【第14話】絶体絶命

森に来たヒューは難なくゴブリンを屠っていく。


ゴブリン程度には、引けを取らんな。


【気】を身に纏い戦っていたヒューだが、戦いに慣れてきたこともあり、気を使用せず、剣だけで戦ってみることにする。


おっと、これはしんどい。


ゴブリンが、こん棒を振り回すが、それをぎりぎりで躱していく。


ふぅ、危ない危ない、今当たりそうだった。


気道の練習で、相手の動きを読むことに慣れているため何とか躱すことができる。しかし、剣を全然使用していなかった事もあり、剣術の動きに慣れるまで時間がかかるようだ。


念のため、動きの強化や攻撃には使用せずに、気を纏っておこう。


そうやって、何度か繰り返し、剣術も様になってきた頃、定期的に放っていたエコーに反応があった。ヒューは森に入ってから、定期的にエコー(超音波)を全方位に発射し、モンスターや人間の接近を調べていた。


多分、人間が1人でモンスターが4匹か。ん? 人間側の動きがおかしいな、モンスターが近寄って居るのに、一切動きがない。待ち伏せているのか?


気になったので足早にその場所に向かうのだった。





「むむ!! こんな所にも面白そうな物がありますね、おやおや、こちらにはこんなものが!! いやはや、森というのは楽しいです!!」


灰色の髪で顔の半分が前髪で覆われた人物が、独り言を言いながら、森の中で動き回っている。少し動いては、急に止まり、何かを採集してを繰り返していた。


「これは珍しい!! ほぉ、なるほど。」


そこに、4匹のゴブリンが迫っていた。逃がさないように四方を囲んでいくゴブリンたち。その人間が、ゴブリンの存在に気づく気配はない。そしてついに、4方向から攻撃が開始された。


―――ギャギャ!!


鳴き声を上げながら、こん棒を振りかぶるゴブリン。


「ん? あれまぁ、どうしましょう」


鳴き声で攻撃に気づくがもう遅い、ゴブリンのこん棒が目の前だったので避けることもできない。ゴブリンを一瞥した後、死を覚悟して目を閉じた。


(もっと、色々研究したかったです。)


長い静寂が訪れる。しかし、一向に痛みが来ることはない。


(ん? 私はもう死んだのかな? 意外と痛みとか感じないな、死後の世界でも研究って、できるかなぁ)


「おい」


(逆に死後の方が色々知れたりして、行きたいところに自由に行けたり、そう考えれば悪くは…)


「おい!! 寝てるのか?」


「ん?」


目を開くとそこには、白くて長い髪をした青年が立っていた。そんな彼に対し、興味津々といった目をして、詰め寄る。


「おお!! あなたが天使様ですか?」


「は? お前は何を言ってるんだ、俺は天使でも神でもない冒険者だ」


「え!? 天国の冒険者さんですか?」


「違う、お前は死んでない、周りをよく見ろ」


周りを確認すると4匹のゴブリンが息絶えていた。


「あれまぁ、強いんですね」


(なんだこいつ、調子が狂うな)

