溢れる。


ベルトスネークはさっぱりとした味で、油が少なく、女性に好まれている。


ビッグラビットは上記2つの中間で、肉の臭みが少なく、油が程よく乗っていて食べやすい。


ヒューは、ボアかラビットで悩んだ末に、ボアにした。


「まいど!!」


ビッグボアの串焼きを3本ほど購入し、食べながら歩く。肉汁があふれとても美味しい。


次に目を引かれたのは、イカ焼きの屋台だ。見た目が地球のイカとほぼ変わらないので味も変わらないだろう。


「イカ焼き2つ」


「まいど」


ちなみに通貨は、日本円に換算すると、大体このようになる。


白金貨=100000円

金貨=10000円

銀貨=1000円

銅貨=100円

銭貨=10円


異世界なので、商品の価値なども多少異なるが、通貨の順番だけ覚えておけば大丈夫だ。


お腹が膨れたヒューは、飲み物を売っている屋台で果実水を注文し、店で近くにあるベンチに腰掛け、休憩する。果実水を飲みながら、空を眺めたり、行き交う人を眺めて緩やかな時間が過ぎていく。


そして、少し経った頃、おもむろに立ち上がり次の目的地へと向かった。




「どなたか居ますか?」

ある建物の前で、扉を叩きながら問いかけるヒュー。


その扉には、狂暴そうな犬の絵が大きく描かれていた。


少し待つと扉が開き、中から厳つい顔の大きな男が現れた。

何度か顔を見たことはあるが、名前を知らない。


「お前は、荷物持ちだった坊主じゃねえか」


「自分の荷物を取りに来たんですが、上がらせてもらっていいですか?」


「別にいいけどよ」


警戒しつつも、足を踏み入れるヒュー。ここはかつて、ヒューが所属していた【シャンドゥシャス】のクランハウスだ。


「なに、そんな警戒すんなって」


「怒ったりはしてないんですか?」


「何がだ?」


「いえ、クランを移るのは御法度だって聞いたんで」


「ああ、気にする連中もいるかもしんねえが、俺は基本無関心だ」


「なるほど」


「ここの連中はそんな考えのやつが多いぞ、まあ、お前の場合は、このクランに染まってないから、簡単に抜けることが出来たのもあるがな」


意外にまともな考えをするものも多いようだ。


「早く取って帰んな、めんどくさい奴が帰って来る前に」


「はい」


「虐められてても、このクランで助けてくれる奴なんて居ねえからな、実力が全てだからよ」


なるほど、弱い奴は自業自得ということか、一理あるが世知辛いな。



足早に階段下の物置に向かうヒュー、この場所には少しだけ懐かしさを感じる。

扉を開け中に入ると中は以前と全く変わらなかった。自分の所有物である5冊の本と1本のナイフを皮袋に入れ、部屋を後にする。


あいつら、てっきり出てくると思ったけれども。


いつも突っかかってくる、テンプレ3人組が居なかったので、ホッとしたような、物足りないような感覚になりながら、クランハウスの入り口に向かう。


入口に着き、ここから出ようとすると、扉が勝手に開いた。

扉の向こうから現れたのは、このクランのリーダーであるガノンだった。

ヒューとガノンの接点はほとんどなく、顔を見たことがある程度だ。


彼は、鋭い眼光でヒューの姿を一瞥し、横を通り過ぎていった。


こわっ!! 顔面凶器だなありゃ。


そんなことを思いながら外に出ると、ジースがこちらに向かって来るのが見える。


さてと、今日はどんな感じで絡まれるかな。


少しだけ身構えるヒュー。しかし、ヒューの姿を確認したジースは、一瞬驚いた顔をした後、目を逸らしながらクランハウスに入っていった。殴ったら自分の手がズタボロになったのだ、これが正常な反応だろう。


調子が狂うな。さてこれからどこに行こうか。


少しだけ考えた後、ゆっくりと街の様子を眺めながら商店街に向かった。





「クソ!!」

ヒューが去った後、ジースが椅子を蹴り飛ばしながら、一人ごちっていた。

(何であんなGランクのガキに、ビクビクしねえとならねえんだ!! あいつがあんなに強いわけがねえ!! 何かカラクリがあるんだ、それさえ分かれば)


「おお? どうした荒れてんなぁ」

そこに見るからにガラの悪そうな、背の高いハゲが現れた。


「ベンの兄貴、実は……」


ベンに対し、ヒューに関するあることないことを吹き込んだ。


「それは、なめてんなぁ」


「そうなんですよ、でも何かカラクリを隠してまして」


「だったらよぉ、俺に考えがあるんだよ」


そして胸元から怪しい瓶を出すベン。


「それは何ですかい?」


「これはな」


……

………。



詳しく説明を受けた後、瓶を受け取り、自分の部屋に戻るジース。



「まあ、頑張れや」


ベンは、その後ろ姿を見つめながら、呟く。

その顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。

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