【第19話】怪物 vs 怪物

右翼の冒険者達は、キングオーク目がけて突き進んでいく。

しかし、キング周辺のオークは咆哮により狂暴性が大幅に強化されているため、近寄ることが、出来ないでいた。


それでも着実に、オークの数を減らしていった。そしてついに、キングオークの姿を捉える。



やっと手が届くと、誰もがそう思ったその時。



キングオークの隣を見て、皆が驚愕の顔を浮かべる。なぜなら、そこにはクイーンオークが存在していたからだ。


クイーン自体の戦闘能力はキングほど高くないが、その特性が厄介である。クイーンはキングと交わる事で、子供を生むことができるが、その際に生まれてくるオークが、厄介なのである。生まれてくるオークにはキングほどの力は無い。しかし、その種類は多く、成長能力が早い。


クイーンとキングの周りには、バトルオーク、マジシャンオーク、ロックオークが存在していた。数も、50以上は居るだろう。バトルオークは攻撃力が高く、マジシャンオークは魔法主体、ロックオークは岩のように硬いため防御力が高い。


これは、まずいんじゃないか。

ヒューが内心、そんなことを思っていた時。


「諦めてはなりませんわ。他の戦場の冒険者達は、私たちがキングを倒すのを待っているのですから」

リタが冒険者達を鼓舞する。


「そうだよな」


「ああ、やってやる!」


「冒険者魂、見せたるぜ!!」


「おなかすいた」


冒険者達のやる気も少しだけ戻ったようだ。


そして、全員が奮闘した結果、何とか、キング目前まで辿り着く。ついに、キングとの対決かと思われた、その時。


「伝令!! 左翼が壊滅!! 多数のオークがこちらにも向かっています!!」


強化されたオークたちに、BランクとCランクのクランがやられてしまい、左翼の陣形は崩壊した。Aランククランの【グリムリッパ―】でもさすがに全てを受け止めることは出来ず、撤退し中央に合流したのだ。


その知らせを受け絶望に染まる冒険者達の顔。




そんな中、突然。


【シャンドゥシャス】のリーダーであるガノンが、敵陣に向かい歩いていく。


「おい!! なにしてるんだ」

慌てる周りの冒険者たち。


「来る前に、キングを殺す」


それだけを言って、一人で突っ込んで行く。


こうなることを見越していたのか、体力を温存していたようだ。バトルオークの群れに突っ込んだガノンは、人の背丈ほどある、二振りの大きな斧を双剣のように扱いながら進む。


その斧は、切れ味が鈍く、近づいたオークを粉々に粉砕しながら、吹き飛ばしていく。まるで、竜巻のようだ。


なんだ、あの化け物は。これじゃ、どちらがモンスターか分かったもんじゃない。


驚愕の表情でそんなことを考えるヒューだが。


まあ、その考えには賛成だけどな。


ガノンの後を追い、敵陣に突っ込んで行った。


それを見ていた冒険者達に、やる気が蘇る。


「おれも行くぞ」


「ああ、やってやるぜ」


「おれ、生きて帰ったら告白するんだ」


「「おい、やめろ!! 妙なフラグ立てるな!!」」




「あの二人だけで、大丈夫でしょうか?」

リタが、イワンに問いかける。


「大丈夫だろう、詳しくは知らないが、ヒューもなかなかやるらしい」


「そうなんですの?」


「ああ。それじゃあ俺らは、あいつらの所に余計なオークが行かないよう、サポートに回りますか」


「そうですね」



そして、キングの元に辿り着いたガノン。まずは、クイーンに狙いを定める。クイーンの首を狙い右の斧を振るう。が、キングに斧で受け止められる。そして、クイーンから反撃が来る。


魔力を纏った拳でガノンの顔面を狙うクイーン。ガノンはその拳を、もう1つの斧で切り払う。キングは斧を使用し、クイーンは魔法を主体に戦うようだ。


何度か、同じようなやり取りが繰り返された。


その時、クイーン目がけて何かが飛んでくる。それを右手で受け止めるクイーン。受け止めた右手が粉々に吹き飛んだ。しかし、ものの数秒で再生する。


「思ったよりも再生能力が高い。厄介だな」

そう言いながら、ヒューがこちらに向かってくる。


新たな敵の参入に、キングは唸る。


「ガノンさんよ、共闘といかないか?」


共闘を持ちかけるヒューに対し、少しだけ悩むそぶりを見せたが。


「ああ」


どうやら、納得したようだ。


キング側もヒュー側も、1人が防御して、もう1人が攻めてを繰り返す。


だが次第に、共闘する2人の力によって、劣勢になっていくキング達。そしてついにクイーンが力尽きた。


よし。


後はキングを倒して終わりかに思われたが


「まだだ」

ガノンが低い声で、呟いた。


力尽きたクイーンを捕食するキング、そこに攻撃を仕掛けるヒューとガノンだったが、とてつもない力で弾き飛ばされる。クイーンを食べたことで大幅にパワーがアップしたようだ。