あきれた様子でヒューが見ていると、はっとした様子で姿勢を正す、謎の変人。


「助けて頂いて、感謝します、私の名前はランスと申します」


丁寧に一礼をするランス。

その動きは洗練されており、ヒューはその動きを美しいと思った。


「俺はヒューだ。それで、こんなところで何を?」


「調合に使う薬草などを、採集してました」


「ん? 冒険者ではないのか?」


「私は、薬師ギルドの人間ですよ」


言われてみてみると、彼は冒険するような服装ではない。


「薬師ギルドの人間がなんでここに一人で? 護衛は?」


「ああ、採集していたら護衛を見失ってしまって、面目ない」


それを聞き、再度あきれてしまうが、ここで見捨てるわけにもいかない。


「はぁ、しょうがない、街まで一緒に帰ろう」


「え? いいんですか? やったぁ!!」


「もう、ゴブリンも十分討伐したからな、そっちは、採集が終わってるのか?」


「ええ、もう十分集まっています」


「じゃあ行くか」



色々な話をしながら帰る2人。

そして、話題は人類の歴史になった。


「ヒューさんは、人類の歴史についてどこまで知っていますか?」


「うーん、そっち関係は、からっきしだな」


「歴史と魔法の関係性も知りませんか?」


「知らないが、それは面白そうだ聞かせてくれ」


「では、僭越ながらわたくしが、伝承を語らせて頂きます」





人間達が、まだ魔法を知らない時代の話。

この世界に、人と動物が暮らしていた。


人間たちは、動物を狩り、火をおこし、文明を起こし、やがて国を興す。

国を興すと人間たちは人間同士で大きな争いを始めた。


そんな時代に、突如として魔物が出現する。

出現した魔物は、人間たちの村、街、そして国に襲い掛かった。


魔物の力は圧倒的なものだった。


争いを辞めなかった人々も、その時ばかりは一丸となり、魔物と対峙した。

しかし、剣や弓矢でいくら戦えど、魔物は増え続ける一方だった。

そして、人間の数は見る見るうちに減っていき、ついに世界の半分以上が魔物に支配された。


人間たちは絶望した、国はいくつも滅び、最愛のものを亡くした人間も数知れず。ここで人類は滅んでしまう、ここで我々は終わりなのだと。


そんな時、人々を見守っていた神が強い力を与えた。


それが魔法である。


魔法という大きな力を手に入れた人間は、魔物を殲滅し、世界を取り戻すことに成功する。

だが、人間とは愚かなもので、力を手に入れ、自分たちが世界の頂点に立つとまた争いを始めた。


それから少し経った頃、人間たちは、大きな過ちを犯してしまう。




――――神殺し。




神から与えられし魔法で、神を殺そうとしたのだ。人間は神などいなくても、我々が神になる、と驕り高ぶっていた。それでも神は、人間を見捨てることはなかった。しかし、愚かな人間たちは神が反撃しないのをいいことに、神の国に軍を進行させていく。


そして、その時は訪れた。



人間が神の使いである天使を殺したのだ。



今まで人間に対し寛容だった神は、その時初めて人々に罰を与えた。それは、魔法の力を奪うことだった。力を失った人間は、自分たちの過ちをその時知った。神には逆らってはならなかったのだ。


その後、人間は再び出現した魔物と戦いながら、それに対抗するために、自ら魔法を造った。しかし、神に与えられた魔法には程遠く、人間自らが造った魔法では魔物を滅することは叶わなかった。








「以上が昔から伝わった伝承の内容です」


「なるほどな、まさに人間の歴史って感じだ」


「そうですね」


「何個か気になることがあるな」


「ほほう、何でしょうか?」


「神から魔法を授かって、自業自得で力を失ったところまでは分かるが、問題はこの伝承だ」


”その後、人間は再び出現した魔物と戦いながら、自ら魔法を造った。

しかし、神に与えられた魔法には程遠く、人間自らが造った魔法では魔物を滅することは叶わなかった。”


「伝承が事実だとすると、今の魔法は昔の魔法に比べてとてもレベルが低いことになる」


「そうなんです、そこが、この伝承の面白いところでもあり「この伝承は、正しくないものだ」という人間が多い理由でもあります」


この世は魔法主義社会で、魔法使いの地位が高い。高位の魔法使いは強力な魔法を使い。それどころか魔法使い以外も魔法を使えるのが当たり前な世界だ。これ以上の強さとは? という話になる。


「まあ、昔の人間と比べて劣っている、とは思いたくない人種が多いですからね、特に貴族なんかは」


「後は、魔物がどこからやってきたかだな」


「そこは、様々な憶測が飛び交っていますね」


「一番の有名どころはなんだ? 人の中から魔王が生まれて、魔物を生み出したとかか?」


「そういう考えもありますし、一番ポピュラーなのは魔神の話ですね」


「なるほど、神と対になる魔神が存在し生み出したと」


「はい」


「だがそうすると、まず魔神がいつ、どこで、発生したのか気になるが、言い出したらきりがないな」


「答えがない、だからこそ、楽しいんです!!」


ヒューも地球に居たころは、オカルト系の話や、哲学を語り合うのが好きだった。出会った当初は、ランスに対して、やばい奴という印象しかなかったが、こうやって話してみると、自分と近い考えを持ち、ヒューが好きな話のネタも多く持っていて面白いことが分かった。その後も「神は人間を甘やかしすぎだ」とか「神の国ってどう行くんだ」という会話を繰り返しながら街に向かう。


魔法について、歴史の観点からもう1度考え直してみよう。その時はランスに相談するのも面白いかもな。


ヒューはそんなことを考えながらゆっくり歩く。しばらく歩くと森を抜け、街が見えてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る