クソ、終わったと思って油断した結果がこれだ。


オーラアーマーを張っていたが、貫通して大きなダメージを負った。敵の強さに、改めて気を引き締め直すヒュー。


その後、2対1で戦闘を行うが、決め手に欠けて、なかなか決着がつかない。


これじゃ決着がつく前に、中央の冒険者達が、くたばっちまう。


焦りだしたヒュー。そこに、ガノンが耳打ちする。

「おい、あの時の力はまだ使えるか?」


「あの時? さっき戦場で使ったあれか、やっぱり見られてたんだな。今の状態で使うと、多分動けなくなるが使うことはできる」


「ならば、キングを何とか止めておくから、そこに撃ち込め」


「おい、それは」


「やれ」


「分かったよ、やればいいんだろ、死ぬなよ?」


「心配するな、頑丈だ」


そう言い残し、突撃するガノン。キングは、それを迎え撃つように大きく斧を振りかぶる。ガノンは、あえて避けずに、両斧を交差させて受け止め、その場に踏みとどまる。そして、わざと力を抜いてキングを前のめりにさせた。この体勢から逃げることは不可能だろう。


「今だ、やれ!!」


ヒューは残った全ての力を使ってオーラボールを放つ。


その瞬間、すさまじい衝撃波を起こし、辺りは何も見えなくなった。

しばらくして、視界がクリアになる。


そこに残っていたのは


大きな2本の斧と。キングの斧だけだった。


その後、キングを失ったオーク達は弱体化し、冒険者によって討伐されていく。




大きな2つの斧を、引きずるようにして運ぶヒュー。その顔からは、勝った喜びを、微塵も感じなかった。




しばらくして、ゼルバたちの元にたどり着いたヒュー。そして、みんなに話しかけられる。


「お前が、キングオークを討伐したんだろ? すごいな」


「すごいわね」


「すごい」


「いや、俺だけの力じゃない」


そう言って、斧に視線を落とす。


「お、ガノンの斧じゃないか、ちょっと待ってろ」


ゼルバがその場を後にする。




そして。


ゼルバの肩に捕まりながら、姿を見せたガノン。それを見て驚くヒュー。


「ガノン、あんた生きてたのか」


「頑丈さだけが取り柄だ」


ヒューが拳を前に突き出す、それを見て一瞬驚いたが、拳を前に出すガノン。


拳を合わせ、互いに笑った。


「「おつかれ」」





「はぁ、はぁ、はぁ」

そんな中、森を走るハゲが1人。【シャンドゥシャス】のベンだ。


(まさか、ここまでだとは思わなかった、あいつからは『魔物を呼び寄せる効果しか無いから、どのぐらい集まるのか実験してくれ』としか言われてなかったのに)


今回のスタンピードの背後には、ある団体の陰謀が渦巻いていた。

その団体メンバーの1人が、ベンに「金をやるから、簡単な実験をしてくれ」と渡してきたのが、謎の液体だった。ベンは、その液体をジースに渡したが、ただの魔物寄せの液体では無かったようだ。


各地で、同じようなことが起こり、自分と同じ立場の者が、口封じのために殺されていった。それを知り合いから聞いたベンは、殺される前に隣国へ、逃走を図っていた。乱戦中の今なら、怪しまれずに逃げられると踏んだのだ。


(入国は、金さえ払えば何とかなるだろ、行ってみてから考えよう)


そんな時だった。


「どこに逃げる気だ?」


音もなく、目の前に現れたのは、白い仮面を付けた謎の男。


「おまえは誰だ?」

ベンは仮面の男を訝しげに見る。


だが、質問には答えず、更に問う仮面の男。


「ここまでの事をしておいて、今更怖気づいたのか?」


「な、なんで、俺は何も知らなかった何もやってない!!」


震えながら答えるベンだが、相手の正体に気づき、さらに恐怖する。


「まさかお前、組織の」


「眠れ」


その場に崩れ落ちるベン。その様子を確認した男は、通信の魔法具を取り出した。



……

………。



「状況はどうかね?」


「スタンピードを起こす所までは上手くいった。しかし、キングオークが討伐された」


「ほう、我々も少し侮っていたようだ、しかし問題はない。我々の悲願が達成される時は近い」


「そうだな、報告も今回で最後か」


「では、また【彼の地】で」


「「”ダーヴァネス”」」

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